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日本でも多くファンがいる北欧家具。機能性とデザイン性を兼ね備えたところが魅力ですが、忘れてはいけないのは「持続可能性」という要素。フィンランドで75年にわたり愛され続けてきた組立家具「Lundia(ルンディア)」は、一度買ったら長く使う人が多く、世代を超えて受け継がれ、専門の中古マーケットがあるほど。ヘルシンキ市内の直営ショールームショップを訪れ、CEOのKarri Koskelo(カッリ・コスケロ)さんにロングセラーの理由や顧客と共につくるサーキュラーエコノミーについて伺いました。

※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。

「住空間」が重要視される国

厳しい気候でも幸福度ナンバーワンの理由

生活基盤の三要素「衣」「食」「住」。どれも大事なものですが、人によって優先順位が違うのが面白いところです。世界を見渡すと、国それぞれで得意分野が違うことに気づきます。たとえば日本は「SUSHI」が世界中で愛され、「和食」がユネスコ文化遺産になり、食が魅力の国として訪日客にも認識されています。ヨーロッパでは、フランス、イタリア、スペインなどが食の国として知られていますし、イタリアとフランスはファッションでも世界をリードしています。

今回フィンランドを初めて訪問して、まず感じたのは、「住」の力でした。北欧といえば家具やインテリアが日本でも大人気ですが、実際に行ってみると想像以上です。洗練されたデザインの建物の中に家具、ラグ、小物、照明、グリーンなどが加わり、居心地のいい空間が創り上げられています。ホテルやレストランなどの商業施設はもちろん、駅や公共施設など広い場所ではダイナミックな空間の美に圧倒されます。

ヘルシンキで最も新しい図書館「オーディ」。様々なスタイルの読書空間が用意され、利用者は気分に合わせて場所を選ぶことができる。

北欧の人々が住空間にこだわる理由は、その厳しい気候にあると言われています。夏は夜でも暗くならない白夜、逆に冬は日照時間が非常に短く数時間のみ、気温も低いため、人々は長い時間を室内で過ごします。そんな環境から、とりわけ住空間を大事にする文化が生まれ、機能性と美しさを兼ね備えた北欧家具は、厳しい環境の中にあっても幸福であることを追求する「知恵」の結晶と言えるのかもしれません。そして実際、フィンランドは国連が毎年発表する幸福度ランキング(WHR)で2023年度もトップ。5年連続で世界一となっています。

家具の「ファスト化」がもたらす弊害

では日本の「住」を取り巻く状況はどうでしょうか。我が国では木造建築の技術が継承され、職人の匠の技による伝統的な和家具とともに住文化を創ってきましたが、生活スタイルが床座から椅子に変わってから機能性を失い、座卓や和箪笥などを使う家庭は少なくなり西洋家具が主流になりました。近年では国内外の大手チェーンのインテリアショップや通販サイトが充実し、手頃な値段でオシャレな家具を買うことができます。しかしその反面、家具の廃棄も増えています。大量生産により大量廃棄を生み出す「直線型経済」の弊害は、家具の世界でも同じです。

食品や衣料と違ってやっかいなのは、家具は大きいため粗大ゴミ化するということです。安価な家具の中には組立式でも分解ができないものもあります。そのため引っ越しはもちろん、修理に出すのにも輸送費がかかるため、必要がなくなると廃棄されてしまいます。粗大ゴミのほとんどが焼却されるため、C02を大量排出するだけでなく安価な家具によく使われる接着剤の化学物質による有害物質汚染も問題化しています。

安価な大量生産の家具があふれ、大量廃棄、環境汚染を生み出している・・・残念ながらそれが今の日本の現状です。

一方、国土の71.6%が森林というフィンランドは、幼稚園から環境に関する教育が行われ、自国の森林資源を大事にすることで知られています。そのため、家具に限らず、大量廃棄や環境汚染につながるような製品は市場が受け入れません。サーキュラーエコノミーの基本のひとつは「廃棄を出さない」ことですが、その考えを貫いた製品設計を75年前から行っている家具メーカーに話を聞くことができました。組立家具メーカーの「Lundia(ルンディア)」です。

ルンディアCEO Karri Koskelo(カッリ・コスケロ)さん
ヘルシンキ市内の家具・インテリア関連のショップが建ち並ぶ一角にあるルンディア直営ショールームショップ。
ロングセラー「ルンディア・クラッシック」は日本でもおなじみ「イッタラ&アラビア」の直営店でも商品陳列棚に採用されている。(Iittala & Arabia flagship store Esplanadi店)

森の国の大工さんが作った収納棚

形状を変更できる家具システム

ルンディアは、大工さんのこだわりから始まりました。1945年、大工のHarald Lundqvist(ハラルド・ルンドクヴィスト)さんが、引っ越しの際に作り付けの棚を分解して持って行けなかったことが悔しくて、あるアイデアが浮かんだのです。木材の板をしっかりと固定し、強度と耐久性、耐荷重性を備えつつ、必要に応じて形状を変更する収納棚のシステムがそこで生まれました。

ルンディアのロングセラーである「Lundia Classic(ルンディアクラシック)」に使われている木材は、フィンランドの森から切り出したパイン材。木材はヘルシンキ中心街から1時間ほどのところにある工場に運ばれ、製品になります。工場で働くのもフィンランド人で、完全なるメイド・イン・フィンランドの家具なのです。

