6月12日(水)、当メディア(CE.T)を運営する株式会社サーキュラーエコノミードット東京のグループ会社、新井紙材株式会社の埼玉工場(戸田市美女木)において、サーキュラーエコノミーの交流拠点「サーキュラーBASE美女木」のオープニングイベントが開催されました。
古紙リサイクル工場の社員寮として使われていた約50年前の建物を、サーキュラー建築をテーマに構想から約2年かけてリノベーション。イベントでは工場視察と新拠点の内覧ツアー、特別ゲストによるトークセッションが行われ、満席を超える多くの方々にご来場いただきました。
古紙リサイクル工場視察
工場視察では、多種多様な紙の分別やリサイクルがどのように行われているかを見学。リサイクルしやすい紙とそうでない紙があり、なぜリサイクルできないかを知ることで、製品づくりにおけるサーキュラーデザインの重要性を体感していただきました。
無地、無加工の白紙はリサイクルしやすく、コーティング加工された色紙は洗浄や漂白に手間がかかりリサイクルしにくい。見学いただいた方々からは「できる限り加工の少ないシンプルな紙のほうが高く買い取れることを回収元に提案して、変わってきた事例は?」との質問も。しかし、基本的に回収している先は印刷工場など下請け産業が中心で、発注者の依頼に添って納品しているため、回収元にだけ伝えても変わらない現実があります。
下請け構造によるリサイクル性向上の難しさ、発注元となる企業側からの変革が必要であるという気づきもありました。
リノベーションの特長について解説
「サーキュラーBASE美女木」のリノベーションでは、プロジェクトチーム全員でサーキュラーエコノミーのコンセプトを共有し、解体現場での分別を徹底して行い、リサイクルしやすいように排出。材料が余らないよう発注数を見極め、資材使用率98%を達成しています。
埼玉県産の木材を使用し、下地も国内産で統一。壁面の木材には釘を打っておらず傷がつかないため再利用が可能に。将来また解体するときに分解できる設計も、サーキュラー建築の重要なポイントです。
床材には自然由来で土に還るマーモリウム材を取り入れ、壁や天井の断熱材は新聞古紙から出来たセルロースファイバーを吹き込んでいます。セルロースファイバーはホウ酸を混ぜることで防火・防虫効果が生まれ、吸湿性や防音性にも優れた断熱材です。照明には紙管を再利用し、紙を扱う新井紙材らしいサーキュラーデザインになっています。
第一部『グローバル視点でみたサーキュラー建築〜求められるものと日本の現在地』
登壇者:サーキュラーエコノミー研究家 / 安居 昭博 氏
株式会社竹中工務店 大阪本店 設計部 チーフアーキテクト / 山崎 篤史 氏
安居氏からは、廃棄を出さないサーキュラー建築の海外事例について、イギリスのエレン・マッカーサー財団が出している「Circular Buildings Toolkit」を元に解説いただきました。
1.必要な建物だけを新築する(将来的ニーズに合わせ既存建物を改修利用)
2.CO²排出量が低く再生可能な適切な建材で建てる
3.効率的に建て、サプライチェーン全体の廃棄を減らす
4.長期的価値に向けて建てる
オーストラリア、オランダ、ロンドンなど各国のリノベーション事例や、建材に二次元コードで情報を刻み資源循環しやすく次世代につなげていく「マテリアルパスポート」の重要性、サーキュラーエコノミー実践の指標としてさまざまな循環を「技術面」と「生物面」両方のサイクルから表現した「バタフライダイヤグラム」の紹介もありました。
太陽の熱や光、風、自然エネルギーを最大限活かして設計するパッシブデザイン、ますます加速するAIの時代に、データーセンターで発生する膨大な「熱」を温室で農作物を育てるエネルギーに変えた事例など、サーキュラーエコノミーを点ではなく面で捉えることの重要性にも触れられました。
パリにあるLVMHグループの百貨店の事例では、新築するのではなく1910年に建設されたアールヌーヴォー当時の様式をそのままに活用して再オープン、「古きものに再び命を吹き込むことが最高のラグジュアリーであることを示した事例」と語っていただきました。
続いて、大阪万博2025でサーキュラー建築の実現に取り組む竹中工務店の山崎氏からは、分解可能な建築、森に還るパビリオンとして注目を集めるSeeds Paper Pavilion構想の誕生秘話も。
2008年に開催された北京オリンピックの競技会場が、数年後には荒れ果てた廃墟のようになっていたという報道を見て衝撃を受け、万博パビリオンについて開催後に壊して大量のゴミが出る建築ではなく、パビリオンの跡に森が生まれるようなものを造れないかと考えたそうです。
