アパレルやアウトドアブランドの店頭で、かわいい蜂のマークの回収ボックスを見かけたことのある方は多いのではないでしょうか。この回収ボックスは、「服から服をつくる®」サーキュラーエコノミーを社会に実装するブランドBRING(運営:株式会社JEPLAN)が展開しています。
BRINGは、アパレルブランドなど提携企業と協働し、使わなくなった服を回収。集められた服は北九州響灘工場で選別されて、素材に応じてリサイクル、リユースされます。なかでもポリエステル100%の衣類は、独自のPETケミカルリサイクル技術を用いて服の原料となる再生ポリエステルにリサイクルされ、再び服などに生まれ変わります。
JEPLANは2023年に、フランスのIFPENとAxensと共同で取り組んでいる、使用済PET製品から石油由来と同等品質にリサイクルすることが可能なRewind PET™ テクノロジーを用いた準商用レベルのデモンストレーションを開始しました。その背景について、Business Planning Departmentマネージャー 石津 縁(いしづ ゆかり)さんにお伺いしました。
業界でもいち早くサーキュラーエコノミーに着手
―JEPLANが衣類の回収を始めた経緯は?
衣類の循環については創業時からアイデアがありました。当初は、オフィス・ワーキングユニフォームを大量に廃棄する企業に向けて、衣類を循環させるためのコンサルティングを行っていました。
しかし衣類を循環させるためには、産業廃棄物に関する法律の知識や、収集運搬などの課題を解決する必要があります。そのノウハウを持っている企業と連携し、弊社が技術を持って資源循環のプラットフォームを作ろうと、衣類の回収サービスを開始しました。
2010年頃から開始した衣類やプラスチックの回収プロジェクトは、複数の企業が連携して循環を推進していくことを掲げ、これに賛同くださった無印良品を運営する良品計画さんや、大手スーパーマーケットさんのお力添えもあって、少しずつ形になっていきました。
―JEPLANはコンサルティング業務が主軸なのでしょうか。
JEPLANの特徴は、コンサルティングだけでなく、ある程度自社でも技術・設備を持って資源循環に取り組んでいることが挙げられます。例えば、コットンをリサイクルしてエタノール化する事業は、JEPLANが自社の技術を用いて立ち上げた事業です。
廃PET素材リサイクルの最先端技術「Rewind PET」
―Rewind PETの概要を教えていただけますか
JEPLAN独自のPETケミカルリサイクル技術に類似する研究開発を行っていたのが、フランスのAxensという企業と、その親会社で研究機関のIFPENでした。
そこでAxens、IFPEN、JEPLANの3社で、廃PET素材のリサイクルを加速させていくという想いを共有し、より多くの方々がこの技術を使えるようパッケージとして技術ライセンスを提供するのが、Rewind PETです。
―Rewind PETの基になっているPETケミカルリサイクル技術も、一から自社で開発したのですか?
Rewind PETの基になっている当社の独自技術は、元々その技術を持ったペットリファインテクノロジー(PRT)という企業と提携して行っており、2018年にPRTを吸収合併しました。自社技術で製品開発ができるようになったので、Tシャツを作って、Eコマースを始めて、今では東京の恵比寿や高尾山の麓に実店舗も構えています。
資源の循環や環境負荷を軽減するためには、技術を開発することがゴールではなく、その技術が普及しないと意味がないと感じています。しかし、自社だけでその技術を普及させるには限界があります。
そこでRewind PETで行っているように、企業とアライアンスを組みながら協力して広めていく動きが必要です。
―Rewind PETにはどのような利点がありますか?
具体的には、色や汚れのついた廃PET素材でも幅広く受け入れられる技術を提供することです。
日本のペットボトルなどは比較的業界全体で規格や色も管理され、分別もされ、綺麗な状態で静脈産業に回ってきますが、世界を見渡すと必ずしもそうではありません。例えば紙のラベルが付着しているペットボトル、日本にはありませんがPVCが含まれるボトル、海外のミルクボトルによくある白く濁ったボトルなども含めて、すべてを受け入れられるような技術を提供していくことを目指しています。
今のリサイクル技術では、風で飛ばすという方法で分別が行われていますが、練り込まれて混ざっている素材は分別しようがありません。そのため、ケミカルリサイクルの技術開発が必要なのです。
ライセンス展開で再生PET事業者を増やしたい
―なぜRewind PETは自社工場の増設ではなく、技術ライセンス販売の形態を取っているのでしょうか
JEPLANはベンチャー企業ですので、設備投資に潤沢な予算をかけるなどの経営方針は進められません。その代わりに、まずは自社の技術が有効であることを実証し、その技術を導入したいと考える投資力のある企業様に技術ライセンスを販売するほうがスムーズに普及できると考えました。
―Rewind PETの技術ライセンスを導入するのは、どのような企業を想定していますか? なにか事例と交えて活用方法も教えてください
Rewind PETの技術を導入した設備を備えた工場を新たに建てることも考えられますが、すでにある工場に設備を追加する形での導入も考えられます。
1つ事例をご紹介します。日本の大手化学企業である東レさんの子会社、Toray Films Europeの工場がフランスにあるのですが、ここでは石油由来の原料を使ってフィルムを製造しています。この工場で現在、Axensと連携してRewind PETの設備導入を検討しています。これにより石油由来の原料だけではなく、消費者から回収した廃PETを原料にPETを製造する、リサイクル工場として稼働することが可能になります。
既存の石油由来の原料から製品を製造していた設備が、廃PET(リサイクル原料)を受け入れつつ、既存の製造設備や商流を活用できスムーズに事業シフトできる良い事例だと思います。
―Rewind PETを導入する際には、まずは導入した企業が実証実験をして実用化するという流れになりますか?
