資源循環の実現を目指すにあたり我々が見習うべきは静脈産業、つまり廃棄物をリサイクルして動脈物流へと戻す廃棄物業界ではないだろうか。
山陰を拠点にリサイクルを含む廃棄物処理をはじめとした総合環境事業を展開する大手企業「三光株式会社」は、脱炭素化への貢献と、ローカル食材による新たな観光資源の開発という挑戦的な取り組みを始めた。具体的には、焼却施設の排気熱を活用したサーマルリサイクルで「フサイワヅタ」という海藻を養殖して新名物として売り出す考えだ。
今回は「総合環境ビジネス」を銘打つ三光株式会社のインタビューを通して、廃棄物処理と環境への貢献、地域活性という三方よしのサーキュラーエコノミービジネスの形を探っていく。
※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。
なぜ廃棄物業者が養殖を?
ーまず、会社について簡単にご説明をお願いします。
会社全体としては、主に産業廃棄物の中間処理を行っております。営業範囲は山陰・鳥取を中心として全国展開しております。三光は「総合環境ビジネス」を掲げておりまして、これまで一般廃棄物の取り扱い、RPFやバイオマス燃料・堆肥化などの様々なリサイクル、環境コンサル事業など会社として色々な事にチャレンジしながら大きくなってきました。
ー今回、焼却熱を利用して海藻を養殖するに至った経緯を教えて下さい。
海藻の養殖は最近になってからですが、排熱利用による魚の養殖は十数年前からやってきました。というのも、ウェストバイオマス工場が鳥取県境港市という立地にあるんですが、漁業や魚の加工会社といった水産業が昔から盛んな街です。
そのため、鳥取県の行政の方々と共同研究という形で10年ほど前から陸上養殖をしております。昔はヒラメやカサゴ、クルマエビなんかの養殖もやってたんですけど、現在は主にマハゼとキジハタの2種類ですね。今回、その延長として海藻の養殖を始めたというのが経緯です。
ーサーマルリサイクルという言葉がよく使われるようになったのは最近になってからという認識ですが、10年以上前からずっと排熱利用されていたんですか?
はい。弊社は養殖業に限らず、様々なことに熱を利用してきました。
工場には廃棄物を焼却する焼却炉がありますが、その焼却処理で出る燃焼ガスは800~1,000℃もあります。それを排ガスとして排出するためにはまず温度を下げなくてはいけません。
なぜかと言うと、排ガスに含まれる有害物質を取り除くために濾すんですが、ガスの温度が高すぎると濾す設備が焼けてしまうので、200~300℃まで落とす必要があります。なので、熱をガス冷却したり、蒸気に交換することで温度を下げているんですね。
そうして熱を冷却する過程で取り出した熱エネルギーを蒸気に変えて、蒸気の力でタービンを回して自家発電したり、工場設備の動力に使う。あとは汚泥の乾燥機の熱源にも使います。
そうして発電や乾燥機の熱に使ってもまだまだ熱が残ってるので、さらに余剰分を海水を温めるのに使って、この養殖業に結びついている形になります。
ー熱を余すことなく有効活用した結果が海水による養殖なんですね。養殖する海藻は地元ではメジャーな食材なんでしょうか。
いえ、そういうわけでもないんです。
養殖しているのは「フサイワヅタ」という名前の海藻で、今回公募により「自然の恵み 海ぷち」という愛称を頂きました。沖縄の海ぶどうとは近縁種なんですが、別の種類の海藻です。山陰地方に限らず、実は日本ではかなり多くの地域に分布しています。
ただ、メジャーかと言えば、決してそうではないですね。一般の方はほとんど知らないですし、食用にしているって話もあまり聞きません。ですが素潜りの漁師さんの間では「ああ、よく見るよ」っていう海藻ではあります。
新しい食材との出会いから挑戦に到るまで
ー知る人ぞ知る海藻なわけですね。なぜフサイワヅタに着目したんでしょうか。
鳥取県栽培漁業センターという県の水産課の施設があるんですが、そちらでフサイワヅタの株を水槽でずっと飼育していらっしゃったので、そこに目を付けて「これ面白いね」っていうことで、株を分けて頂いてスタートしたという経緯になります。
