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「循環する家」で住宅業界のサーキュラーエコノミーに挑むー積水ハウスが宣言した「つくり方から、つくりなおす」家づくり

住まいのサーキュラーエコノミー移行へ向けて、2024年12月に積水ハウス株式会社が発表した「循環する家(House to House)」プロジェクト。3万点以上からなる住宅の部材を見直し、リサイクル部材、リニューアブル部材、リユース部材だけで構成された家づくりと、持続可能な資源利用を目指す取り組みです。

「つくり方から、つくりなおす」をスローガンに2050年の達成目標を掲げる本プロジェクトについて、狙いや実現への課題を積水ハウス株式会社 環境推進部長 井阪由紀氏と環境推進部 村井孝嗣氏にお話をお聞きしました。

住まいのサーキュラーエコノミーが困難な理由

飲料メーカーではペットボトルを再利用する「ボトルtoボトル」、欧州では車の部品を再利用する「Car to Car」など他業界がサーキュラーエコノミーの取り組みを加速する一方、住宅においてはその実現が難しいといわれています。

住宅に使用される部材は3万点以上と多種多様です。部材にはさまざまな素材を組み合わせた複合材が多用されていること、関わるサプライヤーが多岐に及ぶことなどから、住宅のサーキュラーエコノミーにおいては多くの課題を抱えているのです。

積水ハウス株式会社(以下、積水ハウス)は「循環する家(House to House)」の実現には高いハードルがあるとしながらも、住まいづくりを支えるさまざまな企業が一体となって取り組むことで、達成できると考えています。スローガン「つくり方から、つくりなおす」は住宅業界へのメッセージだと、井阪氏は語ります。

『家は未来への資源です。これからの住まいづくりにおいては上流から下流まですべてが一体となり持続可能な住まいづくりへ舵を切っていこう。「つくり方から、つくりなおす」はそんな思いを込めた住宅業界へのメッセージになります』

2024年12月4日「循環する家(House to House)」プロジェクト発表会で行われたパネルディスカッション「住まいの循環デザインを考える」。(左から、積水ハウス株式会社 環境推進部長 井阪由紀氏、大建工業株式会社 R&Dセンター 次長 兼 知的財産部 知財戦略担当 リーダー 高澤 良輔氏、株式会社ブリヂストン 化工品事業開発部門 配管開発部 配管開発第1課 課長 三觜 浩平氏、積水ハウス株式会社 ESG経営推進本部 環境推進部 村井 孝嗣氏、積水ハウス株式会社 R&D本部 総合住宅研究所長 東田 豊彦氏)

「循環する家(House to House)」とは

「循環する家(House to House)」(以下、「循環する家」)とは、リサイクル部材、リニューアブル部材、リユース部材だけで構成された住宅を供給できる体制を構築し、持続可能な形で資源循環を目指す取り組みです。

わかりやすくいうと「資源投入のところから循環して使えるものだけを使って構成された家を開発すること」だと井阪氏は言います。

資源投入することのできる部材は3つあります。1つ目のリサイクル部材は、主要な構成材料にリサイクル原材料を含む部材とし、リサイクル方法はクローズドループリサイクル、水平リサイクルに限定しません。2つ目のリニューアブル部材は、主要な構成材料にバイオマスなど再生可能資源由来の原材料を含む部材、3つ目のリユース部材はリユースを前提とした部材としています。

「House to House」概念図

また積水ハウスでは、これまで行ってきた住宅の長寿命化、資源の適正利用などの取り組みをサーキュラーエコノミーの観点から再評価し、住まいの循環デザインを考える「サーキュラーデザインプロジェクト」として3つの領域に体系化、整理しました。「循環する家」は「住宅部材と原材料の循環利⽤」の領域に含まれます。

「サーキュラーデザインプロジェクト」

協業による水平リサイクルがスタート

「循環する家」実現へ向けた基盤には、廃棄物回収システムである「積水ハウスゼロエミッションシステム」の取り組みがあります。2023年度は新築の施工現場から発生した約3万7000tの廃棄物を100%リサイクルすることに成功しました。

