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【クラウドファンディング開催中】65年の歴史に幕「丸の内TOEI」のアップサイクル企画〜支援者はエンドロールに名前を掲載

東映株式会社(東京都中央区銀座3丁目)本社1階及び地下1階にある映画館「丸の内TOEI」が、老朽化に伴う再開発のため、2025年7月27日をもってその幕を下ろします。開館から65年。丸の内TOEI①では現在、「さよなら 丸の内TOEI」と題し、東映の黄金期を彩った名作から近年の話題作まで、100本を越える作品が上映中です。

そして、注目すべきはその“終わり方”です。クラウドファンディング「丸の内TOEI閉館 ファンの皆さまと共に、思い出を未来に繋ぐためのメモリアル企画」を行っているのです。これは、劇場の備品や設備を廃棄せず、未来に活かすためアップサイクルを行うプロジェクトです。閉館を「終わり」ではなく「新しい物語の始まり」ととらえ、映画館という空間そのものを次世代に受け継ごうとする試みです。

クラウドファンディングの受付は7月末までですが、6月30日までに支援をした方には、「さよなら 丸の内TOEI」の予告映像を再編集して制作する特別映像のエンドロールに名前が載るという、ファンにはたまらない特典がついています。

「サーキュラーエコノミードット東京」では、このプロジェクトをサーキュラーエコノミーの視点から注目し、映画文化と資源循環の接点を探るシリーズ企画を展開していきます。

丸の内TOEI、65年の歴史

昭和、平成、令和と多くの作品を上映してきた「丸の内TOEI」は、人々にとってどのような存在だったのか。最後の劇場支配人となった小林恵司さんにお聞きしました。

―丸の内TOEIはどのような経緯で誕生したのでしょうか?

1960年、現本社である東映会館の竣工とともに「丸の内東映」と「丸の内東映パラス」の2館体制でオープンしました。当時の社長だった大川博が『銀座に直営館が欲しい』という願いを持っていたんです。東映の直営館としては70館目でしたが、銀座は当時の興行の中心地でもあったので、ここに映画館を置くことは非常に重要だったんです。

竣工当時の東映会館

昔は映画館だけでなく、ビル内には飲食店や※床屋さん、ネクタイ屋さんなどもあって社員もよく利用していました。屋上にはビアガーデンもあって、近隣で暮らしている、働かれている方々の憩いの場でもあったんです。(※2025年6月30日迄営業)

『仁義なき戦い』『トラック野郎』『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』『セーラー服と機関銃』『時をかける少女』『風の谷のナウシカ』など今なお時代を越えて愛され続ける作品の数々が、この劇場で封切られてきました。

私が入社した1988年頃は『あぶない刑事』シリーズが毎年公開されていました。当時はまだ上映の前後で緞帳が開閉していたんですよ。

最後の劇場支配人 小林恵司さん

1989年3月には「丸の内東映パラス」が「丸の内シャンゼリゼ」と改称、2004年10月に現在の「丸の内TOEI ①・②」になりました。

—閉館に際してファンの方々からはどのような声がありますか?

『子供の頃やっていた『東映まんがまつり』からここに通ってました』と声をかけてくださるお客様がいらっしゃいました。ご高齢の方の中には『なくなるのが悲しくて残念です』と涙ぐまれる方もいらっしゃいます。65年もの間、本当に多くの方々の思い出が詰まった場所なんだなと日々感じています。

「さよなら 丸の内TOEI」プロジェクト

東映作品の公開初日には舞台挨拶が行われ通りに長い行列ができたことも

—そんな丸の内TOEIのフィナーレを飾る「さよなら 丸の内TOEI」とはどのようなプロジェクトなんですか?

一般的な劇場の閉館イベントは、閉館の2週間前くらいから特集上映をして終わりということが多いんですが、『さよなら 丸の内TOEI』では80日間に渡って東映の歴史を追体験して貰える作品の上映はもちろん、舞台挨拶などのイベントやクラウドファンディングも実施する大がかりなプロジェクトになっています。

—若い世代の反響はいかがですか?

作品にもよりますが上々です。ジブリ作品を3作品上映したんですが、チケットは前売りで完売になりました。SNSの反応を見ると、『テレビでしか見たことがなかった』『映画館で見るのは初めて』という若い方も多かったようです。

今回「さよなら 丸の内TOEI」のクラウドファンディングを企画したのは20代〜30代を中心とした若手中堅社員の方々。今回はそのひとりである映画編成部の中田裕子さんに本プロジェクトに対する思いなどを伺いました。

—中田さん自身は「丸の内TOEI」にどんな想い出がありますか?

