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耐久性が高く、加工しやすいという特徴を活かして、自動車のタイヤやスニーカーのソールなど、幅広いシーンで使われている「ゴム」ですが、その多くは埋め立て・サーマルリサイクルや路盤材として使われるなど「ダウンサイクル」されるという課題が世界的に残っています。

このような時流の中で、産業廃棄物のゴム廃材(※タイヤを除く)の100%マテリアルリサイクルを実現している企業がタイにあります。素材そのものを再生させるマテリアルリサイクルは、サーマルリサイクルよりサーキュラーエコノミーの観点からも環境対応として最適です。
そこで今回は、タイでゴムのリサイクルを行う「B.G.S社」を取材した内容をもとに、タイのリサイクル事情やB.G.S社が取り組むゴムのリサイクル、EkoRubberブランドについての事例をお届けします。

※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。

タイで累計9,000トン以上ものゴム廃材をマテリアルリサイクル

ー事業内容を教えてください。

今回取材していただいている「B.G.S. International」は、2009年にAFグループのグループ企業の1つで、ゴム廃棄物のリサイクル事業を行っています。

AFグループの傘下にある「AF Supercell」というグループ会社で発泡剤を製造しているのですが、その顧客の製造プロセスから発生する大量のゴム廃棄物が大量に廃棄されていることが課題でした。

この課題を解決するためにB.G.S社が設立され、2009年からゴム廃棄物の処理業社として工場の稼働を始めました。創業から現在までにリサイクルしてきた廃棄ゴムは約9,000トンにのぼり、天然ゴム、EPDM、合成ゴム、クロロプレンゴム(ネオプレン)、ブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴムなど、様々なゴムスクラップをリサイクル可能です。

ゴム廃材を使って製造した再生ゴム製品を「EKO Rubber(エコラバー)」という商標で販売しています。リサイクル製品の一貫した品質を確保するために、全ての出荷に対して自社でレポートを作成して提示するだけでなく、顧客の要求に応じてゴム協会からの公式証明書も発行しています。

ーリサイクルの品質を証明するために、ISOなどの認証プログラムは取得していますか?

今までは、リサイクルの品質を確保できていれば、外部からの認証は必要ありませんでした。しかし、ここ数年で、お客様から外部認証の有無を聞かれることが増えたので、環境ISO 14001およびISO 54001の認証を取得する予定です。

また、自社で製造されたリサイクル品のゴム製品は「マテリアルコネクション(Material ConneXion)*」という外部国際認証を取得して、B.G.S社のゴム製品が革新的なリサイクル技術により製造されたことを証明しています。

ー色々な認証がある中で、マテリアルコネクションを選んだ理由は何でしょうか?

マテリアルコネクションを選んだ理由は、より国際的に広く知られているからです。タイ国内にも独自の認証がありますが、国際基準と合致していません。弊社の顧客の80%はタイ国外の顧客ですので、国際的な認証が必要でした。

マテリアルコネクションがWebサイトで認証したリサイクル品の一覧を公開しているのですが、そのライブラリーの中にEKO Rubberを追加するために、取得してはどうかとマテリアルコネクションの関係者から話がありました。

タイ国内の工場でも、環境、リサイクル、クリーンエナジーを意識した工場が増えており、少しずつ変化しています。

*マテリアルコネクション・・・サステナブル素材や世界最先端の素材を世界中から集めたライブラリーを持ち、素材開発のコンサルティングも行っている組織

タイでは埋立・焼却処分が主流の中、B.G.S社ではマテリアルリサイクルに取り組む

ー一般的にタイ国内の他の工場では、ゴムの廃棄物はどのように処理されているのでしょうか?

弊社では、ゴムであればどんな種類でも100%リサイクルできます。しかし、タイでは焼却されたり埋め立てられたりして、廃棄されることが一般的です。積極的にリサイクルに取り組んでいる工場でも、20%以上のリサイクル率を達成しているところはありません。

現状は埋立処分されることが多いですが、タイ国内でも埋立処分を減らす動きがあり、近年はサーマルリサイクルの割合が増えています。

ー埋め立てや焼却ではなくマテリアルリサイクルを行いたいという企業から、B.G.S社に問い合わせが来ることも増えていますか?

はい、増えています。普通、埋立処分や焼却処分として廃棄物の処理を委託する場合には、費用が発生するので、排出事業者はコストを支払わなければなりませんよね?しかし、弊社はゴム廃材を素材として有価で買取しているので、排出事業者は逆に利益を得ることになります。

排出事業者であるお客様からは、再資源化できる上に廃棄コストを削減できると、喜んでいただいています。

しかし、トレンドに関係なくBGS 社の最初の目的は、AF グループの顧客のゴムのリサイクルを実現するということであり、EKO Rubber(エコラバー)がバージンゴムを 置き換えることができるため、徐々に国内外で需要が拡大しました。生産コストを削減しながら製品の製造にかかる二酸化炭素排出量を削減することができます。

ゴム廃材を原料としてリサイクル素材から完成品まで幅広く製造可能

ーB.G.S社ではどのようなゴム廃材をリサイクルしていますか?

