株式会社モーンガータは、2019年の設立以来、化粧品の廃棄問題に取り組み、独自のアップサイクル技術を駆使して新たな価値創造を行っています。 同社は、使い切れなかった化粧品を絵の具に転換する特許技術「magic water」を開発し、現在、16社の化粧品メーカーから廃棄予定の化粧品を買い上げ、多用途な色材として再利用する取り組みを推進しています。 2023年10月には、株式会社サクラクレパスの技術協力の下、廃棄化粧品を活用した水性ボールペン「SminkArtペン」の開発に成功し、コーセーや花王のノベルティや、イベントにおいての活用品として提供しました。また、2025年5月には、SminkArtペンの一般販売を予定しています。 これらの革新的な取り組みが評価され、2025年1月には『The 5th Japan BeautyTech Awards』で準大賞を受賞するなど、業界内外から注目を集めています。
本日は、同社代表取締役の田中寿典氏に、これまでの取り組みや今後の展望についてお話を伺います。

開発者から起業家へ〜廃棄化粧品との出会い
-事業を始めたきっかけを教えてください。
この事業を始めたのは、化粧品開発者として、自分が関わった製品が使い切られずに廃棄される現実を目の当たりにしたことがきっかけでした。1つの製品を生み出すために、600回以上の処方を試作することもあり、その多くが処分されることに自責の念を抱くようになりました。また、化粧品を使い切れずに捨ててしまうという消費者からの声を耳にすることも多く、もったいないと感じているお客様の気持ちに寄り添えるような取り組みがしたいという思いが強くなりました。
そんな中、たまたま実家に帰った際、姉が使わなくなった化粧品を使って絵を描いていたことが着想の原点となり、「化粧品を資源として再活用できるのではないか」と考えるようになりました。

アップサイクルで化粧品の未来を変える〜モーンガータのビジネスモデル
-それが事業の発端だったのですね。現在は、どのようなビジネスモデルを構築されているのでしょうか?
廃棄化粧品のアップサイクルを軸に、BtoBとBtoCの両面で事業を展開しています。
BtoBでは、化粧品の成分を印刷インク・建材・塗料・樹脂・文具などの様々な工業素材として再利用する事業を展開しており、売上の約7割を占めています。また、総合商社や化粧品企業と連携し、廃棄データの提供を受けながら、廃棄量の削減に向けたシステム構築も進めています。
BtoCでは、消費者が使い切れなかった化粧品を消費者自身で新たな用途へと変えられるソリューションの開発に取り組んでおります。
-事業化の中で最も困難であったことは何でしたでしょうか?
最も苦労したのは、業界をどのように巻き込むかという点でした。私たちが事業を始めた当初は、化粧品業界が持つ廃棄の課題感は、容器に対してが主で、化粧品の中身そのものに対しての意識はそこまで持たれていませんでした。また、たとえ捨てる予定のものであっても、化粧品には各社の技術が詰まっているため、情報流出の観点から簡単に譲ってはもらえません。廃棄予定の化粧品を入手することを最初は断られることも多かったのですが、信頼関係の構築から始めて、少しずつ協力を得ていきました。
しかし、ここ数年で市場環境が変わってきました。消費者の意識が高まり、企業側も環境負荷の低減に取り組む姿勢を強め始めた ことで、業界全体での廃棄課題に対する意識が高まり、多くの企業のご協力を得られるようになりました。
また、事業を続ける上で、「楽しみながらやること」が非常に大事 だと感じています。
廃棄問題は共通したテーマですが、単に「捨てるのをやめましょう」と伝えるのではなく、消費者の廃棄化粧品を自身で他のモノへとアップサイクルできるという、ポジティブで価値のある体験として提案することは、多くの人が関心を持ちながら継続していける心の持続性をもたらします。「magic water」のように消費者自身が楽しみながら廃棄を減らせる仕組みを作ることが、消費者自身のジブンゴト化に繋がり、ギルトフリーや消費に対する意識向上に寄与し、業界全体を巻き込む上でも大きな鍵になったと感じています。

化粧品業界の乗り越えるべき課題
-現在、化粧品業界が直面している課題についてどのようにお考えですか?
化粧品業界は成長を続ける市場である一方で、いくつかの大きな課題を抱えています。まず、廃棄問題の深刻化が挙げられます。化粧品ユーザー5,423人を対象とした弊社の独自調査では、86.3%の化粧品ユーザーがカラーコスメを使い切れずに捨ててしまっている という結果が出ており、その半数以上が罪悪感を抱えています。特に粉末系のコスメは使用頻度が低く、廃棄される割合が高い ことが明らかになっています。
また、化粧品の二次流通市場や回収及びリサイクルには様々な課題があります。
- 他人が使用し、雑菌の繁殖した化粧品を使用するリスク
- 薬機法の規制により、化粧品を化粧品としてそのまま再利用することができない
- 容器のリサイクル率の低さ(金属やプラスチック、ミラーなど複合材質でできていることが多い)

