2025年7月27日、銀座・有楽町のランドマークとして愛されてきた「丸の内TOEI」の閉館が多くのメディアでも報じられました。
「サーキュラーエコノミードット東京」は、65年の歴史と記憶を「映画館」の資源循環により未来に繋いでいこうとする東映株式会社(東京都中央区京橋2丁目)の取り組み「さよなら 丸の内TOEI」プロジェクトをサーキュラーエコノミーの視点で見つめてきました。
最終回では、多くの賛同が集まったクラウドファンディング「丸の内TOEI閉館 ファンの皆さまと共に、思い出を未来に繋ぐためのメモリアル企画」の返礼品のひとつとして閉館直前に実施された支援者限定イベントから、閉館後の映画館で始まったアップサイクルされる備品取り外しの模様をレポート。「映画文化と資源循環の接点」を探ってきた本シリーズが辿り着いた答えとは?
2025年7月21日、丸の内TOEIの声を聞く
それは、映画文化が映画館という「物語の案内人」によって支えられていたことを改めて実感した一日でもありました。クラウドファンディング「丸の内TOEI閉館 ファンの皆さまと共に、思い出を未来に繋ぐためのメモリアル企画」。返礼品のひとつとして実施された"丸の内TOEIで最後の思い出を作る"支援者限定イベント(全2回実施)には、各回約20人が参加。愛おしそうに館内を見渡す姿に、一人一人の胸に宿る丸の内TOEIへの万感の思いを感じました。

最後の劇場支配人となった小林恵司さんの案内でスクリーンの裏側や映写室など、通常立ち入ることのできなかったエリアを巡っていきます。解体後はバスケットや小物として再生されるスクリーンには近くで見なければ認識できない無数の穴——背後のスピーカー音声を劇場に響かせる為のサウンドホールがあること。映写室の音響機器は作り手の意図を極限まで再現するために撮影所と同じ仕様になっていること。小林さんの解説を聞きながら何も上映されていない映画館を歩くことで、シートに身を沈めて物語に浸っていたときには聞くことができなかった「丸の内TOEIの声」を聞くことができました。
「ありがとう、おつかれさま」
暗闇の中で参加された方々の丸の内TOEIに対する感謝と労いが聞こえたかのようでした。
フィルムの温もりが見せてくれた記憶
バックヤードツアーのラストは、東映ラボ・テックの椎原史隆さんによる「映写技師体験」。かつて映画フィルムを接合するために使われていた「スプライサー」という機械を使って、参加者一人一人がフィルムの切り貼りを体験しました。


「フィルム上映からデジタル上映へとテクノロジーは進化しましたが、映画文化の魅力は今も昔も変わっていません」と語る東映ラボ・テックの椎原さん。アナログフィルムの持つ温かみや質感を掌で感じながら、参加者の一人一人が丸の内TOEIでの記憶に思いを馳せました。
「12歳の頃からここに通い始めて、今は53歳。人生の思い出の場所です」
「ここで『風の谷のナウシカ』を見た時の熱気が忘れられません」
「東映ファンが講じて、東映関係の仕事に就きました。閉館は本当にショックですが、最後まで見届けたいと思います」
会場には、丸の内TOEIの備品をアップサイクルして作られる返礼品の試作も展示。丸の内TOEI①と②それぞれの緞帳を再利用した巾着など、参加した方々も「丸の内TOEIの思い出が品物として手元に残るのは素晴らしい」と絶賛されていました。

映画文化が観客と共に作られてきたことの証

再び丸の内TOEI①に戻って来た参加者たちを待っていたのは、「さよなら 丸の内TOEI」予告映像を再編集した特別映像の上映。エンドロールには支援者一人一人の名前が掲載されていました。それは映画文化が作品の作り手だけでなく、映画館、そして観客一人一人が共に作り上げてきたものであることの証のようでもありました。丸の内TOEIで観る最後の映画に自分の名前が刻まれているというのも参加された方々にとっては忘れられない想い出となったに違いありません。
上映後にはこの特別映像のナレーションを務めた東映東京撮影所俳優ユニットに所属する久遠明日美さんが登壇。

「2022年に出演させて頂いた映画『ハケンアニメ!』を見たのが、この丸の内TOEIでした。同じビルに所属会社がある丸の内TOEIは私にとってのスタート地点でもあります。閉館は本当に淋しいですが、この場所が東映にとっても、皆様にとっても新たなスタート地点になればいいなと思っています」
最後に「この劇場での舞台挨拶が私の夢でした」と漏らした久遠さんに、参加者の方々から大きな拍手が沸き起こりました。
イベント終了後、参加された一人一人と言葉を交わし合っていた今回のクラウドファンディングの担当である映画編成部の中田裕子さん。最後の参加者を見送った直後に今日の感想を伺いました。
クラウドファンディングと併せて企画された今日のイベント、いかがでしたか?
—支援者の方々に直接お会いして、私たち以上に東映のことを詳しくご存知の方も多く、とても驚きました。これからも頑張らないといけないと感じました。今日一日、これで終わりなのではなく、これからも東映は映画を作り続けていくことをお示しできたかなと思っています。
2025年7月27日、丸の内TOEI閉館

丸の内TOEI、65年に渡る歴史の最後を飾ったのは丸の内TOEI①の最終上映作品となった『動乱 第1部 海峡を渡る愛/第2部 雪降り止まず』。上映前には、東映株式会社の第7代社長・吉村文雄が登壇し、最後の御挨拶を行いました。さらに、数々の東映作品に出演してきた俳優・吉永小百合さんも駆けつけ、思い出深い劇場の最後を観客とともに見送りました。
2025年7月31日、クラウドファンディング終了
閉館の4日後にはクラウドファンディング「丸の内TOEI閉館 ファンの皆さまと共に、思い出を未来に繋ぐためのメモリアル企画」が終了。最終的には1,300人を越える方々からの支援となりました。

2025年8月2日、解体作業スタート
「思い出を未来に繋ぐ」アップサイクル。8月2日からは解体される劇場から様々なプロダクトとして再利用される素材の取り外しが始まりました。



映画館の資源循環が気づかせてくれた映画作りの本質
東映株式会社のサーキュラーエコノミーの取り組みに密着しながら「映画文化と資源循環の接点」を探ってきた今回のシリーズ。取材を通じて見えてきたものは「映画作りの本質」でした。
本格的な映画の歴史が始まって100年。映画作品は個人の体験や記憶、そして先人の心が生み出した過去作品へのリスペクトやオマージュという素材を利活用して、新しい形に生まれ変わらせる“心のアップサイクル”表現とも言えるものです。
また、今回丸の内TOEIで80日間に渡って上映された100本以上の過去作品が象徴しているように映画とは作品という資源を繰り返し上映することで人々の心に循環させる文化です。
「映画は心という資源を未来に循環させるアップサイクル」
それは永遠に循環し、未来へと繋がれていきます。今回の劇場備品のアップサイクルは期せずして、東映株式会社が長年に渡って作り続けてきた映画文化を形を変えて表現したものだったと言えるのかもしれません。