記事を読む

企業の社会的責任を果たすことが求められる昨今。しかし、サーキュラーエコノミーの重要性はそれだけではありません。世界中で資源が不足し価格高騰が危惧される未来。資源を海外に依存した生産ではなく自分たちで確保し循環させさせることは、メーカーがものを作り、企業経営をより持続可能につづけるために非常に重要な視点となります。

自分たちが使う木材やプラスチック類などの資源を自分たちで回収し循環させていく。そんな取り組みを約20年前にスタートさせたのが、ハウスメーカー積水ハウス。同社は、建設廃棄物100%のリサイクルを実現させました。今回は、積水ハウスのゼロエミッションの活動の核となる「資源循環センター」に足を運び、分別の仕組みや目指す未来の姿についてインタビューしました。

※この記事は旧サイト(「環境と人」)からの移行記事です。

廃棄物を資源に変える「資源循環センター」

株式会社積水ハウス (左)設備情報部スペシャリスト 田中 晋氏/(右)環境マネジメント室 井阪 由紀氏

茨城県の古河市にある積水ハウスの「資源循環センター」。関東エリアの新築施工現場やリフォームの現場で発生した廃棄物が各地に設置された回収拠点を経由し「資源循環センター」に運ばれてきます。

回収される廃棄物には、部屋の天井や壁の下地である石膏ボード、床に貼られるフロア材、部屋の天井や壁の仕上げ材であるクロス、その他屋根材や電線、これら材料が現場に納められるときに使用される梱包材など、建物を構成する多種多様なものが含まれます。

一般的に廃棄物を施工現場から搬出するには、収集運搬の専門業者に委託します。この専門業者を産業廃棄物収集運搬業者といい、廃棄物を積む自治体と降ろす自治体それぞれに許可が必要となります。廃棄物を広域にわたって回収するためには、収集運搬業者それぞれが相当数の自治体の許可を取らないとリサイクルが推進出来ないとなると、このような制度がリサイクル推進の妨げの原因になりかねません。そこで、この問題を解消するために「広域認定制度」が用意され、認定されると自治体ごとに必要な許可が不要となり、効率的に廃棄物を回収することが可能となります。積水ハウスはこの制度を業界で初めて取り入れることにより、各地に点在する施工現場から廃棄物を確実に回収する仕組みを構築しました。

一方、施工現場では、資源の無駄を省くための様々な取り組みを実施しています。その中心となるものが廃棄物の27分別です。建設廃棄物とは、現場で使用する建材を、建物の設計に合わせてカットすることにより発生する端材や梱包材などです。資源循環センターでは廃棄物ごとにリサイクルを達成するために取引先を選定します。この目的に沿うためには端材を施工現場で細か分別することが必須と考え実践しています。これを資源循環センターへ回収します。

建設廃棄物の回収では、ドライバーが担当地区の施工現場に週に2回以上出向きます。施工現場で27種類に分別された廃棄物をいれた分別にはQRコードが印刷されたラベルが貼られます。積水ハウスが施工現場ごと、廃棄物種別ごとに廃棄物重量を計測するために採用する独自のシステムです。資源循環センターで廃棄物を受け入れるときに、分別袋ごと計量器に載せ、同時にQRコードを読み取ることにより物件ごとの廃棄物データが集計されます。

データを集積することで建物ごとに(住宅や共同住宅、構造、階数など)「どの端材が多く出ているのか」「端材が少ない現場はどのような工夫をしているのか」などの廃棄物発生原因などの情報を得ることができます。データ以外にもドライバーや施工現場の職人さんから「ここの端材はもっと減らせるかもしれない」という意見をもらい、建材の出荷時の量や荷姿などを改善していきます。

見直しを重ねていくことで、2000年時点では1棟新築を建てると約2.9tの端材が発生していたところ、2017年には約1.5tまで削減されました。

田中氏 回収が必要な現場と収集運搬業者の回収計画のための廃棄物回収システム『ぐるっとPass(パス)』を自社で開発しました。かつて電話やFAXなどから依頼を受けて回収していたところ、WEBシステムであるこのシステムにより効率的な回収が実現し、効果的な回収計画に加え、ドライバーは、現場の様子を見ながら細やかな回収計画を立ててくれているため、回収効率が大幅にアップしました。

