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パリは10年前から緑化を強化しており、現在も大規模な緑化プロジェクトが進められています。企業が運営する屋上菜園や、住民の手による空き地を活用したコミュニティガーデンも、緑化を促進する対策の1つです。2025年8月の時点で、パリには180もの登録菜園があります。市は有機農法を奨励しています。

5区にあるコミュニティガーデンの1つ、「オルトラン(保護鳥に指定されている鳥)の巣」を設立したジュリアン・シャムルワさん(トップ画像の右手。本業は会社経営)にお話を伺いました。

コミュニティガーデン「オルトランの巣」の全体像 ©Jardiniers du 5ème

現在、会員50人。「有機農法」が開設時の提言

区民数が約5万8千人の5区にはコミュニティガーデンが3つあります。こちらは5区初の園とのことです。広い菜園ですね。どのように活動していますか。

2017年に開園して、会員数(全員が5区の住民)は約50人です。年会費は1人35ユーロで、家族は40ユーロです。子どもがいる家族もいます。栽培はグループに分かれて行っています。以前は6班でしたが、いまは7班です。区役所から「近隣住民に迷惑をかけないとわかったため、敷地内の手付かずだった60平方メートルもぜひ畑にしてください」と許可が下りて、耕地が広くなったためです。

区は運営方針に関して指示を出したのでしょうか。

有機農法を導入してほしいという要望はありました。それ以外は特になかったです。コミュニティガーデンをいくつか見学しましたが、みなさん、独自のやり方で活動していますね。

グループ分けをしたのは、私が1人でリーダーシップを取るのは時代にそぐわない運営方法だと感じたからです。また、1人1人が活動を楽しむことが大切なので、少人数のグループにすることで、会員間の関係性を深められると考えました。毎年グループを変え、班長も交代しています。班長の経験者が増えたおかげで、ほとんどの人が“リーダーシップをどう発揮するか”ということを理解し、とてもスムーズに運営できています。土の状態や水やり、その他の農作業の面でも問題はありません。

「オルトランの巣」は、以前は何もない屋上だった。土を運び、水を引いて菜園にした (筆者撮影)

各班の畑は、野菜も花もかなり混ざっていますね。

そうですね。1つの畑に1種類の作物を植えるのはよくあることですが、ここでは“自然界”と同じように作物同士の共生を促しています。養分を最大限に共有するために異なる種類の作物を隣合せで植えたり、害虫を防ぐためにトマトの隣に虫に強い花を植えたりしています。

ー雑草はどうしていますか。

藁を敷くことで雑草が生えにくくなります。強い日差しから守ったり、ミミズなどの昆虫が住みやすい環境を作ったりと、藁には様々な効果があります。使用済の藁は自然に分解され、土にかえります。

会費で大量の藁を購入している / 収穫した作物は、会員で分け合う ©Jardiniers du 5ème

土は、みんなで作るコンポスト

ー土は、計9個の木箱で作っている堆肥ですね。

はい。微生物の活動状況にもよりますが、夏場は2か月弱、冬場は3か月ほどで堆肥ができます。フランスでは2024年から家庭でのコンポストが義務化されましたが、生ごみを減らしたい方が以前からたくさんいたので、会員以外の方も生ごみを持ってきてくれていました。

夏季も冬季も堆肥を作る。園内には6箱、園の前には3箱のコンポストを設置している  ©Jardiniers du 5ème

木箱に入れてよいものが表示されていますね。

ココナッツ丸ごと1個や牡蠣の殻などが混ざっていたこともあって、どんな生ごみでも受け入れられるわけではないという表示を設置しました。

紙製の卵パックなど紙類もコンポストには必要 (筆者撮影)

農作業を通し、人間関係も学べる

ー収穫は安定していますか。

雨が多い年もありますが、収穫はおおむね良好です。私はこの園を開設する前は、別の区のコミュニティガーデンに参加していました。長年コミュニティガーデンに関わってきて、畑は会員同士の人間関係を反映するものだと実感しています。良好な人間関係は、健全な畑につながります。

フランスでは自己主張が大切にされるため、開設後3年くらいは意見の衝突も少なくありませんでした。作業中に議論になって、私が名前を呼ばれて仲裁に入ることもしばしばでした(笑)  会員の農業知識にもばらつきがありますが、農業も学んで、人間関係も学べるというのは素晴らしい活動だと思います。

もちろん、環境にも優しいです。生ごみを堆肥化することで廃棄物を減らし、地元で作物を育てることはCO2排出量の削減、地球温暖化防止にも貢献します。

©Jardiniers du 5ème

エコ活動は難しく考えず、「簡単なことから」始めよう

ーこれからも、パリでコミュニティガーデンは増えるでしょうか。

そう思います。地球温暖化対策だけでなく、フランス全体で土地をどう活用していくかが考えられていて、「緑と市民をつなぐことで相乗効果(シナジー)が生まれて、社会の幸福度が高まる」という予想もありますね。

ージュリアンさんは、日本で菜園に関する講演もされています。日本の環境対策について、どうお考えですか。

日本は、すでにかなり進んでいるという印象です。ただ、エコ活動について難しく考え過ぎているようにも思います。「きちんとやらなければ」「予算がない」という意識をなかなか変えられないのかなと。

「地球のために、気軽にこんなことをやってみよう」「お金がないなら、ないなかで、いろいろやってみよう」と、小さなことから始めればいいと思います。お金があれば贅沢な活動もできますが、すぐにそのレベルに到達する必要はないでしょう。私は、2つめのコミュニティガーデンを開設する準備をしていますが、近隣の問題で難しいかもしれません。もしうまくいかなければ、別の場所を探します。できることから始めようというのが私のスタンスです。

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5区のコミュニティガーデン「オルトランの巣」のサイト

パリにあるコミュニティガーデンの一覧