すでに当社の北九州響灘工場にて稼働している凖商用レベルのデモンストレーション設備でさまざまなデータを取得しており、そのデータを元に導入先の企業様の既存設備や希望する原料・製品に合わせてカスタイマイズしていきます。
ライセンスを検討いただく場合、デモンストレーション設備でリサイクルした素材をお渡しして、素材として製造に使えるかどうかを事前に検証していただくことも可能です。そのため、導入する企業様自らが実証設備を導入したり、実用化するまでに何年も実証実験を行ったりする必要はありません。
再生PET事業の課題とは
―Rewind PETを進められる中で、直面した課題について教えてください。
2018年にペットリファインテクノロジーを買収してグループ会社化しようとした際、周りからはリスクが大きいのではないかという意見が多く、それを説得するのが大変でした。
工場の生産ラインは、規模が大きくなると1日止まるだけでも大きな損失になります。JEPLANはまだベンチャー企業ですので、このあたりのリスクの取り方についてはいろいろと苦労がありました。
―そのときには再生PET市場が今のように拡大すると確信がありましたか?
それに関してはタイミングがよかったと思います。同社を買収したのは2018年4月なのですが、2018年1月のダボス会議をきっかけにコカ・コーラやペプシ、ネスレなど、多くのメーカーが自社のペットボトルに再生PETを使用することに力を入れ始めました。ペットリファインテクノロジーの工場にも国内外から多数の視察訪問がありました。
ケミカルリサイクルに対して多くのメーカーが関心を抱きつつも、実際にケミカルリサイクルによる再生PET樹脂を提供しているプレイヤーが世の中にいない状況だったので、弊社がケミカルリサイクルによる再生PET事業に参入するタイミングとしてはよかったと考えています。
―今直面している課題についても教えていただけますか?
廃PETを対象としたケミカルリサイクル技術は確立できたので、あとはこの仕組みと再生PETを普及させることが重要です。そのためには誰もが使いやすい仕組みづくりや、リサイクル業界全体の底上げも必要になってくると考えています。
―再生PET事業に参入する企業にとっては、原料となる廃PETを集めることが最初の課題になりそうですが、そのあたりのサポートも行っていますか?
Rewind PETとしては、基本的に技術ライセンスの提供のみで、使用済ペットボトルやポリエスエル100%の廃棄衣類などの原料の調達・収集、その後のビジネスについては、ライセンスを導入する企業様の役割となっています。しかし、JEPLANには実際に原料となる廃PETを回収しリサイクル工場を稼働させてきたノウハウがありますので、ケミカルリサイクル黎明期の今を支えられるよう、できる限りサポートさせていただいています。
設備を導入してスムーズに稼働させるために特に重要なことは、原料を前処理するリサイクル業者さんや収集運搬業者さんとの連携です。このような専門的な事業を行うパートナーさんの協力なしには物量を集められないので、連携構築については工夫が必要です。
―JEPLANが考える「サーキュラーエコノミー」とは
私が「サーキュラーエコノミー」という言葉を初めて聞いたのは、2015年にヨーロッパに滞在しているときでした。JEPLANがやっているビジネスを表すのにぴったりな言葉だと思ったのが最初の印象です。
今ではサーキュラーエコノミーを生み出すこと自体が、JEPLANの活動のコアになっています。
サーキュラーエコノミー、つまり循環型経済圏を普及させるためには、より多くの企業や人々が関わらないと成立しません。JEPLANで洋服を作って販売したり、不要になった洋服を回収したりしているのも、すべてサーキュラーエコノミーを普及させることに必要な活動だと考えて行っています。
2024.2.27
取材協力:株式会社JEPLAN様
https://www.jeplan.co.jp/