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生ゴミからエネルギーを生み出すメタン発酵ワークショップを行う「エネカフェルーム」が、埼玉県戸田市「サーキュラーBASE美女木」内に12月5日オープンしました。この日は30名様ほどのゲストをお迎えし、バイオガス湯沸かしのデモンストレーションをご覧いただきながら、環境をテーマとした新たな活動拠点エネカフェを体感していただきました。
※「エネカフェ」は東北大学農学研究科の商標登録です。

メタン発酵ワークショップ「エネカフェ」OPEN

東北大学の多田先生の監修のもとに生まれた「生ゴミからエネルギー」を体感できる「エネカフェ」。

東北大学大学院農学研究科の多田千佳先生が出版された絵本「生ゴミからエネルギーをつくろう!」パネル展示。イラストは米林宏昌氏によるもの。
埼玉県環境科学国際センター 川嵜幹生様からの来賓ご挨拶

来賓挨拶をいただいた埼玉県環境科学国際センターの川嵜幹生先生からは、温暖化ガスを出すイメージの強かった牛のゲップが、逆に牛の胃液(ルーメン液)を使いエネルギーを発生させる仕組みが興味深く、環境の和を横に広げる場になればとお話いただきました。

埼玉県議会議員の細田善則様からは、地域柄、工業地帯でなかなか子どもたちが歩いていると危ないという声があったりしますが、この「エネカフェ」が子どもたちが環境について学び、集う場になることへの期待を寄せていただきました。

紙を扱う会社ならではの地産地消の資源循環

ワークショップ冒頭に代表の新井より事業紹介を行いました。新井紙材株式会社は50年以上に渡り紙のリサイクルに携わり、印刷産業が密集している埼玉県を中心に古紙を回収して選別、圧縮し製紙メーカーに納める物流を担っています。

今回の会場となったサーキュラーBASE美女木は、使われなくなった社員寮をサーキュラー建築をテーマとしてリノベーションし、この度の第二期工事によって完成。断熱材には古紙由来のセルロースファイバーを使用したり、埼玉県産の無垢材も活用。地元の武蔵野銀行様から融資をいただき、埼玉県の補助金とともに、地域の資金を使わせていただき地域のために活かしていく取り組みです。

サーキュラー建築によってリノベーションしたセミナールームで事業紹介。

エネカフェ事業は大きく分けて3つのテーマがあり、まずひとつめは「生ゴミのエネルギー化」実験により、お湯を沸かすワークショップで一緒にお茶を飲み、環境について世代や分野など垣根を越えて話すきっかけを生み出します。東北大学の多田先生が考案された「エネカフェ」のスタイルです。

2つめのテーマは、エネカフェによってサーキュラーエコノミー、環境教育を広げるプログラムを作る活動です。当社では使われなくなったゲーム機を解体してレアメタルを分別するイベントを、埼玉県県民デー、防災まつり、浦和レッズの試合会場など各地で出張ワークショップも開催しています。

3つめのテーマは、紙のエネルギー化実証実験です。東北大学との共同研究により、紙を牛の胃液で溶かしガスを発生させ、エネルギーとして取り出します。多種多様な古紙を扱う新井紙材株式会社から様々な資材を提供し実証実験を進めています。

さらに今後は、資源循環のつながりをつくる目的として工場視察(オープンファクトリー)も企画中です。

フィンランドで出会った「バイオウェイスト」の分別ごみ箱

続いて、当メディア(サーキュラーエコノミードット東京)編集長の熊坂より、生活廃棄物活用の再生可能エネルギー「メタン発酵」の可能性について解説いたしました。

編集長の熊坂より「メタン発酵の可能性」とエネカフェについてのご紹介。

2023年に研究視察で訪れていたフィンランドのアアルト大学で、「バイオウェイスト」という見慣れない分別がされたゴミ箱を発見。可燃物やプラスチックなどとは別に「生ゴミ」だけを分別して業者が運び、バイオガスで発電していることを知ります。フィンランドでは、家庭でもホテルでもバイオウェイストの分別表示があり、生活の中で生ゴミが資源としてエネルギーの元になっているのです。

その後、東北大学大学院農学研究科でバイオマスエネルギーの研究をされている多田千佳先生との出会いにより、牛の胃液(ルーメン液)で紙を溶かしてガス化するメタン発酵の取り組みに注目。古紙を扱う当社(新井紙材株式会社)のビジネスとも深く関係し、この度の共同研究へとつながります。

多田研究室考案の「ごみ箱型」超小型メタン発酵装置は、実際に宮城県のエネルギー自立型宿泊施設に導入されています。鳴子温泉では住民の方々が生ごみを持参するとメタン発酵の原料として投入し、コーヒーを飲めるエネカフェメタンの企画を実施、2015年グッドライフアワード・環境大臣賞を受賞されました。

