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スイスではテイクアウトには紙容器が増えていますが、使い捨てのプラスチック容器も依然多いです。連邦環境局によると、国民1人当たりが年間に使うプラスチックは120㎏。プラスチックの年間総廃棄量は約79万tで、そのほぼ半分は短期間のうちに捨てられた包装類です(2017年の数値)。一方、紙容器も多数廃棄されており、例えば宅配・テイクアウトのピザの箱は推定で年間4,000万個も捨てられています。

そのようななか、スイス国内約2,000のさまざまな店が、テイクアウトメニュー用に再生可能な素材の紫色のリユース容器を提供するようになりました。この容器は顧客が食事と一緒にデポジット制で購入し、食後、顧客がその店に返却し(保証金が戻る)、洗浄して再び使われます(洗浄は各店舗で行う)。

容器を広めているreCIRCLE社は、2016年に設立されました。首都ベルンにある同社のオフィスで、創始者兼CEOのジャネット・モラートさんにインタビューし、サービスが拡大している理由について伺いました。

不透明と透明の2タイプを提供。縦長の容器「reCIRCLE ISY」も便利だ。下段はピザ用。

提携店なら、どの店でも返却可

—容器の購入と返却のしかたについて教えてください。

ドリンクやスープなど液状用の縦長の透明の容器「reCIRCLE ISY」は1つ5フラン(約800円、2025年3月時点)で、他はどれも1つ10フラン(約1600円)です。reCIRCLEと提携している飲食店や社食・学食で食事と一緒に買って、食後に容器を返却すると容器代が返金されます。すぐ返却するなら、reCIRCLEのアプリを使えば1週間無料です。1週間経つと容器代(手数料加算)が課金されます。

返却は無期限なので、例えば数か月後に返しても返金されます。reCIRCLE提携店ならどの店舗でも返却できます。ただし、宅配でも使われているピザ容器は自分が利用したお店(現在、スイスでは約60店が導入)への返却となります。

お店の営業時間外でも返却できるようにしようと、今、ボックス型の「リターンステーション」の設置を進めているところです。

物価高のスイスでは、テイクアウトのランチは大体20フラン(約3300円)前後です。容器1つがその半額とは高額です。

あえて高くしました。安いと、捨ててもいいと思われる可能性があります。それでは今までと変わりません。一方で、液漏れしないし、洗いやすくて汚れもしっかり落とせてと使い勝手がいいし、返金は保証されているので、返却しないで“マイ容器”として使う人も多いですね。

reCIRCLE社の近所の提携店で、インド料理をテイクアウト。移動中ソースは漏れず、強い香りも気にならなかった。

意外な「紫色」に決めた理由

直径24㎝の平らな大皿のようなタイプもある。

容器について、詳しく教えてください。

透明な容器と不透明な容器の2つのラインナップで、サイズはさまざまです。スプーン(片側はナイフ)とフォークもあります。ピザ容器は2022年に開発しました。同じ形状の2枚のプレートを組み合わせています。

重さはすべて4g以上です。4g未満のリユース容器は洗浄の負担が大きく、CO2排出量の点でも優れていないので作りません。エコロジカルでないものは決して提供しないと決めています。

容器の素材はプラスチック(ポリブチレン・テレフタレートやトライタン)やガラスファイバーです。耐久性に優れていて200回以上使えます。用途を終えたら本体は100%リサイクルして新たに容器を作ることができて、蓋はコンクリート資材の材料として使われます。

紫は、容器にしては珍しい色ですよね。

容器の形状も何度も試作しましたが、色の選定も工夫しました。たくさんの人たちにリユース容器を使うという“新しい行動”を起こしてもらうには、町で目に留まって「あの容器は一体何?」と関心を持ってもらわないといけません。平凡な色ではダメだと考えていました。

スイスで製造していますね。

はい。ローカルであることはわが社の強みです。費用を抑えるために東ヨーロッパで製造したら輸送時のCO2排出量が増えますし、コロナ禍や事故など想定外の出来事が起きた場合は容器の運送が大幅に遅れる可能性がありますから。スイス人はスイス製の商品が好きなので、テイクアウトを利用する消費者へのアピール度が高いことも利点です。

1日当たり4tのCO2量を削減

reCIRCLEの容器は使い捨て容器(3種平均)と比べ、CO2排出量が約4分の1に抑えられる。(reCIRCLEの公式サイトより)

CO2量は、どのくらい削減できるのですか。

2023 年、reCIRCLEの容器はスイスで2,000万回以上使われて、CO2の排出は1,400t抑えることができました。35リットルのごみ袋で、約37万5,000個分に相当する使い捨てのプラスチック容器を削減できたのです。実はコロナ禍の影響で閉店した飲食店が多かったので、2023 年はわが社にとっては最も低迷した年だったのですが。

reCIRCLEは他のヨーロッパの国々にも広がっていて現在600か所が導入しているので、CO2の排出量はもっと削減できています。他国での展開は2019年にドイツで始まりました。当時、ドイツには同様の事業が1社あっただけで、わが社の容器は実用性に優れていて環境に貢献できると注目されて。

その後、他の国々からも広めたいとの声が続々届いて、ネットワークを築いてきました。容器はスイスから各地へ輸送しています。将来、もっと需要が高まれば、近隣国での製造も視野に入れています。

