2024年、「ごみを減らして、循環者になろう。」をテーマに誕生した「鎌倉サーキュラーアワード」。
これは鎌倉市が掲げる「ゼロ・ウェイストかまくら」の理念を基盤に、さらなる”循環者になるまちづくり”を推進し、サーキュラーエコノミー(循環型ビジネス)の創出を活性化していくことを目的とした取り組みです。
市民・スタートアップ・事業者それぞれの立場から応募できる3部門を設け、各団体や個人が取り組みを披露し、互いに磨き合うことで活動の幅を広げていきます。
今回はその中でも、鎌倉市外からも応募可能な「スタートアップ部門」に焦点を当てつつ、アワード全体が目指す姿や狙い、地域とのつながりについて、株式会社カマン代表取締役で本アワードのスタートアップ部門のファシリテーターを務める善積真吾氏にお話を伺いました。

―まずは、「鎌倉サーキュラーアワード」について概要を教えてください。
鎌倉サーキュラーアワードとは、鎌倉発の循環型社会を推進するために、市民・スタートアップ・事業者という三つの部門でアイデアや取り組みを表彰する取り組みです。第一回となる昨年は、市民や企業から合計117件もの応募があり、今年も100件超を目標に募集が始まっています。
※応募締切は2025年9月24日(水)
このアワードは、「つくる→つかう→すてる」という直線的な消費の流れから脱却し、ごみを出さない、資源を循環させる、自然を再生させる未来を実現するために、どう経済に組み込むかを考える挑戦を支援する場でもあります。
―スタートアップ部門のみ、市外からも応募可能にしたのはなぜでしょうか?
全国、さらには世界から新しいサーキュラーエコノミーの芽を集め、鎌倉を起点に広げていきたいという思いからです。
日本にはまだ、資源循環が十分に進んでいない事例が多くあります。たとえばコーヒー粕や、クリーニング店で使われるハンガーなど、日常生活の中で「もったいないのに活用されていない資源」も無数に存在します。そうした課題やアイデア、解決の知見をこのアワードに集め、鎌倉という場をきっかけに新しいサーキュラーエコノミーを生み出してほしいーその願いを込めています。

また、鎌倉は、市民・事業者・行政の環境意識が高く、外部からのチャレンジを歓迎する雰囲気があります。人口約17万人という中規模都市でありながら、年間観光客は2,000万人にのぼり、東京にも地方にも展開しやすいスケール感を持つのも大きな特徴です。

環境課題の解決には、ひとつの地域や企業だけでは限界があります。鎌倉が持つ条件とネットワークを生かし、このアワードを起爆剤として、全国や世界に新しい循環型のビジネスが広がっていくことを期待しています。
―昨年は全国から多様なスタートアップが集まったとのことですが、特に印象的だった事例があれば教えてください。
昨年は想定以上にレベルの高い提案が集まりました。たとえば金賞を受賞した株式会社JOYCLEは、鎌倉市が現在抱える「焼却炉がなく、ごみを遠方まで運ばざるを得ない」という課題に対し、大量のごみを燃やさず資源化できる移動可能な小型アップサイクルプラントを提案しました。

このプラントは低コストで運用でき、温室効果ガス削減や稼働状況の可視化も可能で、運用効率化や安全性確保にもつながります。このほかにも、食品ロスやリユース、日常生活のあらゆる分野でユニークな取り組みが寄せられ、まさに全国からサーキュラーエコノミーの最新アイデアが集まる場になったと感じています。
―いろいろなアイデアが集まる一方で、スタートアップの方々が共通して抱えている課題はありますか?
多くのスタートアップが、事業を立ち上げたもののマネタイズがうまくいっていないという悩みを抱えていました。優れたサービスや製品でも、利用者が増えなければ持続できません。最終的には、消費者の意識に頼らずに循環が回る仕組みをつくることが理想ですが、初期段階ではどうしても消費者を巻き込んでいく必要があります。
そこで私たちは、環境意識の高い市民が多い鎌倉というフィールドを活かし、スタートアップが実証実験をしやすい環境を提供することで、最初の一歩を後押ししたいと考えています。
―昨年応募されたスタートアップの中で、鎌倉との連携や事業成長に進展があった事例があれば、具体的に教えてください。
受賞には至りませんでしたが、「wash-U」という企業が鎌倉で実証実験を進めています。
鎌倉で定期的に開催される「うみべのFARMERS MARKET」では、リユース容器やマイ容器・マイカトラリーの持ち込みを推奨してごみゼロを目指しています。しかし課題だったのが、「使用後に容器を洗う場所がない」という点でした。

wash-Uは、そんな課題を解決する環境負荷ゼロのマルチクリーナーを開発。会場に設置することで、来場者は食事後にその場でさっと予洗いできるようになり、水使用量や排水負荷の軽減、スタッフの負担削減にもつながっています。
容器をその場で気持ちよく次に使える状態にし、循環を促す。鎌倉でのトライアルを足がかりに、全国への展開も視野に入れたチャレンジが進んでいます。
―なるほど、受賞して終わりではなく、その後の連携や成長にもつながっていくのが、このアワードの魅力ですね。一方で、応募前からサポートされる取り組みも増えていると伺いました。
そうですね。第1回目の応募者からは、「アイデアを実装する力をもっと高める場がほしい」という声が多く寄せられていました。そこで今年からは応募前の事業ブラッシュアップを支援する全4回の「鎌倉サーキュラーアカデミー」を新たに実施することにしました。
プログラムでは、循環型ビジネスの実践者が講師となり、
- サーキュラーエコノミーとは何か
- なぜ鎌倉で実装する意味があるのか
- PoC(概念実証)を始めるには何を検証すべきか
- 企業・自治体との連携のポイント
などといったテーマを多面的にレクチャーしました。参加者同士の交流も活発で、応募前にアイデアを磨き、実装に向けた準備を整える場として好評をいただいています。このように、受賞後の伴走支援だけでなく、応募前からスタートアップや事業者を支える仕組みを整えることで、鎌倉をサーキュラーエコノミーの“実験場”としてさらに進化させていきたいと考えています。
―最後に、これから応募を検討している企業やスタートアップの皆さんへ、メッセージをお願いします。
全国(もちろん世界も)で活動するスタートアップのみなさんには、ぜひまずは鎌倉という舞台で挑戦してみてほしいと思います。サーキュラーエコノミーに取り組み始めたばかりの企業や、創業間もない企業、大きな企業でも大歓迎です。間口は広く、さまざまなフェーズに合わせて私たちもサポートしていきたいと考えていますので、興味があれば、ぜひお気軽に応募してください。
取材協力:鎌倉サーキュラーアワード
■鎌倉サーキュラーアワード■
主催:リスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点
実行委員長:田中浩也慶應義塾大学SFC環境情報学部教授(COI-NEXT慶應鎌倉拠点プロジェクトリーダー)
総合審査員長:松尾崇鎌倉市長
今回お話を伺った善積氏は、リユース容器「Megloo」の開発者でもあります。こちらも以前、サーキュラーエコノミードット東京で取材させていただきましたので、ぜひご覧ください。