ーなるほど。色々な海藻の選択肢があった中からではなく、偶発的な出会いから進んだんですね。
栽培漁業センターはその他にワカメやアカモクという海藻もずっと研究されていて種類は色々あったんですが、海ぶどうに近い海藻がこの山陰にも自生しているんだけど、皆さんに全く知られてない。なら、これを掘り起こして新たな商品に仕上げよう、昇華させていこうみたいに取り組みを始めました。
ーなかなか挑戦的な経緯からスタートしたわけですね。県としても、新しい名産品を作りたいみたいな狙いがあっての話なんでしょうか。
そうですね。行政の方もすごく乗り気で、共同研究っていう形でやらせて頂いています。例えば水温はどうするのがいいか、光量はどうか、CO2はどうすべきかとか一緒に研究しています。
ー実際にお伺いして食べてみたかったんですが、今回はオンライン取材なので残念です…。いま、流通はどのような形になっているんですか。
今はまだ研究段階ですし、生産量も多くないため一般販売までは及んでいません。地元でずっと弊社のキジハタを販売して下さっている卸業者さんがいるんですが、そこを通じて鳥取県西部のホテルや旅館で少し使って頂いているくらいです。
直近の展開としまして、一般に広く食べて知って頂くために試食のパックを作りました。まずは地元のスーパーの店頭などで試食や無料配布をさせてもらって、モニタリングで感想を集めていこうと動いています。
ーなるほど。食べ方は基本的に生食ですか?
はい。加工したりもできるんですが、プチプチした食感を活かすには生食がいいんじゃないでしょうか。沖縄の海ぶどうもそうですが、どちらかといえば味よりも食感が特徴的なんですよね。プチプチとした食感と、中のヌルヌルっとした成分が特徴です。
ー地元の方も知らない食品をイチから広めるのは、かなり大変じゃないですか?
そうですね。ただ、沖縄の海ぶどうは皆さん知っていらっしゃいますよね。あれは沖縄で収穫してこちらに届くまでにちょっと時間がかかるので、地元で新鮮な、プチプチとした食感が損なわれない瑞々しい海藻があれば、手にとって頂けるんじゃないかっていうのを期待しています。
ー今のところの評判はどうですか?
まだ一般の方への調査は計画段階なんですが、弊社社員に配って食べてもらった限りでは大好評です。もちろん物珍しいっていうのも手伝ってはいるんでしょうが、食感が本当に楽しいと。あとは工場見学に来られた方にもですね。見学の最後に養殖場も見て頂くんですが、収穫期には試食して頂いたりしていて、その際も、今のところ喜んで頂けていますね。
ー養殖はどのくらいの人数規模でやっていますか。
陸上養殖とはいえ今は室内で4トン水槽×8基という小規模で、魚も5,000~6,000匹くらいですので基本的には養殖は私一人で回しています。
ーお一人で!? となると、すごくノウハウが必要ではないですか?
私が三光に入社したのは14~15年ほど前なんですが、その前から陸上養殖の仕事をずっとやっていました。鳥取に大山(だいせん)という山があり、そこの湧水で淡水魚を飼育するところから始まって、銀鮭、タイ、ブリ、ハマチと様々な魚を養殖する道をずっと歩んできました。
入社当初は廃棄物処理の仕事もしながらでしたが、今は担当として専属で養殖をしています。
ー海藻の方が魚よりも養殖しやすいんでしょうか。
単純に、餌がいらないですよね(笑)
ただ、そういうコスト面も大事ですがサーマルリサイクルの用途として、海藻養殖は直接的に環境に貢献できるのもメリットだと考えます。というのも、海藻を育てると植林と同じようにCO2を吸収して温室効果ガスを減らすっていうロジックが、今の時代に合致していると思います。
今はまだ小さい規模の養殖なので、CO2削減と声を大にして言えるほどではないですが、生産量を増やして、食用だけでなく抽出した成分を美容分野など広く何かに活用出来ないか探していくのも目的の一つです。
ー現状、海ぷちの養殖の課題は?
