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サーキュラーパーク九州株式会社(以下、CPQ)は2023年7月に設立し、2024年度からの企業や地域の廃棄物再資源化事業の開始に向けて、鹿児島県薩摩川内市内の火力発電所跡地の整備を進めています。同時に、産官学のネットワークを活用した共同研究や実証実験、コンサルティング等の展開を予定しています。

2024年2月28日、異業種間での情報交換を促進する場として「第1回CPQ サミット」が開催されました。そこで取材した、現在のCPQの進捗と地域市民を巻き込んだサーキュラーモデルの構築に挑戦する担当者の想いをご紹介します。

これまで社会を支えた場所が次の時代を担う場所へ

サーキュラーパーク九州(株)リソーシング事業部長 中台 明夫氏

サーキュラーパーク九州株式会社(以下、CPQ)は、2023年7月に九州電力株式会社とナカダイホールディングスの2社の共同で設立されました。「From LEGACY to the FUTURE」をコンセプトに、一昨年に廃止された鹿児島県川内火力発電所を「産業の遺産」としてではなく、「新たな挑戦の場所」として位置づけ、サーキュラーエコノミーと脱炭素化をキーワードに九州から地域循環モデルを作り出し、持続可能な社会の構築を目指しています。

さらに、「CPQビジネスフレーム」という枠組みを創設し、世界の同じ思いを持つ地域や企業に向けて知見とネットワークを共有し、新たなビジネスの創出や社会実装を目指しています。

市民の生活を支えてきた火力発電所をリノベーション

発電所の主要設備を活用したカンファレンスやコワーキングスペース、イベント施設などが計画されています。また、宿泊施設やカフェ、レストランも併設され、市民に資源循環について考える場や憩いの場を提供します。

将来的には敷地全体を活用して資源循環の取り組みを展開し、物流拠点の整備や域内廃棄物の再資源化、リユースの促進などを行います。具体的な取り組みとして物流企業と連携し、事業で発生する廃棄物の再資源化やリユースの提案、企業の備品や在庫管理されているもののリユースやリサイクルの提案なども行う予定です。

CPQサミットにて 薩摩川内市の田中亮二市長よりメッセージ

田中市長:SDGsとカーボンニュートラルの達成を重要なビジョンと位置づけ、2021年に薩摩川内市が未来創生とSDGsの実現を宣言しました。2050年までに市のCO2排出量をゼロにする「ゼロカーボンシティ薩摩川内」の目標を掲げており、2022年5月には内閣府のSDGs未来都市に選定されました。

CPQの設立に際して、薩摩川内市は川内火力発電所の活用を通じて資源循環の拠点を整備する取り組みを行っています。これには、地域との連携や協定の締結、事業化の発表などが含まれており、2022年にはアフターコロナの地域展望を公表し、川内港の臨海ゾーンに循環経済産業拠点を創出する計画も進行しています。

CPQの事業構想、サーキュラーエコノミーを促進する2つの柱

CPQサミットにて サーキュラーパーク九州(株)代表取締役 春木優氏

春木:CPQの事業は、リソーシング事業とソリューション事業の2つの柱に焦点を当てています。

まず2024年4月に開始予定のリソーシング事業では、川内火力発電所をリノベーションした施設内にて、一般廃棄物や産業廃棄物の収集運搬・処理を行います。地域の企業や市民の廃棄物を再資源化し、CO2排出量を削減することで脱炭素化に貢献します。

さらにソリューション事業では、産官学の連携による研究開発や実証実験を通じて、サーキュラーエコノミーに関する課題の解決を目指します。

ーリソーシング事業について、CPQのリサイクル施設ではどのような廃棄物を処理することができるのでしょうか?

中台:主に企業様からの廃棄物やリサイクル可能な資源を集めることを想定しています。地元の企業様からの廃棄物や再利用可能な素材を対象にしており、丁寧な分別によって資源化に向けていけるものを重点的に取り扱います。

多くの地域では、廃棄物の中にまだ資源化可能な部分が含まれていることが多いため、選別や分別作業が重要視されています。実際にお客様からも、単に廃棄物を処理するのではなく、リサイクルや循環利用に向けた取り組みを一緒に行いたいという相談を多くいただいています。そのため、リソーシング事業において単に廃棄物のリサイクルを行うだけでなく、選別やリサイクル方法に関するアドバイスやサポートをおこなうソリューション事業も提供していく予定です。

ー参画企業の皆様とは具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか?

