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廃棄家具をデザインの力で再生。産廃業者が手がけるリメイクブランド「enloop®(エンループ)」

今年創業122年を迎える産業廃棄物処理の老舗・東港金属株式会社(本社・東京都大田区)をグループ会社の中核に持つサイクラーズ株式会社(本社・東京都大田区)。社名の通りサーキュラーエコノミーの追求を掲げ、時代に求められる新たな事業展開を行っています。

その一つが、ローンチしたばかりのリメイク家具ブランド「enloop®(エンループ)」。廃棄予定の家具を「デザインの力」でリメイクし、新たな価値を与え、ムダをなくす社会を作ることをコンセプトとしています。

今回は、2024年3月に代官山で開催された展示会を取材。静脈産業が取り組む家具のリメイク・サーキュラリティについて、同社経営戦略本部 経営企画部 デザイン課三谷薫子氏と島田ちひろ氏にお聞きしました。

デザインの力で家具が蘇える

廃棄予定の家具を、デザインの力によって、モノの価値を蘇らせ、一人ひとりの暮らしに寄り添ったリメイク家具ブランド「enloop®」は、2024 年3 月22 日(金)~24 日(日)の3 日間にわたり、代官山CANVAS TOKYO ATELIER(東京都渋谷区)にてローンチイベントが開催されました。

同ブランドは、サイクラーズグループのトライシクル株式会社を通じて入荷したリユースおよび廃棄予定の家具に、デザインを加え、家具本来の味は活かしつつ、新たな価値を与えることにより、大量生産型の家具とはまた一味違う唯一無二のリメイク家具の制作販売を行っています。

ローンチイベントでは17点の家具の展示の他、カフェスペースを設け、リメイク家具を使いながらコーヒーブレイクを楽しめる空間を提供。また、アクリルパネルをアップサイクルした小物の販売や、ワークショップも行われました。

「めぐる家具が、あなたの暮らしをよりよくする」をテーマに、インダストリアルとモダンポップなインテリアという2つのテーマを混在させた空間を展開。enloop®商品製作のためデザイナーはサイクラーズにとって初の美術系大学出身の新卒採用社員で、デザイナーの感性が最大限に発揮された芸術性と家具が融合した洗練されたデザインが特徴です。

コロナ禍に活躍したアクリルパネルを着色・加工しコースターを作るアップサイクルワークショップが実施されていた。

ものづくりに取り組む廃棄物処理企業

サイクラーズグループの中核となる東港金属株式会社はスクラップ(金属くず)問屋業で、事業の柱は金属くず等8品目の産業廃棄物の中間処理と、金属スクラップの加工販売を行っています。

多くはオフィス移転関連に伴う産業廃棄物を受け入れ、シュレッダーにかけて個別の金属素材まで選別をして、製鋼原材料として販売しています。それらの中には逆有償(排出側が費用を払って処理してもらう取引)もあり、例えばオフィスのパーテーションやデスク、そういったものを加工し、金属として販売する場合も。

しかし、産業廃棄物の中間処理の現場では、まだ家具として活用できる家具を回収することはよくあります。不用品回収サービス・中古家具の販売プラットフォーム「ReSACO(リサコ)」を運営する同グループでは、デザインによって中古家具の価値を最大化させることがenloop®の役割と心得ている、とのこと。

誰もが座ったことがある、懐かしい学校の椅子をenloop®カラーであるグリーンやオレンジに加工し、おしゃれで現代的な部屋に馴染むデザインとなった。
東港金属株式会社京浜島工場での産業廃棄物処理の様子。学校の机は本来天板は木材、脚は金属に加工し分けられる。

私たちが扱う家具はそれぞれこれまでの役割を全うしてきましたが、廃棄段階になり私たちがリメイクを施すことによって、「新たな道」を与えているという想いで取り組んでいます。その為にもデザインに工夫を凝らすことは重要で、これまでのよく見る画一化され無難なオフィス家具は遊び心も必要です。(三谷氏)

オフィスではお馴染みの大容量ロッカー。遊び心がある配色に様変わり。

同イベントで展示された家具はペルソナ(ユーザー像)を設定しデザインを施したそうです。悠(ゆう)という名の男性が代官山に引っ越し、友人を招きホームパーティーを開催する、中古家具にもペルソナにも新しいスタートとこれまでの生き様をどこか感じさせる温かみあるデザイン家具が目立ちました。

今後はポップアップ展示会での販売の他、EC販売も準備中。デザイナーもさらに一名がジョイン、より多くの家具を生まれ変わらせる試みを行っているとのこと。

「資源製造業」という新たなフィールド

「リサイクル」が注目されがちですが、サーキュラーエコノミーの観点ではむしろ製品を維持・長寿命化する方が環境負荷を減らし資源効率の向上にもつながっていきます。しかし、メーカーではない、静脈産業側にある同社にとって、この取り組みはどんな意味を持つのでしょうか。島田氏の口から、「資源製造業」という新たなキーワードが飛び出しました。

現在のサーキュラーエコノミーと言えば、メーカーさんが取り組むイメージがありますが、サイクラーズグループとしては、製造業を私たちがしていく、資源製造業として舵を切るべきだと考えています。動静脈連携というより、静脈が動脈に加わるのが、まさにこの取り組みです。(島田氏)

廃棄予定の家具とコロナ禍にパーテーションとして活用されたアクリル板。家具のアクセントとして生まれ変わった。

年間数万トンの廃棄物を扱う中間処理業者であるにもかかわらず、enloop®では基本一点もののリメイク家具を扱います。敢えてこの様な取り組みを行うところに、同社のサーキュラーエコノミーへの本気度がうかがえます。

このような取り組みを行っても実際にはサイクラーズグループでは廃棄やリサイクルがほとんどです。私たちのリメイク家具の作業段階でも廃棄が出てしまう場合もあります。しかし、そうなった場合でも廃棄物処理事業者として責任を持って次の資源の行く道を考えてあげることが出来るのも私たちなのです。だからこそこの様な挑戦が出来るのかもしれません。(三谷氏)

今後もデザイナーを増やし、ブランドの進化を目指すenloop®。静脈産業による資源価値を高める取り組みが続く中、同ブランドの動きは今後も注目していきたいところです。

2024.3.23

取材協力:サイクラーズ株式会社:https://www.cyclers.co.jp/

enloop®:https://www.enloop.info/