「第4回サーキュラー・エコノミーEXPO」が2025年2月19日(水)~21日(金)東京ビッグサイトにて開催されました。(主催:RX Japan株式会社)
その中から「気候変動のインパクトと我が国のGX政策」をテーマとした特別講演についてお届けいたします。元IEA事務局長の田中伸男氏は世界各国のエネルギー戦略を分析、日本の次世代原子炉と水素エネルギーの可能性を強調。経済産業省の伊藤禎則氏は、日本のGX政策と再生可能エネルギーの未来像を示しました。
パネリスト
・CEF運営委員会議長/タナカグローバル(株)CEO/元国際エネルギー機関IEA事務局長 田中 伸男氏
・経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部長 伊藤 禎則氏

現在のエネルギー情勢における勝者と敗者
(元IEA事務局長 田中伸男氏のオープニングスピーチより)
世界のエネルギー情勢を「勝者と敗者」という観点から分析すると、ロシアはウクライナ侵攻により技術が入らず、ヨーロッパへのガス輸出も激減、人材も流出していることによりおそらく「敗者」と見ています。一方で、アメリカはトランプ大統領による「ドリル、ベイビー、ドリル」の掛け声のもと、化石燃料戦略を推し進めながら再生可能エネルギーにも注力し「勝者」と位置付けています。ヨーロッパは「リパワーEU」計画による脱ロシア、脱炭素がうまくいけば勝者になれるでしょう。
中国とインドについては、徹底的に再生可能エネルギーを使うことでスーパーパワーになろうとしています。特に中国は世界の平均値より遥かに高いところへ徹底的に電化を進めており、ひとつのカギは電気自動車です。中国の驚異的な電化戦略は地球環境のためというよりも、自国の安全保障のためであり、中東の石油もロシアのガスもアメリカのガスも不要になることを実現することが安全保障につながるという考えです。

日本については、石油とガスの輸入依存度が100%近いという現状です。IEAでは「産業政策がグリーンになっていく」と示しており、産業においてはグリーンなエネルギーがあるところに集中して動いていく時代になります。半導体では、九州と北海道ですが、これはソーラーや風力があるからこそです。日本のグリーン戦略はどこと一緒に取り組むべきなのか。アメリカはもちろんですが、ヨーロッパ、中国、インドなど、非化石燃料アライアンスにチャンスがあるのではないでしょうか。
日本の切り札「水素エネルギー」と次世代原子炉
日本の勝機として水素エネルギーのサプライチェーン構築に注目しています。50年かけて液化天然ガスのサプライチェーンを作り上げた日本と韓国。これからは水素のサプライチェーンができるかが戦略的に重要です。水素、アンモニア、液化水素など、様々な形態での輸送方法を検討する必要性があります。
持続可能な次世代原子炉については「小型モジュール炉(SMR)が自家発電としてデータセンターやAIに大量に使われる時代が来る」と予測しています。
脱炭素と経済成長の両立を目指すGX戦略
(経済産業省 伊藤 禎則氏の講演より)
日本のGX(グリーントランスフォーメーション)戦略についてですが、まずGXの定義は、地政学リスクの中で「脱炭素」「経済成長」「エネルギー安全保障」の3つを同時に追求するコンセプトとしています。このGXビジョンを実現するため、政府は今後10年で150兆円規模の官民投資を喚起するために20兆円規模の支援を行うプログラムを始めています。環境価値、脱炭素をどのように可視化していくのか、日本の成長志向型カーボンプライシング構想として制度設計を行っているところです。
水素については、世界各国で水素、アンモニア、次世代エネルギーへの注目が集まっています。「水素社会推進法」では、低炭素水素と既存の燃料との「価格差に着目した支援」を重視しており、既に公募も始まっています。水素インフラ整備や拠点整備をはじめとする次世代燃料への取り組み、4番バッターとしての再生可能エネルギーの新たな段階を「フェーズ2」と捉えています。キーワードは「責任と規律」であり、地域との共生が大変重要です。再生可能エネルギー特別措置法の改正を行い、事業基準を強化し、地域と調和した開発を進めています。

経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部長 伊藤 禎則氏
再生可能エネルギー「フェーズ2」の課題として、これまでメガソーラーが牽引する形で進んできましたが、日本の国土で適地が限られている中で、もう一段階のイノベーションが求められます。特に注目すべき技術として「ペロブスカイト太陽電池」は薄く軽く、壁面や曲面にも貼り付けられる次世代太陽電池です。ビルの壁面や公共施設の屋根など、需要拡大に期待しています。
風力発電の切り札としては洋上風力も重要です。EEZにおける広範囲な領域での洋上風力発電の開発と法案整備、着床式に適した遠浅の海が少ない日本においては造船技術などアドバンテージを持っている分野を活かし、浮体式の洋上風力発電を官民一体となって強化していきたい考えです。
「投資」が鍵を握る令和の時代のサンシャイン計画
現在の状況を50年前のオイルショック時と重ね合わせてみると「令和の時代のサンシャイン計画、つまり令和の時代の日本のエネルギー政策はいかにあるべきか」が問われており、そのひとつの答えとして「投資」が挙げられます。「第7次エネルギー基本計画」では、AI、半導体、データセンター等のデジタル化に伴い、電力需要、エネルギー需要が増えると想定しています。この中で、原子力も再生可能エネルギーも総動員し、脱炭素電源を開発していく。そして日本の経済成長をどう繋げていくかが課題です。
今年4月から開催される大阪・関西万博では日本の新しいエネルギー技術、ペロブスカイト太陽電池や水素アンモニア、水素燃料電池船など、様々なエネルギー環境技術を世界に発信していきたいと思います。