当メディア「起業家コラム」でおなじみの北海道美瑛町在住のライター、原直子さん。トマトの残渣を活用した土に還る食器を開発、販売までをするサーキュラーエコノミー起業家です。その原さんが新たに食品分野に挑戦、開発したのがトマト加工時の未利用部分を使ったトマトの無水カレー「やさしさ仕込みの水なしトマトチキンカレー」です。このカレーが、地元から火がつき、4月に発売してわずか4ヶ月で3000個近く売れる大ヒット商品になったのです。
サーキュラーエコノミーや食品ロスの問題意識を持っていても、それを商品化し、しかもヒットさせるというのは大変なことです。試行錯誤を繰り返しながらも、持ち前の行動力で前に進んでいく原さんに、開発秘話や今後のことなどについてインタビューしました。
「素材の良さ」に惚れ込んで
「やさしさ仕込みの水なしトマトチキンカレー」の原料になっているのは、美瑛町に近接する鷹栖町の名産トマトジュース「オオカミの桃」※で使用するトマト。ジュースを作る際に必ず出てしまう、ヘタ部分の未利用部位を使っています。この部分は作業工程の中で廃棄されてしまうもので、その量は年間数十トンにもなります。商品にならない部分であっても、朝採りした真っ赤な完熟トマトですから十分美味しいのです。
※トマトのラテン語の学名の和訳

原さんは原料のトマトについてこう語ります。
「最初はもったいないと思って使った原料でしたけど、やっぱりトマトそのものが素晴らしくて。原料の良さを日々実感しています。トマトの切り落としと向き合うっていうと大げさですけど、そんなふうに原料を見るようになりました。いい原料というのは、カレーに限らず、アイデア次第でこういうふうに価値として消費者から受け入れてもらえるんだなと感じています」
最初はカレーではなく、別の商品を考えていた原さんですが、美瑛町在住の料理人、鄭大羽(チョン・テウ)さんとの出会いでそれが大きく変わったと言います。
料理の専門家との出会いが転機に
「料理人のテウさんに出会ったことが大きいです。私は最初はカレーではなく、トマトソルトを作ろうと思っていました。でも、テウさんに却下されました。“そんなの使わない、売れないと思う”と」
やはり売れるのは、誰にとってもなじみのある商品。そこでカレーが候補に挙がり、方針転換します。
「カレーで行こうとなってからは、1年ぐらいかけて何度も試作して。難しかったのは、トマト味を出そうとすると、カレーじゃなくなってトマト煮込みみたいになっちゃうんです」
試作を繰り返すうち、その課題を乗り越え、しっかりとカレーの味になったそうです。
「食べた方からはハヤシライスとカレーの中間って言われます。いいとこどりというか。最初は甘みがきてその後、カレーのスパイシーさがほわっとくる。小さいお子さんも喜んで食べてくれて。友達は、“今まで食べたレトルトカレーの中一番美味しかった”と、リピートしてくれてます」

「工場探しの壁」を突破できた理由
味決めの次に待ち受けていたハードルは、加工の工場探し。最初、原さんは「そんなに売れるわけがない」と思っていたため、最小ロット200で受けてくれる工場を探しました。しかしなかなかうまくいきません。
「やっと探した小ロットで受けてくれる工場は、会社の規模が大きくなく衛生管理に不安があり、レシピ通りの味になかなかたどり着けない。またこちらが求めているスピード感との差もあり、そこでだいぶ時間を取られてしまいました」

そんなとき、道の駅の関係者から「うちで売れてるカレーだったら年間1000(個)はいくよ」という情報を得た原さん。思い切ってロットを上げ、1000単位で作ってくれる工場に当たろうと決めて、現在の提携工場との出会いがありました。
「その決断が良かったと思います。今の工場は衛生管理がしっかりしていて、ラベルの表示内容一つとっても何人もの目でチェックし、安心して任せられます。最初1000袋を作るっていうリスクは感じましたけど、本当に工場変えてよかったなって」
試行錯誤をしながらも、無事に商品化に成功。資金の面はどうだったのでしょうか。
「レシピ開発やパッケージのデザイン費などについては、美瑛町商工会のSDGs補助金を使わせてもらいました。この補助金は150万まで3分の2の補助率で、手出しが50万ほどでした。3分の2まで補助してくれるのはなかなかないので、とてもありがたかったです」

