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雪の降る町、新潟、柏崎。

そこには環境を想う力により新たに生み出されたバナナがあります。一般的には熱帯地方の温暖な気候のもと育てられる「南国のフルーツ」バナナ。それが何故、雪国である新潟で栽培できるようになったのか。

バナナ栽培の常識を打ち破り、前人未到の国産バナナブランド「越後バナーナ」を生み出したのは、「シモダ産業株式会社」。産業廃棄物焼却施設の運営や、鋳造の際に使う鋳物砂の製造を生業としており、一見するとフルーツの栽培とは無関係に思えます。

しかし「循環」を軸に、排熱を利用した栽培事業の立ち上げのみならず、焼却灰の無害化・再利用など、新しい試みに挑戦し続けています。バナナを介して循環させる地域環境・地域社会とは?シモダ産業株式会社の常務取締役営業企画部部長、霜田真紀子氏にインタビューを行いました。

※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。

霜田真紀子 常務取締役兼営業企画部長 / 1980年新潟県柏崎市生まれ。早稲田大学卒業後、都内で勤務。柏崎市を震源とした中越沖地震をきっかけに、2008年シモダ産業株式会社に入社。創業時からの事業である鋳造資材部門の営業や経営戦略を担当。その後2017年に新規事業の産業廃棄物焼却施設の申請及び営業全般に携わり、2019年からはシモダファームのスキーム構築も担当。

産業廃棄物処理という仕事

国内で発生する全てのごみは、家庭から出てくる「一般廃棄物」と、それ以外の「産業廃棄物」とに分類されます。

一般廃棄物は自治体が運営する焼却施設で処理され、産業廃棄物は民間許可業者で処理されます。これらを一緒にすることは法令違反とされています。

産業廃棄物の処理工程は、まず木・鉄・紙・プラスチックなど素材ごとに「選別」します。次に再生原料化(マテリアルリサイクル)され、その上で再生困難なものやコストが見合わないものが燃料化(サーマルリサイクル)されます。つまり、価値の高い順に再利用されていくわけです。

それらの工程で出てきた不純物や、混ざってしまって選別できないもの、つまりどうにもならない廃棄物が焼却処分に至ります。

焼却に回るのは事業系一般廃棄物が多い。

-焼却施設ではどのようなものを処理していますか?

受け入れている中で一番多いのが廃プラスチックで、事業系一般廃棄物の廃プラ混合というのがメインです。 

具体的にはオフィスで出る弁当ガラや梱包資材など、排出時点で混ざってしまったものが、ビルメンテナンス会社さんや都内の中間処理業者さんを通じて搬入されます。

クレーンで廃棄物を焼却炉に投入する

また当社では、処分が難しいと言われる医療系廃棄物(感染性産業廃棄物)の処理にも力を入れております。こちらは直接焼却炉に投入する装置を備えていて、安全・清潔に処理ができます。

医療廃棄物の投入ピット。開封せず安全に焼却処理ができる。

-これは処理に困るというものはありますか?

基本的に、もう再資源化もどうにもならないものが最後うちに回ってきてる認識なので、強いて言えばサイズの大きなものが困ると言う程度です。

あとはガラスですね。炉内で固まってしまって止まることもあるので、構造的にちょっと困ります。

農業を選択したきっかけは「循環」

ビニールハウスは高さが5mある、大型のバナナ専用ハウス

―栽培事業とは縁がなさそうに思われますが、バナナ栽培に取り組んでいると伺いました。どのようなきっかけでスタートされたのですか?

廃棄物の焼却処理にはどうしても排熱が発生します。 その排熱で温めた温水を、バナナ栽培のためのビニールハウスの温度管理に使えないかと考えたことがきっかけです。

かねてより「循環」を事業の大切なテーマとして扱ってきた当社に、この着想はぴたりとはまり、トントン拍子で前例のないサーマルリサイクルによるバナナ栽培が始まりました。

焼却炉内のコントロールセンター

―なぜバナナを選んだのですか?

これはうちの社長の話なのですが、以前フィリピンの方に「故郷のバナナはもっとおいしい」言われ、実際に海外に行った際に完熟バナナを食べてみたら、その濃厚な甘さとおいしさにこれまでの概念を覆され、感動を覚えたそうです。

日本で食べられているほとんどのバナナは輸入品で、まだ実が青いうちに収穫し流通の過程で熟成されています。そのため樹の上で熟成されたバナナと比較すると甘みや香りが弱く、バナナ本来のおいしさが発揮されていないのです。

その衝撃的な経験により、日本で、その中でも特に我々の住む新潟で、おいしいバナナを栽培したいと強く思うようになり、バナナ栽培に踏み出しました。そうして生まれたのが「越後バナーナ」なのです。

―焼却炉の排熱を農業に転用するという手法は、一般的な選択肢なのでしょうか?自治体の焼却炉は温水プールの熱源にするケースが多いと聞きます。

もし温水プールや温泉を作りそこに循環するとなると、施設を建てるために莫大な建設コストがかかってしまいます。それに比べて栽培用のハウスは、熱を運ぶコストも建設費も比較的小さくすみます。

