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日用品や食料品をはじめ、さまざまな製品に貼られているラベル。そのラベルを製造・使用するために欠かせない「剥離紙」と呼ばれるラベル台紙は、その構造からリサイクルが困難。製品にラベルを貼り付けた際に不要となる「剥離紙」は、現状ほとんどが廃棄・焼却されており、その量は年間13.9億㎡(東京ドーム約3万個分)にのぼります。

資源循環プロジェクトは、「剥離紙」をマテリアルリサイクル可能な「リサイクル専用台紙」に置き換えることで、繰り返しラベル台紙へ循環させる仕組みを実現。その背景や課題、今後の展望について、資源循環プロジェクト代表 本池高大氏、事務局長 増田潤一氏、広報担当 三谷愛実氏にお話をお聞きしました。

増田潤一氏(左)、本池高大氏(中央)、三谷愛実氏(右)

リサイクル困難な「剥離紙」

ーまず、剥離紙とはどういったものなのか教えてください。

本池氏 店頭に並ぶ製品の多くにラベルが貼られています。ラベルを製品に貼るためには粘着剤が必要になりますが、粘着剤むき出しではラベルに対する印刷や成形加工、ラベル自体の使用ができません。そこで、ラベルが使用されるまで粘着面を保護し、使用時には剥がれやすい性質を持つ台紙を使用しています。紙の表面にシリコーンをコーティングしたもの、場合によっては、紙とシリコーンの間にポリエチレンのラミネートを施したもの、これら、紙と樹脂の複合材でつくられたラベル台紙を「剥離紙」と呼んでいます。

従来の剥離紙。写真では水色の台紙が剥離紙にあたる

―従来の剥離紙はどんな問題を抱えていましたか?

増田氏 「剥離紙」は、紙と樹脂の複合材料であるため、紙だけを分離することが困難です。更に、剥がれやすい性能を持つシリコーンは、古紙に混入すると再度紙にした際に文字をはじいてしまう懸念があるため、「剥離紙」は古紙として再利用が非常に難しい材料と言われています。そのため、現状では、ほとんどが産業廃棄物や一般廃棄物として廃棄・焼却されるという問題がありました。

三谷氏 剥離紙は国内の製造業全体で、年間約13.9億㎡が廃棄・焼却されています。東京ドームに換算して約3万個分の面積という大変な数です。しかし、リサイクルが困難な剥離紙は、これまでサプライチェーンの過程で「当たり前に捨てられている資材」と認知され、一般生活者の目には留まらない、まとまった廃棄物でした。

増田氏 そこで、資源循環プロジェクトでは、ラベル台紙を従来の「剥離紙」から「リサイクル専用台紙」へ置き換えることで、使い終わったラベル台紙を有価物として回収し、マテリアルリサイクルを行った後、繰り返しリサイクル専用台紙の原料として使用しています。

―「リサイクル専用台紙」は従来の剥離紙と何が違うのですか?

三谷氏 従来の「剥離紙」が紙と樹脂の複合材料であったのに対し、「リサイクル専用台紙」は、東洋紡㈱製のエコなフイルム素材「カミシャイン®」をベースに設計しています。PETボトルのリサイクルで皆さんご存知のとおり、PETという素材はリサイクルにとても適しています。そこで、環境に配慮したフイルム素材にあえて置き換え、水平リサイクルを実現することで、製品のライフサイクルにおける環境負荷を低減した材料設計を行っています。

(左)従来の剥離紙/(右)リサイクル専用台紙 

サプライチェーンを巻き込んだリサイクルスキームを確立

―「資源循環プロジェクト」発足の経緯について教えてください。

本池氏 SDGsへの意識が世界的に高まるなか、サプライチェーンの過程で発生する廃棄物に対しても削減に向けた取り組みが加速し、「剥離紙の廃棄を無くしたい」・「回収してほしい」としたラベルユーザー様の声が非常に多く寄せられるようになりした。

「ラベルを使っていただく以上、台紙の廃棄を生まないラベルを生み出すことが材料メーカーの使命であり、本取り組みを通じ、お世話になっている業界全体の発展にも貢献できる」とした、代表取締役社長・清水寛三の強い思いを受け、2020年4月、日榮新化㈱の社内プロジェクトとして「資源循環プロジェクト」は発足しました。