小型メタン発酵装置は、生ゴミによってガスエネルギーを生み出すだけでなく、排出される液肥が肥料になり、野菜栽培などに使うことができます。地域で生ゴミを集め、ガスにして、肥料にするという地産地消の資源循環の役割を果たすことができます。

生ごみのメタン発酵で沸かしたお湯でコーヒーを提供

実験で使用する小型メタン発酵装置。銀色のガスバックの中に生ごみから発生したガスを貯める仕組み。

エネカフェでメタン発酵のデモンストレーションを実施。装置の中にはメタン発酵菌が入っており、野菜くずなど生ゴミを投入していくと菌が活性化しメタンガスと液肥に分解。発生したガスはガスバックに貯められていきます。

市販の都市ガスは精製し濃度を高め、ガス漏れ防止で臭いを付けていますが、今回の実験で発生させるガスは弱いため濃度も薄く危険性が低いものです。熱効率を高めるためキャンプ用の道具を使用して着火、お湯を沸かします。

嫌気性のメタン発酵は空気にふれるとガスが減っていくためキャンプ用品で着火効率を上げて実験。

防災の観点からも、停電やライフラインが寸断された時に、生ゴミがあればガスを作ることができます。11月10日に大宮第二公園で開催された秋の防災まつりでは、キャンピングカーに小型メタン発酵装置を持ち込んで生ゴミからガスを発生させ、カップラーメンづくりをデモンストレーション。親子連れの参加者が多く、お子さんたちにも大好評でした。

メタン発酵装置は一般的にどなたでも入手可能な材料を使って製作しており、家庭で野菜くずなど生ゴミを投入しても蓋を閉めると臭いは気になりません。コンポストで生ゴミを減らす方法もありますが、こちらのメタン発酵装置は生ゴミが気体と液体のみになり、ゴミが消えてなくなるのが特長です。

ガスになって気化してエネルギーとして使うことができ、液肥と呼ばれる茶色くドロドロとした液体は窒素やリン酸、硫化水素なので肥料として野菜栽培などに循環させることが可能です。

メタン発酵装置を開けて臭いを確かめる参加者の皆さん。

メタンガスで沸かしたお湯でコーヒーを淹れて、参加者の皆様で試飲していただきました。使用したカップは、鎌倉のリユースカップ「Meglooメグルー」を使用させていただきました。

リユース容器をシェアしてゴミを削減するMeglooメグルーさんのカップで、バイオガス湯沸かしによるコーヒーを試飲。

冬季に開催しているため、メタン発酵装置を牛の体温38度程度にサーモヒーターで温めており、実際には夏季や温かい地域のほうが効率は良くなります。野菜くずが一番適していますが、剪定した枝や雑草、紙も入れることができます。意外なところでは「レシート」を入れるとガス発生効率が良く、期待が持てます。

注目される「環境カウンセラー」の資格

メタン発酵バイオガス湯沸かしのデモンストレーションの後は、懇親会を開催。乾杯のご挨拶をいただいた戸田市議会あそう和英議員からは「地域の小学校で子どもたちにもレクチャーしていただき、将来が楽しみです。生ゴミからガスの発生と聞いて、バックトゥザフューチャーの映画でバナナの皮を燃焼にデロリアンが走る、まさにそのイメージ。これからエネカフェがいろいろなアイデアが生まれる場所になると思います」とお話いただきました。

参加者の方々からも「キャンプ場で実施するのも良さそう」「どんな素材がガス発生に効果的か、いろいろ知りたくなった」「廃棄が大量に出る野菜のカット工場などにも設置できると活かせるのでは」といった声が聞かれました。

懇親会のケータリングにはプラントベースフードのベジタリアンメニューをご提供。

株式会社セブン&アイ・フードシステムズの中上冨之様からは、資源循環において新たな注目を集めている「環境カウンセラー」の資格について案内いただきました。SDGsで一番大切な17番目の「パートナーシップ」は、事業者単独ではできないことが多く、同業他社が協働したり分野を横断した連携が必須です。そうした場面で役立つのが環境省所管の資格である環境カウンセラーです。現役世代の方々がカウンセラーとして活動していくことで資源循環の社会をつくっていくことに大いに貢献できるものになります。サーキュラーBASE美女木でも「環境カウンセラー」の講座を企画中です。

株式会社セブン&アイ・フードシステムズの中上冨之様より環境カウンセラーについて案内。

エネカフェお披露目会では、行政、廃棄物処理、リサイクル、印刷、金融、飲食、物流など様々な分野の方々が「メタン発酵ワークショップ」を通してこれからの資源循環の発展に向けて積極的に交流を深める場となりました。