このシステムの大きな特徴に「資源循環センター」の活用が挙げられます。全国21か所に拠点を構える「資源循環センター」では、積水ハウスの施工現場で発生する廃棄物の回収から分別、高品質なリサイクルのための処理等を行ってきました。発生した廃棄物は施工現場で27種類に分別されたあと、資源循環センターで60~80種類まで再分別し、すべて再資源化されているのです。

資源循環センターと廃棄物の流れ

20年以上にわたり取り組まれてきた「積水ハウスゼロエミッションシステム」では、再資源化の仕組みや情報発信ネットワークが培われています。これらを「循環する家」プロジェクトを推進するうえでの大きな基盤と捉え、サプライヤーへ共有し、資源循環に活かします。

また、協業による水平リサイクルも始まっています。株式会社ブリヂストンとは給水給湯樹脂配管を、住宅用建材メーカーである大建工業株式会社とは畳の下地に使われるインシュレーションボードの水平リサイクルの運用が開始しました。新たなサプライヤーとの連携も進行するなど、サプライヤーとの連携基盤を構築することが住まいのサーキュラーエコノミー実現に貢献すると考えています。

資源循環センター内には細かく分別された廃棄物が並ぶ

「資源循環センター」が担うハブの役割

「循環する家」プロジェクト公表から2か月が経った今の状況について、村井氏は「現在は現状分析を行っており、今後はその結果をもとに課題を抽出していく」と述べます。「膨大な扱う範囲から優先的に推進する建材を選定する基準設定は難しいと感じています」と村井氏。積水ハウスが抱く3万点を超える部材の資源循環に向き合う難しさや課題の重さが感じ取れます。

とはいえ、住宅のサーキュラーエコノミーを推進するうえでは、ガラスからガラス、床板から床板のように新築・解体現場で発生する製品や端材の水平リサイクルは大きな課題です。

「サプライヤー等が自社の経営方針などに基づき課題を選定することを想定し、どのように建材で開発するかなど連携して取り組む体制を整えていきます。当社は原材料の供給元や自社製造品に対し、実現可能性の高い建材を選定し市場ニーズを踏まえ決定し開発していきます」と村井氏は話してくれました。

また、ハウスメーカーによる「循環する家」プロジェクトの宣言が、業界全体に及ぼす影響力は大きいと考えられます。サプライヤーとの協業によりプロジェクトを展開するポイントは「可能な範囲などから情報共有を図り、共通する課題を認識すること。ここから協業化出来る建材を選定しサプライヤー等へ促すなど、建材ユーザーとして連携していくこと」だと村井氏は述べます。

資源循環センターでの廃棄プラスチックの分別

サプライヤーと連携し、協業を進めるための鍵となるのが「資源循環センター」です。茨城県古河市にある「関東資源循環センター」では住まいのサーキュラーエコノミ―移行のための研究と実践の場として多くの人の視察を受け入れています。

資源循環センターを介して、各社が開発した製品がどのように廃棄・回収されるか実態を把握し、再生原材料による製品開発・改善へとつながるハブ的な場としての活用を見据えているためです。

実際、資源循環センターの視察からヒントを得てリサイクルを実現した企業事例もあり「資源循環センターがハブとなってリサイクルを促進するきっかけができた」と井阪氏は述べます。

廃棄物を回収する袋にはQRラベルを付け、排出状況を集計・分析している

リサイクルから始まった資源循環センターの取り組みは、先述の株式会社ブリヂストンの給水給湯樹脂配管や大建工業株式会社のインシュレーションボードのように、水平リサイクルへと進化してきました。プロジェクト達成のためには、今後さらなる取り組みが求められます。

「すべての廃棄物のマテリアルリサイクルを達成するには、パートナー企業の対象範囲を広げていく柔軟性が必要です。また、通常求められるリサイクル業者の受け入れ基準より高い基準が必要となり、これが広範に展開できるようになるにはリサイクルのあり方の社会的なボトムアップが期待されます」と話してくれた村井氏。住宅業界を大きく変える「循環する家」の今後に、注目が集まります。