サステナビリティとは
戦後に急速に進んだ開発や発展に伴う環境問題や貧困は、人々の生活水準を向上させる一方で、貧困や環境問題などの深刻な社会問題をもたらしました。それらの社会問題は抜本的な解決に至らないまま現在まで続いています。
近年では、こうした社会問題の解決に向けた世界的な動きが「サステナビリティ」という言葉の浸透とともに加速化しています。2015年9月に国連総会において採択された国際目標「SDGs」は、それらの活動の方向性を具体的かつ明確にし、世間一般に浸透させる役割を果たしました。今や「持続可能」「サステナビリティ」「SDGs」という言葉は世界共通言語と言っても過言ではないほどまでに広く浸透しています。
しかし言葉自体は知っており、何となく理解はしていても、それぞれの言葉が何を指すのか、どう違うのかをしっかりと説明できている人は少ないのではないでしょうか。そこでこの記事では、「サステナビリティ」の言葉の意味や目指すべきところ、そして混同されやすい「サステナビリティ」と「SDGs」などの言葉の違いについて解説していきます。
「サステナビリティ」の歴史と変遷
そもそも「サステナビリティ」とはどういう意味なのでしょうか。まずはその言葉の意味を、「サステナビリティ」という言葉が生まれた歴史的背景とともに紐解いていきます。
01 「サステナビリティ」とは?
サステナビリティ(sustainability)は「Sustain(維持する、持続する)」と「Ability(~する能力)」を組み合わせた造語で、「持続可能性」と訳されます。環境問題や貧困などの社会問題が深刻化する中で、中長期的な視点で発展していくことを目指す考え方のことを指します。サステナビリティの考えに基づき、経済活動だけを追求するのではなく人類と地球環境に配慮した活動を行うことが世界各国に求められています。
02 「サステナビリティ」の歴史
「サステナビリティ」の背景には資源開発に伴う環境・貧困の問題があります。戦後の先進各国における急速な経済拡大に伴い、人々の生活水準は飛躍的に向上しました。その一方で、1960年代の後半あたりから深刻な環境破壊や開発途上国における貧困の問題が国際的な場で俎上に載せられるようになりました。
社会問題に対する国際的な議論は1972年にスウェーデンのストックホルムで開催された世界初の環境問題に関する国際会議「国際人間環境会議」に端を発しています。1987年には「環境と開発に関する世界委員会」が発表した報告書「我ら共有の未来(Our Common Future)」が発表されました。その報告書において「サステナビリティ」の起源となる「持続可能な開発」という言葉が登場します。同報告書では「持続可能な開発」を「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」と定義されており、「環境と開発が共存し得るものだ」という考えが提唱されました。
参照:持続可能な開発丨外務省
1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された地球サミットをきっかけに、この考え方は世界的に広まっていきました。その後2001年の国連ミレニアム・サミットで提唱されたSDGsの前進となる「ミレニアム開発目標(MDGs)」を経て、2015年に国連で採択された「SDGs」へとつながっていくことになります。
「サステナビリティ」と「SDGs」の違い
サステナビリティの歴史をさかのぼると「サステナビリティ」の考えが「SDGs」につながっていったことがわかります。しかし「SDGs」は「サステナビリティ」が変化したものでも、また同一のものでもありません。混同されがちな「サステナビリティ」と「SDGs」のそれぞれの言葉の違いを説明します。
01 「SDGs」とは
「SDGs」は2015年9月の国連サミットにおいて、加盟国である193か国の全会一致で採択された2030年に達成すべき姿を描いた国際目標です。“Sustainable Development Goals”の略で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されます。
- 普遍性
-
先進国を含め、
全ての国が行動
- 包摂性
-
人間の安全保証の理念を
反映し「誰一人取り残さない」
- 参画型
-
全てのステークホルダーが
役割を
- 統合性
-
社会・経済・環境に
統合的に取り組む
- 透明性
-
定期的にフォローアップ
