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いま、地域活性化の新たな手段としてのサーキュラーエコノミーに期待が高まっています。なかでも有機廃棄物を発酵させてエネルギー化するバイオガス発電は、より持続可能なエネルギーとして、地域の資源循環の促進役として注目されています。

今回「環境と人」では、循環型の社会デザイン事業を展開する「アミタホールディングス株式会社」(本社 京都府京都市)が手がける「南三陸BIO(ビオ)」を訪れました。同町にフィットする小規模プラントの「2万人モデル」は、町から出る生ごみと余剰汚泥を原料とし、発電だけでなく副産物である液肥を地域の農地で活用、事業者と連携して散布までを行うものです。
一般的なプラントとは一線を画す、地域での資源循環を主眼とするその取り組みは全国から注目を集め、令和3年度には「グッドライフアワード」環境大臣賞を受賞しています。

同社が南三陸町に関わるようになった経緯、液肥の活用方法、持続可能な事業を目指す同社の今後の展開などについて、前後編にてお届けします。

※この記事は旧サイト(「環境と人」)からの移行記事です。

バイオガス施設「南三陸BIO」

仙台市から三陸縦貫自動車道で1時間半。三陸海岸の南部、リアス式海岸の豊かな景観が広がる宮城県南三陸町は、2011年の東日本大震災で甚大な被害を受けた町です。その中心部にほど近いところにバイオガス施設「南三陸BIO」があります。

施設への道の入口にある、南三陸BIOのキャラクター「めぐりんちゃん」「メタンくん」が描かれた看板

敷地に入ると、所長の岡田修寛(おかだ のぶひろ)さんが取材チームを出迎えてくれました。

アミタサーキュラー株式会社  南三陸BIO所長 岡田修寛さん

この施設ができたのは、震災から4年後の2015年10月。原料となる生ごみと汚泥の受け入れから粉砕、メタン発酵、ガスおよび液肥の貯蔵、発熱・発電までを敷地内で行っています。発電した電気は基本敷地内で利用、液肥は地域の農業で活用する「地域循環」を目的にデザインされた施設です。

「南三陸BIOの仕組み」南三陸BIOパンフレットより https://www.amita-hd.co.jp/pdf/BIO_pamphlet.pdf

早速、岡田さんにご案内いただいて施設見学をしました。最初に目についたのは、敷地の隅に置かれたかわいらしいカラフルな車。

「めぐりんちゃん」「メタンくん」のイラスト入りの散布車

これは液肥(バイオガス生産時に生成される液体肥料)散布専用車とのことですが、詳しくはあとでゆっくりお話しいただくことに。

伺った時間はちょうど町内の生ごみ回収車の搬入が終了した時間。この日回収されたたくさんの水色のバケツが建物横に置いてありました。

南三陸町全域から回収された生ごみ専用のバケツ。工場内では、生ごみをメタン発酵させるための下準備が行われていました。13時から17時までの午後に集中した仕事とのこと。
生ごみの不適物除去作業の様子。一日約280個のバケツを手作業で処理する。

大量の生ごみを処理する工場内では相当な匂いがすることを予測していましたが、上部のパイプから消毒液が常に噴霧されるため、施設内の空気はクリーンで、意外なほど匂いが少ないのに驚きます。

続いてガス生産のプロセスについて説明をいただきました。

左:メタン発酵槽 右:バイオガス発電機
ガスホルダー(ガス貯蔵庫)

この敷地はもともと町の下水道施設でしたが、震災により下水道が消失し、遊休となっていたところをアミタ社が町から借り受け、事務所部分、そして地下の下水用2000トンの水槽をそのまま液肥の貯蔵用にし、その隣にメタン発酵槽と発電機などプラント部分を新設して現在の形となりました。いわば施設そのものが「リサイクル」になっているのです。

見学後、岡田さんにこの事業について詳しく伺いました。

旧下水道施設の事務室をそのまま活用。岡田さん以外のスタッフはすべて地域採用とのこと。

「地域全体を盛り上げたい」復興を機にバイオガス事業を開始

―では改めまして、南三陸BIO(以下、ビオ)について伺います。どんな施設でしょうか。

南三陸町の住宅や店舗から排出される生ごみ、および余剰汚泥など、有機系廃棄物を発酵処理し、バイオガスと液体肥料(以下液肥)を生成している施設です。生成されたバイオガスは、発電に用いて主に施設内で利用し、液肥は肥料として地域の農地に散布し役立てていただいています。

手前のAMITA CIRCULARのロゴが入った建物で生ごみや余剰汚泥の搬入と不適切物除去作業や破砕を行い、奥にあるメタン発酵槽に投入される。またメタン発酵槽から左に伸びるパイプで別建物の液肥タンクへ運ばれる。

―この事業を行うようになったきっかけを教えてください。

きっかけは2011年の東日本大震災でした。弊社代表の熊野(注:代表取締役会長 兼 CVO 熊野英介氏)の指示で、翌4月にはボランティアで町に出向き、2012年3月には南三陸町にオフィスを構えました。南三陸町で仕事があった訳ではありませんでしたが、「どんな形でもいいから町のお役に立ちたい」という想いでした。