当初、従来の剥離紙をいかにして水平リサイクルするか、ということも考えましたが、リサイクル技術・インフラ、回収スキーム、製品コストなどを考えると現実的ではないと判断。モノづくりをする上で最も大切にしている「品質」・「コスト」・「供給安定性(事業継続性)」など、まずはお客様にラベルとして支持していただける要素を備えた上で水平リサイクルを実現する方法として、PET樹脂をベースとした台紙の設計を決意しました。

―その後の躍進と共同運営企業6社の役割について教えてください。

増田氏 「リサイクル専用台紙」を用いたラベルの評価をシオノギファーマ㈱、㈱トッパンインフォメディア、日榮新化㈱で行いました。ラベルの品質が従来品同等以上であること、既存の設備が従来通り使用できること、従来品と同コスト帯でラベルを提供できることなどを確認し、プロジェクト発足から3年後、「資源循環プロジェクト」対応のラベルがはじめて、シオノギファーマ㈱の医療用医薬品で採用されました。

6社の役割ですが、日榮新化㈱はラベルの設計・製造と使用済み「リサイクル専用台紙」の買い取り・マテリアルリサイクル、東洋紡㈱は「リサイクル専用台紙」の設計・製造、シオノギファーマ㈱はラベルユーザーの立場で従来品との比較検証・製品への適用、㈱トッパンインフォメディアは印刷・成形加工の適正テストとラベラーテスト、三井物産ケミカル㈱は地方自治体との法令確認や広報活動、ヤマトボックスチャーター㈱は回収業務を担っています。

―このプロジェクトのスキームについて教えてください。

三谷氏 ユーザー様が使用後の「リサイクル専用台紙」を有価物として有価で買い取り、回収します。従来は、廃棄物として、費用を掛けて処分していたユーザー様が多いと思いますので、費用面のメリットをお感じいただけると思います。この時、ヤマトボックスチャーター㈱が運用する「JITBOXチャーター便」を活用した「専用回収BOX」で回収しますが、設置費用・回収費用は日榮新化㈱が負担し、ユーザー様における費用負担はありません。

「リサイクル専用台紙」は日榮新化㈱三重RP工場・川口事業所の2拠点に集積し、三重RP工場でリサイクルされます。フイルム原料であるペレットの状態までマテリアルリサイクルされ、東洋紡㈱へ販売されます。東洋紡㈱で同ペレットを使用した「カミシャインNEO®」が製造され、再び「リサイクル専用台紙」として日榮新化㈱へ販売されます。

その後の流れは、従来通り日榮新化㈱で粘着加工を行い、印刷会社様で印刷・成形加工後、ラベルとして再びユーザー様へ納入されます。ラベルの台紙部分だけが循環しているスキームです。

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ラベル台紙の資源循環リサイクルスキーム

―この取り組みにより、どれくらいの環境負荷を低減できましたか?

本池氏 汎用的なラベル構成を例にした場合、台紙をリサイクル専用台紙に変更することでラベルのライフサイクルにおけるCO2排出量を21.6%削減できます。また、ラベル台紙を有価物として回収するため、ラベル台紙の廃棄量がゼロになり、産業廃棄物を削減することが可能です。2024年度より、徐々にではありますが、社会実装が始まり、今年度は約19tの廃棄物削減、約169tのCO2排出量削減を見込んでいます。

「同じコスト」「専用台紙への置き換え」で水平リサイクルできる

―回収スキームの構築においては、どの業界も課題を抱えています。回収するうえでの難しさはありましたか?

増田氏 一般的に、例えば容器を回収してリサイクルする場合、中に内容物が残っていると洗浄コストがかかり、採算がとれないといった壁があります。その一方、ラベルは使用後に台紙だけが残りますので、ユーザー様で分別さえ徹底いただければ合理的な回収が可能となります。本プロジェクトでは、「回収ガイドライン」をご用意し、現場で実際に作業をされる皆様、管理者の皆様にも分かり易く分別のポイントをご理解いただける様工夫しています。

また、企業の担当者には、環境活動の中でも特に資源循環の取り組みを模索されている方が多いように感じます。このプロジェクトを説明すると、今まで捨ててた剥離紙をリサイクル専用台紙に変えるだけなので、ハードルがそこまで高くないという反応をいただきます。

