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業務用ユニフォームの企画・販売を行う株式会社ワーキングハセガワ(福岡県嘉穂郡)。
代表取締役の長谷川伸一さんは、コロナ禍をきっかけに環境配慮の観点を事業に取り入れようと模索、欧州のサーキュラーエコノミーの海外視察ツアーに積極的に参加するなど準備を進めてきました。

帰国後は事業計画を進め、このたび医療現場で使用されるスクラブ(医療用ユニフォーム)の分野で、環境配慮型のブランド「救衣 – sukui」をリリース。ブロックチェーン技術を活用したトレーサビリティ(デジタルプロダクトパスポート: DPP)を導入し、ワークウェア領域でのサーキュラーエコノミーの実現を目指しています。

福岡のワーキングハセガワ社に長谷川さんを訪ね、新規ビジネスについて伺いました。

環境に配慮したメディカルウェア

—「sukui」のローンチおめでとうございます。麻の手触りが柔らかくて良いですね。評判はいかがすか。

(長谷川氏、以下略)おかげさまでとても反応が良いです。ローンチ時にSNSでシェアをしたのですが、つながりのあるドクターがそれをご覧になって、すぐに看護師さんの分までご購入いただきました。お付き合いで買っていただいたという感じではなく、sukuiのコンセプトに共感していただいたのかなと思っています。

麻素材のsukui は3色、ユニセックスサイズで4サイズで展開

—「sukui」はどのようなターゲット層を想定していますか。

医療現場のユニフォームは耐久性と着心地が重要ですが、「sukui」は同時に製品のトレーサビリティや環境配慮をしている製品です。このコンセプトに共感していただける、環境問題への意識が高いドクターや医療関係者の皆様に「sukui」をご提案しています。

—ブランド名「救衣 – sukui」の由来を教えてください。

以前からブランド名は横文字でなく、日本語にしようと決めていました。いろいろ考えていたところ、家族と食事している時に「すくい」という言葉が浮かびました。ドクターは人を医療で救うことから「救衣」、また環境を救うという意味も込められています。

—この事業を最初に考えたのはいつ頃でしょうか。

着想は2022年にさかのぼります。やはりコロナの影響が大きかったです。私たちのビジネスは、メーカーが作ったものを仕入れて一部に刺繍やプリント加工して販売するモデルなのですが、基本的に仕入販売なので、製品については完全にメーカーに依存しています。そのため商品が入荷しない、原料が高騰する、中国での生産が滞るなど、さまざまな問題が重なったことがありました。メーカーに依存しないビジネスモデルを模索する必要があると感じました。

—アパレル業界でサーキュラーな取り組みはどのぐらい進んでいるのでしょうか。

アパレル業界は環境に悪影響を与えているというイメージがあり、各社取り組みを行っていますが、多くの場合、残念ながらまだまだ表面的な取り組みで終わっているのが現状だと感じています。そのため、このプロジェクトではサステナビリティなビジネス構築を目指して、環境負荷を減らすことを最優先にしています。

—製品開発で一番苦労した点は何でしょうか。

環境に配慮した高品質な素材を見つけることが最大の課題でした。麻(ヘンプ)を選んだ理由は、耐久性、そして堆肥化できる自然素材だからです。国内外のパートナーと何度も調整を重ねました。また、デザインについては、再生のしやすさの観点から、ファスナーなどの付属品は極力避けるなどシンプルなものにしました。

—使用済みユニフォームの循環性についてはどんな取り組みがありますか。

製品のリペアやクリーニングサービスを提供することで、製品の長寿命化を図っています。さらに、回収・リサイクルの仕組みも完備しています。また、天然素材の染めを得意とする事業者さんと連携しての染め直しサービスや、スクラブを切り刻んで別の用途に活用することも検討しています。

また、堆肥という形での循環の可能性も探っています。堆肥化はすでに試験段階で成功していますが、実用化に向けた課題も多いです。

DPP導入のきっかけは北欧で食べたハンバーガー

—「sukui」にはDPP(デジタルプロダクトパスポート)を導入するということですが、そのことで具体的に何ができるのでしょうか。

DPPは製品のトレーサビリティを強化する技術です。製品にQRコードをつけて、それをスキャンすることで、製品がどこで、どのような材料で、どの程度の環境負荷があるのかが一目でわかります。たとえば、製品製造におけるサプライチェーンのCO2排出量を表示するなど、透明性の高い製品の情報がユーザーに共有されます。

DPPを取り入れようと考えたきっかけは何ですか。

北欧に視察に行ったときに、スウェーデンのハンバーガーチェーンに入りました。そこで商品すべてにCO2の排出量が書かれているのを見て驚きました。環境に配慮していることを発信するには、このように定量化する必要があるだろうと思ったんです。DPPはまさに定量化ができる技術ですので、取り入れたいと考えました。

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2023年は欧州を回り、サーキュラーエコノミーの現状を積極的に視察した長谷川さん(左端)。写真はCE.Tの視察でフィンランドのフェルトメーカーを訪問時

DPPを推進する飯塚市と協業

—DPPの技術的なことはどうされたのですか。

私自身はブロックチェーンについては詳しくないのですが、ここは嘉穂郡桂川町で、隣が飯塚市なんです。飯塚市は、九州工業大学の情報学部のほか、近畿大学、短大も含めて3つの大学がある地域です。開発会社のchaintope(チェーントープ)社があることから「飯塚市ブロックチェーン推進宣言」を2021年に発表し、市ぐるみでブロックチェーンに力を入れています。古民家を改装したブロックチェーンを盛り上げるための拠点Blockchain Awakeningもあるんです。技術的なことはchaintope社と協業させていただいています。

—ここは福岡市からもかなり離れていますが、すぐ近くにそんな最適な環境があるとは驚きですね。chaintope社にはどのようにコンタクトを取ったのですか。

公式サイトからメールをしました。私はこういうものを作っていてDPPをやりたいんですけど一緒に取り組みませんかと。そうしたら二つ返事で受けてくださって。さらに福岡県と飯塚市の補助金を受けることになり、弊社の製品を使ってDPPの実証実験を行うことになりました。

—すべてがつながった感じですね。今後はどのような展開をされますか。

おかげさまで順調に来ていますが、これはまだ序章に過ぎないと思っています。最終的にはアパレル業界全体が、透明性の高いビジネスモデルを採用するようになることを目指しています。特に、私たちのような中小企業でも導入できるシステムを提供することで、業界全体の変革を促進したいと考えています。

また、DPPを通じて顧客が企業の環境配慮を「見える化」できる社会を実現したいです。

—ありがとうございました。今後の展開を楽しみにしています。

人と環境を救う医療ウェア「救衣-sukui 」
https://sukui-wear.jp