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循環型の社会デザイン事業を展開する「アミタホールディングス株式会社」(本社 京都府京都市)が手がける地域循環型バイオガス施設「南三陸BIO(ビオ)」では、町から出る生ごみと余剰汚泥を原料とし、発電だけでなく副産物である液肥を地域の農地で活用、散布までを行っています。「南三陸BIO」後編は液肥を活用した有機米「めぐりん米」と、同社が今後全国展開を目指す「MEGURU STATION®」の取り組みについてご紹介します。

※この記事は旧サイト(「環境と人」)からの移行記事です。

バイオガス副産物の肥料を使った「めぐりん米」

前編では、メタン発酵の副産物である液体肥料(液肥)の活用をメインにする南三陸BIOの地域循環の取り組みをご紹介しました。液肥は有機肥料として、散布作業も込みの格安な価格で地域の農家に提供し、主にお米に使われています。

この液肥を利用して生産されたお米は「めぐりん米」として商標登録され、南三陸町と連携してルール作りをするなどブランド化を進めています。商品は南三陸の復興の象徴である「南三陸さんさん商店街」で販売されており、手軽なお土産品として1合袋から用意されています。また、南三陸町のふるさと納税にも採用されるなど、町の新たな特産品として広がりを見せています。

観光施設「南三陸さんさん商店街」で売られているめぐりん米。

めぐりん米は町内の旅館でも提供されています。太平洋を一望できる南三陸町歌津の宿泊施設「ニュー泊崎荘」は、事業者として初めて生ごみの分別に参加した旅館としてアミタが発行する電子書籍『バケツ一杯からの革命』(2017年 アミタホールディングス株式会社)に紹介されています。同旅館のホームページには、町の循環の取り組みに参加していることがうたわれ、食事にはめぐりん米のコシヒカリが提供されています。

震災時には数ヶ月にわたり多くの避難者を受け入れたニュー泊崎荘。右は夕食に提供されるめぐりん米の一例(三陸産蛸の釜飯)

取材を通して、農家、小売店、宿泊施設、輸送業、JAなど、多くの事業者を巻き込み、南三陸BIOを中心とした地域循環のエコシステムが形成されている様子を伺うことができました。

地域の課題解決を目指す資源回収スポット「MEGURU STATION®」

アミタ社では、バイオガス施設ビオのほか、地域の課題解決に資する複合的な機能を持つ互助共助コミュニティ型の資源回収ステーション「MEGURU STATION®(めぐるステーション)」を開発、一部地域ですでに実装を行っています。この取り組みについて、同社の広報担当の方にお聞きしました。

―「MEGURU STATION®」について教えてください。

「MEGURU STATION®」は、「ごみ(資源)出し」という日常的な行動を通じて地域と企業の課題を統合的に解決していこうという弊社の核となる開発事業の一つです。プラスチックなどリサイクル資源の回収場所であると同時に、地域の高齢者や子どもたちの見守り、多世代交流など地域コミュニティの機能を持たせています。

MEGURU STATION®は、地域・地球環境・企業の課題を統合的に解決

資源の持ち込みをきっかけに住民の方が集まってそこで会話が生まれる複合的なスポットになるようにデザインしたもので、現在、福岡県大刀洗町に4ヶ所と兵庫県神戸市ではMEGURU STATION®の特徴をもった互助共助コミュニティ型資源回収ステーションを市内2ヶ所、MEGURU STATION®のノウハウを活用してプラスチック資源に特化した回収ステーション市内8ヶ所の立ち上げ支援を行いました。

※運営主体は神戸市。アミタは、MEGURU STATION®のノウハウを活用し、資源回収ステーション立ち上げ、企業連携、利用活性化等の支援を実施。

ふたば資源回収ステーションに設置されている資源回収BOX

例えば、神戸市にある資源回収ステーションでは、住民の方からプラスチック資源を回収し、再資源化を行っています。ペットボトルキャップ、透明CD・DVDケース、プラスチック製バケツ・洗面器など回収したプラスチックの一部をアップサイクルで、来訪者が腰かけられるベンチを作りました。この取り組みは、リサイクル会社や素材メーカー等の企業連携により実現しました。ステーションが業界を超えた企業連携や立場を超えた官民連携を生み出す場所となり、資源循環の新たな可能性も見出すきっかけになっています。

