記事を読む

漁業者が処理に苦しんでいた廃漁網を素材ブランド「amuca®︎」に再生しているamu株式会社が初のオリジナルコレクションとなる「Buddy Collection」を発表しました。2025年9月29日まで応援購入サービス「Makuake」でのクラウドファンディング「大海原を旅した漁網があなたの相棒に。廃漁網を再生したコレクションを、気仙沼から。」による限定販売を実施中です。

気仙沼で「地域の文化や風習をベースに世界に挑戦できる事業を」と試行錯誤した後、廃漁網に「魚を追って世界を旅した漁師さんのストーリー」という付加価値を見出して起業。2年掛かりで素材ブランド「amuca®」の生地を完成させた彼らは、その素材をどうプロダクトに落とし込んだのか。環境問題への関心もアパレル業の経験もなかった若き挑戦者たちの物語の後篇です。今回も東京拠点のあるインキュベーション施設で新商品発表会に臨んだ代表取締役CEOの加藤広大氏を中心にお話しを伺いました。

海の相棒を次の誰かの相棒へ

—廃漁網を素材ブランド「amuca®」に再生させたamu株式会社が自社素材を使ったファッションアイテムの開発に取り組んだ理由を教えて下さい。

私たちは素材のブランドとして、様々な企業やパートナーとの協業で、より多くの方に「amuca®」を届けていきたいと思っています。ただまったく新しい素材なので、どういう風に使えばいいのか、どういうものが作れるのかをプレゼンテーションする必要があった。だからこそ「amuca®」の特性を誰よりも知っている私たちの手でプロダクトを生み出すことで「amuca®」という新しい素材を世の中に伝えようという挑戦が、この「Buddy Collection」なんです。

加藤氏(後列左)がメンバーや協力会社の方々とともに臨んだ新商品発表会

—「Buddy Collection」というネーミングにはどんな思いが込められているのですか?

漁業において、漁具は漁師さんたちが苦楽を共にした「海の相棒」です。私たちは捨てられる漁具にこうしたストーリーという付加価値を見出している。だからこそ漁師さんの海の相棒だった漁具が、次の誰かの相棒になって欲しい。それを使う人の新たなストーリーを紡ぐものになって欲しい。そんな思いで廃漁網を再生したアイテムを「Buddy Collection」と名付けました。

—ラインナップにはどのようなものがあるのでしょうか?

Tシャツ、トートバッグ、サコッシュ、キャップ、お守り、サングラス、カラビナの7アイテムです。「環境に良いから」ではなく「かっこいいから欲しい」と思って貰えるプロダクトを目指して開発しました。

デザインだけでなく着心地にもこだわったTシャツ

気仙沼の文化を伝えるオリジナルテキスタイル

—デザインにおいて、特にこだわった部分はなんですか?

漁師町である気仙沼の文化を映し出した2つのテキスタイルデザインです。

ひとつめのデザインは気仙沼の「出船おくり」という文化がモチーフになっています。遠洋マグロ延縄漁法は、20人ほどの漁師さんが約1年間航海をしながらマグロを追いかける漁法なんですが、1回出航すると約1年間帰ってこない。気仙沼では航海に出る漁師さんたちを町の人々が安全と大漁を願って、色鮮やかな紙テープを船につけて盛大に「いってらっしゃい」と送り出す。それが「出船おくり」です。

色鮮やかなテープが青空を染める出船おくり

その美しい光景からインスピレーションを受けて生まれたのが、水色の背景に色とりどりの線が交差する「DEFUNEOKURI」のデザインです。このデザインを装飾したコレクションが「出船おくり」のように、手にする方の挑戦に寄り添い、何かにチャレンジするきっかけになればという思いを込めてデザインを作りました。

DEFUNEOKURI

もうひとつのデザインは、気仙沼の「室根下ろし」をモチーフにしました。気仙沼は高級食材であるフカヒレの生産量が日本一です。そのフカヒレを作る工程で、サメのヒレを乾かす際に利用されるのが岩手県の室根山から吹き下ろす「室根おろし」です。室根山の岩手側で湿気がすべて吸収されてカラッとした冷たくて強い風です。漁師さんたちは江戸時代からこの「室根おろし」を利用してサメのヒレを天日干ししてきました。

室根おろしにさらされて天日干しされるフカヒレは気仙沼の風物詩

そんな気仙沼のカルチャーに着想を得て、生まれたのが「MURONEOROSHI」というテキスタイルデザインです。冷たくて強い風という過酷な環境を味方につけて、力強く生きている気仙沼の人々のパワーがアイテムを手にする人の力になればという思いを込めました。

MURONEOROSHI

漁師の声から生まれたアイテム群

— アイテムはどのように開発されたんですか?