中台:サーキュラーエコノミーでは、製造から使用、そして解体までのサイクルを考慮した取り組みが重要視されています。たとえば、製造段階で我々のようなリサイクラーからの情報をもとに、再利用可能な素材や製品の開発を行うことが挙げられます。これによって将来的な解体や再利用の手段が整備され、製品の持続可能性が向上し資源の効率的な利用が図られます。 

ただし、それは容易ではありません。例えばリサイクルしやすい椅子を設計したとしても、それが廃棄される時にまとめて焼却されてしまえば全てが水の泡です。そのサイクルが1~2年であればトレースして回収することも可能かもしれませんが、そもそも長持ちする製品を作らなければ本末転倒ですので、10年20年後に誰がそれを扱っているのか、実証するのは難しいと考えます。その解決策の一つが、今回パートナーシップにご参画いただいているサトーホールディングス様の「タギング」技術です。

〈CPQビジネスフレーム参画企業との協業〉タギング技術を活用したトレーサビリティの確保

CPQサミットにて サトーホールディングス(株)代表取締役 小沼宏行氏

小沼:サトーホールディングスは、ハンドラベラーやバーコードプリンタなどの製品を開発販売し、情報化社会の時代にクラウドコンピューティングやIoTを活用したソリューションを提供してきました。具体的には、製造業では原材料管理や工程管理、食品関連では衛生管理やアレルギー管理、物流関連では商品管理やピッキングなどで用いられる「タグ(ラベル)」を元に製品の情報化を行っています。

元々は値札のような単一情報だったタグですが、バーコードそしてRFIDと情報量が増え、最近では物の状態情報を取得し、それを分析することで得られる価値に注力しています。

当社が長期経営方針として掲げる「Tagging for Sustainability」では、製造段階から廃棄物の再資源化までのプロセスを可視化し、効率的なリソース管理を実現することを目指しています。

サーキュラーエコノミー実現のためには、情報の可視化とトレーサビリティの確保が不可欠です。廃棄物の量や状態情報をデータ化し、リアルタイムで把握することで、供給の計画や生産予測を行うことが可能になります。それを可能にするのが、当社の持つ様々な業種にわたる幅広いカバレッジです。我々は例えば、厳しい管理が求められる医薬品・医療機器業界のサプライチェーンを支え、他の業界に展開するなど、異なる業界での経験やノウハウを活用してきました。これにより、複雑な流通構造を持つ廃棄物業界での展開にも優位性があると考えられます。

今後は、ソリューションベンダーとしてのシステム開発やメーカーとしてのリサイクルモデルの形成に取り組み、CPQとの共創を進めていくことを予定しています。

サーキュラーパーク九州が広めたい文化や循環の在り方

ー今後サーキュラーエコノミーを進めるために、CPQとして具体的に取り組みたい課題はありますか?

中台:サーキュラーエコノミーの課題の一つは、未成熟な再生材市場の開発だと考えます。例えばボトル to ボトルなど、同じ製品に再生する水平リサイクルは理想的ですが、食品関連など衛生的に困難な場合もあります。そのため、新たな再利用方法や技術の開発が求められています。

この課題に取り組む中で、業界を横断した連携が重要とされています。再生素材の利用先を拡大するためには、ペットボトルなどの再利用先を例えば建築業界などに拡大する取り組みが必要です。我々のようなリサイクル業界は多業界に渡ってお取引がありますので、連携を推進するハブのような役割を果たすことができると思います。

そのためには、企業や政府、消費者の皆さまの協力が必要です。製品設計や回収など、循環経済に関わる各プロセスにおいて、特定の誰かではなく全ての関係者が協力や汗をかいて取り組む姿勢が重要だと考えています。

ー中台さんとして社会に向けて共有したい価値観とは?

中台:私はやはり「想像力」だと思います。目の前に見えてる世界の一歩先や後を見て、どうなっているのか考えてみることです。例えばごみを出した後にどこに行くのかを考えると、ごみの種類によって持って行く先が違っていて、それぞれ色々な事情で負荷がかかっている。そこは自分では変えられないけど、買うところは変えられるとか、様々なことがわかってきます。

それこそサトーホールディングスさんとご一緒させていただいて、初めてタギングという技術を知った時、自分の視野が広がった感覚がありました。するとまた新たな課題が見えてくるんですが、私はそれは課題というより面白さ、好奇心だと思っています。そんな価値観を共有する輪を広げて行くことが、チャレンジだと思っています。

2024.02.28
取材協力:サーキュラーパーク九州株式会社
https://www.circular-park.jp/
サトーホールディングス社内にて