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丸紅株式会社は、2021年よりオランダのCircularise B.V.と業務提携を結び、ブロックチェーン技術を活用したトレーサビリティシステムであるデジタルプロダクトパスポート(以下、DPP)の実証実験や、マスバランス・アプローチにおける業務効率化・簡略化をサポートするシステムの販売を進めています。

今回は、日本市場への展開を推進する丸紅株式会社 化学品第四部 DX推進課長 桐生愼太郎氏と、Circularise社 プロジェクト・オペレーション・リード上野浩太郎氏に、サーキュラーエコノミーにおけるトレーサビリティシステムの役割や、欧州と日本の動向の見通しについてお伺いしました。

日本市場進出を目指していた欧州ソフトウェア開発スタートアップCircularise社との提携

丸紅がCirculariseと提携してDPP事業を進めることとなった経緯を教えてください。

桐生氏(丸紅):今後、サステナビリティや資源循環を核に経済が拡大していくことを見据えると「情報伝達すること」が重要となり、それが当たり前の世界になっていくのではないかと考えました。そこで運営の立場からDPPに取り組んでいくことを決め、丸紅からCircularise社に提携をお願いしました。

上野氏(Circularise):Circularise社の商品はグローバルで注目されていますが、特に多くの日本のメーカーから注目が集まっており、出資者には旭化成さまと積水化学さま、そして直近では帝人さまが入っています。

Circularise社の今後の戦略の一つとして、アジアの中でもグリーンリテラシーの高い日本市場に注目していたため、同じ方向性を持っているということで提携することとなりました。

日本展開を担当するCircularise社 プロジェクト・オペレーション・リード 上野浩太郎氏

DPP事業の現在地やこれまでの取り組みについて教えてください。

上野氏(Circularise):DPPとは、製品のサプライチェーンでのトレーサビリティをDX化するためのソフトウェアです。名前に「プロダクト」とある通り、製品のサプライチェーンを対象に、特に工業製品系のものを中心に活動をしていますが、昨今は食品や建設の会社との協議も進めています。

サプライチェーンの流れを可視化できることが特長なので、製品の過去の情報がわかることでお客様の安心安全につながるものもあるのでは、とDPPのさまざまな使われ方を模索しています。

DPPの導入までには、特定の製品に対して使ってみる ①プロトタイププロジェクト、②パイロットプロジェクト、そしてライセンス料金をいただいて実稼働していく ③実運用フェーズという、3つのステップがあります。

現在、欧州では実運用フェーズ、日本ではパイロットプロジェクトを進めている段階です。

例えば、アミタホールディングスが事務局を務めるジャパン・サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ(略称:J-CEP)が行うペットボトルキャップ回収・再生プロジェクトのマテリアルフローを利用し、DPPを作成するという実証実験を昨年実施しました。

同プロジェクトでは、神戸市の資源回収ステーションで、市民からペットボトルキャップを回収。三井化学にて色や樹脂の種類で選別し、日本山村硝子にてペレット化しています。その後、再生ポリエチレンは川上産業にて気泡緩衝材に、ポリプロピレンは貝印にて爪切りなどの製品に再生するという取り組みです。

これらのデータをもとにDPPを作成し、最終製品に付与された二次元コード(QRコード)を読み込むと、サプライチェーンを辿ることができるようになっています。

最終製品に付与されたQRコードから読み込む事ができる情報
※DPP内の情報は一部ダミー値を含む
画像参照元:https://www.j-cep.com/dpp

実証実験でDPPを活用した企業からはどのような意見がありましたか。

桐生氏(丸紅):実証実験の協力企業さまにアンケートを取り、もっと知りたい情報やサービスへの要望などを収集したところ、回収拠点や回収期間の情報、静脈産業の方からは環境配慮物質の使用証明が欲しい、バージンプラスチックと比較した再生プラスチックの環境インパクトが知りたいなど、さまざまなご意見が集まっています。

技術的にはすべて載せることが可能なのですが、サプライチェーンの川上から川下まである中で、川下からすると知りたい情報、川上からすると見せたい情報と見せたくない情報があるため、どのようなデータポイントの構成にするかを議論しています。

上野氏(Circularise):その際に必要となるのがCirculariseが特許を持つスマートクエスチョニングの技術で、さまざまなデータポイントの中から、誰に対してどのレベルの情報を見せる、または見せないということを細かく設定していきます。そのようにすることで、情報の透明性と秘匿性を両立することができる技術です。

規制先行型の欧州に対し、日本は業界団体が中心

欧州ではどのような情報をDPPに載せるべきか、法律の要件は決まっているのでしょうか

上野氏(Circularise):2027年2月18日からバッテリーにおけるDPPの義務化が始まります。

エコデザイン規則(ESPR)※1 の案に出てくる品目はまだ検討中ですが、ドイツ政府主導で行ったバッテリーパス※2 というプロジェクトを通して、義務化される要件の洗い出しと評価がされています。このプロジェクトを通して、情報としてどのようなものが必要かという観点と、技術的にどのような技術が必要かという観点で議論されました。

