2025年7月27日いよいよ65年の歴史に幕を下ろす「丸の内TOEI」。東映株式会社(東京都中央区京橋2丁目2番1号)では「さよなら 丸の内TOEI」の一貫として7月31日までクラウドファンディング「丸の内TOEI閉館 ファンの皆さまと共に、思い出を未来に繋ぐためのメモリアル企画」を実施しています。ファンの喜怒哀楽の記憶が刻まれた劇場備品をアップサイクルすることで、閉館を「終わり」ではなく、未来へつながる新たな物語として描こうという取り組みです。

「サーキュラーエコノミードット東京」では、このプロジェクトをサーキュラーエコノミーの視点から注目し、映画文化と資源循環の接点を探るシリーズ企画を展開しています。2回目となる今回は7月18日、東映会館7階にある第一試写室で行われたスクリーンなどの備品取り外しに密着。

アップサイクル商品の製作を手掛けるサイクラーズ株式会社(東京都大田区)のリメイクブランド「enloop®︎ (エンループ)」のデザイナーのひとりとしてアップサイクルプロジェクトを担当し、取り外しの現場に立ち会った経営戦略本部 経営企画部の島田ちひろ氏にお話を伺いました。
映画館の備品をアップサイクルして未来へつなぐ
— 「enloop®︎ 」さんは今回のプロジェクトでどんな役割を担っていらっしゃるのでしょうか?
実際の一部商品の制作は協力会社さんにお任せするのですが、アップサイクルプロジェクトのリメイク商品の一部を企画〜デザイン・製作まで担当しています。

—東映からのアップサイクルのオファーにどんなことを感じましたか?
閉館が終わりを意味するのではなく、この劇場で映画を観てきた方々が、これからも映画を作っていく東映さんと一緒に65年に渡る丸の内TOEIの歴史を未来へつないでいくというコンセプトに魅力を感じました。廃棄素材を家具として未来につないでいくというのは「enloop®︎ 」のコンセプト(「縁を紡いでいく」)とも合致しています。プロダクトを通じて人と人との繋がりを生み出すという点でもぜひ参加したいと思いました。
—現場を御覧になっていかがでしたか?
今日が下見も含めて3回目なんですが、緞帳があったり、1階と2階の座席の柄も違ったりと、他の映画館にはない歴史と風格を感じました。

観客として見ていたスクリーンを近くで見たのも初めてだったので大きさも実感しましたし、裏に設置されたスピーカーの音を響かせる為に生地にサウンドホールという無数の小さい穴が開いていることも知り、改めて映画館ならではの特殊な生地なんだなと思いました。歴史が長いのでシートの力が掛かる部分には劣化もあったんですが、全体的に大切に手入れをされながら使われてきたことがわかる良い状態だったので、プロダクトとして再生して残していきたいと強く感じました。
どの素材で何を生み出すか?
—アップサイクルに使う素材とプロダクトはどのように決まったのですか?
椅子の再生工場であるエフラボさんと協業をしており、「enloop®︎ 」としても布を使った椅子の張り替えをした経験もあったので、主に布素材を中心に見せていただきました。スクリーンと緞帳、座席のシートをメイン素材として使いたいと提案しました。

東映さんからは「今まで劇場に足を運んで下さった方々への感謝を込めた記念品を作りたい」というお話しを頂いていたので、映画ファンの方や東映が好きな方はどんなプロダクトが届くとうれしいかを考えました。「家で映画を見るときにゆったり座れるクッションがあればうれしいかな」とか。


「映画の半券やポストカードなどの思い出やグッズを収納できる小物入れやバスケットがあったらどうかな」とか。



「映画館のシートの風合いを感じる椅子が家にあったらどうかな」と座席の柄を組み合わせたスツールなどのプロダクトを考えて提案させて頂きました。

— 提案に対する東映さんの反応はいかがでしたか?
パッチワークのスツールは特に気に入っていただきました。東映の落ち着いた雰囲気を感じるシックなデザインが魅力的だとおっしゃっていただきました。
使われていたモノに対する思いもつないでいきたい
—素材の取り外し作業に立ち合われて感じたことを教えて下さい。
これまでも様々な企業様から「廃棄素材をプロダクトに」というオファーをいただいて取り組んできたのですが、いつも送られてくる廃棄素材を受け取るだけだったので、使われている現場で取り外しに参加したのは今回が初めてだったんです。また、専門の業者さんとではなく、昨日まで試写に使われていたスクリーンなどを東映の社員様たちと一緒に取り外すというのはとても感慨深く、今回のプロジェクトの中でも大きな意義のある共同作業だったと思います。1つ1つの備品に対する東映の皆さんの愛情も一緒に受け取ったことで、製作を担当する私自身も素材に対する愛着がより強くなりました。
東映さんから託された「映画館に足を運んで下さったお客さんへの感謝」と「未来につなげていきたい」という思いをプロダクトとして伝えられたらと思っています。
— デザインにおいてはバージン素材から作る方が自由度は高いと思いますが、島田さんが廃棄素材を使う今の仕事を選ばれたのはどうしてですか?
確かにバージン素材で作った方が作り手のイメージに近いものにはなるし、コストも安くなります。でも、新しいプロダクトを生み出すことは新しい廃棄物を生み出してしまう可能性が高い。それがモノを作る人間の宿命だと思う一方、ジレンマも感じていました。
大学生の頃から環境に優しいデザインについて考えるようになりました。当時は廃棄物を生まないプロダクト・デザインには制約や義務感のような窮屈さも感じていたのですが、変化を生み出したいならやり方ではなく見方を変えなければと、廃棄素材からデザインすることを楽しもうと考えるようになりました。バージン素材ではなく廃棄素材を使う方が楽しいモノ作りができる、その楽しさを見つけられたらいいなという思いで今の仕事をしています。

— 今後の作業の工程を教えて下さい。
今日回収した素材で8月から9月にかけて試作品を作ります。
7月27日の閉館後には段階的に備品の取り外しが行われます。スクリーンやシートなどを東映さんと一緒に取り外して素材を受け取り、それぞれ制作会社で加工していただくという流れになっています。
10月から12月には本製作が終わるスケジュールで進めていく予定です。支援者さんたちの手にお届けできるのは12月頃になるかと思います。

閉館から4日後の7月31日まで実施されるクラウドファンディング「丸の内TOEI閉館 ファンの皆さまと共に、思い出を未来に繋ぐためのメモリアル企画」は7月22日現在1,008人の支援者の参加により、11,318,180円を獲得。221%の達成率となっています。
7月31日「さよなら 丸の内TOEI」のクラウドファンディング終了、その日まで、あと8日。