水平リサイクルできないときは上流を見直す

積水ハウスがこの施設で行っているリサイクル手法には、「マテリアルリサイクル」と「サーマルリサイクル」の2つがあります。「マテリアルリサイクル」は、廃棄物を新たな製品の原料として再利用するリサイクル方法。「サーマルリサイクル」では、単純な焼却ではなく、焼却時に発生する熱エネルギーを回収・利用するリサイクル方法です。

田中氏 マテリアルリサイクルを第一優先にしていますが、2つ以上の素材からなり分別不可能な複合部材や接着剤やセメントなどの不純物が多く付着した部材などは、ガス化溶融処理施設やより細かな分別をおこなってくれるリサイクル業者へ委託をすることになります。

「資源循環センター」に集まってくるのは、木材、石膏ボード、段ボール、柔らかいプラスチック、硬いプラスチック、紙などさまざまですが、施工現場で分別されたものの中にテープや砂など不純物が入っている場合は、基本的には手作業で取り除いていきます。

その中でもより細やかな分別が必要となるのが、ポリシートやテープ類、PPバンドなど軟質系プラスチックと多種多様な硬質系プラスチック。これらは手作業によって、さらに目的やリサイクル業者の基準、素材ごと、部品ごとなど約40種類ほどに分類されます。ただ、種類ごとに分ければリサイクルが可能になりますが、それでも中には他の素材と付着しているためリサイクルできないものも。その場合は「リサイクルできる仕様に変更できないか」を製造元のサプライヤーさんに相談することもあります。

例えば、この水道用配管の中の保温材。昔は内側の断熱材と外側のプラスチックが接着されており、分解できなかったためリサイクルできませんでした。しかし、サプライヤーさんと相談することで現在では手で分解できる仕様となっています。こういった積極的な姿勢もあり、この配管の保温材の仕様は製造業界の基準の一つとなりました。

井阪氏 例えばラベルのような付着物がだあるけでも、水平リサイクルの効率は落ちてしまうものです。そういう時は、部品を製造しているサプライヤーさんに改良ができないかどうか相談させていただいています。

改良することによって「環境に配慮している」と商品に付加価値をつけることもできると思います。「環境にいいことをしましょう」と促すだけではなく、サプライヤーさんにもメリットのある形を共に考えられるのが理想だと思っています。

人体や土壌に優しいアップサイクル商品も

また、工場内では一部アップサイクル品の製造もされています。こちらは石膏ボードを紙と石膏にわけ、石膏を粉末にしたものと、近くの食品メーカーで不要となった卵の殻を同じく粉末にしたものを混ぜたグラウンド用白線「プラタマパウダー」。子どもたちの体にもやさしく、風が吹いても白線がとれにくいことからリピートしてくれる学校が多いのだとか。

田中氏 卵の殻のおかげかは分からないのですが、「この白線を使っていたら芝生が元気になった」という声をいただいたこともあります。人体や土壌に優しいほぼ中性の商品なので、微生物や土壌に何かいい影響を及ぼしてくれているのかもしれません。

もっとも重要なのは、リサイクルの品質を高めること

工場を見学して感じるのは、スタッフ皆さんの丁寧さと意識の高さ。積水ハウスの資源循環でもっとも大切にしているのが、リサイクルの品質の高さだと言えます。リサイクル業者へ委託する際も、可能な限り不純物がないきれいな状態で渡すことを重視しているそう。

井阪氏 例えば、異物が混入すると場合によってはリサイクル業者さんの機材の故障原因になることがあります。リサイクル業者さんが買い取ってくれなければ、私たちの資源循環は成り立ちませんから、次の素材として生まれ変わらせるためにも品質の追及はすごく意識していることです。時には「どのように分別できていればリサイクル業者さんの負担を減らせるか」直接フィードバックをいただくこともあります。