SDGsは「経済」「社会」「環境」等に関する17の目標と、その達成に向けた具体的な取り組みを示す169のターゲットから構成されており、政府や企業が取り組むべき指針となっています。
02
「サステナビリティ」と「SDGs」の
違いと関係性
「サステナビリティ」は、開発や発展がもたらした諸問題を鑑み、環境や社会、経済が持続的に発展する社会の実現のための考え方として浸透しました。つまり持続可能な社会を目指すための“概念”であるといえます。
一方で「SDGs」は上記のサステナビリティの考え方を踏まえた上で、それを実現していくための具体的な国際目標、行動指針を示したものです。SDGsは2030年を達成期限として定めていますが、サステナビリティは期限の定めなく長期的に取り組むものとしている点も大きな違いとなります。
企業がサステナビリティに取り組むメリット
サステナビリティの取り組みは地球に住む一人ひとりに求められるものですが、特に環境や社会への影響の大きさの面から、企業に期待される役割は大きいものとなっています。企業のもつ人的・金銭的リソースも、サステナビリティを実現していく上で重要な要素となります。
一方で視点を変えると、企業自体の持続可能性においてもサステナビリティへの取り組みが重要であるといえます。
ここからは、サステナビリティに取り組むことによる企業のメリットについて解説します。
01 企業の価値向上・競争力の強化
SDGsの採択は、サステナビリティの重要性を広く一般に浸透させる役割も果たしました。これは消費者の価値判断にも大きな影響を及ぼしており、近年では消費者が商品やサービスを選択する際の理由として「サステナビリティ」や「SDGs」の観点が重要視されています。企業としてサステナビリティに取り組むことは消費者に選ばれるための理由づけとなり、市場での競争力を高めることにつながるのです。
また消費者だけでなく取引先、株主、投資家といったステークホルダーからの評価や信頼を得るためにも、企業がサステナビリティに取り組む姿勢を示すことは重要なポイントです。後述するようにESGに取り組む企業は資金調達面でも有利となります。事業を通じて自社利益の追求だけでなく社会問題を解決していこうという企業は、社会的な存在価値を高めていくことができるのです。
02
従業員のエンゲージメント強化・優秀な
人材の獲得
企業のサステナビリティへの取り組みには社会全般を対象としたものだけでなく、「雇用」「ダイバーシティ」「労働安全衛生」といった自社の雇用や労働環境の改善も含まれています。サステナビリティの一環として働きやすい職場環境を整備することは、従業員満足度を高めるとともに、採用の面でも有利に働くでしょう。
また社会問題への関心が高まっている昨今、企業がいかに社会的に意義のある事業を展開しているかは従業員からも求職者からも重要視されます。企業のサステナビリティへの取り組みは、従業員のエンゲージメントを強化するとともに、優秀な人材を獲得するための重要なポイントとなるのです。
03 新たな事業可能性
SDGsを契機にサステナビリティへの取り組みは注目度を高めており、世界的にサステナビリティ関連の事業拡大が期待されています。つまり企業にとってのサステナビリティは、新たなビジネスチャンスでもあるということです。
サステナビリティやSDGsは世界共通言語でもあるため、サステナビリティ、SDGsを切り口とした事業展開は、自社の事業をグローバルな規模で発信していく役割も果たします。それによって新たな企業との連携可能性が生まれるなど、より自社の幅を広げたり影響力を高めたりしていく可能性が高まります。
企業におけるサステナビリティの関連用語
企業によるサステナビリティへの取り組みが重要視されており、それに関連する用語も多く生まれています。
特に一般的な用語である「CSR」「CSV」「ESG」について解説します。
01 CSR
CSRはcorporate social responsibilityの略で、日本語では「企業が果たすべき社会的責任」と訳されます。
企業には顧客、従業員、取引先、投資家をはじめとした多くのステークホルダーが存在します。規模が大きくなるほどステークホルダーも増えていき、社会的な影響力も増大していきます。そんなステークホルダーに対して生じる社会的責任を、社会貢献活動をもって果たしていくという意味がCSRには込められています。そのため一般的には企業の行う「社会貢献活動」と同義で用いられることが少なくありません。
自社の利益のみを追求せず社会価値を創り出す活動という点では、CSRは広義にはサステナビリティに含まれます。しかしサステナビリティが「社会」に含まれる広範囲のものを主体としているのに対し、CSRは社会的責任を果たすことで企業が存続していくことを目的とした「企業」主体のものであるという点で、両者には大きな違いがあります。