今育ててる海ぷち、フサイワヅタは1年のうち収穫できる時期と、世代交代で枯れてなくなる時期がありますので、穫れない時期にお客様の需要に応えられない問題があります。
沖縄の海ぶどうは年に3回収穫できると聞きますが、海ぷちの盛りは今のところ年末年始とGWの2期です。なので、今は収穫期を伸ばすことができないか研究しています。
ーワカメや昆布と違ってあまり知見がないという点で、苦労がありそうですね。
その通りです。養殖の先駆者がいなくて、大学や行政の文献を探しても「食用として育てられます」とは書いてあるんですが、書いてある通りにやっても上手く行かなかったりします。そのぶん、誰もやってないからこそ面白いなというのはありますけどね。
今までの試験段階では「色々やってみたら育ったね」という状態だったので、感覚で育てていた領域をデータにしていこうとしています。具体的には、水温や光量、海水のCO2濃度の調整などですね。
ー海ぶどうと近い種類とのことですが、同じ育て方ではダメなんですか。
沖縄の海ぶどうは「クビレヅタ」という種類で、フサイワヅタと同じ科の海藻です。我々も最初は似てるかなと思っていたんですが…
あるとき琉球大学の教授に話を伺ったら「全然違います」と言われまして(笑)専門家から言わせると全然別物な存在だったらしく、我々で研究を進めることになりました。
見た目で言いますと、沖縄の海ぶどうは粒がまん丸で、海ぷち、つまりフサイワヅタは雫型のちょっとかわいらしい形をしています。食感について言えば、プチプチ感なら沖縄の海ぶどうよりも勝ってるって言われる人もいますね。もちろん鮮度にもよるんですが。
ー生産量はどうですか?
まだまだ少なくて生産量としては数十kgというレベルです。とはいえ1食あたりそんなに沢山食べるものではないですから、消費ベースで言えばそこそこあるのかも知れません。
これからで言えば、2025年に今の工場の隣に同規模の焼却工場を新設するんですが、そこにも排熱利用のための発電システムや養殖場を入れる予定です。そこでは魚ではなく海藻の養殖を考えていて、そうなると水槽が今の10倍くらいの規模になります。
その際には海ぷち以外の海藻も考えてまして、食用だけじゃなく、成分を抽出して例えば美容分野だとか、医療分野に利用できないかを研究していく可能性があります。
「総合環境ビジネス」としての養殖
ー話は変わりますが、御社HPで、養殖場見学の記事などを拝見しました。地域の方との交流を熱心にやられていますね。
はい、それも養殖をやる大事な目的の一つです。見学だけでなく近隣の高校の生徒さんと一緒にマハゼの稚魚を捕りに行ったりとか、養殖場で3~4日ほどの学生向け職場体験を毎年行ったりしています。
ーでは、三光さんは地元の皆さんからよく認知されているんでしょうか。
だと思います。養殖事業の売り上げは決して大きくないんですが、弊社としては養殖魚を売って利益を出すことより、こういう事もやってると知って頂いたり、地域の人と繋がりを持つとか、そういう点だけでも意義があると考えています。
ー利益ベースは大きくはないけれど、認知向上や社会貢献の効果も期待されていると。
はい。地元のローカルテレビ局や新聞社がよく取材に来たりしていますので、三光を皆さんの目に留めていただけるっていう機会になっています。
ー最後に、読者に向けて伝えたいことがありましたらお願いします。
三光は「総合環境ビジネス」を掲げており、弊社が環境のために取り組んでることは沢山あります。その中の一つとして、この養殖事業があります。
養殖場が産廃工場にくっついており、そこで生き物を育てている。なぜかと言えば、排熱を利用したサーマルリサイクルができるから。今育てているのは、CO2を吸収して育つ海藻がまず1つ。そして、キジハタとマハゼです。
キジハタは高級魚に数えられていて、この辺りではアカミズと呼ばれています。昔はもっと沢山いたんですが、段々と獲れなくなってきたものを、ここで育て増やしています。
一方のマハゼは汽水域の魚で、弊社の江島工場に井戸を掘ってその水で飼育しています。マハゼの生息地である中海・宍道湖は、かつて農地開発されたことでどんどんと生息数が減ってしまいました。
それをもう一度増やそうという試みであり、人の手で壊したものを人の手でもう一度取り戻そう、少しでも元に戻そうという気持ちで養殖をしています。
そういう文脈で、廃棄物の中間処理工場が生き物を飼っているっていう事をもっと皆さんに知って頂きたいですね。
ーありがとうございました。
2022.03.23
取材協力:三光株式会社
https://sankokk-net.co.jp/