スタッフの皆さんの丁寧な分別もさることながら、そもそも施工現場の職人さんたちがきれいに分別した上で「資源循環センター」に届きます。端材が減り、分別の質が向上したのは、施工現場の職人さんたちにもこの「資源循環センター」に足を運んでもらったことがきっかけでした。

田中氏 自分たちが丁寧に分別することがどんなふうに循環につながるのか、目で見て実感してもらうことがとても重要です。不思議と、この工場に来た次の日から施工現場の分別の様子は変わってくるものなんです。中には「自分の子どもに誇れる仕事ができていてうれしい」と言葉にしてくれた職人さんもいて、私たちも感動してしまいました。

人に任せず、自分たちでやる。工場長の想い

「資源循環センター」ができたのは、約20年前。SDGsという言葉がまだ生まれる前のことです。なぜ積水ハウスは、ここまで早い段階で資源循環の取り組みを進めてこれたのでしょうか?それは、当時の工場長の「最初はお金がかかってもいいから徹底的にやろう」という声かけからスタートしました。

工場長が資源循環の重要性を感じるきっかけとなったのは、茨城県笠間市の埋立処分場建設計画。住民の反対運動により、オープン直前に受け入れが一時中止となりました。

田中氏 県が営む大きな埋立処分場だったので、まさか中止になるとは思っておらず、工場長もかなり驚いたようです。でも、毎日のように廃棄物が載せられたトラックが何台もやってくるなんて、住民の気持ちを想像すれば反対して当然のこと。このことをきっかけに、「何もせずに埋め立てするというやり方はやめなければならない。であれば、自分たちで策を打たねば」と感じたようです。

「資源循環センター」の運営には一定のコストがかかります。しかし、すべての廃棄物を一括で一般的に行われる処理業者への処理委託よりはコストが安いそうです。また、資源循環センターで更に分別することなくリサイクル業者にこれを任せることもできますが、“まずは人に任せず自分たちでやる”というのが20年前の工場長からの教えなのだそう。

井阪氏 人にやってもらうことは簡単なのですが、自分たちが出した廃棄物はちゃんと自分たちで面倒を見ることが私たちの責任だと思っています。自分たちでやったほうが透明性があり、改善点も見えやすいんです。根本的な原因がわからないと、改善のしようもありませんから。

“まずは人に任せず自分たちでやる”という工場長の教えを大切にしてきたことで、どんどん機材が増えて『資源循環センター』はこんなにも大きな施設になりました(笑)

今後の課題は、循環の輪を大きくしていくこと

最後に、積水ハウスのゼロエミッションの取り組みが今後目指していく未来について聞いてみました。

井阪氏 当社と当社に関わるサプライヤーさん、リサイクル業者さんという小さな輪だけでは、リサイクルするほうが新たな材料を調達するよりコストが上がってしまう場合があります。もっと大きな輪、つまり業界全体での資源循環が進むように、我々がその先駆けのような存在になれればと思っています。

例えば、先ほどの配管の保温材のように、リサイクルしやすい仕様の商品に改良したとしても買い手が積水ハウスだけの場合、リサイクル業者が買い取れる量や廃棄物の回収量が限られてしまいリサイクル効率が悪くなってしまいます。一方、その商品が業界全体のスタンダードになり、大きな輪で循環させることができれば、買取り量、回収量ともに安定し、サプライヤーさんにとってリサイクルすることが経済的にメリットがある状態に変えていけるかもしれません。

井阪氏 資源循環センターはどなたでも見学に来ることができますし、私たちが20年蓄積してきた知見はどんどん外にも発信していきたいと思っています。リサイクル業者さんの負担を軽くしたり、サプライヤーさんの新たな挑戦を支援したり、いつも協力してくださっている方々との密なコミュニケシーションを引き続き大切にすることで、徐々に輪を大きくしていくことに貢献していければと思っています。

取材協力:積水ハウス株式会社
https://www.sekisuihouse.co.jp/