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「土にかえす」まで責任を持つ

2024年1月。トマト茎葉を使った土にかえる容器を初めて使ったのは、美瑛町の冬のイベントでした。おしるこやピザなど、地元商工会や婦人会がふるまう手作り料理の器としてです。

会場に訪れた人からアンケートに協力してもらいましたが、「くたっとせずしっかりしている」「普段使う紙皿と違いがない」「SDGsの取り組みをどんどんやってほしい」など、おおむね好評でした。

さて、イベントで使用した土にかえる容器。“土にかえる”と謳いながら、イベントゴミとして回収し焼却してしまっては何の意味もありません。
2回目のコラムでも触れましたが、世の中には「土にかえる容器」がたくさんあります。しかし、それを実際に「土にかえす」使い方をしている容器はどれくらいあるのでしょうか。それらの商品との差別化を図り優位性を高めるためにも、使用済み容器を受け入れ、たい肥化してくれる事業所の確保が急務でした。

「土にかえす」まで責任を持った提案をしないと、本来考えていた循環は“絵に描いた餅”になってしまう。また、輸送にかかる余計なエネルギーをかけてしまうことも本末転倒。受け入れ事業所は、容器を使う場所と近いところで探さなければならないと考えていました。

これもご縁なのですが、容器ができてから営業で、美瑛町内で多角的な経営をしている牧場の社長と専務を訪問する機会が何度かありました。ジャージー牛や和牛を数多く飼育していて、牛ふんや牛舎の敷料をたい肥化し、近隣の畑作農家へ販売する“循環型”を実践している牧場です。

容器の販売営業から180度方針を変え、容器の受け入れ・たい肥化をお願いしたところ、社長と専務は二つ返事で了承してくれました。

後日、イベントで使いおしるこやピザの食べかすがついたままの容器200個余りを、この牧場に持ち込みました。
たい肥プラントに集められた牛ふんの中に、社長と専務と一緒に容器を投げ入れ、重機で混ぜてもらう。容器が本当に分解されるのかは、数か月待たないとわかりません。
祈るような気持ちで経過を見守りました。

偉大な微生物の力

牛ふんと混ぜた容器が本当に分解されるのかは、牧場の社長と専務に同伴してもらい、1か月に一度、状態を確認することにしました。

一度目の確認では容器の状態はほとんど変わっていませんでした。「ひょっとしたら分解されないのではないか」と、心拍数が上がりました。そんな私の心の動揺を察知したのかどうかわかりませんが、牧場の社長は容器の少しの変化を見つけて、「容器の端から分解が始まっている。全体的に少し柔らかくなっているし、きっと大丈夫。微生物の力を信じましょう」と、あたたかい言葉をかけてくれました。
容器と牛ふんを混ぜたのが1月。最も寒い時期で、発酵が進みにくい状況だったことも影響していたようです。

容器の状態が明らかに変わったのは、牛ふんと混ぜてからおよそ3か月半後。原型はほとんどなく、落ち葉のようになっていました。力を入れずとも手でちぎることができます。
5か月後には、重機でいくら掘り返しても容器のようなものは見当たりませんでした。

「本当に分解されたね」と驚きながら言われた専務の一言で、気持ちが楽になりました。
牛ふんの中で何が起きているのか想像しかできませんが、形のあったものが数か月後にはなくなってしまう。微生物ってすごいです!

多くの人の理解と協力あってこそ

東京から美瑛に移住して農業に携わり、作物残渣を知り、起業して。この3年間を振り返ると、目まぐるしく動きのある日常を過ごしていたことを改めて感じました。

コラムを読んでいただき、すべて自分で物事を進めてきたように捉えられたかもしれませんが、実にたくさんの人たちの応援と理解と協力があってこそ、トマト残渣のアップサイクルをここまで形にすることができています。

アップサイクル関連の記事や話題を見つけては「こんなこともできるみたいだよ」と情報を寄せてくれる友人、「力になってくれそうな人を紹介するよ」と異業種の関係者と繋いでくれる知人、そして忙しいなか残渣回収に協力してくれた生産者や美瑛町の関係者など、多くの方々の一言や行動などが積み重なって、今に至っています。

私一人ではここまで形にすることなど到底できるはずがなく、この場をお借りして、関わってくれ、関わり続けてくれている皆さんに感謝の気持ちを伝えます。本当にありがとうございます。

今は物珍しさも相まって関心を集めている部分が大きいですが、期待に応えるためにも、収益を出して事業として継続させなければならないと、強く感じています。

美瑛発サーキュラーエコノミーの実現に向けて

最近嬉しかったことは、美瑛町内の事業所から「手作りパン粉を作る過程で残ってしまうパンの耳を何かに活用できませんか?」という話を持ちかけられたことです。「もったいない」から、私の存在までたどり着いてくれたことに、喜びを感じました。
どんな活用の仕方があるかと考える時間がとても楽しいです。

移住して、地方は人口の減少、高齢化、経済の停滞などが顕著だと感じました。一方で、都市にはない秘められたポテンシャルを数多く持っているとも思います。

地方にいるからこそ気付くことや、できることがあり、地方にいても日本中、世界中の人と繋がることができます。人口9千ほどの北海道美瑛町から、今まで捨てられていたものを価値あるものとして生まれ変わらせ、地域経済を活性化させて、循環型社会、循環型経済を実現させたいです。