「第4回サーキュラー・エコノミーEXPO」が2025年2月19日(水)~21日(金)東京ビッグサイトにて開催されました。(主催:RX Japan株式会社)
その中から、今回はバイオマスの活用推進に向けた最新の取り組みと展望を共有する「バイオマスEXPO 2025」での基調講演をレポートします。本講演では、農林水産省 大臣官房 環境バイオマス政策課 再生可能エネルギー室長の栗田徹氏による基調講演と、フロー(株)代表取締役の須藤貴宣氏による講演が行われ、バイオマス活用の現状と課題、そして未来への展望が示されました。
パネリスト
・農林水産省大臣官房 環境バイオマス政策課 再生可能エネルギー室 室長 栗田 徹氏
・フロー(株)代表取締役須藤 貴宣氏
バイオマス関連施策の経緯と現状
講演の冒頭では農林水産省大臣官房 環境バイオマス政策課 栗田 徹氏よりバイオマス関連施策の経緯について紹介され、2002年のバイオマス・ニッポン総合戦略の策定から始まり、2009年のバイオマス活用推進基本法の制定、そして2022年のバイオマス活用推進基本計画(第3次)の閣議決定に至るまでの流れが解説されました。

(農林水産省大臣官房 環境バイオマス政策課 栗田 徹氏氏の講演より)
バイオマスは、CO2を増加させない『カーボンニュートラル』という特性を持っています。これを製品やエネルギーとして活用することは、農山漁村の活性化や地球温暖化の防止、循環型社会の形成といった我が国の抱える課題の解決に寄与するものであり、その活用の推進を加速化することが強く求められています。
特に注目されているのが、食品廃棄物の利用率向上です。現在、食品廃棄物の利用率は約60%ですが、2030年までに85%まで引き上げることを目標としています。これは決して簡単な目標ではありませんが、食品リサイクル法の改正や、バイオガス発電の普及促進などを通じて、着実に実現していきたいと考えています。
しかし、バイオマス活用にはまだ多くの課題があります。多くのバイオマスは地域に『広く薄く』存在しているため、効率的な収集・運搬システムの確立が不可欠です。また、バイオマス製品の販路確保や、製造・利用技術のさらなる低コスト化も重要な課題です。
農林水産省としても、バイオマス施設整備への支援を強化していく方針で、バイオマス産業都市構想の実現に向けて、施設整備に対する補助金や融資制度の拡充を進めています。
バイオマス産業都市の取り組みと成功要因
農林水産省は、バイオマス産業を軸としたまちづくり・むらづくりを推進するため、「バイオマス産業都市」の取り組みを進めており、成功事例として北海道十勝地域の取り組みが挙げられます。
十勝地域では、乳牛ふん尿や食品残渣を原料としたバイオガスプラントの導入が進んでいます。特筆すべきは、バイオガス発電で得られた電力を地域内で活用する『地産地消』の仕組みが確立されていることです。これにより、エネルギーの自給率向上と同時に、地域経済の活性化にも貢献しています。

成功の鍵は、地域の特性に合わせた適切な規模のシステム構築と、多様な関係者の連携です。しかし、初期投資の高さや、運営ノウハウの不足が障壁となっているケースも少なくありません。
こうした課題に対応するため、農林水産省では様々な支援策を講じており、メタン発酵によるバイオガス製造施設や、木質バイオマスの熱利用施設などを対象として、バイオマス製品の製造・利用施設の整備などを支援しています。さらに、バイオマスを高付加価値化する技術や、効率的な収集・運搬システムの開発など、産学官連携による研究開発を積極的に支援しています。
バイオマス活用は、環境保全、エネルギー自給、地域活性化という複数の課題を同時に解決できる可能性を秘めています。関係者の皆様と連携しながら、バイオマス活用の推進に全力で取り組んでいきます。
酪農家のふん尿処理に関する課題
(フロー(株)代表取締役須藤 貴宣氏の講演より)
日本の酪農家にとって、未発酵のふん尿のプラント処理が進まない大きな理由の一つが、現行の法制度にあります。具体的には、家畜排せつ物法の見直しが必要です。
現在の法律では、ふん尿を90日間以上発酵させることが義務付けられています。しかし、これはメタン発酵プラントの普及を阻害する要因となっています。一方私が視察で訪れたドイツでは、未発酵のふん尿をそのままプラントに投入できるため、効率的な処理が可能です。
ドイツでは、バイオガスプラントの設置に対する手厚い補助金制度や、発電した電力の固定価格買取制度が整備されており、酪農家がプラントを導入するメリットが大きいと感じます。日本でも法律を見直し、未発酵のふん尿を直接プラントで処理できるようにすれば、バイオガス発電の普及が大きく進むはずです。
ドイツ マウエンハイム村の事例から見る地域活性化
私はドイツのマウエンハイム村を訪れ、メタン発酵が地域経済の活性化とエネルギー自立に貢献する可能性を感じました。
マウエンハイム村では、バイオガスプラントで発電した電力を村内で消費し、余剰電力は売電しています。さらに、発酵後の液肥を農地に還元することで、化学肥料の使用量を大幅に削減しています。この取り組みにより、村の経済が活性化し、若者の人口流出も止まりました。
日本の農村でも、このような取り組みは十分に可能です。バイオマス活用は、単なる廃棄物処理やエネルギー生産にとどまらず、地域の自立と活性化をもたらす大きな可能性を秘めているのです。
データ活用によるプラント運営の効率化

我々ばバイオマスプラントの運営をしておりますが、プラントの安定稼働と収益化のためには、データの活用が重要だと感じています。発酵槽の温度やガス量のリアルタイムモニタリングと、AIによる予測管理を組み合わせることで、プラントの安定運転と発電効率の向上を実現しています。
実際に、データ活用を始めてからガス発生量が約15%増加し、発電量も10%以上向上しました。これは、年間数千万円の収益増加につながる重要な改善です。
バイオマス活用は、環境問題、エネルギー問題、そして地域の課題を同時に解決できる『魔法の杖』です。私たちは、この可能性を最大限に引き出すべく、技術開発と普及に全力を尽くしていきたいと思います。
本セミナーを通じて、バイオマス活用が持続可能な社会の実現と地域活性化に果たす重要な役割が改めて浮き彫りとなりました。今後、政府の支援策と民間企業の技術革新が相まって、バイオマス産業の発展への期待を感じることができました。