大阪・関西万博の日本館のテーマは「いのちを取り巻く、多彩な循環」。これまでオランダ、ドイツ、ルクセンブルグなど、「循環」をテーマに取り入れているパパビリオンを紹介してきましたが、日本館では、ホスト国であることを活かし、館内に「バイオガス工場」を作って廃棄物循環の流れを展示したり、キティちゃんやドラえもんなど、おなじみのキャラクターを取り入れて日本の循環文化を表現するなど、オリジナリティが光る内容です。


終了後に容易に解体できる建材を使用

日本館の外観は極めて特徴的で、木の大きな板を円形に斜めに並べて壁を作るという、これまであまり見たことのない構造になっています。板は、間伐材から作られたCLT(直交集成板)で、万博終了後に解体され、再び建材として再利用されることを前提に、可能な限り加工を抑えた工法が採用されているとのこと。

バイオガスプラントでごみをエネルギー化
館内は「Plant」「Farm」「Factory」の3つのゾーンに分かれていて、順に回っていくようになっていますが、循環なので起点と終点はなく、どこから入ってもいいようになっています。

Plantエリアは「『ごみ』から『水』へ」がテーマ。
驚くのは、「ごみの再生工場」として、実際に敷地内にバイオガスプラントが併設されていて、万博施設内で出た食品廃棄物をメタン発酵させ、エネルギー化しているのです。これはホスト国ならではの循環の見せ方、ショーケースと言えるでしょう。
通路からバイオガスプラントの外観を見ることができます。こちらのプラントは、日程が限定されますが、見学ツアーもあります。


館内の展示では、メタン発酵を使ってごみから様々な資源になっていく様子を多彩な表現方法で見ることができます。


生ごみがメタン菌で分解され、水と二酸化炭素になるさまは、ベアブリック(BE@RBRICK)を使ったデジタル展示。ご存じのようにBE@RBRICKは、日本のトイメーカー「メディコムトイ」が発売しているテディベアです。このように、随所に日本発のキャラクターが登場します。

水槽とデジタルを使った「生分解性プラスチック」の展示もありました。微生物による器の分解過程を5つの段階に分け、そのイメージを、5つの水槽で順番に鑑賞できるようになっています。

中庭にある丸く浅い水槽。これは単なる水道水ではありません。生ごみの発酵過程でできた水が濾過膜と微生物で濾過された、無色透明の浄水なのです。一見まったく普通の水ですが、そこにも循環のストーリーがあります。

圧巻!32種類の「藻」のハローキティ
Farmエリアのテーマは「『水』から『素材』へ」。
ここでのテーマは「藻」。それも32種類の「藻類」がハローキティのキャラクターになって登場します。「藻類」といっても幅広く、ワカメやヒジキといった海藻類も含まれています。

名前とともに壁に展示された緑のキティたちがかわいい。



藻のインスタレーションの部屋もあります。幻想的で美しく、インスタ映えも抜群です。

バイオプラスチックの椅子(スツール)製造工場
Factoryエリアのテーマは「『素材』から『もの』へ」。フェイクですが、「もの」を作る工場も展示として用意されています。
館内のあちこちに写真のようなスツールが置かれているのに気づきます。

これは、ファクトリーエリアで生成された水を使って、ファームエリアで育てられていた藻「スピルリナ」を原料に加えた、バイオ(植物由来)プラスチックを材料にして作られています。

進んでいくと、なんと、3Dプリンターを使用したバイオプラスチックスツール工場そのものが登場します。


もちろん、ここで実際に製品製造を行っているわけではありませんが、これまで裏方的な存在だった「工場」を、循環のプロセスのひとつとして、誰でも見られるようにしているのは画期的と言えるでしょう。
ドラえもんと日本のものづくり
Factoryエリアの最後は、「やわらかいものづくり」と題した日本のものづくり文化の展示。ここでは、ドラえもんがナビゲーターとなって「風呂敷」「木桶」「着物」など日本古来からの文化が、「やわらかさ」を工夫することで、いかに合理的に、持続可能にできているのか、その知恵や構造を紹介しています。


「もの」だけでなく、日本の循環文化の源泉とされている伊勢神宮の「式年遷宮」も、ドラえもんの漫画にして展示されていました。

「万博が終わったあと」の展示も
建造物としての日本館も、「循環」を前提の工夫がこらされていますが、建物だけでなく、ユニフォーム、ショップの販売品用の段ボール製パッケージ、前述のスツールもパーツを3つの座面に分解できるなど、リサイクルしやすい素材や構造になっているのです。



日本館2025の役割と価値
「いのちを取り巻く、多彩な循環」をテーマに、日本古来の循環文化、ものづくり文化をデジタル技術や日本の人気キャラクターを使ってクリエイティブに表現されている日本館の展示は、とても見応えのあるものでした。特に、日々サーキュラーエコノミーについて情報発信している私たちにとって、大変勉強にもなりました。
また、単なる展示に留まらず、実際にバイオガスプラントを建設してごみを循環させる「実働する展示」という発想も驚きです。多大な時間と労力、そしてもちろん予算もかけ、日本を発信するパビリオンというひとつの形にしていることに、日本人として誇りを持ちました。関係者の皆さまには心から敬意を表したいと思います。
今回のテーマ「循環」は、他のテーマと比べて少々わかりにくいものかもしれません。日本館にはもっと別のものを期待していたという人もいるでしょう。
しかし、他の多くの海外パビリオンが「持続可能性」「循環」をうたう中、日本館を見学してみて、改めて日本が2025年のこのタイミングで世界に発信するのは、このテーマで間違いがないと思った次第です。
万博に行ったらぜひ日本館を訪れ、日本の循環文化に触れてみてください。

