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企業取り組み事例を多数紹介

埼玉県ではサーキュラーエコノミーを推進するため、事業者、市町村、消費者団体等で構成する「埼玉県サーキュラーエコノミー推進分科会」を新設。7月8日、そのキックオフイベントが開催されました。

会場となった浦和区コルソホールには関係者はじめ来場者約200名が集まり、会員企業の取り組み事例紹介やアドバイザーによるパネルディスカッション、ポスターセッションが行われました。

冒頭には、環境部の資源循環推進課より今回の分科会設置の背景として、令和3年設置の「埼玉県プラスチック資源の持続可能な使用促進プラットフォーム」の発展的拡大であり、対象をプラスチックから全分野に変更した旨の説明がありました。

サーキュラーエコノミー取り組み事例紹介として、株式会社ECOMMITからは衣類、雑貨類回収ボックスPASSTOを活用した事例、入間市で実証導入中の廃棄物の中でまだ使える「もったいない物」リユース品を回収しゴミの減量化を図るサービスが紹介されました。

可燃ゴミを「燃やす」から「創エネ」へ

オリックス資源循環株式会社は、国内最大規模の「乾式メタン発酵バイオガス発電設備」について発表。「乾式」メタン発酵では、従来の「湿式」メタン発酵では処理の難しい紙ゴミ、草木類、プラスチック混じりの廃棄物も食品廃棄物と一緒に処理が可能で、一日に約100トンの処理能力を持ち、年間980万KWのカーボンニュートラルなエネルギーを生み出しています。

バックアップとして焼却施設も稼働していることで安定処理につながっており、可燃ごみをエネルギー資源として有効活用し、すでに小川地区衛生組合と10年間にわたる可燃ごみ処理業務委託を締結。可燃ごみ全体のリサイクルシステム構築の課題解決へ向けた事例として注目を集めています。

次に、株式会社首都圏環境美化センターは、最新の光学選別機を使用した廃棄物の中間処理事例等の紹介。同社は当メディアでも取材しています。

食品工場の油泥をオンサイトで資源化

株式会社ティービーエムは、食品工場の油水分離層に溜まる油泥を分離回収してバイオ燃料化できる「油泥バイオマス資源化装置」を開発、食品工場内にオンサイト設置した実証事例が紹介されました。この事業は、未利用食品廃棄物を最大限に脱炭素資源化する取り組みとして、令和5年度埼玉県サーキュラーエコノミー型ビジネス創出事業費補助金事業の採択を受けています。

全国の大手食品工場や、埼玉県内では越谷市のモツ煮製造工場でも既に実用化。食品製造業が北海道に次いで全国2番目に多い埼玉県において、廃棄されていた油泥を運搬することなくオンサイトで資源化できるこの取り組みは、脱炭素や人材不足解消の面からも大きな期待が寄せられています。

続いて、東明興業株式会社による取組事例では、廃プラスチック回収現場における自動圧縮機「スマゴ」を活用した減容化とCO₂削減および運搬コストの削減や、耐久性を向上させリユース可能な大型圧縮袋の開発などが紹介されました。ポスターセッション会場には実際に開発された容器が展示され、廃棄物圧縮、減容の省スペース効果について考える場となりました。

ラベル台紙の水平リサイクル事例

ラベル製造に不可欠な台紙「剥離紙」は、国内の製造業全体で年間13.9億㎡に上り、埼玉スーパーアリーナ3万個分にも相当するといいます。シールを剥がしやすくするために樹脂コーティングされる性質上、紙と樹脂が分離できずリサイクル困難で、その多くが廃棄・焼却されているのが現実です。

日榮新化株式会社による資源循環プロジェクトでは、「ラベル台紙」を従来の剥離紙から、リサイクル可能な白色PET合成紙製の「リサイクル専用台紙」に置き換えることで、ユーザー使用後の台紙を有価回収、マテリアルリサイクルして再びラベル台紙の原料に使用する「資源の水平リサイクル」スキームを確立させています。

「ラベルを使う、だからこそ」の理念のもと、材料メーカー、印刷会社、ユーザーなどサプライチェーンに関わる全ての企業が一緒になって資源循環の仕組みをつくることに注力。ラベル台紙の設計段階から水平リサイクルを想定し、複数のパートナーシップ企業、団体からの参画も増加しています。