02 CSV
CSVはCreating Shared Valueの略で、日本語では「共通価値の創造」と訳されます。社会課題の解決や社会への貢献を意味する「社会価値」、経済的な価値や利益を意味する「経済価値」を両立させることで企業の競争力を高めていくという考え方を指します。
CSRは通常、本来の事業とは別の社会貢献活動として行われることが多いのに対し、CSVは「社会価値」の実現を通じて「経済価値」を得るという考え方であり、企業戦略の一環と捉えられるのが特徴です。
03 ESG
ESGはEnvironment(環境)、Social(社会)、 Governance(ガバナンス)の頭文字を取った言葉です。企業の長期的な成長に欠かせない要素であるこの3つを重視する経営方法を「ESG経営」と呼んでおり、元々は投資の評価指標とされていました。現在では投資に限定せず、企業価値を高めるための指針として「ESG」が重要視されています。
ESGもCSRと同様、サステナビリティの持つ社会価値に立脚した概念です。ただしESGの背景にあるのはあくまで投資であり、投資家から評価を受けるために「企業としてどうあるべきか」が出発的となっています。ESGの求める非財務価値を高めることが企業の経営にも関わってくるということで、ESGに取り組む多くの企業で経営企画やIRなどの部署が専門的な仕事として対応しています。
企業がサステナビリティに取り組む際のポイント
世界的に注目を集める企業のサステナビリティへの取り組みですが、これから企業がサステナビリティに取り組む際にはどのようなことに気をつければ良いのでしょうか。ここでは企業のサステナビリティ推進におけるポイントを紹介します。
01 「パーパス」と「施策」を明確にする
『「サステナビリティ」と「SDGs」の違いと関係性』で説明した通り、サステナビリティは持続可能な社会実現のための概念を示し、SDGsはそれを踏まえた上での目標や行動指針を示しています。企業活動に置き換えると、サステナビリティは企業のパーパス(存在意義)、そしてSDGsはパーパス実現のための目標であるといえます。
企業はサステナビリティを「パーパス」とした上で、自社の企業活動がどのように価値を提供できるのかを考える必要があります。具体的に何に取り組むのかという施策を考える際には、SDGsの目標やターゲットが指針となります。ただしSDGsはすべての国に共通する基礎的な問題の解決を目指すものであり、それ自体に独自性があるものではありません。SDGsの項目自体にとらわれすぎると自社の実態にそぐわない表面的な施策になってしまう可能性があるため、あくまでSDGsは指針とし、パーパスを踏まえた上で自社ならではの施策を考えるようにしましょう。
02 長期視点で目標を設定する
サステナビリティへの取り組みは必ずしも利益に直結するものではなく、また短期的な成果が見込めるわけではありません。しかしサステナビリティの取り組みを通じて消費者やステークホルダーとの信頼関係を長期的に構築し需要に応えていくことは企業の長期的な価値向上につながります。またESG投資が注目されているために、非財務価値も企業活動における重要なポイントとなります。
短期的なリターンがないことで経営判断を下すのではなく、社会や企業の未来を見据えた上で、長期的な視点で目標を設定するようにしましょう。
03
サステナビリティ・トランス
フォーメーション(SX)を意識し取り組む
広い概念を含む「サステナビリティ」の中には、企業自体の持続も含まれます。前述した通り、「社会価値」と「経済価値」はトレードオフではありません。企業は利益を獲得し、事業を継続してこそ社会価値を生み出すことができる、と言うこともできるでしょう。
広い概念を含む「サステナビリティ」の中には、企業自体の持続も含まれます。前述した通り、「社会価値」と「経済価値」はトレードオフではありません。企業は利益を獲得し、事業を継続してこそ社会価値を生み出すことができる、と言うこともできるでしょう。
03
サステナビリティへの取り組みを社内外に
開示する
企業としてサステナビリティに取り組むことは、社内外における価値向上に寄与します。特に社内においては経営層だけでなく従業員の行動が重要となることから、勉強会等によりサステナビリティの理念浸透や意識醸成に取り組むことが重要です。そのことがさらなる従業員のエンゲージメント強化につながることも期待されます。
