「なにもない」といわれ放置された土地や赤字経営だった場所にも関わらず、祝日や週末はほぼ満室のアウトドアホテルの「Earthboat」。しかも、素泊まりで平均4万円前後からと決して安くはありません。大阪・関西万博でも注目されたサステナブルな新建材のCLTを使い、基礎が不要で自然環境に負担をかけない、新しいツーリズムの形の「Earthboat」を体験してきました。
何もない捨てられた土地が人気リゾートに!

「Earthboat(アースボート)」のコンセプトは、至れり尽くせりのラグジュアリーなサービスのリゾートではありません。日常から少し離れ、自然の中で過ごす時間を快適に楽しむためのアウトドアホテルです。言わば、キャンプ体験のアップデート版。美しい景色を眺めたり、満天の星空を楽しんだり、非日常的な特別な時間を過ごすことができます。
この体験を提供するため、現在、全国9カ所ある「Earthboat」は地元の人には「なにもない」と言われている自然に囲まれた場所に展開。
「Earthboat」という名称も周囲の大自然も含めて「Earthboat」の一部であり、広大な自然の中に浮かぶ小舟のような存在でありたいという思いから生まれました。
「Earthboat」を始めたきっかけは?
「『Earthboat』は自然の中で過ごす時間の価値を、もっと多くの人に届けたいという想いから始まりました」と「株式会社アースボート」の代表取締役の吉原ゴウさんは語ります。
「キャンプは自由で豊かな体験ですが、ハードルもある。一方でホテルは快適だが、自然との距離がある。その間にある“ちょうどいい体験”がつくりたかった」とも話してくれました。
なぜあえて田舎に展開?
全国に点在する使われていない遊休地を活用しながら、自然に対してローインパクトな宿泊体験をつくることも「Earthboat」にとって大きなテーマであるとのこと。
また、東京に一極集中している状況において、過疎化などの社会課題を解決でき、なおかつ産業自体が伸びていく可能性を見出し、「Earthboat」は田舎に展開することを決めました。
なぜトレーラーハウス型に?
従来、宿泊施設の開業には、莫大な設備投資と運用コストがかかります。「Earthboat」は1台設置するだけで、すぐにリゾート運営を開始することができ、初期投資を抑えられます。さらに高断熱・高蓄熱により、冷暖房負荷も軽減できるとのことです。
また、トレーラーハウスの特性として、基礎工事が不要で、事業撤退や変更の場合には移設や撤去を簡単に行うことができます。これにより、土地を元の状態にして返すということが比較的簡単になります。
日本の観光地では、老朽化や事業の衰退でホテルが地域の負の遺産となることがあります。「Earthboat」は移動可能なトレーラーハウスであることの利点を最大限に活かし、環境負荷が低く、事業の柔軟性も確保した展開を行なっています。
完全オリジナルのトレーラーハウス

「Earthboat」のトレーラーハウスは完全オリジナル。吉原さんは、現在のトレーラーハウスを作る前に、全国各地のトレーラーハウスメーカーを見て回るものの、1泊4~5万円の価値を提供できるようなトレーラーハウスはありませんでした。それなら、自分で作ってしまおうということで、トレーラーハウスの開発から始めたそうです。
道路を牽引して移動させるトレーラーハウスは、道路交通法に則ったサイズ規定があります。「Earthboat」は内寸だと22平米ほどで、都会のワンルームほど広さ。定員の大人3人が泊まれる空間と、キッチン、トイレ、シャワー、そしてサウナまで設置した緻密な設計となっています。
「Earthboat」のデザインコンセプト
「Earthboat」のデザインは、自然の中に置かれても違和感のない、シンプルで普遍的な形を大切にしています。分厚いCLT建材を用いた重厚感のある佇まいは、従来のトレーラーハウスの印象を覆し、「建築」として自然に溶け込む存在を目指しています。
室内には大開口の窓を設け、内と外の境界を曖昧にすることで、風景を取り込みながら過ごせる空間に。派手な装飾に頼らず、素材の表情と自然とのつながりを活かし、時間とともに完成していくデザインを実現しているとのことです。
大阪・関西万博でも注目の環境負荷の低いCLTを利用