バナナ栽培も単体の事業として採算が合わなければ続けていくこともできなくなります。それでは意味がないので、今回は事業としては良い選択ができたと思っています。

難しいからこそ施される数々の工夫

育成中の果実は傷つけないよう細心の注意を払って扱われる

―日本の、しかも雪国でバナナ栽培に挑戦することは、やはり難しいものなのでしょうか

そうですね。そもそも温暖な地域とは土の質も違いますので。ただ、それ以上に大変だったのは気候です。新潟は冬場はほぼ毎日曇っている、少し特殊な気候なのです。

だから、他所で農業を学んできた優秀な人材ですら、当初は苦戦を強いられました。前例のないこのチャレンジにおいては、過去のノウハウは一切通用せず、ほとんど0から組み立てたようなものです。

―大変な取り組みだったのですね。ところで、排熱がどういった形でバナナ栽培に利用されているのか教えて頂けますか?

焼却炉から発生する温水や熱湯を利用しています。焼却炉の周りは常に冷やし続けなければいけないのですが、冷却用の水はすぐに90°近くまで温度が上昇します。その後、冷却に使用した熱湯は冷却水タンクに入り、またすぐに焼却炉の冷却に使われます。

このサイクルの途中で温水をハウスにもっていき、ハウス内の温度管理に使っています。

焼却炉から熱供給を行う配水管

―その方法でハウス内を何度くらいの温度に保っているのですか?

真冬でも24°以上です。最低気温が氷点下を下回ることがある雪国では、到底考えられない暖かさを保つことができています。

真夏は逆に、温度を上げすぎないよう注意が必要です。ハウスの窓を開けて風通しをよくし、35°以内に収められるよう工夫しています。暖めればよいだけの真冬より、むしろ夏場のほうが温度管理に関しては大変かもしれません。

―栽培の時に出る廃棄物はどうされているのでしょうか?

リモートで取材に答えていただいた霜田氏

バナナは植物ですので、採取の際に切り株などの廃棄物が発生します。それらは焼却施設で燃やすこともできますが、それでは勿体ない。

そこで、古皮を再生紙として循環させるため、いわゆる「バナナペーパー」として和紙工房と提携し、「越後バナーナ和紙」として商品化を進めています。

―無駄のない素晴らしい取り組みですね。肥料はどうされていますか?

越後バナーナ専用の肥料を使っているのですが、これは企業秘密です。化学肥料を使わない、いわゆる有機栽培により、自然の力で育てています。農薬も使わないため、葉や実の健康状態をひとつひとつ個別にチェックしております。

実は、地域循環を念頭に、食品残渣由来の肥料を活用することも検討したのですが、バナナの生育への影響が不明瞭なこともあり、実現には至りませんでした。

代わりに、栽培の段階でどうしても出てしまう規格外のバナナを、地域の青果店や飲食店さんに卸して商品化をお願いするなど、異なるアプローチで地域循環に貢献しています。

どのお店も「越後バナーナ」の価値を理解してくれており、地域の特産品を使ったブランド性のあるメニューとして店頭に並べてくださっています。流行りのフルーツサンドや定番のケーキ・ドーナツなど、好評の声をたくさん頂いております。

規格外と位置付けたバナナが新たな価値を生み出しており、嬉しく思います。

新潟から日本全国へ

―ちなみに、御社の排熱の有効利用といった文脈に共感されている取引先が多いのですか?

はい。我々も当初は、果物自体の味や品質だけが決め手になると想像していたのですが、当社のサステナブルな取り組みや、「新潟でバナナ」という希少性に興味を持って頂くことが多いです。今の販売代理店さんも、収穫する前から取引が決まっていたほどです。

―ぜひ食べてみたいですのですが、どちらで購入できますか?

現状は新潟県内でのみ販売しております。ありがたいことに生産分はすべて県内で消費されており、県外需要には対応しきれていない状況です。県内在住の方から贈答品として送っていただくか、今年はふるさと納税の返礼品にもなりましたので、そちらからお求めいただければと思います。

―県外の人間が購入できるのはいつ頃になりますか?

まさにこの春、新たにハウスを増やしました。来年からは収穫量が増えますので、今の段階で対応できてない県外、特に首都圏への出荷を積極的に進めていく予定です。

県内ではいわゆるデパ地下や高級フルーツ店で、贈答品として扱って頂いております。首都圏の方にもそういった、ブランドを感じてもらえるような方向性で卸せればと思っています。

さらなる発展と課題

―今後の方針をお聞かせください。

引き続き「循環」をテーマとした取り組みを続けて参ります。「越後バナーナ」を通じて地元企業や教育現場との連携を図り、地域の環境・社会・経済の循環と活性化に貢献していきたいと考えております。

―特にどのような部分に力を入れていきたいですか

日々焼却される大量の廃棄物

再資源化事業に一層力を注いでいきたいと考えております。

「人が嫌がることをやる」と表現すると語弊があるかもしれませんが、やはりどうしても出てくるもの。そして最後の最後に、「どうすることもできないもの」を扱う、それが焼却です。こちらについて今以上に特化していくことを視野に入れております。そのために、様々な物を処理できるように焼却施設を進化させていくといった、更なるアレンジを検討しなければなりません。

―その方向性に展開していく上で課題は何だとお考えですか?

