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“おいしさ”と“サステナブル”の両立を追う。富士工場の大型水素焙煎機での水素焙煎コーヒーの量産が本格化【UCC】

毎朝の一杯。その裏側で、コーヒーづくりが地球に与える影響を意識したことはありますか?実は、最も多くのCO₂を排出する工程のひとつが、焙煎だと言われています。しかしその熱源を、一部でクリーンエネルギーへの転換に成功した企業があります。

2025年4月、UCC上島珈琲は静岡県・富士工場で水素を活用した焙煎技術を実用化しました。製造工程での排出削減にとどまらず、再生可能エネルギーの循環利用という新たなモデルを示しています。その背景や水素焙煎の特徴について、UCC上島珈琲株式会社富士工場 焙煎担当の竹村洋平氏にお話を伺いました。

UCC上島珈琲株式会社富士工場 焙煎担当の竹村洋平氏(提供:以下同)

最もCO₂を排出するのは焙煎工程

—まずは、コーヒーづくりが環境や生産地の人々にどのような影響を与えているのか、まず全体像から教えてください。

コーヒーと環境の関係は、さまざまな側面で密接につながっています。特にコーヒーは気候変動の影響を受けやすい作物で、この先、生産に適した土地が半減するといった試算や、病害虫の増加による収穫量の低下などが懸念されています。

同時に、農家の方々の生計向上や人権への配慮も、コーヒー産業が抱える重要な課題です。こうした環境面と社会面の双方に目を向け、責任ある形でコーヒーを調達していく、いわゆる「サステナブルなコーヒー調達」を進めることは、産業全体の未来を支えるうえで欠かせません。

—生産地での課題に加え、製造段階ではどの工程が特に環境負荷につながるのでしょうか。

コーヒーは、栽培から輸送、焙煎、抽出まで、いくつもの工程を経て、お客様にお届けしています。その中でも特にCO₂排出量が多いのが焙煎です。高温の熱風で生豆を炒るため、非常に多くのエネルギーを必要とします。当社の試算によると、工業用焙煎機1台あたり年間約570トンのCO₂を排出(※1)しており、製造工程の中でも脱炭素化が最も難しい部分とされています。熱源を再生可能エネルギー由来の電力に切り替えれば、最もシンプルにCO₂排出量を削減できますが、さまざまな要因から、工業レベルの焙煎をすべて電化するのは難しいということが大きな課題でした。

※1…富士工場工業用大型焙煎機「HydroMaster」の場合(焙煎工程における排出量)

実用化までに約4年を要した開発プロセス

──では、焙煎の脱炭素化に向けて、どのようにアプローチされたのでしょうか?

燃焼時にCO₂を排出しない水素火炎を熱源とした水素焙煎に着目しました。 しかし水素焙煎機を開発するには、従来の天然ガスを単に置き換えるだけでは不十分で、水素ならではの安全対策が必要でした。私たちは水素を扱った経験がありませんでしたし、水素は地球上でもっとも小さな分子で、漏れやすく取り扱いが難しいため、まずは知識の習得から取り組みを始めました。並行してバーナーメーカーなど専門家の協力を仰ぎ、水素の特性を深く理解しながら、適切な安全対策を施していきました。

まずは小型の焙煎機を複数製作し、試験を重ねました。その結果をもとに大型焙煎機を設計し、試行錯誤を繰り返した末に、扱いが難しい水素を熱源としながら、安全に稼働する独自の焙煎機の安定運用を実現。脱炭素化という側面に加えて、安全性やおいしさとの両立も求められるため、構想から実用化までには約4年の歳月を要しました。

──水素焙煎機「HydroMaster」について、もう少し具体的に教えてください。

HydroMasterについて、端的に示すならば以下3ポイントが挙げられます。

  • 水素焙煎時のCO2排出ゼロ
  • 水素と天然ガスの両方で焙煎可能
  • 緻密な焙煎プロファイルで引き出す
    多彩な味覚表現

水素には着火しやすいという特性があるため取り扱いには最大限の注意が必要ですが、一方で火をギリギリまで絞っても消えにくいという強みがあります。その結果、焙煎工程における温度コントロールの幅が大きく広がり、高温にも低温にも柔軟に対応できるようになりました。これにより、焙煎のアプローチ自体の可能性が広がることが分かってきています。

──実際に水素焙煎のコーヒーを試飲させていただきましたが、雑味が少なく、香りがとてもクリアですね。おいしさとの両立という点では、どのような工夫をされたのでしょうか?

ありがとうございます。水素は、先ほど触れたとおり火力の調整幅が広く、極弱火から強火まで、つまり低温から高温まで、既存燃料より柔軟に温度をコントロールできます。この特性に、UCCがこれまで培ってきた味覚形成に関する知見や焙煎ノウハウを掛け合わせることで、コーヒー豆本来の香り・甘み・酸味を最大限に引き出し、従来の焙煎方法では生み出しにくかった多彩な味わいを形成できるようになりました。

量産スタート時のラインアップ

例えば、エチオピアG1イルガチェフェ産の豆では、もともとフルーティな酸味が特徴ですが、水素焙煎により透明感のある甘みとコクを引き出すことができました。水素焙煎コーヒーは、環境に良いだけでなく、水素の特性を活かすことで「おいしくなる」ことを示せた点も非常に大きな成果です。とはいえ、まだ未知の部分も多く、さらなる可能性を感じていますので、研究開発部門では引き続き味覚への好影響について、さまざまな試作と検証を進めています。

プロジェクトを支えるパートナーとの協力

──水素焙煎によって、どの程度の環境負荷削減が期待できるのでしょうか。

大型水素焙煎機では、焙煎時のCO₂排出量をゼロにすることができています。環境省の試算によると、植樹1本が年間に吸収するCO₂は約800グラム。当社の試算では、水素焙煎コーヒー673杯分、つまり毎日2杯の水素焙煎コーヒーを楽しんでいただくことで、年間に植樹1本分のCO₂排出削減効果が得られる計算になります。

──今回の取り組みでは、異業種との連携もあったそうですね。

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下NEDO)の助成事業の採択を受け、山梨県企業局、東京電力エナジーパートナー(株)、(株)巴商会、東レ(株)とともに、新たに小規模パッケージ化したP2Gシステムを開発し、新たに電化が困難な産業部門等の脱炭素化を目指す「やまなしモデル」事業を2022年から開始しています。当社が水素焙煎に使う水素は、YHC(※2)が山梨県甲府市にある米倉山で精製したグリーン水素を調達しています。今後もステークホルダーのみなさまとの共創を通じて、脱炭素社会の実現に貢献していきたいと考えています。

※2…やまなしハイドロジェンカンパニー

最後に、今回の技術開発について、UCC広報にも話を伺いました。

「水素焙煎コーヒーは、環境にいいだけでなく、水素の力によって“おいしくなる”ことが示せた点も非常に大きいと考えています。今後もステークホルダーの皆さまと協働・共創しながら、コーヒーという身近な製品を通じて、水素社会の実現に貢献していきたいと考えています」(UCC広報)

参考リンク:UCC、カーボンニュートラルなコーヒー製造を目指し、富士工場の大型水素焙煎機「HydroMaster/ハイドロマスター」にて水素焙煎コーヒーの量産を世界で初めて開始※1~4月23日より業務用・家庭用製品全7品を順次発売~ | UCC上島珈琲