店側に「reCIRCLEを導入したい」と思ってもらう工夫

飲食店は、どのようにしてreCIRCLEを導入するのですか。

お試しで1年間容器を使ってもらう「ウェルカムパック」を用意しています。有料ですが、3か月使って解約したければ返金します。

継続契約は、飲食店の規模によって3種類のパッケージがあります。ごく小さい飲食店向けの「ベーシックパック」は年額200フラン(約3万3600円)で、これにパートナーシップ料が加算されます。使っていくうちに容器に激しく傷がついたり、料理が色移りすることがあるので、年2回交換しています。カレーのスパイスの色移りは、漂白剤などを使わないで落とす方法を見つけました。

多くのお店は、使い捨て容器を買うよりもreCIRCLEの容器を導入した方が低コストであることを知りません。わが社のウェッブサイトに載せているように、自分のお店でreCIRCLEを導入した場合、費用、そしてCO2排出量がどれくらい抑えられるのかのシミュレーションをしていただいています。このシミュレーションは、とても大切です。

シミュレーションでは、店での販売数を記入すると、reCIRCLEを導入した場合の経費削減とCO2排出量削減が表示される(reCIRCLEの公式サイトより)

今回の取材の前に、私もシミュレーションを試してみました。具体的でいいですね。

慣れていたことをやめて新しいことを取り入れるには、手順が簡単で、わかりやすいことが大事です。わが社のサービスはBtoB(企業対起業)でもBtoC(企業対消費者)でもあるので、飲食店だけでなく消費者に対しても“シンプルであれ!”と心掛けています。

reCIRCLE導入に補助金を出している自治体もありますね。

はい、市と協力するキャンペーンです。多くの自治体は、普段のごみの回収、またお祭りのときの道路の掃除など、町の清掃に多額のお金を費やしています。ですから補助金を出してでもreCIRCLEを使ってもらったほうが自治体も助かるのです。

スイスでもピザの宅配やテイクアウトのサービスは盛んです。でもreCIRCLEのピザ容器の導入は、まだ少な目ですが。

電気代の値上がりがネックになっています。多くのイタリアンレストランやピザのテイクアウト店では、木材を燃料にする窯ではなく、電気窯を使っています。電気代に頭を悩ませていて、店の運営に新しいことを取り入れてみようという余力がないのです。少しずつ働きかけていくしかないですね。

リユース容器を使うことは行動の変容です。そのためには、お店や消費者との地道なコミュニケーションが必要です。わが社はコンサルティング業ではなく、きっかけを作り、社会を変えていくネットワークのリーダーのような存在です。大きなネットワークが上手く機能するのに時間がかかるのは当然だと思っています。

普及のための新しい戦略はありますか。

社食・学食へのアピールです。多くの学食で使ってもらっているので、特に社食との提携をもっと強めたいです。通常の飲食店とは違って食堂では数人がreCIRCLEを使っているだけでも目立つので、広まるスピードが速い傾向にあります。

あとは、ネット上でreCIRCLEへの注目度をさらにアップさせることですね。

設立10年。市の職員の経歴が転機に

創始者でCEOのジャネット・モラートさん

起業して約10年ですね。なぜ循環式の容器を展開しようと思ったのですか。

若い時にツアーガイドをしていて、町にごみが多いことはいつも気になっていました。ベルン市の廃棄物処理・リサイクル部門で働いていた頃、環境に一層負担がかかっていることを目の当たりにしました。

ユネスコ世界文化遺地区の大きな広場で夏場に1日5回ごみの回収が必要で、他の場所でもごみ箱には使い捨ての食品容器が増える一方でした。先ほど自治体のことをお話ししましたが、ベルン市でも清掃員の人件費がかさみました。リユース可能な容器を市に導入すべきだと思い、検討しましたが、結局、無理ということになって。

退職して、環境工学・環境管理の修士号を取得しました。ごみを減らしたい一心で、循環させる容器のことを考えて、5軒のレストランでプロトタイプを使ってもらったのです。お店からもお客さんからも、とても好評でした。

それでreCIRCLEを立ち上げたのです。24店が完成した容器を導入してくれて、スタートを切りました。スイスでは前代未聞の事業で、“ものすごく冷たい水の中”へ飛び込むような勇気が必要でしたね。

reCIRCLE社は「スイス・パッケージング・アワード2024」【再利用可能なパッケージ部門】での優勝ほか、数々の受賞歴を誇る。

最後に、今後の展望をお聞かせください。

「いつか、スイスのreCIRCLE提携店は10万軒になる」。これは目標というより確信です。そのために、まずはスイスでスタッフを増やします。今は10数名ですが。また、他の国でもネットワークをさらに広げていく予定です。reCIRCLEの容器に限らず、リユース全体を推進する団体2つ(スイス国内、およびヨーロッパ全体)の発足に向けても準備しています。

容器に関しては蓋の改良を検討しています。本体も調整が必要になってくるので、実現には数年かかるかと思います。

もう一つは、サーキュラーエコノミーのお手本として、わが社の経験をビジネス関係者にお伝えしたいです。これまでも講演のご依頼をたくさんいただいてreCIRCLEのことをお話ししてきました。わが社にインスピレーションを受けて、幅広い企業が、環境保護に向けた各自のプロジェクトを考案してくれたら嬉しいです。

ジャネットさんとreCIRCLE社員たち

reCIRCLE
https://www.recircle.ch/en

連邦環境局 
https://www.bafu.admin.ch/bafu/en/home/topics/waste/guide-to-waste-a-z/plastics.html