何をどんな風に作るかも含めて、素材となる漁具を使っていた気仙沼の漁師さんたちの声を取り入れながら開発しました。

たとえば、漁師さんは漁を終えて街に飲みに出かけるとき、ポケットにスマホと財布を入れて出かけるのではなく、ミニバッグにスマホと財布を入れて出掛けている。その姿を見て、漁師さんたちにも使っていただけるアイテムをとサコッシュを開発しました。

商品開発は気仙沼の漁師さんとともに行われた

「潮で錆びて開け閉めができなくなるから鉄はやめてくれ」という漁師さんの声を聞いて、ファスナーには錆びにくいプラスチック素材を使っています。

サコッシュ

キャップはゴムでフィットするようにして、風の強い港や船上でも飛ばされにくい仕様にするなど、実用性にもこだわっています。

キャップ

カラビナは漁師さんだけでなく、釣り人の仲間も増やしたいという思いも込めて「Fish Hook」という釣り具のブランドとのコラボレーションで開発しました。廃漁網だけでなく、釣り人の手を離れて流される漁具もゴーストギアとして海の生態系に影響を与えている。そのことを広く知って頂くという意味でも、釣り人から回収した釣り糸と対馬の海に漂着した海洋プラスチックごみを混ぜてカラビナにしました。サコッシュやトートバッグにつけて使っていただければと思います。

トートバッグとカラビナ

—プロダクトに対する漁師さんたちの反応はいかがですか?

鯖江市の内田プラスチックさんとの協業で廃漁具を再生したサングラスを漁師さんに持っていったときは、とても喜んでもらえました。一度はゴミとして処分した漁具がサングラスとして生まれ変わっている。しかもデザインもかっこいい。漁師さんたちが船の上でかけられるようにという思いも込めて作ったものだったので喜んで頂けて感無量でした。

 鯖江市のウチダプラスチックとの協業によるサングラス

年間10トンに及ぶ地元の廃漁網から生み出されたこれらのアイテムを地元の漁業関係者はどう見ているのか。一般社団法人 宮城県北部鰹鮪漁業組合 専務理事の菅原和昭さんに伺いました。

—amu株式会社の取り組みにどんな思いがありますか?

持続可能な漁業を目指していく上で漁網の廃棄コストと手間は大きな課題でした。amu株式会社の取り組みによってコストと手間から解放されただけでなく、気仙沼の漁師たちが使っていた商売道具がオシャレなファッションアイテムに生まれ変わったことが、地元の若い人たちが漁師になろうと思うきっかけにもなってくれればという希望を持っています。

菅原さんは創業当初からamuの事業を応援してきたキーマンのひとりだ

「いらないものはない世界」を目指して広い海へ

漁師の相棒として大海原を旅し、一度は役目を終えた漁具が、次の誰かの相棒として生まれ変わる。そんな好循環を広げる取り組みが、海の未来を守るだけでなく、地域の未来を創る希望となっていく。「Buddy Collection」とともに母港である気仙沼を出港したamu株式会社の次なる目的地はどこなのか? 最後にSales Managerの遠山愛実氏に伺いました。

— 今後の展望をお聞かせください。

「Buddy Collection」のクラウドファンディングを通じて、私たちの活動を応援してくれる仲間を増やしていきたいと思っています。

その上で、色々なブランド様、メーカー様との協業によるプロダクトの開発に取り組んでいきます。「amuca®︎」のファーストロットだけでもまだまだたくさんの商品が作れますし、回収できる漁網も全国にたくさんあります。

遠山氏は新商品発表会に着用モデルとしても登壇

でも、私たちは廃漁網をリサイクルしてプロダクトを作るだけの会社ではありません。

私たちには「いらないものはない世界をつくる」というビジョンがあります。無価値とされているものを価値あるものにひっくり返していく。その「ひっくり返す」という考え方の根底には、創業者である加藤の経験から生まれた「人の可能性を信じ、諦めずに挑戦する姿勢」があります。できないことを前提にするのではなく、どうやったらできるかを考えていくことがわたしたちのカルチャーなんです。

今後は漁業だけでなく、あらゆる現場で「いらない」とされるものの価値をひっくり返すことに挑戦していきたいと考えています。誰かにとっての厄介者が誰かの誇りへと生まれ変わる。そんな価値の転換を、これからも地域と、社会と、そして応援して下さる皆さまとともに進めていきたいと思っています。

応援購入サービス「Makuake」でのクラウドファンディング「大海原を旅した漁網があなたの相棒に。廃漁網を再生したコレクションを、気仙沼から。」は8月8日現在、すでに目標金額の半分となる500万円を突破。限定販売の為、残り少なくなっている商品もあります。

「いらないものはない世界をつくる」という大漁旗をはためかせ、母港である気仙沼を出港したamu株式会社の初航海は2025年9月29日まで続きます。