近年注目されている建材、CLT(Cross Laminated Timber)を利用して、「Earthboat」は製造されています。
CLTは、大阪・関西万博の大屋根リングなどに使われた新建材としても注目を集めました。
厚さ30mmの国産杉材を4層に重ね、合計120mmの厚さのパネルを作り、それを壁、床、天井に使って製造。木材の木の厚みだけで断熱、蓄熱を行なっているため、断熱材などは一切使用せず、省エネを可能とし、天然の木の温もりを感じながら快適に過ごすことができます。
CLTってどんな建材?

CLTとは「Cross Laminated Timber」の略語で日本語では「直交集成板」と呼ばれています。繊維方向を交差させた板を、何枚も貼り合わせて作った板のことです。
CLTは、活用できない間伐材やランクの落ちたB材などを建材として利用することができます。また、木材の使用は資源を消費するというイメージがありますが、日本には多くの人工林があり、伐採の適齢時期を迎えている多くの木があるにも関わらず、活用されていません。手入れがされず、森が荒れているにも関わらず、輸入に頼っているという問題点もあります。
特に戦後に大量に植林され、多くの方が花粉症で悩まされている杉の木。杉は、そのままでは、柔らかく、建材に向いていませんが、CLTの技術を使えば強固な建材に変わり、余剰している杉の木を活用することができます。
CLTは再生可能な森林資源から成形され、解体後は他の建材として再利用も可能です。また、最終的にはバイオマス発電の燃料にもなります。
また、CO2を固定する木材を使用することは、建物自体に炭素を固定できるためカーボンニュートラル効果も期待できます。
日本国内の森林資源を循環させ、地方の活性化と環境の両面から、サステナブルな社会の実現に貢献する建材といえましょう。
「Earthboat」はCLTを継続的に量産する希少プロジェクト
ただ、日本で生産体制が確立されておらず、広まらないのが課題点でもあります。「Earthboat」は、日本でもまだ数少ないCLTを使った継続的な量産のプロジェクトとなります。
「Earthboat」では、CLTを活用することによって、国産の木材を積極的に活用し、日本の林業への貢献も果たしていきたいと考えており、将来的には、「Earthboat」を設置する土地の木材を使ってCLTを製造し、地産地消モデルの「Earthboat」を作っていく予定とのことです。
冬だけではないスキー場の新たなモデルを目指す

実際に、CLTを使った「Earthboat」はどんなものか体験すべく、今回の訪れたのは、去年オープンしたばかりの「群馬みなかみ ほうだいぎスキー場」にある「Earthboat」7拠点目の「Earthboat Minakami Hodaigi」です。
なんと、真っ白な雪景色の広がるゲレンデのど真ん中にあります。
CLTによる断熱性、蓄熱性に加え、フィンランド式サウナを備えた豪雪地向けモデル「Earthboat Hut」は、積雪の激しいゲレンデ内でも快適な空間を実現、スキー場での稼働を実現しました。
冬限定ではなく一年を通して稼働するリゾートに
群馬県のみなかみ町は、ラフティングなど川のレジャーが盛んな一方で、スキー場の夏場の活用が課題になっています。これは全国のスキー場にも共通する問題で、スキー人口の減少に伴い、1年のうち冬季しか収益を生まないビジネスモデルは経営が厳しくなります。
「Earthboat Minakami Hodaigi」では、緑の中で過ごす体験や野外でのバーベキュー、サウナと水風呂など、グリーンシーズンでも他にはない宿泊体験ができることで、年間を通してスキー場を活用することが可能になりました。
「Earthboat Minakami Hodaigi」の実績から、スキー場の新たな可能性を示すモデルケースを目指しているとのことです。
キャンプのワイルドさとホテルの居心地を合わせた客室