前者はCO2排出に関する情報や、今回から入ってくるデューデリジェンスに関する情報です。デューデリジェンスについては、各社のレポートに必要な情報の要件が決まっており、サプライチェーンの各社がデューデリジェンスレポートをDPPにアップロードして、川下まで繋がれていき、レポートを参照することができるという状態になっています。

後者は、必要となるグローバルスタンダードなプロトコルやネットワークについて検討されており、どんなテクノロジーがあればDPPの機能が実現できるか、ということをまとめたものになります。

※1エコデザイン規則とは:EU域内に流通するほぼ全ての製品を対象に、製品の持続可能性や循環性を促進するための規則

※2:バッテリーパスはEUで実装が目指されている「バッテリーパスポート」のガイダンスを発表

欧州は環境に関する法律の整備が進んでいますが、日本ではどのように進むと考えますか

上野氏(Circularise):欧州は欧州連合が中心となった法律先行型ですが、日本の特徴としては政府が主導するというよりは、さまざまな業界団体が各業界のガイドラインを作っていくという流れがあります。欧州の流れを見ながら、ある業界が進むと他の業界も追随していくという日本らしい進み方になるのではないかと考えています。

経済産業省は、2025年に日本版の情報流通プラットフォームを構築することを「 GX法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)」の基本に掲げていますので、我々としてもどのように協力していくのかを論議していく予定です。

桐生氏(丸紅):一方、欧州でも日本でも、流通の規制とは別に、企業が製品の信頼性や安全性をお客さまに発信し、商品の情報を担保しようと考える企業もありますので、そのような企業には個別で対応していきたいと考えています。

近い将来には二次元コードを貼付し、商品がどのように作られているかを消費者に発信していく企業も出てくるのではないかと考えます。

丸紅株式会社 化学品第四部DX推進課長 桐生 愼太郎氏

DPPを普及していく上でどのような課題がありますか

上野氏(Circularise):欧州の調査によると、情報が少ない製品と比べて、情報が多い製品のほうが消費者の購買意欲が高かったという統計データも出ています。

消費者個人個人のグリーンリテラシーも上がっていくと考えられますので、商品の情報価値が求められ、販売量が増え、回り回ってDPPの導入コストに見合うようなビジネスに成長していくといいなと思います。

桐生氏(丸紅):また、BtoBの業界も情報共有は進んでいくのではないかと考えています。欧州に市場がある自動車や化学品メーカーさまは特に、欧州の規制が進むことを踏まえて関心を持っていらっしゃいます。

DPPを使い出す動機やトリガーが何になるのかというところは、さまざまな業界と協議することで探っていきたいです。

DPPを先行型で進める企業さまも増えていますが、直近は「マスバランス・アプローチ」を化学・エネルギー分野の企業さまに多く採用いただいています。

サーキュラーエコノミー市場でビジネスが拡大している「マスバランス・アプローチ」とは

マスバランス・アプローチの考え方について教えてください

上野氏(Circularise):欧州では再生可能エネルギー指令(REDⅡ)やEU包装税など、資源やエネルギーの循環を促すために規制が進んでおり、特にプラスチック、化学、エネルギーの各業界においてサプライチェーンの運用を大きく転換する必要があります。

しかし、現実的にはリサイクル製品、バイオべース製品、バージン製品など複数の材料を同一の製造ラインに投入する場合、原料を完全に切り替えたり追跡することは困難です。

マスバランス・アプローチによって材料の入りと出をバランスさせ、プロセスで生産される製品にさまざまな特性を割り当てることができます。

例えば「50%のバイオマス由来原料と、50%の石油由来原料」を投入した場合、完成品の原料の割合は50:50です。しかし、マスバランスアプローチは、クレジット形式で一部の完成品に実質的に割り当てることができるため「100%のバイオマス由来製品と100%の石油由来製品」とみなすことが可能になります。

Circularise社が提案する「マスバランサー」とはどのようなシステムでしょうか

上野氏(Circularise):マスバランス・アプローチは、原料プロセスの完全性を保証するために第三者機関の認証が必要で、そのためにはサプライチェーン全体で帳簿や報告書の作成が必要となります。

これをExcelを使って原料の投入量などを手入力するのは非常に煩雑なため、弊社のマスバランサーによって台帳管理をデジタル化することで、業務効率化・簡略化に直結させることができます。

ISCC PLUSやREDcertなどの厳格な認証プロセスにも役立てていただいています。

最後に今後の展望について教えてください。
桐生氏(丸紅):Circularise社の商品の特徴としては、どこかの業界に特化したシステムではなくて、いろんなところで使える汎用的なプログラミングになっていますので、さまざまな業界の方とフレームワークをしてデータポイントを整理した上で、どのような見せ方をしていくのか、その業界に合った形に協議していきたいです。