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リユース・資源循環でまちの風景を変える。「ReBuilding Center JAPAN(リビセン)」ストーリー②エリアリノベーション

長野県諏訪市で「地域資源のリユースカンパニー」として、幅広く事業を展開するReBuilding Center JAPAN(以下、愛称のリビセンと表記)。創業までの経緯や「レスキュー」(古道具や古材の買取)の流れなどをうかがった前編に続き、後編ではリビセン周辺地域の変化、事業開始から約10年の現在地、今後の展望などについて、引き続き共同代表の東野華南子さんにうかがいます。

「エリアリノベーション」で変わるリビセン周辺地域

— リビセンの周辺(JR上諏訪駅周辺)は、ここ数年で新たな店舗が増えているそうですね。いずれも古い建物をリノベーションしたお店であり、リビセンが携わっています。

最初は知り合いの移住希望者から相談を受けて、一緒にリビセン周辺の物件を探し、見つかったらリノベーションして……という流れで、少しずつ増えていきました。リビセンを創業してからも全国で店舗リノベーションを続けていたので、それを諏訪でもやっている感じでした 

リビセンがリノベーションした「あゆみ食堂」。
「カフェと暮らしの雑貨店 fumi」(リビセンがリノベーション)は以前は薬局だった。

解体される建物から古材をレスキューするよりも、建物を生かしたほうが廃棄物の総量を減らすことができますから、リノベーションには積極的に取り組んできました。

ただ、徐々にちょうど良い物件も減ってきて……。その頃に夫が「エリアリノベーション」という手法を学び、挑戦してみようという話になりました。

※エリアリノベーション
建物単体ではなく、特定のエリア全体で空き家や空き店舗などをリノベーションにより再生し、魅力を高めて活性化するまちづくりの手法

2022年に諏訪信用金庫、不動産会社、リビセンが共同出資して「すわエリアリノベーション社」というまちづくり会社を設立しました。すわエリアリノベーション社が物件を購入(借用)、リビセンがリノベーションし、完成したら建物を複数の店舗に分割して貸し出します。「サブリース」という仕組みですが、この手法を採用することにより、規模の大きな物件も扱えるようになりました。

すわエリアリノベーション社が最初に手掛けた物件「ポータリー」。4軒続きの長屋をリノベーションした。

— 写真を拝見すると、リビセン周辺は素敵なお店ばかりですね。見ているだけでワクワクします。

リビセンをスタートしてから10年弱で、周辺の雰囲気は大きく変わりました。生活者目線でいえば、歩いて行ける範囲にたくさんお店があって、とても暮らしやすいです!

リビセンがリノベーションした古本屋の「言事堂」(ことことどう)。
「ONE RECORD STORE」(写真奥)は、花屋さん「olde」に併設されている。
「上諏訪リビセンご近所まっぷ」。

— 地域活性化にもつながっているのではないですか。

私の感覚としては、「地域のため」というよりは、「自分たちが楽しく暮らすため」のほうが近いし、嘘がないと感じています。私たちは移住者ですから、地域を主語に語るのはおこがましいというか……。

自分たちが歩いて行ける範囲にお店があったら嬉しいし、知り合いのお店にふらっと寄って話せたら楽しい。そんなふうに暮らしたいと思って、エリアリノベーションを手掛けてきました。その結果として、周辺に住んでいる人も一緒に楽しんでくれたらとは思っていますね。そうやって、誰かの楽しいや嬉しいが他の誰かの楽しいや嬉しいをつくっていくように、お互いの存在を喜びあえたら嬉しいな、と思います。

事業開始から10年 「古材リユース」の現在地

— リビセンを創業して来年(2026年)で10年になります。この間、リユースや資源循環への社会の認識は高まってきました。リビセンの活動も拡大しているように見えますが、実感はありますか。

社会の流れとしては、SDGsが広まったことなど徐々にリユースの機運が高まってきた面はあると思います。ですが、リビセンの活動によって社会が変わった、影響を与えてきたとは思っていません。10年足らずで大きな枠組みを変えることはできない、というのが私たちの認識です。

リビセンはベンチャー企業ですから、試行錯誤の連続です。正解がない毎日のなかでどうやったら事業を継続できるか、社会にとって意味のあるものにできるかを常に考えながら、目の前のことに取り組んできました。

ただ、「リビセンみたいなおみせやるぞスクール」は、活動の広がりを実感できる機会かもしれません。スクールでは、他の地域で資源のレスキューや再利用に取り組みたい人たちに向けて、経験やノウハウを共有するためのレクチャーを行っています。

「リビセンみたいなおみせやるぞスクール」の様子。

リビセンを始めた経緯から始まり、事業の詳細、これまでの失敗まで、講義だけでなくグループワークなども交えながらお伝えしています。

— 失敗まで伝授してくれるのですね。全国にレスキューや資源循環を広げたいという東野さん夫妻の熱意を感じます。何人くらい参加されているのでしょう。

2023年から始めましたが、これまで全国各地から150人以上が参加しています。スクール終了後も、希望する人は月額制のオンライン・コミュニティ「Local Reuse Collective」でつながり、情報交換しています。

グループワークでは参加者同士が対話する時間もある。

卒業生が始めたお店は、既に10件以上になりました。私たちだけでレスキューできる量には限界がありますが、様々な地域での実践が広がれば総量が増えますし、仲間ができることがとても嬉しいです。

「ReBuild New Culture」という切り口で社会を創り、楽しみたい

— リビセンは単にものをリユースするだけでなく、「ReBuild New Culture=使い捨て中心の社会で忘れられていく文化や価値観を見つめ直し、今の社会を楽しみなおす」という理念を大切にされていますね。

私たちにとって、古材や古道具のリユースは目的ではなく、手段の一つです。主眼は「自分たちが暮らしていく社会をどう創るか」にあります。だからこそ、「ReBuild New Culture」という切り口で今できることを絶えず考え、楽しみながらそれを事業にしてきました。「これもReBuild New Cultureだよね」「あっちも当てはまるよね」とアイデアを事業化してきたら、10年弱続いていたという感じです。

2025年に販売を開始した新たなプロダクト「notonly(ノタンリー)」シリーズも、そうした流れから生まれた事業です。古材の魅力をさらに多くの人に知ってもらいたい、「ReBuild New Culture」を楽しむ人の輪を広げていきたいという思いがあります。

notonlyシリーズ第一弾として発売されたフレーム。

—視点を広く持ち、できることを着実に実行されてきたことがよくわかりました。今後の展望についても教えてください。

次の10年では、レスキューの量を増やしていくために、廃棄物処理の仕組みから変えていくことができればと考えています。木材の産業廃棄物の処理の過程で、リサイクルに加えて「古材のリユース」が位置づけられれば、流通が変わります。

現状では、木材はチップなどに加工してリサイクルされていることが大半ですが、使用できるものは古材のままリユースした方が環境負荷は小さいですから、古材のリユースをもっと当たり前にするために、できることから取り組んでいきたいです。

  —実現すれば、日本の古材リユースが大きく変わりそうです。これからの活動にも期待しています。ありがとうございました。