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株式会社エアークローゼットは、日本で初めて女性の普段着に特化した月額制ファッションレンタルサービス「airCloset(エアークローゼット)」を展開している企業で、今年で創立10周年(サービス開始からは9年)を迎えました。

これまで小売が前提だったアパレル業界に、レンタル・サブスクで循環型サイクルを取り入れた「airCloset」。事業立ち上げの経緯から軌道に乗るまでの苦労、今後の方向性などについて、代表取締役社長 兼 CEOの天沼聰氏にうかがいました。

「忙しい女性の時間価値向上」からサービスを構想

airClosetは、約300のブランド・50万着の中から、プロのスタイリストが利用者一人ひとりに合わせてスタイリングし、コーディネートした洋服を届けるレンタル・サブスクサービスです。

プランによって月に3〜5着が届きますが、決まった返却期限はなく、クリーニングも不要。返却すると新たな洋服が届くシステムで、気に入ったアイテムはそのまま買い取ることもできます。

こうした利用者の使いやすさを追求したサービスが人気を博し、スタート以来会員数は増え続けて120万人を突破(2023年12月時点)。業績も好調です。

株式会社エアークローゼットのオフィス・エントランス

――「airCloset」を立ち上げた経緯を教えてください。

サービスを構想した当時、まずは「人のライフスタイルを豊かにしたい」と考えました。そこから「時間」に注目したんです。使い方や感じ方次第でその価値は変わってしまいますから、「ワクワク」している時間を増やすことで、お客様の時間価値を高めたいと考えました。

さらに、衣食住の中で最も「ワクワク」に近いのがファッションでは、時間の価値を一番感じやすいのは働いている女性やお子さんのいる忙しい女性では、とつながっていきました。

20代〜40代が中心となるこうした女性たちは、仕事に家事育児とタスク山積みの状態ですから、ファッションの優先順位は自然と低くなります。ですが、本来はファッションを楽しみたいと考えている方が非常に多いのです。 

ならば、忙しい女性たちが今の生活の中で新しいファッションに出合えるサービスを創ってしまおう、というのがスタートでした。

エアークローゼットのビジョンストーリー

――まず「忙しい人の時間価値を高める」というコンセプトがあり、そこから事業を構築されていったのですね。そうすると、事業構想の段階では、環境面はあまり意識されていなかったのでしょうか。

確かに環境を中心に考えていたわけではありませんが、サステナビリティは事業の大前提になると捉えていました。

例えば、たくさんの洋服との接点を作ることのみで考えれば、ファストファッションをさらに進化させてより安く大量に生産・販売する、という方法もあります。

ですが、社会的に持続可能性が重要であることは既に明白でしたし、この流れが変わることはないと考えていました。そうした中でサステナビリティに逆行する事業を展開して一時的に流行したとしても、長く継続することはできないという想いがありました。

さらに、サーキュラーエコノミーへの転換は強く意識していましたね。リニア経済から循環型経済への転換が今後、それまで以上に強く求められるとも感じていました。ですから、循環型でサステナビリティをベースとした事業を構築しようと考えました。

前例のない事業への突破口は「全方位的に泥臭く取り組む」

――ファッションレンタルサービス「airCloset」の仕組みを実現するために、実際には何から始めたのでしょうか。

当時は国内外を含めて、普段着のファッションレンタルやサブスクサービスを行っている事例はありませんでしたから、とにかく手探り状態でした。

代表取締役社長/CEOの天沼聰氏

まず、サービスの拠点になる倉庫が必要だと考え、倉庫会社に相談に行きました。ですが、最初は全ての会社に断られてしまいました。

倉庫の主な機能は「保管・発送」になるため、サービスを実現するためには返却されたお洋服を確認する作業に加え、クリーニングやメンテナンスも必要になってきますが、それらには対応していませんでした。

結局、全ての業務を設計し、システムについても既存のものを少しずつ拡張しながら、自社で構築していきました。そこから少しずつ改善を図り、現在は一から当社で開発したシステムを使用しています。

――ファッションブランドとの関係は、スムーズに築くことができましたか。

こちらも最初は難航しました。ブランド様側には「レンタルが販売につながるわけではない」という認識があり、当初は否定的な声が多かったですね。

レンタルはお客様とブランド様との接点を増やすことにつながりますから、ブランド様にとっても非常に良いプロモーションになるんです。それを説明していくことで、少しずつご理解いただくことができました。

取り扱うブランド様とは必ず直接お話しさせていただき、丁寧にコミュニケーションを取っています。スタート時はかなり大変でしたが、今ではレンタルのメリットをご理解いただき、良い関係で取引をしています。

――前例がない事業をゼロから構築するために、「ここが一番のポイントだった」と思われる部分はありますか。

難易度が高かったのは循環型物流システムの構築ですが、正直「これが突破できたから成功した」と限定できるものはないですね。

ファッションレンタルは新しい業態であるがゆえに、とにかく全方位壁に囲まれている、そんなイメージです。それら一つひとつに泥臭く全力で取り組み続けてきたからこそ、何とかここまで事業を展開してくることができたと思っています。

徹底したデータ活用とパーソナル体験の重視 

――サービス開始以来会員数も順調に増え、利用者の満足度も高く好評です。その理由をどう捉えていますか?