ここ最近の脱炭素化の動きです。その方向への変化のスピードがあまりに速いと感じますし、すべての業種に同じような目標で水平展開して良いのかという恐怖もあります。

例えば、脱炭素という側面だけで考えると、焼却せずにそのまま最終処分場に入れれば良いという話になりかねません。しかし、それでは環境のバランスが崩れてしまいます。本来の焼却の役割が失われ、本末転倒な事態にならないよう、目を配らなければなりません。

最後の最後に「どうすることもできないもの」を扱っていることの価値や大切さを、改めて世に伝えていかなければならないと思います。

2021.09.15
取材協力:シモダ産業株式会社
越後バナーナ

古今東西、燃やせない廃棄物はない

あらゆる廃棄物を処分するための最終手段は焼却です。1,000度以上となる焼却炉内では、基本的に燃えないものはありません。しかし消えてなくなるわけではなく、その成分のほとんどは「ガス」として空気中に飛散し、残りは「燃え殻」「ばいじん」となって残ります。

「燃え殻」は炉の底に残る燃えかすで、「ばいじん」は煙に含まれる煤などをキャッチして固形化したものです。

燃え殻
ばいじん

これこそが我々の出した廃棄物の末路です。そしてもちろん、これを欲しがる人は誰もいないため、最終処分場という場所に運ばれ、埋め立てられることになります。最終的には、使いづらい土地だけが残ります。

廃棄物処理を動かす市場原理のメリット、デメリット

しかし、国内で出る産業廃棄物のうち、埋め立てられるのは全体のわずか2%(2019年度)です。

出典:環境省 R1産廃排出・処理状況調査報告書

そこに至るまでの過程で、徹底的に再利用、再資源化がなされ、そのほとんどが脱水・焼却などによる減量化と、有効利用されています。その背後には、最終処分場に埋め立てるコストが最も高く、採算ラインまで人手をかけてリサイクルすることができるという、市場原理が働いています。

逆に言えば、お金さえあれば丸ごと燃やして埋めてしまう方が簡単なのです。実際、自らのブランド価値を守るため一切のリユース・リサイクルを許さず、そのまま焼却して欲しいという話はいくらでもあります。一般論として、そういう顧客に対して処理側が何か言えるわけはないですし、市場原理の限界がこのあたりに見えてきます。

排熱という大いなるムダ

物質的に残るのは「ガス」「燃え殻」「ばいじん」ですが、それよりはるかに重大なのが熱エネルギーのロスです。焼却炉は基本的に24時間稼働なので、常に廃棄物由来の熱エネルギーが発生しています。しかし多くの焼却炉では、ほとんど有効活用できていません。

熱の活用方法としては、「発電」と「熱供給」があります。「発電」は、燃焼時の蒸気を用いてタービンを回してエネルギー転換をします。

しかし、全国約1,100ヶ所ある自治体運営の焼却施設のうち、2018年時点で発電を行うごみ焼却施設数は379であり、全体の3分の2は単純焼却に留まっているのが現状です。(産廃発電のデータはないため参考)

なぜなら、発電設備の導入は、焼却炉をもう一基建てられるほどのコストがかかり、小〜中規模の焼却炉ではとても採算が合わないからです。廃棄物という特性上、よく燃えたり燃えにくかったり、出力が安定しないという事情もあります。

熱供給は、高温となった冷却水を使って暖房や温水とすることでガスの代替とすることができます。ところが、ガス管と同様、温水供給管というインフラが必要なため、日本ではほとんど導入が進んでいません。せいぜい、隣に温水プールを設置するくらいしか方法がないのです。

サーマルリサイクルの事業化

新潟県柏崎市で産業廃棄物の焼却施設を運営するシモダ産業株式会社は、焼却炉の排熱をビニールハウスの温度管理という形で活用し、「シモダファーム」という単体事業としての成立を前提に展開しています。

この「排熱利用(=サーマルリサイクル)の事業化」という点が非常に重要で、自治体も多くの民間焼却施設も、ここが難しいため熱エネルギーが垂れ流しになっている現状があります。

シモダ産業では、「新潟でバナナ」という革新性と「サステナビリティ」という特性をうまく活かし、高付加価値の商品を生産することに成功しています。

このような事業化のセンスが注目され、シモダファームでは続々と視察や見学の申し込みが集まっているそうです。例えばこのノウハウを横展開できれば、停滞する日本の排熱利用にとって良い影響が生まれるのではないでしょうか。

シモダファーム(越後バナーナブランドサイト)
シモダ産業株式会社