またそれら取り組みの対外的な発信も重要なポイントです。サステナビリティへの積極的な取り組みはステークホルダーからの信頼や評価の向上につながることが期待されます。特にESG投資に象徴されるように、社会価値の高い取り組みは投資家からの資金調達など事業継続に直接的な影響を及ぼす可能性が高いものになります。
またサステナビリティやSDGsを合言葉に、他企業や機関との協働がしやすくなるのも大きなポイントです。魅力的な取り組みを発信することで協働のきっかけが生まれることは、企業としての事業発展にもつながっていきます。
企業のサステナビリティの取り組み事例
ここからは、実際にサステナビリティに取り組むさまざまな企業の事例をご紹介していきます。
01 ユニリーバ
世界有数の一般商材メーカーのユニリーバは「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」というパーパスを掲げ、2010年から「ユニリーバ・サステイナブル・リビング・プラン」を導入しサステナビリティに取り組んできたパイオニア的存在です。
2021年には「ユニリーバ・サステイナブル・リビング・プラン」の後継プランである「ユニリーバ・コンパス」が発表されました。その中では「サステナブルなビジネスのグローバルリーダーとなる」という新しいビジョンが謳われています。「地球の健康を改善する」「人々の健康、自信、ウェルビーイングを向上させる」「より公正で、より社会的にインクルーシブな世界に貢献する」という3つの分野で約30の数値目標が設定されており、具体的な目標や方針が示されています。
02 スターバックス
コーヒーチェーンのスターバックスは、サステナビリティに関する先進的な取り組みを数多く行っていることで有名です。地球から得た以上のものを還元する「リソースポジティブ」をビジョンとし、「水の使用量」「二酸化炭素の排出量」「ごみの排気量」の3点において明確な削減目標を掲げています。
リソースポジティブの一環として、環境配慮型店舗の国際認証「Greener Stores Framework」を取得した「グリーナーストア」を展開しているのも特徴です。「Greener Stores Framework」はスターバックスと世界自然保護基金(WWF)が共同策定した基準で、水の使用量、二酸化炭素や廃棄物を削減して環境負荷を低減した店舗づくりをするための枠組みです。スターバックスは全世界で2025年までにグリーナーストア10,000店舗のオープンを目指しています。
03 ファーストリテイリング
「ユニクロ」をはじめとするアパレルブランドを展開するファーストリテイリングは「服のチカラを、社会のチカラに。」というサステナビリティステートメントを掲げています。2021年にはサステナビリティの主要領域で2030年度目標とアクションプランを策定しました。自社だけでなくサプライチェーンも含めて温室効果ガス排出量の削減目標を掲げており、そのために2030年までに全使用素材の約50%をリサイクル素材に切り替えるなどの明確な方針が打ち出されています。
環境面だけでなく、難民への衣服の寄付や、ダイバーシティに配慮した職場環境の整備など多角的なサステナビリティへの取り組みが推進されています。
04 ネスレ
世界有数の食品メーカー「ネスレ」は、2030年に向けた長期的な目標として中長期計画を実施しています。2050年の温室効果ガス排出量実質ゼロを目指し、100%再生可能な電力の使用やフードロスの削減などに取り組んでいます。
また2025年までに全世界でつくるパッケージをリサイクル・リユース可能にするというコミットメントも設定。実際に2019年から各種製品の紙包装への切り替えを始めました。取り組み開始から2022年末時点までで累計1,150トンのプラスチックの削減に成功しています。
最後に
サステナビリティやSDGsは世界で共通の概念で、誰しもが取り組む必要のあることです。しかし実際の企業での取り組みをみると、その内容は千差万別。企業それぞれの持つリソースやストロングポイントを踏まえ、社会価値と経済価値の両立を目指して進めていく必要があります。
逆にいえば、企業としてサステナビリティに取り組むことは新たな価値創造のチャンスであるともいえます。サステナビリティへの取り組みが、企業の価値向上や資金調達といった企業の持続的な成長にもつながってきます。
弊社「株式会社サーキュラーエコノミードット東京」は、サステナビリティに関する新たな知識、学びをさまざまな形で提供するラーニングプラットフォームです。サステナビリティへの取り組みを導入する際には、ぜひ一度ご相談ください。