「自宅が試着室になる」というレンタルサービスの基本的な特徴に加え、次の2つの取り組みが功を奏しているのではないかと考えています。

サービスで届くアイテムの例

一つは、徹底的なデータ分析と活用です。airClosetでは、お客様のフィードバックをデータ化し、さまざまな角度から分析しています。

それらに基づき、評価の高いブランド様の洋服を増やす一方で、そうでない場合は減らす、取引を終了するなど、シビアに判断しています。データを収集するだけでなく、活用できるシステムを開発してサービスの仕組みにその情報を反映させる。ここが私たちのサービスの特徴です。

二つ目は、「パーソナライズされた温かい体験」の提供です。

お客様にお届けするコーディネートは、毎回パーソナルスタイリストがその方のためだけに組んだものです。同じ組み合わせを別の方に提供することは、これまで一度もありません。数十万着の中から、毎回一点一点アイテムを選んでいます。

さらに、なぜそのコーディネートを選んだのか、どんなふうに着こなしていただきたいのかなどのメッセージもアプリ内で添えています。

熱量を持ってサービスについて語る天沼氏

お客様個人の体験を大切にしつつ、データやITを駆使して仕組みを構築していく。これを徹底していることが、サービスの長期継続やレンタルアイテムの購入につながり、売り上げや業績に反映されていると考えています。

ファッションレンタル事業の廃棄物・CO2排出量は?

――洋服の廃棄量について教えてください。

airCloset事業では、「衣服廃棄ゼロ」を達成しています。仕入れたアイテムは全てレンタルで活用していますし、レンタル対象から外れた場合は「エコセール」を開催し、お得な値段で販売しています。かなり高い基準で検品していますので、レンタル基準を満たさなくなったお洋服でも、まだまだ着用できるものばかりです。

また、現状では非常に少ないですが、破損などで着用不可となってしまったアイテムは、リサイクル業者に引き取ってもらっています。

――アパレル業界では商品の廃棄量の多さが社会問題となっています。airCloseは、業界の廃棄物削減にどのような影響を与えているとお考えですか。

廃棄量の削減については、複数の視点があると考えています。個人単位で見れば、airClosetはライフスタイルの中でじっくり試すことができるため、購入したアイテムを長く大切にでき、廃棄量削減につながっていると思っています。

しかし、重要なのは、アパレル業界全体で廃棄量を削減することです。一般的なアパレルメーカーでは廃棄物をゼロにするのは難しい現状がありますが、今後は改善の余地があり、私たちが貢献できるのではないかと考えています。

その一つとして、airClosetではどんなアイテムをどれくらい準備して、回転率はどの程度だったかというデータを蓄積し、仕入れなどの判断材料にしています。こうした情報は、現在社内のみで活用していますが、今後は業界全体に提供していくことも考えています。

――CO2排出量についてはいかがですか。

「レンタル」というビジネスモデルの部分では、配送時にはCO2が排出されるため、逆に環境負荷は高いのではないか、と質問を受けることもあります。

こうした指摘については、当社も協力した環境省の「令和4年度デジタル技術を活用した脱炭素型資源循環ビジネスの効果実証事業」の中で、廃棄物、CO2ともに既存の小売販売よりもレンタルサービスのほうが排出量が少ないという推計が出ています。

出典:環境省(2023)「令和4年度デジタル技術を活用した脱炭素型2Rビジネス構築等促進に 関する実証・検証委託業務 報告書」

※通常の販売モデル(全ての衣服をユーザーが保有し、使用後は可燃ごみとして廃棄するフロー)をベースラインシナリオとし、ファッションレンタルモデル(ベースラインよりも少ない衣服をユーザーが保有すると共に、airClosetで衣服のレンタル(シェアリング)を行うフロー)をファッションレンタルサービスシナリオとして、効果推計を実施。

レンタル時の配送による環境負荷も考慮した上で、衣服の過剰生産・廃棄の抑制による事業の環境面での貢献効果について、廃棄物排出量は27%、CO2排出量は19%削減という結果になりました。

この試算を受け、ファッションレンタルを促していくことが、サステナブルな社会につながると確信しています。

ファッションレンタルサービスが果たす役割とは

――今後の展望について教えてください。

airClosetサービス全体を改善していくことはもちろんですが、今後はファッションレンタル自体が社会により広がり、活用されていくことにも貢献したいと考えています。

欧米と比較しても、サステナビリティに関する日本の消費者心理・リテラシーは圧倒的に遅れていると感じます。そこを改善していくためには、まずはファッションレンタルサービスの認知度を上げることが必要です。

とはいえ、私たち一社だけでは限界がありますから、他の会社様、特にブランド様やメーカー様にファッションレンタルサービスを開始してほしいと思っています。その際に、私たちが開発した法人向け 循環型物流のプラットフォームを活用いただけるように、現在既に動き出しています。

ファッションレンタルの仕組みは、一から構築しようとすると莫大な投資が必要です。物流の仕組みを総入れ替えしないとなりませんから、メーカー様やブランド様が単独で作るのは非常に困難です。ですが、私たちがこれまで開発してきたシステムを活用いただければ、負担少なくチャレンジしていただくことができます。

エアークローゼットオフィスのオープンスペース。スタッフがランチを食べたりミーティングする姿も見られます。

今後社会的にファッションレンタル・サブスクサービスが大きく広がっていくことが不可欠であると考えていますし、創業当初の事業計画にも「循環型物流のプラットフォームを提供していく」と明記しています。

この取り組みが今後のサーキュラーエコノミーの推進に、またファッション・アパレル業界、ひいては日本全体がサステナブルな社会に近づくことにつながります。私たちは、事業を通じてそれらに貢献していきたいと思っています。

取材協力:株式会社エアークローゼット
https://www.air-closet.com/
2024.8.1