従来、化粧品の廃棄問題に対する取り組みは、主に容器のリサイクル や 発展途上国への寄付などが中心でした。しかし、こうした方法では消費者に直接的なメリットを感じてもらうことが難しく、持続可能な解決策にはなりにくいのが現状です。
そこで私たちは、「家庭内消費」を促進するアプローチ によって、消費者自身が楽しく使い切れる仕組みを提案しています。
その一環として開発したのが、水になじまない粉末化粧品を水溶性の絵の具や雑貨用色材へと変えることのできる「magic water」です。
「magic water」は、界面活性剤フリーで、化粧品原料100%から構成された、安全性の高い溶液です。化粧品製造と同じ品質基準で作られているため、化粧品の安全性を維持したまま他の色材へと変えることができ、お子さまでも安心して使用できます。これにより、使わなくなった化粧品を家庭内で消費することができるようになり、消費者が楽しみながら自然な流れで、廃棄問題に貢献できる仕組みを提供しています。
このような新たなアプローチによって、消費者自身が**「捨てる」以外の選択肢** を持てるようになり、化粧品業界の持続可能な未来につながると考えています。



地域との連携―これまでの取り組み
2021年にKoseとのプレスリリースを発表したことで、業界内での認知度が高まり、それを契機に企業や地域との連携が徐々に広がっていきました。廃棄化粧品のアップサイクルという取り組みに対する関心が高まり、さまざまな分野で協力の機会が生まれています。
例えば、ねぶた祭りとの協業プロジェクト「つむぐ みんなでねぶたを彩る」(https://readyfor.jp/projects/tsumugu_minna) に参画し、伝統文化と化粧品アップサイクル技術を融合させる新たな挑戦を行いました。化粧品の色材を活かしながら、アートや文化活動に貢献することで、持続可能な取り組みを広げています。
また、地域社会に新しい価値をご提供すべく、行政に対してコスメの色味を活かすことのできる公園や、イベントなどのご提案もさせていただいております。

※青色にSminkArtのコスメ由来色材を使用
未来へのビジョン―持続可能な化粧品業界へ
-今後の展望について、お考えになっていることや現在取り組まれていることを教えてください。
今後は、さらに多くの化粧品企業と連携しながら、廃棄化粧品の再活用の仕組みを拡充 していく予定です。特に、各企業にどのような廃棄がどれだけあり、その内どれだけ有効活用できたかを可視化する、廃棄に関するトレーサビリティを提供し、それに伴う環境パフォーマンス指標と、DPP(デジタルプロダクトパスポート)などの認証取得サポートにより、LCA環境規制への対応と、物流保管(3PL)の効率化を目指します。
また、海外市場への展開も視野に入れており、既に展開しているアメリカやフランスだけでなく、中国・タイ・台湾・シンガポールなどのBtoC市場 での展開を強化しています。こうした国々では、化粧品消費が急速に拡大しており、持続可能な消費のあり方を提案することで、新たな市場を開拓したいと考えています。
さらに、海外のラグジュアリーブランドからも着目頂いており、対外的な信頼を強化するためにも、国際的な評価を得るピッチコンテスに参加したいと考えています。より多くの人への認知を広め、業界全体でサステナブルな取り組みを推進し、新しい価値を創造していくことが、今後の大きな目標の一つです。


最後に〜モーンガータからのメッセージ
化粧品の廃棄問題は、企業と消費者の両者が同じ方向を向いて取り組める環境が無ければ解決できません。そのためにも、我々が多角的な視点で廃棄物を捉え、人と物の関係性を再構築できる手段や仕組みを我々が醸成し、企業と消費者がコミュニケーションを図れる機会を提供することが大切であると考えています。これを継続することで初めて、今ある消費社会と目指すべき持続可能な社会の両立を図ることができると考えています。
ただ、「環境のために何かしなければ」と難しく考えるのではなく、楽しみながらサステナブルな選択をすることが大切です。「楽しい」や「面白い」という価値が人の行動の継続性を育み、取り組み続けることで結果的に自然な形で環境にも貢献できる。そんな「楽しく続けられる選択肢」を、私たちはこれからも提供し続けたいと考えています。
消費者一人ひとりが楽しみながら自然な流れで続けた小さな行動が、業界全体の大きな変化につながる。その可能性を信じ、これからも挑戦を続けていきます。
SminkArt(スミンクアート):https://man-gata.com/