建設現場で広く使用される石膏ボード。その廃棄物処理が大きな環境問題となっている中、革新的な水平リサイクル技術で注目を集めるスタートアップがあります。
三重県四日市市に本社を置く株式会社GYXUS(ジクサス)。同社は2024年11月に行われた「埼玉県サーキュラーエコノミースタートアップビジネスプランコンテスト「CSUP」」の最終選考にて、最優秀賞を受賞しました。代表取締役社長、平田富太郎氏に、石膏ボードリサイクルの重要性と同社の取り組みについてお話を伺いました。

年間350万トンが廃棄される石膏ボード
—このたびは最優秀賞受賞おめでとうございます。まず、石膏ボードとは何か、簡単に教えてください。
石膏ボードは、壁や天井に広く使用されるもので、その最大の特徴は防火性能にあります。皆さんの家に帰ってクロスを剥がしてみると石膏ボードが出てくるはずです。それほど私たちの生活に密接に関わっている建材です。
—石膏ボードの廃棄物処理にはどのような課題がありますか?
環境省が昨年8月に制定した第五次循環型社会形成推進基本計画では、石膏ボードの資源循環が国家戦略として位置づけられました。これは、石膏ボードが大量に使用される一方で、その廃棄物処理に課題があるためです。2037年以降、年間350万トン以上の廃棄物が発生すると予測されていますが、リサイクル方法が確立されておらず、大半が埋め立てられると想定されています。このペースで埋め立てを続けると、石膏ボードだけで国内の埋め立て処分場を約40年で一杯にしてしまうほどのインパクトがあります。
—石膏ボードのリサイクルが難しい理由は何でしょうか?
従来の石膏ボード水平リサイクル技術では「大型結晶化」という工程が必要だと言われていました。多くの大型結晶化技術が研究されていますが、どの技術もコストが課題となっています。
起業したきっかけ
—石膏ボードの地域循環リサイクル事業を始めたきっかけを教えてください。
私の祖父が創業した会社(チヨダウーテ社)が、日本の石膏ボードメーカーの一つでした。私は取締役および専務執行役員として経営に携わっていましたが、2021年にTOBでドイツの会社の傘下に入ることになりました。
Knauf社との仕事は刺激的でしたが、私の考える石膏ボードリサイクルの将来像と、彼らの考える将来像は大きく異なっていました。
そのため私はチヨダウーテ社を2023年10月に退職し、自分で理想的な石膏ボードリサイクル体制を構築しようと考えました。
—それで新たな会社を設立されたのですね。
はい。前職では、主に都市部の石膏ボードリサイクルについて投資を行ってまいりました。しかし、私は日本全体のリサイクル率を底上げすることが目標でしたので、地域循環にこだわりました。そこで、2023年10月の退職と同時に株式会社GYXUSを設立し、独自の技術「GYXUS CORETECH」の開発に着手しました。

石膏ボードの地産地消が実現する理由
—独自技術によって、どのように石膏ボードの地産地消が実現するのでしょうか。
弊社の技術「GYXUS CORETECH」は、使用済み石膏ボードから大型結晶化のプロセスを経ずに、そのまま砕いたものを原料にできる技術です。これによりプロセスが少なくなり、また小規模プラント戦略を採用することで、輸送コストを削減することもでき、既存商品と同等の価格競争力を維持できると考えています。
さらに、50km圏内での地産地消を実現し、静脈物流と動脈物流を有機的に連携させる事で労働生産性を向上させる事も重要なファクターです。「弊社の独自技術」「小規模プラント」「50km圏内」という3つの戦略によって、大量生産でコストを下げる必要がなくなり、石膏ボード製品の地産地消が実現できます。
—地産地消のビジネスが成り立つ条件を教えてください。
「月500トンから始める石膏ボードリサイクル」という言葉を展示会などで発信しています。例えば、北海道では道央圏に1つプラントを置く予定で、北海道全域をカバーできると考えております。

地産地消の実現と今後の展開
—現在の事業展開状況を教えてください。
すでに北海道、沖縄、神奈川でパートナー企業と提携し、プラント建設を進めています。さらに、本年1月には京都府で、2月には埼玉県でも新たなパートナーシップを締結いたしました。また、その他複数の都道府県のパートナーの皆様とも水平リサイクルのプラントを作る計画を進めています。
—海外展開も視野に入れているとお聞きしました。
はい、例えば、ハワイのような島嶼地域での資源循環モデルの構築を検討しています。私たちの技術を使えば、ハワイで使用済み石膏ボードを再生し、再びハワイで使用することができます。これにより、埋め立て処分場の問題解決と、アメリカからの輸送コスト削減が同時に実現できるのです。また、韓国やASEAN諸国にも技術を輸出したいと考えています。

—現状の課題はありますか?
スタートアップであり、かつ製造業という点で資金調達に工夫が必要だと考えております。ありがたいことに、本事業の必要性を多くの方にご理解いただくことにより、資金調達は順調に進んでいます。
むしろ資金調達より法律面での課題があります。現在の廃棄物処理法が、事業者に規制をかけることが前提で作成されており、水平リサイクルを促進するような考え方になっていないため、どうしても事業展開のスピードが落ちてしまいます。水平リサイクルに特化した法律の緩和を期待しています。
—CSUP受賞の反響や成果はありましたか。
最優秀賞をいただけたことにより、埼玉県内でのパートナー企業が決まったことが大きな成果です。また、知事から表彰を受けたことで信用性が高まり、金融機関からの融資も受けやすくなりました。社会性のある事業として認められたことは、非常に大きな意味がありました。
—最後に、今後の目標をお聞かせください。
私たちの目標は「石膏ボードを地球に埋めない社会を作る」ことです。この技術を全国、さらには世界中に広げていくことで、持続可能な建設産業の実現に貢献したいと考えています。石膏ボードのリサイクルが当たり前の社会になるよう、これからも努力を続けていきます。