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今回から、編集部解説シリーズとして、通常の記事とは違う視点での解説記事をお届けいたします。シリーズ記事の第一弾として、高市政権におけるエネルギー政策について、持続可能なサーキュラーエコノミーの視点から見ていきたいと思います。

2025年11月4日、高市新政権の「日本成長戦略本部」では、17の重要戦略分野に官民連携で重点投資する方針が発表されました。「強い経済」を実現するための「成長投資」として、資源・エネルギー安全保障・GX、マテリアル(重要鉱物・部素材)、フードテックなどを重要戦略分野として掲げています。また11月6日の参院代表質問においては、高市首相は南鳥島周辺海域でのレアアース開発について「日米間の具体的な協力の進め方を検討する」と述べました。

今回は、エネルギー、レアアース、フードテックの3つについての詳細をお送りします。

資源・エネルギー安全保障・GX

「資源・エネルギー安全保障・GX」この分野は、サーキュラーエコノミーの文脈におけるエネルギー面の持続可能性と資源の循環利用に最も直接的に関連する中核的な戦略です。エネルギー安全保障においては、地政学的リスクに左右されないエネルギー自給体制の再構築が柱となります。

GX (グリーントランスフォーメーション)として、脱炭素(カーボンニュートラル)を成長の機会と捉え、投資を促進。これはサーキュラーエコノミーの重要な構成要素である「脱炭素化」に貢献します。そして資源の安定確保は、レアアースなどの重要鉱物について、中国等への依存度を下げ、調達リスクを回避することが目的です。これは、国内での資源開発(例:南鳥島レアアース)に加え、製品からのリサイクルや代替素材の開発(マテリアル分野と連携)といった「循環」の強化を内包します。

高市首相は、大規模な森林伐採を伴うメガソーラーや巨大風力発電といった自然環境を破壊する形の再生可能エネルギー事業に対しては、以前から強い懸念を示し、規制の必要性を訴えています。大規模な集中型発電よりも、災害に強く、地域経済に貢献する分散型の再エネを重視します。

地熱発電、小水力発電、バイオマス発電など、地域の資源を活用し、環境負荷が比較的小さい再エネ開発を支援する方針です。分散電源の導入を支えるため、送配電網のデジタル化と強靭化に重点的に投資し、電力の安定供給能力を向上させます。これは、地域の環境・生態系保全とエネルギー供給の安定性を両立させる、より持続可能性を意識したアプローチと言えるでしょう。

マテリアル(重要鉱物・素部材)戦略

「マテリアル(重要鉱物・部素材)」戦略は、経済安全保障の観点から、国民生活と産業に不可欠な物資の安定供給を目的としています。

代替素材の開発も重要視されており、化石燃料由来の素材を代替する木質系新素材などの研究開発を支援します。グローバルな供給網における日本の技術的・資源的な優位性を確立することを目標としています。

その戦略的位置付けは、サプライチェーンの強靭化にあり、感染症や地政学リスクなどの不測の事態においても、レアアースなどの重要鉱物や、半導体・蓄電池といった戦略的な部素材の供給が滞らない体制を構築します。具体的な取り組みとして、特定の国への依存度を下げるための供給源の多角化、国内生産基盤への官民連携投資、および同盟国との連携強化を推進します。経済産業省では、重要鉱物に係る安定供給確保を図るための取組方針を示し、官民一体となった投資・開発体制により集中的な国家支援を行うことで、自律的な経済構造の確立を目指しています。

日米協力による南鳥島レアアース開発

太平洋上に位置する日本最東端「南鳥島」周辺の日本の排他的経済水域(EEZ)の深海底には、1,600万トン超のレアアース泥が埋蔵されていると推計されています。これは世界の消費量の数百年分に相当する量と言われ、開発に成功すれば日本は世界有数の供給国となる可能性を秘めています。

東京都心から南東約1,950㎞に位置する南鳥島

2025年11月6日の参院本会議における代表質問で、高市首相は南鳥島周辺海域でのレアアース開発について「日米間の具体的な協力の進め方を検討する」と表明しました。これに先立つ10月28日には、トランプ米大統領との会談で重要鉱物やレアアースの安定調達に向けた協力に関する文書に署名しており、首相は「レアアースの多様な調達手段を確保することは、日米双方にとって重要だ」と強調しています。

今後は閣僚級協議を通じて、採掘、製錬、加工など日米で資金を投入する具体的なプロジェクトを選定する方針です。さらなる調査やレアアース採取方法の研究開発促進とともに、2026年1月には水深6,000メートルからレアアース泥を引き上げるための技術的な実証試験が予定されています。中国がレアアースの輸出規制を強化する動きがある中、中国に依存しないサプライチェーン構築は日米共通の喫緊の課題となっています。南鳥島での日米協力は、中国に対抗する上でも戦略的な意味合いを持ちます。

食料安全保障と環境保全を両立するフードテック投資

17の重点投資分野において、農林水産省管轄となる「フードテック」戦略は、単なる食品業界のデジタル化に留まらず、日本の喫緊の課題である食料安全保障と環境保全の抜本的な解決を目指す社会インフラの変革と捉えられています。背景にある日本の食料自給率の低さや、世界的な人口増加・気候変動による供給リスクに対応するため、国内の食料供給能力を強化することが求められます。また、農業や畜産業が環境に与える負荷を低減し、持続可能な食料供給システムへの移行を促す必要があります。

特に資源循環の観点からは、AIやIoTを活用した高度な在庫管理や需要予測システムの導入、トレーサビリティの向上、フードシェアリング、アップサイクル食品など、製造・流通・小売の各段階での食品ロス削減を支援。食品残渣を堆肥化・飼料化する技術やアップサイクルの推進により、サーキュラーエコノミーを強化します。

まとめ

高市政権における「持続可能なサーキュラーエコノミー」戦略は、単なるリサイクル推進ではなく、経済安全保障、産業競争力、環境保全、地方創生を同時達成する複合的アプローチとして位置づけられています。技術的主権確立、脱炭素、資源効率最大化といった要素が有機的に結びつき、国家強靭化という政権基本方針と合致しています。

南鳥島レアアース開発の成功は、日本のエネルギー安全保障を大きく前進させるだけでなく、グローバルサプライチェーンにおける日本の地位向上にもつながるでしょう。高度な循環型社会の実現は、資源小国日本の新たな成長モデルとなる可能性を秘めています。経済安全保障とサーキュラーエコノミーの融合は、国際情勢の不確実性が高まる中で、日本の新たな国家戦略の方向性を示すものと言えるでしょう。

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