16年前に受けた新卒採用の二次面接の日、面接前にこの劇場で当時公開されていた『相棒』シリーズの映画『鑑識・米沢守の事件簿』を見たのをよく憶えています。入社後は本社の下に映画館があるという職場環境がとても魅力でした。1階に降りれば、お客様がどれくらいいらっしゃっているか、作品を見終えた後のお客様の反応を直接感じられる。それは社員の誇りでもありました。

本社の下に映画館があることが社員の誇りだったという

—ファンの存在を身近に感じられる職場環境だったことが、クラウドファンディングというファン参加型の企画にも繋がったんでしょうか?

そうですね。私たちにとって映画館というのはいつも作品を介してのファンコミュニケーションの場でした。だからこそ閉館も一方的な発信で終わりにするのではなく、双方向で想い出や感謝を伝え合えるものにしたい。劇場にあるたくさんの思い出をファンの方に感謝を伝えるプロダクトに変えて未来に残したい。それがクラウドファンディングを利用した『ファンの皆さまと共に、思い出を未来に繋ぐためのメモリアル企画』だったんです。

—具体的にはどのようなものなんですか?

丸の内TOEIが閉館した7月27日以降、スクリーンや緞帳、座席など、映画館で使われていた備品をアップサイクルした新たな製品としてファンの皆さまにお届けします。そうすることで丸の内TOEIが消えても、そこで刻まれてきた思い出や記憶はそれぞれの暮らしの中で生き続けるのでないかと考えたんです。

—環境への配慮も?

はい、そういう思いもあります。CSRへの取り組みが重視されてきた頃に総務部で働いていた経験も大きかったですね。これだけ大きなビルの閉館です。環境に配慮して社会に貢献できることがあるのではないか。今回のアップサイクルプロジェクトが社会的にも意義あるものになればと思っています。

それは新しい物語の始まり

—劇場備品のアップサイクル製品にはどんなものを用意しているんですか?

ひとつめは、丸の内TOEI①の座席シート3種類をパッチワーク状に組み合わせたスツールです。脚の部分には家具会社様の椅子の制作過程で余った本来廃棄されるはずだった木材を活用します。

パッチワークスツール ¥200,000

ふたつめは、座席シートとスクリーンを再利用したバスケット。こちらもスツール同様、廃棄されるはずだった木材を使用します。

バスケット ¥100,000

他には緞帳の生地を再利用した巾着袋もご用意しました。日本の映画館で緞帳があるのはとても珍しいこと。丸の内TOEIならではの製品になると思っています。

巾着(紫/深紅) ¥9,000

—最後にファンの方へのメッセージをお願いします。

映画館の座席やスクリーンには、そこで過ごした方々の人生や思い出がたくさん詰まっています。シートのひとつひとつに、そこに座って泣いた方、笑った方、様々な感情を共有した人たちの記憶が宿っています。そんな備品だからこそ廃棄するのではなく、アップサイクルして次の世代に引き継ぐことで、丸の内TOEIの歴史や思い出を残していきたい。未来に繋いでいきたいという思いがあります。

シートの傷や風合いにも幾つもの物語が宿っている

プロジェクトを立ち上げるにあたってメンバーのみんなと社史を読んだり、当時を知る方に話を聞いたりして「東映のこれまで」を学びました。私たちは「東映のこれから」を作っていく世代です。丸の内TOEIという一つの物語はエンドロールを迎えるかもしれませんが、それを別の形に作り変えることで、次の新しい物語に繋げていきたい。ひとりでも多くの方の参加をお待ちしています。

荒波のオープニング映像には「押し寄せる変化の波に負けない」という決意が込められている

65年に渡る劇場の記憶が、様々な製品に形を変えて人々の暮らしに寄り添っていく。そこで生まれた新しい物語が、映画となって東映のシネコン「T・ジョイ」に帰ってくる。そんな未来もあるのかもしれません。

「丸の内TOEI閉館 ファンの皆さまと共に、思い出を未来に繋ぐためのメモリアル企画」
7月31日まで支援を受付中。

6月30日までに支援に参加した支援者全員の名前を「さよなら 丸の内TOEIの予告映像」を再編集した特別映像のエンドロールに掲載する企画も用意されています。