トレーナーハウスということで、狭かったり、寒すぎるということはないのか、心配になる方もいるかもしれません。実際に、宿泊してみましたが、トレーラーハウスということを忘れてしまうくらいに快適な室内です。
室内にはふわふわの布団とクイーンサイズベッドを完備。下段には布団が入っているので大人3人まで宿泊が可能です。
キャンプのようなワイルドさを味わいながら、ラグジュアリーホテルのような快適な寝心地です。
キッチンも完備

室内は調理器具や食器類が用意されたキッチンも完備。基本は素泊まりとなりますが、別途注文で鴨鍋を注文することが出来ます。また、食材を持ち込むこともできるので、自炊をすることも出来ます。
アメニティは環境に優しいecostore

アメニティもバイオマスプラスチックを使用した歯ブラシや環境に配慮したソープやヘアケア製品を使用しています。基本のアメニティは揃っていますが、化粧水などは付いていないので持参することをオススメします。
自分で焚くサウナ!

「Earthboat」が最も拘っているのがサウナ。フィンランド式のサウナが「Earthboat」の全ての棟に備わっています。でも、サウナはただ単に流行りだからと設置した訳ではありません。
「サウナは自然と向き合うための装置だと考えています。薪をくべ、火を起こし、外気を感じる。その体験が、身体を自然のリズムに戻してくれます」と吉原さん。
「Earthboat」の最大の魅力は、自然環境の中での滞在体験。アウトドアを楽しむことは、天候に左右されることありますが、サウナで温まることができれば、寒い日も雨の日も外で過ごしやすくなります。また、暑い日は水風呂を活用すれば快適に過ごすことが出来ます。
より外の時間を楽しむためのサウナであり、「Earthboat」は、アウトドアにおけるサウナの可能性をもっと広めていきたいとのことです。

また、サウナは薪サウナで、宿泊客自身が薪をくべて、マッチで火をつけ、焚くのも貴重な体験の一つです。薪には間伐材を使っているとのことです。
電気やガスストーブのようにスイッチ一つで温まるわけではなく、手間がかかります。なかなか火がつかず、失敗してしまうことも。
何度か挑戦し、コツを掴み、上手に火を焚くことができるようになるのは、とても嬉しく、学びの多い体験です。また、日常的に木材に触れる機会のない現代の生活で、実際に間伐材の薪に触れるというのは、木を活用することを実感する貴重な体験だと感じました。
グリーンエネルギーを選択

「Earthboat」及び、電力量使用量の多い「群馬みなかみ ほうだいぎスキー場」(一部を除く)では脱炭素化に向けた取り組みの一環として、実質再生可能エネルギー100%の「しろくま電力(ぱわー)」のグリーンエネルギーを使用しています。
利用しているグリーンエネルギーは太陽光や風力などの自然エネルギーを利用して発電された電気であることを証明する証書(非化石証書)を付与された電気とのことです。
「Earthboat」での体験

豪華な食事や設備があるわけでもない、周りは雪だけ。
絶景と満点の星空、温かいサウナに、木のぬくもりが心地よい部屋。しんしんと降り積もる雪を眺めながら、ゆったりと過ごす時間。本当の贅沢とはなんだろうと考えさせられる滞在でした。
「Earthboat」は遊休地を活用し、そこに人の営みをつくることで、自然を守り続ける仕組みを目指している点が従来のリゾート開発とは違うユニークな点だと感じました。
「放置された土地は荒れていきますが、人が関わり、手入れをし、使い続けることで、自然は循環していきます。私たちは『開発する』のではなく、自然の中で営み続けることで、自然と共存する宿泊モデルを広げています」という吉原さんの言葉がとても印象的でした。
自然を満喫したいけれど、キャンプはハードルが高くて難しい、でも、気軽に安全に非日常を体験したい方、そして、できればレジャーもサステナブルな環境への配慮の意識の高い施設を利用したい方にオススメなホテルです。
「Earthboat Minakami Hodaigi」は都内からも新幹線とバスで、1時半とアクセスもとても良いので、興味にある方は、ぜひ一度、訪れてみてください。
>>>「Earthboat」についてはこちらから