また、使用済リサイクル専用台紙の回収において「埼玉モデル」として川口事業所を拠点に小口の専用回収ボックスを設置し、環境に配慮した全国からの回収スキームの確立にも取り組まれています。

次に、吉岡製油有限会社の取組事例では、官民連携による家庭系廃食油の回収・リサイクル事業として「廃食用油の地産地消モデル」が紹介されました。入間市の事例では、家庭から出る使用済み食用油を市内スーパーマーケットで回収、バイオディーゼル燃料やバイオプラスチック原料、地域農業でのエネルギー利用、家畜飼料に活用しています。アドバイザーからは「エネルギー価格や家畜飼料が高騰している今だからこそ、こうした取り組みが求められている」とのお話も。

パネルディスカッション「埼玉県におけるサーキュラーエコノミー」

続いて行われたパネルディスカッションでは、5名のアドバイザーが登壇しました。

・石川 雅紀 氏/叡啓大学学長補佐・特任教授
・入江 満美 氏/東京農業大学 准教授
・加藤 佑 氏/ハーチ株式会社 代表取締役
・川嵜 幹生 氏/環境科学国際センター資源循環・廃棄物担当部長
・関根 久仁子 氏/株式会社これやこの・カムフル株式会社 代表取締役

加藤氏は、EUと日本の政策動向や世界のサーキュラーエコノミーをめぐる潮流の変化を、環境、経済、社会、安全保障の分野から解説。今回、さまざまな取組事例紹介の中で各企業が「循環図」を取り入れた解説をされていたことにも触れ、メディアの視点から「循環図」や「ダイヤグラム」を描くことで自社だけでなくパートナー企業を含んだ取り組みのインパクトが広く伝わりやすく、メディア側も取り上げやすくなるとのアドバイスもありました。

関根氏からは、「リスクとチャンス」の視点で、環境省が掲げる国家戦略としての循環経済への転換、サーキュラーエコノミーに取り組む理由を説明。環境制約、資源制約、成長機会、地方創生を柱としながら、循環経済市場を2023年までに80兆円以上という目標に向けて、産業競争力の強化が課題となっています。

リモートでの登壇の石川氏からは、経済産業省から示されている再生プラの事業者への利用計画策定義務化についての方針や、国際市場において使用済みプラスチックから再生された製品の価値向上についての話。そして回収し再生されたより質の高いものの取り合いになる市場、ビジネスの法則も変化していくという指摘も。

入江氏からは、農林水産業が提示する「みどりの食料システム戦略」をもとに、肥料価格が高騰する中で日本の肥料原料自給率0%、ほぼ海外からの輸入に頼っている現実と課題についてのお話。今後、肥料においてもメタン発酵後の残渣液からバイオ液肥やバイオ固形肥料を生み出すなど、国内資源による調達が不可欠。人口も多く農業生産も盛んな埼玉県には、調達から生産、加工、流通、消費まで地元で持続可能な食料システムの構築が求められています。

川嵜氏は、埼玉県は県内総生産高23兆円規模、全国でも有数の企業数および事業者数を誇り、多種・多様・多数の企業活動をサーキュラーエコノミー型ビジネスモデルに転換する影響力の大きさについて解説。人口の多さは一般廃棄物の削減・活用や消費活動の変容にも関係し、立地の面からも近隣都県へのアクセス容易な環境があります。印刷業やパルプ・紙加工業、産業廃棄物処理業も多く、地域の特性を活かし関連して進めることでサーキュラーエコノミーが発展しやすくなるとのお話でした。

キックオフイベントの後半にはポスターセッションが行われ、埼玉県内に拠点を持つ20社以上の企業による事例展示や交流会で活発な意見交換がなされました。当メディアを運営する「株式会社サーキュラーエコノミードット東京」もポスターセッションに参加し、「循環」をテーマとした新たな交流スペース「サーキュラーBASE美女木」についての案内を行いました。

最後に、今後開催される「3R推進全国大会」や、埼玉県産業創造課より「埼玉県サーキュラーエコノミースタートアップコンテスト」募集についても案内が行われ、埼玉県の積極的なサーキュラーエコノミー情報共有の場となりました。

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