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愛知県は、サーキュラーエコノミーを推進するため、プラスチック、バイオマス、繊維、衣料、太陽光パネルなどテーマごとにプロジェクトチーム(PT)を設置。地域の事業者、金融機関、大学等が参画して取り組みを進め、成果を上げています。

名古屋市の愛知県庁 環境局 資源循環推進課内「あいち資源循環推進センター」を訪問し、取り組みの概要と、PTから生まれた循環スキームの最新事例についてお話を伺いました。

愛知県庁西庁舎1階に設置された「あいち資源循環推進センター」の展示コーナー

サーキュラーエコノミー推進プロジェクトとは

—資源循環の展示コーナーを拝見しました。愛知県はウェブでの情報発信も盛んです。このようにサーキュラーエコノミーに注力するようになった背景を教えてください。

現在、愛知県では「あいちサーキュラーエコノミー推進プラン」に基づき各種取り組みを進めています。これまでも、前プランである「あいち地域循環圏形成プラン」をもとに資源循環の取り組みを行ってきましたが、さらなる加速化を狙ってプランを改定することになり、有識者を中心にさまざまな方のご意見をいただきました。

環境を取り巻く国内外の動向も考慮に入れた結果、今後は循環経済(サーキュラーエコノミー)の観点が必要であるということで、2022年3月に本プランが策定されました。サーキュラーエコノミーを中心に据えた自治体のプランとしては本県プランが全国初となります。

プランには愛知県ならではの産業の特徴などは反映されたのでしょうか。

プランには4つの基本施策がありますが、その中で「サーキュラーエコノミー推進モデル」が愛知県の地域や産業の特性が最も反映されたものになるかと思います。これは、資源分野ごとに理想としての循環モデルを示したものであり、関連する事業者が連携した「あいちサーキュラーエコノミー推進プロジェクトチーム」(以下PT)により、モデルの具体化を目指していくものです。2023年1月にPTを立ち上げ、県はその後方支援を行っています。現在、6つのモデルで、7つのPTが稼働しています。

PTねらい参画事業者数
PT1:
プラスチック循環利用
廃プラスチックのマテリアルリサイクルの拡大19者
PT2:
バイオマスプラスチック循環利用
プラスチック代替となるバイオマス複合プラスチックの普及拡大14者
PT3:
太陽光パネル循環利用
2040年頃の大量廃棄を見据えた太陽光パネルの循環利用15者
PT4:
繊維・衣類循環利用
資源回収されていない衣類の再資源化10者
PT5:
リペア・リビルド普及
リペア・リビルド技術の活用による設備・部品の長寿命化8者
PT6:
廃食用油利活用
廃食用油をバイオ燃料として活用するリサイクルシステムの確立11者
PT7:
木材資源利活用
木質廃棄物や未利用森林資源を有効利用するビジネスの創出・拡大13者
https://aichi-shigen-junkan.jp/circular_economy/project より

プロジェクトチームに延べ90の事業者が参画

プラスチック循環利用モデルには2つのチームがあるのですね。

愛知県はプラスチックの製造品出荷額等が全国一であることや、また海洋プラスチック等の社会課題となっている分野でもあり、事業者の皆様の関心が特に高い領域でしたので、プラスチックとバイオプラスチックの2つのPTを立ち上げるに至りました。

PT3の太陽光パネルに関しては、愛知県は住宅用太陽光発電施設の設置数が全国一であることから、将来的に懸念される大量廃棄にも備える必要があると考え、取り組むこととしています。また、繊維、廃食用油、木質資源なども地場産業での循環利用が求められる分野です。

PTのメンバー事業者はどのように集めたのですか。

公募を行いました。エントリーの際には、事業における本プロジェクト分野での課題認識や必要と考える取り組み、提供いただけるリソースなど、具体的な内容も示していただきました。

参画メンバーは現在68事業者、複数のPTに参加している場合もあるので、延べ90事業者になっています。愛知県で事業を行うのであれば県外企業でも参画できます。メンバーには大学や自治体も含まれており、オブザーバーとして金融機関や国にも参画いただいています。

PTの期間はどれくらいを想定されていますか

プラン自体は10年計画ですが、PTは5年をめどに事業化を目指すと、事業者の皆さんにはお伝えしています。

PTから生まれた空港でのプラ循環スキーム

それぞれのPTで循環型の構築を目指している中で、進捗が早い分野はありますか。

PT1(プラスチック)で比較的進捗が見られます。1つの事例として、中部国際空港(セントレア)において、全日本空輸(ANA)が排出する航空貨物用のストレッチフィルムを空港で使用するポリ袋として再生し、循環利用する資源循環スキームをPT1のメンバー事業者が協働で構築し、7月より稼働しています。

興味深いですね。きっかけから教えてください。

ストレッチフィルムは荷崩れ防止のために空港でもよく使われる梱包資材ですが、シール等の付着や汚れなどがありこれまでリサイクルが難しく、ANAだけで年間20トンが廃棄されていました。空港側がこの課題について解決策を探っている中で、ウェブページから本県PTを知っていただき、循環利用に向けて一緒に取り組めないかとご相談いただいたのがきっかけです。

