記事を読む

サーキュラーエコノミーを推し進める埼玉県。1月22日(水)、ビジネスマッチングイベント「彩の国ビジネスアリーナ2025」で行われた「サーキュラーエコノミー スタートアップトークセッション」では、大野元裕埼玉県知事と4名の起業家が、サーキュラーエコノミーの可能性と課題などについて語りました。「労働生産性の向上」「ビジネスとしての成立」「文化の創造」など、多角的な視点から意見があり、サーキュラーエコノミーの未来像を語る機会となりました。

トークセッション登壇者プロフィール

株式会社 GYXUS 代表取締役社長 平田 富太郎氏
埼玉県サーキュラーエコノミースタートアップ ビジネスプランコンテスト 最優秀賞受賞者
大手石膏ボードメーカー チヨダウーテ株式会社の取締役専務執行役員、そして石膏ボードリサイクル日本最大規模の株式会社トクヤマ・チヨダジプサムの代表取締役を歴任。多くの経験を通して、国内そして世界中の石膏ボードリサイクル率向上のためには新技術・新市場の創造が必要と考え、株式会社GYXUSを起業し現在に至る。2024年「埼玉県サーキュラーエコノミースタートアップ ビジネスプランコンテスト」にて『石膏ボード水平リサイクルによる循環型社会の実現』で最優秀賞を受賞。

株式会社 digglue 代表取締役 COO 中谷 元氏
さいたま市在住。製造業や金融領域の業務変革コンサルタントとして従事したのちdigglue創業。
ブロックチェーンやAI・IoTなどのテクノロジー導入支援から事業をスタートし、現在はサーキュラーエコノミーのDX事業に特化。資源循環コンサルタントとしてさまざまな活動を牽引。
自社サービスのMateRe、CiReta!の開発責任者。

fabula 株式会社 代表取締役 CEO 町⽥ 紘太氏
幼少期をオランダで過ごし、環境問題に興味を持つ。世界60か国以上を旅行。コンクリート研究室で、建設材料の持続可能化を目指して「食品廃棄物からつくる新素材」を開発。東京大学を卒業後、2021年10月、幼なじみと共にfabula株式会社を設立。「ゴミから感動をつくる」をステイトメントに、あらゆる未利用資源の価値化を目指す。

Back Market Japan 株式会社 アジア太平洋地域代表 山口 亮氏
大学院卒業後、ボストンコンサルティンググループを経て、楽天グループ株式会社、Agoda にて要職を歴任。2022年に、世界最大級のリファービッシュ品のマーケットプレイスである仏ユニコーン企業 Back Market の日本法人に入社。日本・韓国・豪州における事業責任者として、リファービッシュ文化の普及や事業成長を推進。

左から、平田氏、中谷氏、町田市、山口氏、大野埼玉県知事

人口減少時代の切り札? サーキュラーエコノミーへの挑戦

—なぜ埼玉県はサーキュラーエコノミーに取り組むことになったのでしょうか?

大野知事:埼玉県は大きな時代の変革期に差し掛かっています。3年前から人口が減り始め、高齢化のスピードが日本一速い。そのような中で、労働生産性の向上が不可欠です。また、環境面でも「作って使って捨てる」一直線の経済から、循環型の経済へ移行する必要があります。

サーキュラーエコノミーは、これらの課題を同時に解決できる可能性を秘めています。今ある資源を有効活用することで、新たな産業を一から作るよりも投資効率が良く、中小企業も大企業も同じベースで参入できるのです。

アイデアの源泉は? 起業家たちが語る着想と成功のポイント

—ビジネスの着想はどこから得たのでしょうか?

平田氏:私は元々石膏ボードメーカーに勤務していました。工場では不良品の処理に大変困っていて、その経験からリサイクルビジネスの可能性を感じました。メーカーでさえ使いこなすのが難しい廃棄物を再利用できれば、大きなビジネスチャンスになると考えたのです。

町田氏:私の場合は大学の研究がきっかけでした。食品からものを作る研究をしていたのですが、結果的にサーキュラーエコノミー的なアプローチになりました。環境問題への関心が根底にあり、研究成果を社会実装したいという思いから起業を決意しました。

—成功のポイントは何だと思いますか?

山口氏:サーキュラーエコノミー型ビジネスの強みは、環境に良いことだけでなく、本質的な価値を提供することです。例えば、環境に良い椅子を売る場合、座り心地の良さや価格の安さなど、椅子としての価値が重要です。その上で環境への配慮が付加価値として加わることで、大きなマーケットを獲得できるのではないかと考えています。

サーキュラーエコノミーの課題と可能性

—サーキュラーエコノミーを広めていく上での課題は何でしょうか?

松田氏:文化にすることが重要だと考えています。SDGsなどの難しい言葉ではなく、日常生活の中で自然と受け入れられるようにすることが大切です。そのためには、啓蒙的なアプローチではなく、資本主義の原理に則ったビジネスモデルを構築する必要があります。

中谷氏:情報インフラとしてのプラットフォームを安く提供し、その上にアプリケーション領域で価値を発揮することが重要です。トレーサビリティを確保しつつ、新しいビジネスモデルを創出することが可能になります。

山口氏:企業のSDGs推進と、現場の意識のギャップも課題です。役員は「サーキュラーエコノミーを実現せよ」と言いますが、現場では「コスト削減」が至上命題になっています。この矛盾を解消する必要があります。

行政の役割とは? 知事が語る今後の展望

—行政はどのような役割を果たすべきでしょうか?

大野知事:実は、ビジネスを成功させるには役所に関与させないことだと思っています(一同 笑)。自治体はこれまでの経緯から、環境については「規制するもの」になってしまっていまっている傾向があります。しかし、ビジネスとして成立しなければ環境もうまくいきません。儲からないものにどれだけ投資してもそれは意味がないのです。逆にビジネスとして成り立てば、持続可能なものとなり、環境にもよいことになります。

埼玉県は、サーキュラーエコノミーをビジネスとして成立させる企業を評価し、マッチングを推進していきます。「エコノミー(経済)」として成立することが肝要なので、そこは皆さんと共に「儲かる商売だ」ということを作り上げていきたいと思います。

終わりに
対談では、知事の指針と実践者のお話を通して、サーキュラーエコノミーが単なる環境対策ではなく、新たな経済成長の原動力となる可能性を感じ取ることができました。行政、企業、そして消費者が一体となって取り組むことで、持続可能な社会の実現に向けた大きな一歩を踏み出すことができるのではないでしょうか。