「あのトマトが原料なら間違いない」地元の声
そして誕生した「やさしさ仕込みの水なしトマトチキンカレー」。原料の良さ、料理人の専門知識、試作や工場探しの努力が商品力につながり、販売は好調。なんと、予想の10倍の売上げがあるとのこと。
買ってくれるのはどんな方なのでしょうか。
「やはり美瑛の道の駅でたくさん売れてます。美瑛は人気観光地なので、単純に訪れる観光客が多いというのが、その他の店舗とは違うところです。美瑛のお土産として買っていただけるのですが、売り方も道の駅のスタッフの方が ”旅行から帰った日の夕飯に!”というPOPをつけてくれて、それが効果的だと思っています」
手軽に作れるレトルトカレーの長所と、旅の思い出という二つを掛け合わせる道の駅の販売戦略が成功しているようです。
「それと、『JAたいせつ』(旭川市)の農産物直売所でもすごく売れていて、試食販売会をすると一日100から150ぐらい出ます。買ってくれるのは、地元のトマト生産者やその関係者などが多いように感じます。地元なので、みなさん『オオカミの桃』の品質の良さをよく知ってるんです。 ”あのカレー、トマトジュースの原料使ってるんだよね”というので買ってくださいます」

次は美瑛のトマトで
「やさしさ仕込みの水なしトマトチキンカレー」のヒットを踏まえて、今後はどのような展開をされるのでしょうか。
「このトマトの原料を使ったシリーズを考えています。テウさんにレシピ監修はおまかせして、瑞々しいトマトの水分を水代わりに使った、無水シリーズで作っていきます。ミートソースと、ラクサ(香辛料を効かせた東南アジア料理)を現在開発中です」
新商品も楽しみですが、鷹栖町だけでなく、美瑛のトマトは原料に使わないのでしょうか。
「もちろん、使いたいです。そもそもこの事業を始めたきっかけは、規格に収まらないからという理由で、美瑛で私が働いていた農場だけでも捨てられてる野菜がたくさんあるのを見てのことでした。しかし美瑛でそれをやるのには、現時点では一次加工の工場の問題など、超えなければならないハードルがあります。ひとつづつ課題をクリアして、美瑛のトマトの商品化につなげたいと思っています」
最後に食品ロス解決型商品を作るにあたっての原さんの考えを教えてくれました。
「残渣というマイナス部分から始まる原料なのですが、そこに料理人のレシピの美味しさを加えて、環境型商品ではなく、普通の商品として美味しい、というものを作るのが大前提だなと思ってます」
実際に食べてみました(食レポ)
北海道から帰って、早速「やさしさ仕込みの水なしトマトチキンカレー」を食べてみました。
たしかに最初にハヤシの味わいがあり、そのあとカレーになる、「ハヤシライスとカレーのいいとこどり」の味。
テクスチャーはさらさらしているのに、味が濃厚なのは、完熟トマトを使って、さらに昆布だしが入っているからでしょう。そして思ったより量がたっぷりあることと、何より「チキン」の存在感がありました。レトルトにありがちな、具の形がなくなっているのではなく、ごろっとした鶏肉がたくさん入っているので食べ応えがあります。後味もすっきりで、レトルトっぽい嫌な油の後味は全くありません。そのまま食べましたが、ゆで卵やゆで野菜などをトッピングしてみたいところです。
辛さは控えめなので、お子さんも喜ぶ味。まさに、「やさしさ仕込み」。原さんのトマト愛がそのまま現れているカレーでした。

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