三谷氏 やはり、回収スキームをヤマトグループが担っていることも、参画いただく企業の皆様の安心感につながっている様に感じます。ヤマトグループのネットワークを活用することで、一部離島を除く全国99%のエリアから、ご負担をお掛けすることなく「リサイクル専用台紙」を回収することが可能にしています。

回収ボックスに分別されたラベル台紙

―置き換えるだけという取り組みやすさが、ユーザーからの評価につながっているのですね。

増田氏 剥離紙をリサイクル専用台紙へ変えるだけの手軽さに加え、水平リサイクルというコンセプトにも非常に共感をいただいていると思います。ほかのものにリサイクルしていつか廃棄されるのではなく、繰り返し同じラベル台紙に戻す点が大きな特徴です。

―従来のラベル台紙と比較して、コスト面で違いはありますか?

本池氏 当社製品での比較になりますが、従来のラベルと資源循環プロジェクトに対応したラベルは、基本的に同コスト帯で提供しています。「品質」・「コスト」・「供給安定性(事業継続性)」を確立した上で、「お客様に支持される製品を世に送り出す」モノづくりのポリシーがありますので、資源循環ができるからと言って、これらを度外視した製品を世に出すことはありません。

この3点を確立し、安心してご参画いただける様、本プロジェクト発足から構想(リサイクル専用台紙)の発表まで約1年、社会実装まで約3年を懸けて、着実に取り組んでまいりました。

―2024年4月に稼働を開始した、日榮新化「三重RP工場」への投資も大きな意味を持つように感じます。

本池氏 そうですね。三重RP工場は、資源循環を完結させるために無くてはならない心臓部と言えます。第一工程で異物除去・粉砕を行い、第二工程で溶融・押出などを経てペレットの状態に仕上げるフローです。2022年度、2023年度の2ヵ年に渡り、環境省の実証事業(脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業(補助事業))として、技術及び設備の開発に取り組みました。ラベル台紙をマテリアルリサイクルの手法で水平リサイクルするという、世界的に見ても前例が無い取り組みにあたり、本プロジェクトに特化した技術・設備を開発し、何とか社会実装に漕ぎ付けることができました。

増田氏 三重RP工場の導入にあたっては、三井物産グループの三井物産プロジェクトソリューション㈱が取り纏めを行いサポートしています。

三谷氏 見学通路を備えた「見える工場」ですので、是非、実際にリサイクルの現場をご覧いただいた上で、安心して参画をご検討いただけたらと思います。

(左)使用済みのリサイクル専用台紙は粉砕してフレーク化。(右)溶融、押出、カッティング、乾燥した後、ペレットとして製品化される。

少量から回収「埼玉モデル」を構築

―資源循環プロジェクト「埼玉モデル」について教えてください。

本池氏 2023年度、2024年度の2ヵ年に渡り、埼玉県による「サーキュラーエコノミー型ビジネス創出補助事業」に採択いただいています。2023年度に日榮新化㈱川口事業所で回収・受入検査を行うインフラを構築。また、各種プロモーション活動を経て多くの企業と取り組みを開始することができました。本年度は、大手コンビニチェーン向けに食品を製造・販売している、わらべや日洋食品㈱との協業を中心に、県内のモデル事業の立ち上げを完結させ、定量的な成果に結びつけるべく取り組んでいます。

そうした中、専用回収BOXの量にはすぐに至らないユーザー様からも積極的に早期参画をいただける様、埼玉県の独自モデルとして、小口単位で川口事業所へ回収するスキームを運用しています。2025年度中は運用を継続する計画です。

―「資源循環プロジェクト」の課題や今後の展望はありますか?

本池氏 このプロジェクトに参画していただいている企業のみなさまに応えるため、事業を安定的に運営することが私たちの責務です。その為には、自分たちで策定した事業計画を着実にクリアしていくことが肝要ですので、本プロジェクトの輪をさらに広げていける様邁進して参ります。1つのマイルストーンとして、年度内に参加団体100社を目標に掲げています。

また、海外からも本プロジェクトに対する高い関心をいただいています。「ラベル台紙の廃棄をゼロにする」とした私たちのミッションに対し限界を設けず、常に前進と成長を積み重ねて参りたいと思います。

―ありがとうございました。

資源循環プロジェクト
https://www.shigenjunkan.com/