大量生産・大量廃棄が当たり前だったアパレル業界にも、近年、サーキュラーエコノミーの意識が広がり始めています。
流行や好みの変化によって一度きりで終わる“リニア型”の消費から、再利用や再資源化を前提とした“循環型”へのシフトは、脱炭素社会の実現に向けて欠かせない取り組みです。
なかでも注目を集めているのが、繊維・ファッション分野に特化したスタートアップ企業の存在。服を捨てずに活かす、そんな新たな循環の輪を広げる取り組みを、過去の取材記事とともにご紹介します。
なぜ繊維の廃棄が問題なのか?
2022年の環境省の調査資料によれば、日本では年間約80万トンの衣類が消費されており、そのうち約50万トンが廃棄されています。これは衣類の約6割にあたる量であり、家庭ごみや事業系廃棄物として回収された後、多くが焼却または埋め立てによって処理されています。

こうした処理過程で発生するCO₂などの温室効果ガスは、気候変動への影響が懸念されており、持続可能な資源循環の観点から大きな課題となっています。

また、ポリエステルなどの合成繊維を洗濯する際に発生するマイクロプラスチックは、海洋や河川に流出し、生態系への影響を及ぼす可能性があると指摘されています。さらに、染色・加工の工程では大量の水と化学薬品が使われるため、水質汚染や水資源の枯渇といった環境負荷も見過ごせません。衣類の生産から廃棄に至るまでのライフサイクル全体を通して、繊維産業はさまざまな環境問題と向き合う必要があります。
課題に取り組む多様な企業の取り組み
こうした課題に対し、日本国内では環境負荷を減らすためにさまざまな取り組みを進めている企業があります。
■ワークスタジオ「PANECO」
世界で年間約9,200万トンもの衣類が廃棄され、その多くは焼却や埋め立てに回っています。特に混紡繊維の多さがリサイクルの壁となる中、株式会社ワークスタジオの原和広氏が展開する「PANECO®」は、デザインとリサイクルを融合し、廃棄衣類を分別不要の繊維ボードへと再生。国内での独自の生産体制と社会的課題に取り組みながら、新しい資源循環モデルを追求しています。
■ワーキングハセガワ「救衣-sukui」
福岡県嘉穂郡で業務用ユニフォームの企画・販売を手がける株式会社ワーキングハセガワ。代表の長谷川伸一さんは、コロナ禍を機に環境配慮を事業の柱に据え、欧州でのサーキュラーエコノミー視察を経て、医療用スクラブの新ブランド「救衣 – sukui」を立ち上げました。麻素材を使ったサステナブルな製品と、ブロックチェーン技術によるトレーサビリティ(DPP)を融合し、環境負荷の見える化と長寿命化を実現しています。
■JEPLAN(日本環境設計)
「服から服をつくる」を掲げ、ポリエステル製品をケミカルリサイクルする技術を開発しているJEPLAN。ユニクロなど大手企業とも連携し、全国規模で回収ネットワークを展開しています。業界でもいち早くサーキュラエコノミーに着手した背景や独自の最先端技術について伺いました。
■airCloset
女性向け月額制ファッションレンタルサービス「airCloset」を提供している株式会社エアークローゼット。忙しい女性たちの時間価値を向上させることを目指し、サーキュラエコノミーに基づいたファッションの新たな形を作り上げました。事業の立ち上げから現在までの苦労や今後の展望について、代表取締役社長兼CEOの天沼聰氏に伺いました。ファッションレンタルがどのように業界の未来を変えるのか、その背景とビジョンを詳しく紹介しています。
業界変革を牽引する大手の取り組み
スタートアップによる革新的な挑戦が注目される一方で、業界全体の変革を後押しする大手企業の取り組みも重要な役割を果たしています。その好例が、伊藤忠商事による「RENU」プロジェクトです。
■伊藤忠商事「RENU」
ファッション産業の大量廃棄問題に対し、伊藤忠商事は2019年に廃棄ゼロを目指す「RENU(レニュー)」プロジェクトを始動。廃棄衣類や繊維端切れを回収・リサイクルし、高品質な再生ポリエステルへと生まれ変わらせる仕組みで、「服から服へ」の循環を実現しています。国内の回収体制や消費者協力の課題はあるものの、提携先拡大で回収強化に努め、持続可能なファッションの普及を目指しています。
CE.Tが後押しするファッションのサーキュラーシフト
ファッションをはじめとするモノの価値観が大きく変わりつつある今、サーキュラーエコノミー実現に向けた挑戦が各地で始まっています。課題は多く残るものの、スタートアップや企業による取り組みが新たな循環の輪を広げ、繊維・ファッション業界でも変革の兆しが見え始めています。
こうした動きを受けて、CE.Tでも2025年から「事例解説セミナー」を通じて、業界全体の意識向上とビジネスモデルの変革を後押ししてきました。
6月18日(水)に開催予定のセミナーでは、デジタル時代のサーキュラーエコノミーに欠かせない「情報の透明性」と「サービス化」に焦点を当て、国内外の最新事例を詳しくご紹介します。資源循環やトレーサビリティに関心のある方は、是非ご参加ください。
今後は行政の補助制度や拡大生産者責任(EPR)の導入など、制度面での支援も期待されており、持続可能なファッションの実現に向けた追い風となるでしょう。これからのファッションは、単なる「もの」ではなく、環境や社会とつながる「価値ある資源」として活かされていくはずです。私たち一人ひとりの選択が、サステナブルな未来を形づくる鍵となるでしょう。