空港で使用されるストレッチフィルム

それを受けて、関連しそうなPTメンバー企業さんにお声をかけて集まっていただき、連携スキームを作るための話し合いを始めました。どのような製品化が可能かから検討を始め、品質やコスト面で難しい局面もありましたが、関係者で協議を重ね、最終的に、セントレア、ANA、PTのメンバー企業3社が連携して、空港から回収したフィルムをペレット(再生原料)化し、再生ポリ袋を生成して空港で利用するという循環スキームを構築することができました。このスキームでは年間20トンのストレッチフィルムが再生利用され、まずはそのうち4トンが再生ポリ袋として空港で利用されます。

中部国際空港のプラ循環イメージ図

①ANAは貨物を梱包したプラスチックフィルムの付着物を除去し回収
②大和エネルフ(株)は空港にてANAから回収・三陽化学(株)へ搬入
③三陽化学(株)は圧縮されたプラスチックフィルムを回収し、ペレットに再生
④愛知プラスチック(株)はゴミ袋へ再生化
⑤セントレアはゴミ袋を購入。ターミナルビル内のゴミ箱へ設置。

素晴らしい循環の仕組みですね。苦労されたことがあれば教えてください。

苦労するのは、やはり循環のサプライチェーンを新たに作るというところだと思います。従来のように標準品のポリ袋を調達するのとはまったく違います。例えば、リサイクラーとポリ袋を作る会社とは業界が全く違いますから、これまでまったく接点がなかったわけです。PTという場があったからこそ連携することができたと思います。

また、空港で使用されるゴミ袋は透明でなくてはならないため、100%再生材を使うことは難しく、バージン材を何%使うかという実証を行い、結果的に50%ということになりました。試行錯誤の中で仕上がりが不十分な場合、標準品であればメーカーに言えば済むことですが、循環型の新しいスキームではどこのプロセスに問題があったのかをすべて辿って検証しなければなりません。これは協力体制がないとなかなかできないことだと思います。

バイオプラスチックでの産官学連携

他にはどんな取り組みがありますか。

バイオプラスチック分野のPT2で、アサヒユウアス株式会社と株式会社メニコン、そして金城学院大学の産官学連携で、愛知県内のバイオマス原料を活用して「wine loopプロジェクト」を行いました。学生が愛知県内のワイナリーのぶどうの搾りかすを利用した製品企画・デザイン提案を行い、PT2の事業者が試作・製品化を進めました。

産官学連携の「wine loopプロジェクト」で学生が提案したループタイ

他にも、愛知県内のさまざまな地域のバイオマス原料を活用した、バイオマス複合プラスチックタンブラーの商品化を進めています。

抹茶、ぶどう搾りかす、ヒノキ、ふすまなどさまざまなバイオマス素材を使ったバイオマス複合プラスチックタンブラーの試作品

そのほか、プラスチックの分野では複合素材のペレット化や再生ポリ袋の製造、繊維・衣類の分野ではワーキングウェアの循環利用等の取組が進められています。太陽光パネルの分野では、将来的な大量廃棄に備えて、ガラスの循環利用やパネルリユース等の取り組みが検討されています。

愛知県の役割と今後の課題

お話を伺うと、このような循環スキーム構築において行政の役割は大きいと感じます。

循環は、いわば輪を作ることですから、ていねいに話を聞いて「これまで繋がっていなかったところを繋げる」という点が一番重要で、それはやはり公平性が求められる行政だからできるという部分があると思います。愛知県は、PTという場を提供し、動脈産業と静脈産業の枠を超えて異業種の企業をつなぎ、課題解決に向けた調整役を担っています。

また、現場での分別の提案や法的な助言なども行っています。事業者さん同士だとなかなか言いにくいところでも行政の立場であれば言えますし、聞いていただけるというのはあると思います。

おかげさまで最近は問い合わせも増え、循環利用の相談を受けることもとても増えてきました。

今後の課題を教えてください。

PTによって課題や必要な取り組み、また業界の課題等がさまざまなので、それらを踏まえてPTごとに成果を出していくのが難しい部分でもあり、今後の課題です。また、循環スキームによる製品はどうしても割高になるというコスト面での課題もあります。愛知県では、従来から「あいち資源循環推進センター」を拠点として、補助金や表彰制度、情報発信等により、一貫した循環ビジネス支援を行っています。こうしたセンター機能も活用しながら、今後もPTの活動を後押しし、一つずつ成功事例を増やしていきたいと思います。

▶あいちサーキュラーエコノミー推進プラン
https://aichi-shigen-junkan.jp/circular_economy/plan

▶プレスリリース「ANAと中部国際空港(株)が中部国際空港における資源循環型スキームを
愛知県のプロジェクトチームと共に構築」
https://www.anahd.co.jp/group/pr/pdf/20240709.pdf

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