「第4回サーキュラー・エコノミーEXPO」が2025年2月19日(水)~21日(金)東京ビッグサイトにて開催されました。(主催:RX Japan株式会社)
その中から、今回は、今年1月に日本法人を設立したCircularise社が主催したセミナーについてレポートします。循環型経済の実現に向けて、グローバル企業がどのような取り組みを行っているののでしょうか。エレン・マッカーサー財団のJoe Murphy氏、デロイト トーマツ コンサルティングの高木隆氏、リコーの遊佐明則らが登壇し、欧州企業の成功事例や、日本企業の課題、そしてデータ共有の重要性について議論が交わされました。特に、法規制対応だけでなく、いかにビジネスバリューを創出するかという点に注目が集まりました。
パネリスト
・エレンマッカーサー財団 Executive Network Lead Joe Murphy氏
・株式会社リコー リコーサステナビリティ研究所 遊佐明則氏
・デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 高木 隆氏
・Circularise 創設者 Jordi Robert de Vos氏
・Circularise Head of Sustainable Innovation Phil Brown氏(進行)
欧州企業の成功事例に学ぶ、循環型ビジネスモデルの可能性

(エレン・マッカーサー財団 Joe Murphy氏の講演より)
サーキュラーエコノミーという言葉が初めて市場に導入されてから、まだ13年しか経っていません。しかし、現在では企業の55%が何らかの形でサーキュラーエコノミーへのコミットメントを表明しています。アイデアを取り入れることは急速に進んでいますが、一方で世界的な資源採取量は増加し続けています。つまり、経済成長と資源消費の切り離しはまだ達成できていないのです。
現在の課題は「アイデアの採用」から「ソリューションの規模拡大」へとシフトしていると考えます。ソリューションの規模拡大に成功している企業事例として、オランダを拠点にヘルスケア、照明、家電などの製品を開発するPhilips(フィリップス)社と、同じくオランダにて定額制の自転車の乗り放題サービスを提供しているSwapfiets(スワップ・フィーツ)社が挙げられます。
Philips(フィリップス)社は、医療機器のサービス化モデルを導入しています。2025年までに売上の25%をこのモデルで達成することを目標としています。彼らは医療機器を販売するのではなく、スキャン1回あたりの料金を請求するモデルを導入しました。これにより、病院の収入構造と機器の利用コストが連動し、無駄な支出を削減できるようになりました。
また、Swapfiets(スワップ・フィーツ)社は、アムステルダムを中心に自転車のサブスクリプションモデルを展開しています。特にアムステルダムでは非常に成功を収めており、2021年の1,200万ユーロから2022年には6,000万ユーロに売上を伸ばし、月間60,000人の定期ユーザーを獲得しています。これは、所有よりも利用を重視する消費者ニーズにマッチしたビジネスモデルと言えるでしょう。
これらの事例は、需要側と消費者に焦点を当てたものです。サーキュラーエコノミーの実現には、ビジネスモデルの革新と同時に、適切な政策条件が不可欠です。この両者がうまく噛み合わないと、ソリューションの規模拡大は難しいのです。
ビジネスバリュー創出の重要性

(デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 高木 隆氏の講演より)
サーキュラーエコノミーの実現には、法規制の整備だけでなく、ビジネスバリューの創出が不可欠です。サーキュラーエコノミーの考え方は素晴らしいのですが、正直言って、規制だけでは持続可能ではありません。最も価値があるのは、規制があるからやらなければならないというのではなく、ビジネスとしての価値を見出すことです。
例えば、日本の自動車業界では、バッテリーパスポートの導入に向けた取り組みが進んでいます。これは単に規制対応だけでなく、業界全体にどのようにバリューを生み出すかという観点から検討されています。例えば、バッテリーの製造時のCO2排出量や使用されている材料、リサイクル可能性などの情報を共有することで、より効率的な資源利用やコスト削減につながる可能性があります。
リコー「コメットサークル」から見るサーキュラーエコノミーの未来

(株式会社リコー リコーサステナビリティ研究所 遊佐明則氏の講演より)
リコー株式会社1994年に「コメットサークル」という概念を制定し、サーキュラーエコノミーの取り組みを行なっています。コメットサークルは、製品のライフサイクル全体で環境負荷を把握し、削減していくという考え方です。単に製造時の環境負荷を減らすだけでなく、原材料の調達から使用、回収、リサイクルまでの全過程を考慮しています。