分解可能な建築、森に還るパビリオンとして注目を集める「Seeds Paper Pavilion」は、植物由来の樹脂を3Dプリンターで成形し、仕上材は全国の子どもたちに草木の種を紙にすきこんでもらい、構造体に貼り付けて完成。誕生したパビリオンには植物が芽吹き、建物としての使命を終えると年月を経て分解され、土に還り「つくる、つかう、森になる」廃棄が存在しないサーキュラーなパビリオンの形です。
そして「つなぐ減築」「ひらく増築」というキーワードで大規模なリノベーションの事例も解説。
次世代につなぐために、残すべきものを浮かび上がらせるために、必要なところだけをていねいに壊す。建築と人をつなぎ、みんなが価値を感じることで大事にされ、自分たちでも手入れできることが建築の長寿命化に欠かせない要素であるとお話しいただきました。
第二部『サーキュラー・リノベーションへの挑戦〜当事者たちが語るホンネとタテマエ』
登壇者:
Ishimura+Neishi 石村 大輔 氏・根市 拓 氏(設計者)
株式会社QUMA 代表取締役 村田 絋一 氏(施工会社)
サーキュラーエコノミー研究家 安居 昭博 氏
株式会社竹中工務店 大阪本店 設計部 チーフアーキテクト 山崎 篤史 氏
モデレーター:新井紙材株式会社 代表取締役 新井 遼一
リノベーションの設計を担当していただいたIshimura+Neishiの石村氏と根市氏。本来動かないはずの建物においても両氏は「分解可能」に設計しているからこそ、マテリアルも動かすことができ、マテリアルと人とプロジェクトによって関係性が増えていく面白さを感じていると言います。
「サーキュラーBASE美女木」では、断熱材として選んだセルロースファイバーが古紙由来で再生できるだけでなく取り外して他の建物に転用できることや、無塗装の杉材は汚れたらヤスリをかければよく、自分たちでメンテナンスして長く使える特長があります。
壁面の木材をフローリング材の半分の長さでカットして無駄をなくし、空間の高低差を作ることで表面積が減りエネルギーコストも削減。紙を扱う会社なので紙の照明があったら面白いなと、サーキュラーデザインが前提でなくとも関係が深まる素材でデザインできたらいいなと考えていたそうです。
根市氏からは、天井は人がほとんど触れることがないため摩耗が少なく壊れる可能性も低い。反対に壁材は人が触れる頻度が高いのでメンテナンスしやすいように作る。床材は一番取り替える頻度が高くなる可能性があるが、取替可能で分解できるように作ることと耐久性の基準が重要となり、素材や部位ごとに切り分けながら考えてきたことを語っていただきました。
住宅リノベーション、空間再生、コリビング事業を手掛ける村田氏は、今回初めてサーキュラーエコノミーをテーマに施工を担当。まずは解体範囲を最小限にすることで全体のコスト削減と廃棄自体も減らしたと言います。
コスト面でも施工面でも一番苦労したのが「下地」で、一般的な石膏ボードに塩ビのクロスを貼る方法はリサイクルできない石油由来の素材であり、石膏ボード自体はリサイクルが確立されているものの、塗装や漆喰を塗るとリサイクルができません。Ishimura+Neishiさんからの提案で杉材で仕上げることになり、輸送時のCO²削減を意識して県産の木材を採用し、石膏ボードの場合と比較して約3倍の施工費に。
壁については「雇いざね」という形で接着剤を使わずに必要な部分だけタッカーで留め、解体時に鉄と木部で分離する方法で見積もりを取ったところ、木材の加工業者が普段行わない手法のため高額になってしまい、一般的に使われる手法に近づけて調整。それでも2倍以上の費用になったが、方法を見つけられたことは非常に良かったと語っていただきました。
断熱材に使用した古紙由来のセルロースファイバーは、一般的なグラスウールのように流通が安定しておらず、価格相場も安定していない印象とのこと。サーキュラーエコノミー建築に関わる施工業者が全員通る道で、もっと情報共有や整備が進むと実践が浸透していくのではと今後の課題も示されました。
「サーキュラーエコノミー」というと難しく捉えられがちですが「製品がどこから来て、どこへ行くのか?」が重要であり新井紙材はまさにその「どこへ行くのか?」をクリアにするため長年取り組んできました。
工場でリサイクルの現状を知ってもらうとともに、サーキュラーBASE美女木ではセミナーやワークショップの開催、サーキュラーエコノミー活動拠点として育てていきたいと考えています。
※第一部、第二部トークセッションについては次回の記事でさらに詳しくご紹介します。