―当時、御社ではすでにバイオガス事業はされていたのでしょうか。

はい、当時、京都府京丹後市のエコエネルギーセンター(現在は施設の閉鎖に伴い事業終了)で事業を行っていました。

南三陸という土地は、街も海も山もある魅力的な地域です。弊社としては、事業ももちろん大事ですが、何より「循環する持続可能な地域として全体を盛り上げたい」という考えがあり、生ごみのバイオガス事業の実証実験をさせていただきました。ある団地の一区域の住民の皆さんにご協力いただき、生ごみの分別、集荷の実験、そしてバイオガス施設で生成された液肥の農地散布の実証も行い、良い結果を得ることができました。

そして2014年、町全体で環境に取り組もうという流れの中で「バイオマス産業都市構想」を立ち上げ、協力いただいた住民の皆様からの後押しもあり、南三陸町と協定を結ぶ運びとなりました。震災からわずか3年という早い時期にもかかわらず、私たちが提案したこの構想に賛同していただいたことは本当にありがたかったです。

施設の建設後には、行政区60か所で生ごみ分別に関する説明会も行いました。

―説明会では住民の方はどのような反応でしたか。

一般廃棄物の処理施設ではありますが、環境や人体への悪影響がなく100%リサイクルができる点を説明させていただくと、ネガティブな意見はあまりありませんでした。どちらかというと分別方法についての質問が多かったです。

町一体で生ごみの分別・回収にあたり、資源循環のループに乗せる

―それまでは南三陸町の生ごみはどのように処理されていたのでしょうか。

南三陸町には焼却施設がないため、可燃ごみの処理は隣の気仙沼市に委託し、施設まで運んで焼却をしていました。一般的に生ごみは可燃ごみの約40%を占めていると言われていますが、町のバイオガス工場でその部分を処理できることで、委託料が減るだけでなく、それに基づいた輸送にかかるCO2を削減できることも、この取り組み決定の後押しの一つでした。

―南三陸町の住民から集める生ごみと余剰汚泥はどのくらいの量になりますか。

まず量については2022年実績で2503トンの液肥を生成しましたが、それと同等の生ごみや余剰汚泥が投入されています。液肥は最大で4500トンまで生成できます。投入物としては、主に3つ。いわゆる生ごみにあたる家庭系一般廃棄物、飲食店、旅館・ホテルなどから出る事業系一般廃棄物、そして合併処理浄化槽の余剰汚泥です。

震災で下水インフラが消失してしまったため、南三陸町では各家庭に浄化槽があり、そこに溜められたものが衛生センターに集められ水処理を行う仕組みになっています。その途中の余剰汚泥が原料としてビオに入っています。

生ごみと余剰汚泥の割合ですが、ビオでは3対7の比率に決められています。

―比率が決まっていることには何か理由があるのでしょうか。

液肥の品質管理のためです。農家さんが業務として使うので、成分割合や品質は常に一定でなければなりません。生ごみの投入量はコントロールできませんので、3割の生ごみに対して7割になるように汚泥の量を適切に投入することで調整しています。

―ビオでは電気ではなく副産物である液肥を基準にされているということでしょうか。

はい、あくまでビオでは地域での循環モデルを目的に考えていますので、地域に還元することができる液肥は重要な要素になっています。

もともとこのビオで生成できる電力量は多くはありません。600kwh/日という発電量は60世帯分にしかならないため、ビオ内で活用しています。発生したバイオガスは蓄電せず空気のまま保管し、利用時に電力に変換する形です。余剰が出た際には東北電力さんに売電しています。

バイオガス発電を核にした循環モデル

―他にはあまりないモデルですね。液肥はどのようなルートで、どんな方が活用しているのでしょうか。

販売に関してはJAさんを通して、南三陸の町民の皆さんに申込書に記載していただき、その後散布作業を行います。この散布作業も込みで販売しています。昨年度ですと3月〜5月で2000トン、10月に600トンほど散布しました。水稲が約8割で、あとは牧草などにも使われています。

―先ほど見た赤い散布車が活躍するわけですね。

そうです。液肥散布をお願いしている山藤運輸さんは、もともとは南三陸町の廃棄物運搬をされていました。しかし当社が入ることで気仙沼への輸送が減り、今までの仕事がなくなることになります。どうしようかということで社長さんとお話ししたところ大いに賛同していただき「では一緒にこの事業をやろう」ということになりました。「散布の仕事は俺らがやるよ」と。

散布専用車は日本に5台しかない高額なものとのことですが、山藤運輸さんが購入してキャラクターのデコレーションまでしていただいたんです。

―液肥の価格はどれくらいでしょうか。

化学肥料と比べると破格といっていい価格、それも散布代込みでお出ししています。特にこの2年ほどは肥料高騰もあり、いま需要と供給の逆転現象が起きていて、足りないぐらいになっています。

―他に液肥の使い道はありますか。

住民の皆さんにもお配りしています。町内34か所に設置された液肥タンクから無料で受け取ることができるのですが、これは家庭菜園や花壇に使っていただいていると聞いています。

このように、目に見える形で生ごみの循環を地域の方々に還元できているというのも、地域の皆さんに協力していただく事業にとって大切なことだと思っています。

液肥用の無料配布タンク。

(後編に続く)