特に循環型ビジネスモデルの確立を重要視しており、リユースやリサイクルを目的化するのではなく、環境負荷の低減と収益の両立を図ることが重要だと考えています。
例えば、全国から回収されたMFPは、工場で分解、清掃、再度組立てされます。新製品と同等の品質を保証しながら、環境負荷を大幅に削減することができます。また、新製品の開発においても、使用するプラスチックの50%以上をリサイクル材料にするなど、サーキュラーエコノミーの理念を反映させています。単に物を売るという発想だけではなく、提供しているものが市場で最大限の価値を発揮するために何が貢献できるかを考えています。これが最終的な評価軸になります。
データ共有と透明性の実現に向けて
(デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 高木 隆氏の講演より)
また、サーキュラーエコノミーの実現には、サプライチェーン全体でのデータ共有と透明性の確保が不可欠です。分散型サーキュラーエコノミーとは、サプライチェーン全体でデータを共有しながら、各企業が自社のデータを管理できる仕組みです。従来のように1つの団体にすべてのデータを集中させるのではなく、分散型のシステムを採用することで、データの安全性と透明性を両立させることができます。
特にバッテリーパスポートは、EU規制への対応も視野に入れた重要なプロジェクトです。バッテリーのID、製造日、カーボンフットプリント、使用材料、リサイクル可能性など、多岐にわたる情報を管理し、共有することが求められています。
一方で、こうした分散型システムの導入における課題として、データの秘匿性や、競争上の懸念から、企業がデータ共有に消極的になる場合があります。しかし、分散型システムを採用することで、各企業が自社のデータをコントロールしながら、必要な情報のみを共有することが可能になります。これにより、サプライヤーも安心してデータを提供できるようになるのです。
情報の透明性と秘匿性の両立がカギとなる
Circularise社は、ブロックチェーン技術を活用したトレーサビリティシステムであるデジタルプロダクトパスポート(以下、DPP)や、マスバランス・アプローチにおける業務効率化・簡略化をサポートするシステムの販売を進めています。2月18日に日本法人「Circularise Japan株式会社」を設立し、日本市場でのサステナビリティ推進とサプライチェーンの透明性向上への取り組みを強化する方針です。

(Circularise 創設者 Jordi Robert de Vos氏の講演より)
データ共有には複数の企業が協力する必要があります。これはデジタルソリューションであっても、物理的なビジネスと同様にスケーリングに時間がかかります。化学プラントが建設されるのを待つ必要があったり、データトランザクションがスケールするまでに時間がかかったりします。
しかし、同時に、小規模なデータ共有から始めることも重要です。企業が小規模でもこのような会話を始めることで、最適化のヒントが得られます。これは長期的な視点で見ると、非常に価値のあるプロセスです。
データの重要性に関して、エレンマッカーサー財団 Murphy氏は、「グリーンウォッシングを防ぐためにも、サプライチェーンからの一次データが重要です。ただし、これを実現するには、データ共有のインフラと環境整備が不可欠です。」と語りました。
また、株式会社リコー 遊佐氏は「最終的には、消費者に対してどのような価値を提供できるかが重要です。企業秘密を守りつつ、製品の環境性能や循環性をわかりやすく伝える工夫が必要です。」と、消費者向けの情報提供の重要性も強調しました。
パネルディスカッション:規制やインフラの課題にについて
セミナーの後半ではパネルディスカッションが行われ、規制やインフラにおける課題について議論が交わされました。
—企業が特定の目標を設定しても、それを達成できない、あるいは延期するケースが見られます。この点についてどう考えますか?
エレンマッカーサー財団 Murphy氏:米国企業では、目標を達成できなかった場合の訴訟リスクを懸念して、具体的な目標設定を避ける傾向が見られます。特に電気自動車(EV)の普及に関しては、インフラ整備の遅れが大きな障壁となっています。例えば、ボルボが2030年までにEV化の要件を満たすことができない理由の一つとして、充電インフラの不足が挙げられます。特に英国では、グリッド充電インフラが十分に整備されておらず、全体的なコストの問題もあり、需要が伸び悩んでいます。この問題は、単にEVの普及だけでなく、サーキュラーエコノミー全体の進展にも影響を与える可能性があり、インフラや制度面での支援が不可欠です。
—インフラ整備と企業のコミュニケーション戦略について、今後どのような展開が予想されますか?
株式会社リコー 遊佐氏:規制対応だけでなく、ビジネス価値の創出が重要です。例えば、日本の自動車業界では、バッテリーパスポートの取り組みを通じて、規制対応だけでなく業界全体にどのような価値を生み出せるかを検討しています。せっかく集めたデータをどう活用するか、そこから新たな価値をどう生み出すかが今後の課題となると考えます。
本セミナーを通じて、サーキュラーエコノミーの実現に向けた課題と可能性が浮き彫りになりました。法規制の整備、インフラの充実、そしてビジネスバリューの創出。これらのバランスを取りながら、持続可能な未来を築いていくことが、今後の企業や社会の大きな課題となるでしょう。