写真左:大工であり発明家の Harald Lundqvist(ハラルド・ルンドクヴィスト)。写真右:16人の大人が乗っても大丈夫。(ルンディアホームページより)

「廃棄を出さない」製品設計

75年前に開発されたルンディアですが、驚くことにその思想は「リユースの素材を新しい素材に加えていき、使用を続け、廃棄を出さず、製品寿命を延ばす」というサーキュラーエコノミーの考え方にぴたりと一致するのです(記事の最後に図を掲載)。

カッリさんによれば、「ルンディアの顧客は75%がパーツ買い足しのお客さんです。顧客はファーストキット(最初の商品)を買ったら、あとは用途やライフスタイルが変わるごとに、買い足したり、他の素材を使って変化をつけたりして使い続けているのです。親から子へ、世代を超えて使い続けている顧客もとても多いです」とのこと。

さらにルンディアには「セカンドハンドマーケット」が存在します。リサイクルセンターにルンディアセクションがあり、中古品が並びます。たとえば販売中止になった素材のビンテージパーツと手元の新品をミックスして、自分オリジナルの味のある家具を楽しむファンも多いそうです。

新製品の別売り金具パーツを使って、ルンディアクラシックの棚板を壁に直接付けたり、オープンシェルフにドアを追加するなど、自由自在に形状変化できる。

「収納する量や物が変わった」「引っ越しした」「部屋の模様替えをしたい」など、ライフスタイルの変化は必ず起きるもの。ルンディアはシンプルな形で規格が同じ、高さや幅、素材はバラエティを持たせ、それを自由に組み合わせることで、家具を買い換える必要がなくなる、つまり「捨てる」がなくなるのです。

「人生の状況は変化し、ルンディアもあなたとともに変化します」ルンディアのホームページにはそう書かれています。

さらに、すべての家具はもとのように分解可能で、フラットパック(凹凸なしの板だけの状態)になるため、スペースを取らず、完成品と比べて輸送費も安くなりCO2削減にもなります。また、今は使わないからと家の中にしまっておく際にも邪魔になりません。必要になったときにいつでも組み立てて使えるのです。

棚はすべてフラットなパッケージで配送される。

国内の木材で国内の工場で作るルンディアは、ベーシックなタイプのオープンシェルフが約550ユーロ(約8万円)~と決して安いものではありません。大量生産型のもっと安い、似たような棚はたくさんあります。しかし世代を超えての使用もできる耐久性があり、変化に対応するためのパーツを常にそろえ、新作も加えられるルンディアの製品は長い目で見ればお得。しかも廃棄を出さす環境にも優しいのです。

ショールームに置かれた金具。棚はもちろんすべてのスペアパーツが常に入手可能であることを約束している。

消費者が支える循環型経済

持続可能性にこだわるものづくり

ルンディアのサステナビリティは、それだけではありません。「ローカル」にこだわり、フィンランドの森から切り出したパイン材(再生可能な炭素結合天然素材)を使っており、どの森から来た木材なのかが追跡可能です。森林から工場、工場からショップまでの輸送距離が短いため、輸送での二酸化炭素排出も最小限に抑えています。また、フィンランド内に工場があるため、サプライチェーンを含めると雇用創出という形でも地域経済に貢献。さらに、製造は再生可能エネルギーのみを使用し、工場の暖房には、製造施設周辺の森林から採れる木材チップを使用しているとのことです。

ホームページにはサステナビリティの取り組み項目が明記してある。「これらは私たちの責任であり、顧客への約束です」とカッリさん。

顧客による家具のサーキュラーエコノミー

最後に、ルンディアのサーキュラーエコノミーの解説をしたいと思います。まず、欧州サーキュラーエコノミー視察レポートVol.1「なぜヨーロッパがサーキュラーエコノミーの先進地なのか」でも登場したサーキュラーエコノミーの図がこちらです。グレーがこれまでの大量生産・大量廃棄の線型経済で、黄色が循環型経済(サーキュラーエコノミー)のモデルです。循環型経済のモデルにルンディアを当てはめてみるとこのようになります。

既存の家具に新たに買い足したパーツを加え、赤の「生産」は組立と考えると、このようにループとなり、廃棄がなく、製品寿命も長く続きます。違うのは、ルンディアの場合、生産(組立)するのはメーカーではなく基本的に、顧客や消費者自身だということです。

つまり、ルンディアの廃棄を出さない循環モデルは、メーカーであるルンディアの持続可能な製品づくりだけでなく、それを大事に使い続ける顧客がいてこそ成り立つものなのです。「良いものを長く使いたい」と考える消費者に支えられた、息の長いビジネスモデルと言えるでしょう。

温室効果ガス削減が待ったなしに求められる今、サーキュラーエコノミーにますます注目が集まっています。しかし、それは新しい概念ではなく、欧州サーキュラーエコノミー視察レポートVol.2「サーキュラーエコノミーはビジネスチャンス!副業起業のフェルトメーカーの挑戦(フィンランド)」と同様、その根幹にあるのは、「ものを大事にし、決して無駄にしない」という昔からの精神であることを、今回のルンディアでも学ばせていただきました。

そしてそれは、日本にもある「もったいない」の精神と同じです。ルンディアは、その「もったいない」を家具という形にしたものだと言えるのかもしれません。

Lundia Oy http://www.lundia.fi/
Instagram @lundia_Japan https://www.instagram.com/lundia_japan/
@lundiafi https://www.instagram.com/lundiafi/

取材協力:マンシッカ由加子