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近年、「サーキュラーエコノミー」への転換を目的として、カーボンニュートラルや資源循環の施策を行っている自治体も増えてきました。その多くは環境部等の廃棄物管理を担当する部局が主体となっていますが、新たな体制で取り組む自治体もあります。その一例が埼玉県です。同県では環境負荷軽減と経済成長の両立を掲げる大野元裕知事のもと、部局連携の体制を構築し、トップダウンでサーキュラーエコノミー事業を推進しています。

そこで今回は埼玉県環境部 資源循環推進課を訪れ、同県のサーキュラーエコノミーの取り組み体制について、そして先日記者発表を行ったリチウムイオン電池のリサイクル実証実験について伺いました。

埼玉県庁(さいたま市浦和区)

埼玉県のサーキュラーエコノミー体制

埼玉県では、知事をトップとし、環境部と産業労働部、および外郭団体である産業振興公社の連携体制でサーキュラーエコノミー事業を推進しています。

<埼玉県のサーキュラーエコノミー体制>

画像:埼玉県環境部資料より引用

昨年(令和5年)には推進組織である「サーキュラーエコノミー推進センター埼玉」が立ち上がりました。その記者発表(※)で大野知事は、「捨てることが前提のリニアエコノミーではなく、サーキュラー エコノミーとして経済に組み込んでいくことは、資源循環経済を進める上で県内企業にとってのインセンティブになる。埼玉県では 熱心にこれに取り組んでいる」と語りました。

さらに埼玉県のサーキュラーエコノミーの特徴として、「これまで別々の目標を持っていた産業労働部と環境部という二つの部局を連携させて取り組んでいること」「全国的にも非常に早い段階から取り組みを行っていること」「浦和レッズなど県内の多様な主体が参加して進めていること」の三つを挙げました。

このような体制のもと、埼玉県ではサーキュラーエコノミーの普及に向けて様々な取り組みを行ってきました。令和5年には、埼玉スタジアム2002で行われた浦和レッズの主催試合で啓発ブースを設置したほか、推進組織「プラスチック資源の持続可能な利用促進プラットフォーム」の発足、また、サーキュラーエコノミーに取り組む事業者への各種補助金の交付(令和6年度は募集終了)も実施しています。

※ 【令和5年6月12日実施】埼玉県知事記者会見
https://www.youtube.com/watch?v=3F4bslEwHf4 

リチウムイオン電池再資源化に向けての実証実験

5月9日、埼玉県では、令和5年9月から令和6年2月にかけて実施した、使用済みリチウムイオン電池からレアメタルを回収するプロジェクトの結果について報道発表を行いました。

リチウムイオン電池は、スマートフォンやモバイルバッテリーなどの電子機器や、電子たばこ、コードレス掃除機など身近な製品の多くに使われているもので、希少性が高い資源であるレアメタル(コバルト、ニッケル等)が含まれています。産出国が限られるレアメタルは、日本ではほぼ100%輸入に頼るものの、デジタル機器の普及度が高いため、廃棄機器からのリサイクルに期待が高まっています。

環境部資源循環推進課に今回の実証実験について伺いました。

お話を伺った埼玉県環境部資源循環推進課 尾崎範子課長

―今回のレアメタル回収の実証実験を行った背景について教えてください。

ご存じのように、リチウムイオン電池などの充電式電池にはレアメタルが含まれていますが、残念ながらその回収は十分には行われていません。それを資源として回収することができれば、天然資源の利用を削減できます。今回の実証実験では、その可能性を確認する必要があったこと、また、家庭で電池が適切に分別されないことで、ごみ処理施設における火災の原因となることが課題となっているという背景がありました。

―ごみ処理施設での火災はニュースでもよく耳にします。

はい、令和4年に県内の市町村を対象に市場調査を実施したところ、約6割の市町村がボヤを含め何らかの火災が発生しているという結果となりました。

―6割というのは大きい数字ですね。一般的に、充電式電池はどのように回収されるのでしょうか。

充電式電池の回収には大きく二つの方法があります。ひとつはJBRC(小型充電式電池の回収リサイクルを行う一般社団法人)という全国的な団体があり、ここには電池メーカーや販売店などが加盟していて独自の回収ルートを持っています。家電量販店やホームセンターなどでJBRCの専用回収箱を目にしたことがある方も多いと思います。

もう一つは市町村の役所や支所などに設けられている小型家電回収ボックスからの回収です。家庭から出るリチウムイオン電池は一般廃棄物になりますので、収集保管責任は市町村にあるため、各市町村が何らかの形で回収し、適正なルートで下処理をしています。

狭山市役所本庁内の小型家電回収BOX 画像:狭山市ホームページより引用

―今回の実証実験はどのような体制で行ったのでしょうか。

埼玉県がコーディネートおよび調整役となり、民間企業と市町村が連携して行いました。民間企業は、車載用リチウムイオン電池等を再資源化している太平洋セメント社および松田産業社の2社で、ともに埼玉県内に工場がある事業者です。市町村では狭山市と上尾市の協力を得て、家庭から出る使用済み充電式電池等を集め、そこからレアメタルを資源として回収できるかの検証を行いました。

<レアメタル回収実証実験の実施体制>

画像:埼玉県報道発表資料(令和6年5月9日)より引用

―リチウムイオン電池からどのようにしてレアメタルを取り出すのでしょうか。

リチウムイオン電池からレアメタルを取り出すには400℃から500℃ぐらいの温度で燃やす焙焼(ばいしょう)という熱処理が必要となります。焙焼処理を行うことにより、「ブラックマス」という、レアメタルを含んだ黒い粉になります。今回は、焙焼設備を有する太平洋セメント社の関連企業に使用済み小型充電式電池を運搬して熱処理を行い、その後松田産業社が粉砕・選別をしてブラックマスを資源として回収することができました。

ブラックマスを抽出するための焙焼炉
リチウムイオン電池から取り出されるブラックマス

実証実験で浮かび上がった資源化の課題とは

―今回の実証実験でわかった課題は何でしょうか。

やはり仕分け作業にコストがかかってしまうということでした。電池には、ニカド電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池の3種類があります。これらを混ぜてしまうとレアメタルを取り出すことが難しくなるため、しっかり分ける必要があります。これを現状では手作業で行わなければなりません。

電池の3つの種類とリサイクルマーク 画像:JBRCホームページより引用 https://www.jbrc.com/general/distinguish/

今回の実証実験には、協力市町村の職員と連携企業の皆さん、私たち県職員が保管場所に集まり、各電池に記載されている表記を確認しながら「これはこっちですね」というように仕分けしていきました。

しかし今後事業として行う場合には、今回のような体制で仕分けを行うというのは現実的ではありません。これをどれだけ簡単に、かつ負担なく市町村の職員の皆さんに実施していただけるかという課題があります。その際、市町村の回収した電池については、ペットボトルがそうであるように有価資源として販売できるようになれば、予算的な負担の軽減につながるのではないかと考えています。

今回の実証実験では、関係者が保管場所に集まり電池の仕分け作業を行った

―最後に、今回の実証実験を踏まえた今後のアクションを教えてください。

リチウムイオン電池のリサイクルを事業化するにあたり、事業者さんにメリットを出すためには、いかに輸送コストを下げ効率的に回収を行っていくかが重要であるということがわかりました。それには一定量の使用済み電池を集めることが必要ですが、一市だけの回収量ではとても足りないのが現状です。新たな回収の仕組み、ルートの構築等を今後の課題として考えていきたいと思います。

協力:埼玉県 https://www.pref.saitama.lg.jp