また、住民にとっては自ら持ち込んだ資源がベンチとして生まれ変わることで、地域に還元していることを実感し、「資源をまた持っていこう」という気持ちの醸成にもつながると考えています。設置直後から、ステーションを訪れる住民の方々がベンチに腰掛けて憩いのひと時を過ごされています。

※現在、ふたば資源回収ステーションでは、CD・DVDケース、バケツ、洗面器の回収は実施しておりません。

地域住民によって分別回収された使用済みプラスチックを一部用いて完成したリサイクルベンチ。住民の憩いの場に。

―住民の方の評判はいかがですか。

大刀洗町では、元々2022年1月〜2023年3月までの社会実証期間として定めていましたが、9割以上の住民の方から4月以降も継続してほしいという声があって延長することになりました。現在は、町内の小学校区4ヶ所で展開しています。継続の声のほかに、ごみや環境への関心が高まったという方も7割を超えており、MEGURU STATION®の存在意義を感じられる結果でもありました。

―一般的には自治体の業務範囲かと思いますが、それを民間企業ができるというのは驚きです。

自治体、民間企業それぞれが縦割りで個別解決していく時代ではなく、全体最適の解決に導くためには、連携・協働していくことが求められると思います。また、自治体と企業が連携するだけでなく、市民参画も欠かせません。MEGURU STATION®のコンセプトは「(住民の方も含め)みんなで作り上げよう」ということで、あくまできっかけづくりだと考えています。

その地域ごとの特徴に合ったMEGURU STATION®が住民や自治体、地域企業等様々な参画者によって、築き上げていくことが重要だと思います。例えば、大刀洗では、資源回収BOXが満杯になった際に自ら袋交換をする住民の方がいらっしゃったり、ステーションを通じて築かれた関係性によって、新しいイベント企画が誕生したり、住民の積極的な参画が見られます。それは、自分たちにとってよりよい環境にしていこうという意志のある行動に感じます。

―ステーションの運営はどのようにされているのですか。

それぞれの自治体と連携協定を結び、協力体制を築いています。現在、神戸と大刀洗では弊社社員がその自治体に出向しており、伴奏しながら一緒に創り上げていく形を取っています。

―今後「MEGURU STATION®」の全国展開をお考えということですが、目標があれば教えてください。

「MEGURU STATION®」が小学校区ごとに1ヶ所、そしてその周辺に小規模なステーションが複数設置されていれば、誰もが気軽にいつでも資源を持ち込むことができ、循環を実感しながら資源回収ができる、そんな理想の姿を描いています。具体的には、2030年に5万ヶ所というのが目標です。

―2030年に5万ヶ所、大きな目標ですね。今後の展開を楽しみにしています。

まとめ〜求められる「持続可能な地域づくり」

エネルギーの9割近くを輸入し、さらに化石燃料にまだまだ頼っている日本。国際紛争の多発により資源調達の不安定化が急速に進む今、エネルギーの自立供給はこれから早急に求められる課題です。電気を使わず微生物の力を使って、地域から出た廃棄物をエネルギーに変える生ごみのバイオガス発電は、他の再生可能エネルギーと比べても持続可能でクリーンな方法と言えます。さらに副産物に有機肥料ができるというおまけまでありますが、実際はこれを活用できずに有料処分をしているプラントも多いと言われています。

そんな中、液肥を地域の農産物生産に活かしブランド化までを行う南三陸BIOの取り組みは、今の時代に即したものだと感じます。社会課題解決をしながら資源循環を促す「MEGURU STATION®」の取り組みと合わせて、持続可能な地域づくりを目指す自治体にとって大いに参考になる事例ではないでしょうか。