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北海道美瑛町で農作物のアップサイクルに取り組む株式会社AgReturn(アグリターン)の原直子です。

今回は、私の新たな挑戦として、トマトジュース製造時に出る未利用部分を活用した無水カレー『やさしさ仕込みの水なしトマトチキンカレー』を発売しました。

小さな一歩ですが、地域に眠る資源を活かし、循環させる取り組みです。
この挑戦に込めた思いと、形になるまでの道のりをご紹介します。

特産品のトマトジュースが抱えていた課題

北海道の中央部、旭川市の北側に隣接する鷹栖町(たかすちょう)。

この街の特産品のひとつが、トマトジュース「オオカミの桃」です。
ご当地トマトジュースの先駆けと言われ、40年近く製造が続けられています。完熟トマトの最も熟した部分を惜しげもなく使った濃厚なトマトジュースで、全国各地に根強いファンが多く、年間20万本以上が販売されています。

おいしさへのこだわりから、製造過程では、トマトの上部3分の1程度のヘタの周りの果肉部分が切り落とされます。この量は、年間で十数トンにおよび、産業廃棄物として100万円近い処理費用がかかっていました。

しかし、私たちが見たのは「廃棄物」ではなく、まだ豊かな旨味と栄養をたたえた地域資源でした。

全国に根強いファンが多い濃厚トマトジュース「オオカミの桃」

AgReturnのこれまでの挑戦と課題

AgReturnではこれまでも、農業残渣や未利用資源の可能性を探ってきました。
たとえば、トマトの茎や葉を原料の一部に使った「土に還るカトラリー5点セット」や、トマト葉を漉き込んだ名刺の開発・販売など。環境に配慮し、ストーリー性のある商品を生み出してきました。

しかし、それらは単価が高く、また生活必需品ではないこともあり、限られた層への販売にとどまり、継続的な収益化という点では大きな壁がありました。
「廃棄される可食部を活用し、誰もが手に取れる食品として商品化できないか」——それが、次なる課題であり希望でもありました。

トマト茎葉を原料の一部に使った「土に還るカトラリー5点セット」
トマトの葉をすきこんだ名刺サイズの和紙

レシピ開発と、地域のつながり

今回のカレーづくりでは、無水調理という調理法を選びました。
一切の水を使わないことで、トマトそのものの水分が活かされます。そこに鶏肉、昆布だしを加え、じっくり煮込んでやさしい味わいを目指しました。

レシピ開発には、美瑛町の地域おこし協力隊であり、料理人でもある鄭大羽(チョン・テウ)さんが参加。食材と向き合い続けてきたプロの知見を活かし、家庭でも子どもでも安心して食べられる味に仕上がりました。

JAたいせつの職員の皆さんと試食を重ねた

「3つのこだわり」で伝える商品価値

このトマトカレーには、3つのこだわりがあります。

1. 水を一滴も加えない「無水製法」
水は加えず、トマトをはじめとした原材料の水分のみで煮込み、素材本来の旨味とコクが凝縮。やさしい仕上がりに。

2. これまで廃棄されていた可食部を活用
トマトジュース製造時に切り落とされてきた可食部を再利用。年間約100万円を要していた廃棄コストを価値ある商品に変えました。

3. 外箱なし、省資源パッケージ
紙箱を省き、直接パウチにラベルを貼付。必要最小限の資材で環境負荷を抑え、ごみの削減にも配慮しました。

パッケージデザインは旭川市在住のグラフィックデザイナー ゆきのみおかさんに依頼。“北海道の森の奥で動物が食材を無駄なくおいしく食べている”イメージで世界観を作り上げてもらいました。

「やさしさ仕込みの水なしトマトチキンカレー」
パッケージデザイン

「カレーは暮らしに入りやすい再生食品」

これまでAgReturnが手がけてきたカトラリーや名刺は、環境意識の高い人にしか届きませんでした。しかし、カレーは“生活の中に入り込める再生品”。主食に近い存在で、価格的にも手が届く。サーキュラーエコノミーの入口として、とてもいい素材だと気づきました。

なお、今回のトマトカレーは、AgReturnが展開するブランド「YAORABA(やおらば)」の新商品です。YAORABAは、「野菜がうまれかわる場所」をコンセプトに、廃棄されるはずだった野菜や農業副産物を再び価値あるものへと再生するシリーズ。名前には、「八百万(やおよろず)の神」と「まほろば(やさしい場所)」を重ね合わせ、命ある素材への敬意と、やさしさの循環を込めています。

廃棄野菜のアップサイクルブランド「YAORABA やおらば」ロゴ

製品は今後、JAたいせつ直売所や道内の道の駅をはじめ、全国の小売店などでも販売予定。価値ある商品の“背景”まで丁寧に伝えていく構えです。

未来の展望——「食べられる資源」を無駄にしない地域づくりへ

このプロジェクトは、私たちにとって大きな一歩となりました。
けれど本当の挑戦は、ここからです。

今後は、規格外野菜、未利用部分、副産物などを使った商品開発にも着手し、持続可能な仕組みとして地域に定着させていきます。

AgReturnは「もったいない」と思う気持ちを、循環の原動力にしたいと考えています。
特別な取り組みではなく、日常の中で選ぶことで、自然と誰かの役に立つ。
そんな未来を信じて、これからも商品を届けていきます。

ぜひ一度、味わっていただけたらうれしいです。

「やさしさ仕込みの水なしトマトチキンカレー」は、AgReturnのECサイトで購入できます。https://agreturn.shop-pro.jp/