現在弊社では、一般的には天然ゴムから製造されることが多い「ラテックス」「テムゴム」「コンドーム」「EPDM」などのゴムの製品や素材をリサイクしています。この他にも「シリコン」と「CR(クロロプレンゴム)」にも対応できるよう、現在開発中です。

ー具体的にどのようなリサイクルが行われていますか?

リサイクル品は、B.G.S社独自のノウハウで熱を加えたり、活性剤などを混ぜたりして加工し、シート状などの完成品を製造しています。

B.G.S社が使うゴム廃材のほとんどはタイ国内工場の製造過程から排出

ー日本でもゴムのスクラップはたくさん排出されていますが、スクラップ状態のゴムを日本からタイに輸出することはきるのでしょうかか?


スクラップのゴム廃材は輸入できません。ただし、細かく破砕して、リサイクル製品を作るための素材として輸入することはできる場合がありますが、輸入関税が高くなってしまうので、あまり現実的ではありません。

しかし、日本の企業様でタイに製造工場のある企業からの引き合いはあり、タイ国内の工場スクラップでしたら弊社での買取りが可能です。

ーB.G.S社と同じようにゴムをリサイクルしている企業は日本にはまだないので、日本市場にもニーズがありそうですね。


以前、日本の展示会に参加した時に、いくつかの企業とお話ししましたが、弊社のリサイクル技術にすごく興味を持っていただきました。日本でゴムのリサイクルをしている企業の多くは、破砕して、サーマルリサイクルをしたり、路盤材として使ったりというダウンサイクルしかないと聞きました。

ゴムのリサイクルを通じてタイに進出している日本企業にも貢献したい

ー日本企業でも自社製品を回収して、自社製品の素材にリサイクルする動きがありますが、B.G.S社の技術を使えば、ゴム製品でもそのサイクルが可能ですね。


もちろん可能です。タイにもゴム製品を製造する日本企業が多く進出しているので、日本ではどのようなリサイクルをしているのかと気になっています。

弊社では、オリジナリティを持ったソリューション、例えばニッチ市場に向けたことにより注力したいと思っています。その点で言うと、先ほど申し上げたように、今開発中のシリコンはユニークだと考えています。

ーシリコンのリサイクルを試行されていると話されていましたが、シリコンを選んだ理由を教えていただけますか?


ゴム以外にもリサイクルできる素材の種類を拡大したかったというのが1番の理由です。EkoRubberのシリコン版の開発に着手していますが、すごく難しいです。

ーシリコン以外のゴムにも着手する予定ですか?


はい。“Never Stop Exploring”という会社のモットーの元、幅広い種類のゴムのリサイクルに挑戦しており、他の材料にも展開していく予定です。2023年には、リサイクルゴム、EkoRubber、PP や PE などのリサイクルプラスチックから作られた熱可塑性加硫ゴム「 Eko TPV」 を開発し、TPV の用途を検討してきました。

B.G.S社の技術面でのハードルは高くないのですが、新しく作るリサイクル素材へのニーズがあるかどうかが1番の課題になってきます。

今後はさらに多種多様なゴムのリサイクルに挑戦する

ータイ国内にある企業から、リサイクル素材のニーズは増えていますか?

はい、特に最近は需要が高まっています。多くのタイ企業は、SDGsやカーボンニュートラル、低炭素排出製品の輸入需要が高まる米国や欧州などの海外顧客からの要望を受けて、再生材料の使用を検討しています。現在、弊社のR&D は複数のリサイクル プロジェクトに積極的に取り組んでいますが、しかし、リサイクル素材を使うことで、品質が落ちたりトラブルが起きたりすることを心配して、まだ積極的にリサイクル素材を躊躇している企業も多いということです。

ー数年前にタイに来た時にはなかったのですが、今は街中に「エコ」や「サステナブル」な商品の広告を目にするので、タイでもトレンドになっていると感じました。

タイのプラユット首相は2001年に英国で開催されていた国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)第26回締約国会議(COP26)に出席して、2050年までに「カーボンニュートラル」、2065年までに「ネット・ゼロ・エミッション」達成を目指すと表明しました。

カーボンニュートラルやゼロエミッションは、欧州では強い動きになっており、タイには欧州企業と取引をする企業が多いので、それに合わせて社会も少しずつ変化しています。弊社としてもこの流れに乗って、色々なゴム素材のリサイクルに挑戦していきたく、海外にもリサイクル工場を展開することも考えています。