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フィンランド発・飲食店の余剰食品販売アプリ「ResQ(レスキュー)」が成功する理由

今回はフィンランド発のフードロス削減のためのモバイルアプリ「ResQ」をご紹介します。位置情報を使い、食品店や飲食店の余剰商品と消費者をマッチングすることでフードロスを削減するサービスです。

位置情報ベースのモバイルアプリ

ResQアプリで売られているのは、主にレストランやカフェなどで時間が経ってしまった食品。実店舗では売切るために新たな値札をつけて割引販売されているのをよく見かけますが、それをデジタル化したものです。

加盟店の飲食店は、まず出品したい商品を登録します。たとえばパン屋さんなら「ロールパン5個」に売りたい価格、たとえば「4€」を入れます。店や商品によりますが、だいたい30%からものによっては100%(フリー)まで割引しています。

するとアプリのマップに店と商品内容が表示され、近くのユーザーに情報を届けることが出来ます。ユーザーは家の近所や仕事場の近くのお買い得商品を簡単に探せるというわけです。

支払いはアプリ上のカード決済。決済が済むと消費者は店に行って決済画面を見せ、店側が用意した商品を待つことなく受け取ることができます。

「三方よし」のResQビジネス

2016年にスタートしたResQは、今年9周年を迎えました。フィンランドでよく見られるランチビュッフェの店から余剰食品を「レスキュー」することに焦点を当てて始まりました。9年間で累計1,600万点以上の余剰品を救出し、エリアもスウェーデン、エストニア、ドイツに拡大しています。

2016年1月にフィンランドでスタートしたあとすぐにスウェーデンに進出し、2018年には100万点を売り上げます。コロナ禍を経て2023年には1500万点となり、毎日平均1万個のアイテムが売られるまでになりました。

昨年(2024年)には1600万点に達し、ドイツに進出し、扱うアイテムも飲食店だけでなく余剰花、野菜、果物の販売に拡大を始めています。まさに快進撃と言えるでしょう。

近江商人がルーツといわれる「三方よし」というビジネス哲学があります。「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」が成り立つ商売のことですが、ResQはまさにそんなサービスです。「売り手」である商店は、売れ残りの解消、「買い手」である消費者は、お得な商品で節約、そして「世間よし」はもちろん、社会課題であるフードロスの解消に貢献しているのです。

フィンランドでフードアプリが成功する理由

さて、ここで疑問なのは、ResQのようなサービスがなぜ日本で普及しないのでしょうか。逆に言うと、なぜフィンランドでこのビジネスが成功したのでしょうか。これには、大きく2つ理由があると考えられます。

一つはフィンランドの「ビュッフェ文化」があります。ResQのルーツはビュッフェの余剰食品の解消から始まりました。フィンランドのレストランはビュッフェスタイルが多く、合理的ではありますが、必ず余剰が出ます。ResQに加盟している店もビュッフェスタイルの店が多く、余剰というよりその料理の一部をあらかじめ登録している店もあります。

たとえば中華料理であれば、「春巻き6本 」という単位で登録しておき、売れればビュッフェからその分を取り出してお客さんに渡すというわけです。

店にとっては来店客以外で、空いた時間に出品するだけで売上が得られるため、ResQに登録するデメリットはほとんどないと言えるでしょう。

ヘルシンキ市内にある加盟店の中華レストラン。ResQのオーダーが入るとビュッフェから取り出して販売する。

もう一つの理由は、フィンランドでは都市構造上、ほとんどの店舗は駅のモール内にあり、店舗が位置的に集中していることです。そのため消費者はあちこちに行く必要がなく、自分が利用する駅の周辺で効率よく回ることができます。同じモール内で複数の店のResQ品を比べることもできます。つまり、位置情報アプリのメリットが十分に活かせる状況にあったということです。

一方で、日本の場合はいろんなところにお店が散らばっているのため、アプリで若干安くなっている商品を見つけても、わざわざ時間をかけて遠くの店まで行く人は少ないでしょう。日本の類似アプリでは、距離的な課題の解消が一番のネックになると思われます。

日本のフードロスは、年間約472万トン(令和4年度推計値)で、国民一人あたり103グラム、おにぎり1個分捨てていると言われてるほど深刻です。フィンランド固有の事情や文化を利用して成功したResQのように、日本固有の課題や文化に即したサービスが生まれ、成功してほしいと願うのみです。

「私たちはいい食べ物を無駄にしません!」ResQのキャッチフレーズ