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廃プラを分子レベルで再構築する「ケミカルリサイクル」は100%の循環を実現する

プラスチックのリサイクルにはサーマル、マテリアル、ケミカルの3種類あることをご存知でしょうか。
各種ともメリット・デメリットがあり、マテリアルリサイクルは環境負荷が低い反面、コストがかかるうえ複合素材など複雑なものに対応できません。そしてサーマルリサイクルは、分別が困難なものもエネルギーにできますが、結局は燃やしてしまうためインパクトが小さく、海外では「リサイクル」として扱わない所もあります。
それでは、最後の1つケミカルリサイクルとは一体どんな処理をしていてどんな特徴があるのでしょうか。

今回は、神奈川県川崎市に巨大なリサイクルプラントを構え、廃プラスチックからさまざまな化学原料を作る(株)レゾナック川崎事業所(旧:昭和電工川崎事業所)にケミカルリサイクルの力についてお伺いしてきました。

※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。

ケミカルリサイクルとは? 仕組みと価値

(右)基礎化学品事業部 企画部 プラスチックケミカルリサイクル推進室 室長 兼 川崎事業所 生産技術部 扇町生産技術グループ マネージャー 伊東浩史(左)基礎化学品事業部 企画管理部 プラスチックケミカルリサイクル推進室 阿部勝好

阿部 レゾナックは「化学の力で社会を変える」をテーマに様々な事業を行っています。ここレゾナック川崎事業所では、廃プラスチック、特に一般家庭などから排出される容器包装プラスチックの処理を自治体から請け負って、ケミカルリサイクルによって炭酸製品(ドライアイス・液化炭酸ガス)とアンモニア原料にして販売しています。

容器包装プラスチックの例

ープラスチックからアンモニアが作れるんですね。

伊東 はい。アンモニアは窒素と水素を化学反応させて合成するんですが、窒素は空気中から潤沢にとれるので、水素をどこから取り出すかが事業として重要なんです。

そこで化石燃料から水素を作ったり水を電気分解したりしてきた歴史があるんですが、時代とともにコストが合わなくなったりして、特に石油が枯渇すると叫ばれていた約20年前にプラスチックから水素が作れると目をつけたのがこのプラントの生い立ちです。

なので、資源循環のためのリサイクルというのも当然あるんですが、どちらかといえば我々は水素を得るためにこのケミカルリサイクル事業を始めました。

ー廃プラのリサイクル先として、ケミカルリサイクルは一般的なんでしょうか?

伊東 大規模な化学処理設備が必要になりますので、そもそも廃プラのケミカルリサイクルを行う会社自体が全国で3社しかありません。ガス化は弊社のみです。

この川崎の工場はもともと昭和肥料という化学肥料工場でした。化学肥料はアンモニアで作るので、昔からアンモニア工場だったんです。そしてプラスチックとは要するに炭素(C)と水素(H)のポリマーなんです。幸いなことに炭素(C)のほうはCO2にすることで隣接するグループ会社(レゾナック・ガスプロダクツ)で炭酸ガスとして製品化できる立地だったので、廃プラのケミカルリサイクルを始めました。

今では結果として廃プラから作った炭素と水素が両方とも製品になって、ほぼ100%循環される仕組みになったので、リサイクルプラントとしてかなりすごい設備だと自負しています。

ーアンモニアはどこへ売られて何に使われているんですか?

伊東 弊社のアンモニアの供給先は国内です。そもそもアンモニアを作るメーカーは日本に4社しかなく、東日本に至っては弊社だけです。

用途としては、火力発電所やごみ焼却場の排煙処理に使われることが多いです。

排煙処理というのは、ものを燃やした際、空気中の窒素などから生じるNOx(窒素酸化物)という有害物質が発生し環境汚染を引き起こしますので、触媒下で大量のアンモニアと反応させて窒素と水にして無害化させる処理のことですね。近県のみならず東日本の火力発電所・ごみ焼却場の排煙処理には、弊社のアンモニアが使われてる場合が多いと思います。

それとアンモニアは合成繊維の原料にもなります。ナイロン繊維はアンモニアを原料としていますし、隣の地区ではアンモニアから「アクリロニトリル」という化合物を作っていて、これがアクリル繊維の原料となります。

他には化学肥料にもなります。さらには虫さされ薬の「キンカン」ってありますよね。あれはアンモニア水溶液で、国内の「キンカン」は全てここのアンモニアが使われています。

アンモニアは基本的には基礎化学品原料ですので、皆さんの生活でアンモニアそのものに直接触れるものといえば「キンカン」くらいでしょうか。

ー一般的なマテリアルリサイクル、例えば古紙とバージン紙では古紙の方が安いですが、ケミカルリサイクルで作ったアンモニアは化石燃料由来などのバージンのそれと比べて価格に差はありますか?

阿部 マテリアルリサイクルの場合、どうしても不純物が入ってしまうため、たとえば100の品質のものからリサイクルすると90とか80の品質のものができますよね。80の品質のものを100の品質より安く売るのは、それはそれで一つの形だと思うんですけれども、ケミカルリサイクルは原料の廃プラがいくら汚れていようが、一度分子レベルまで分解してガスにしているので、最終製品はバージン品と全く同じものなんです。

なので、リサイクル品であれバージン品と全く同じアンモニアを作っているというのが化学的事実です。なので、価格についても弊社が作るバージンアンモニアとして、他社さんとの競争なりで決まると考えて頂ければ。

ー他のプラスチックのケミカルリサイクルと、レゾナックのプラントとの違いは?

阿部 ケミカルリサイクル手法には、「ガス化」「油化」「高炉還元」「コークス炉化学原料化」の4種類があります。最初に述べた通り、現在日本のプラスチックのケミカルリサイクルは3社しか行っていないんですが、その中でガス化を実施しているのは我々だけです。後は高炉還元とコークス炉化学原料化を事業化しています。また、日本では油化を事業としてやっている会社は現在はありません。

なので、他社のプラスチックのケミカルリサイクルと何が違うかといえば「全く違う」が答えになります。高炉還元剤は鉄鉱石から酸素を剥がすために使われてる石炭のかわりです。コークス炉もそれに近い技術ですね。

なので、ケミカルリサイクルと一括りになっていますが、我々とその他2社の3社がそれぞれのやり方で行っているんです。

3種ある中で、ケミカルプロセスの原料が100%循環しているのは現状、我々のガス化だけでしょう。そして廃プラのガス化事業を20年間長期運転してるのは世界でここだけというのが、我々の誇りでもあります。

ーケミカルリサイクルといえば油化のイメージがあったんですが、いまゼロなんですね

伊東 すごく簡単に言うと、プラスチックって石油ですから、それをナフサ(粗製ガソリンとも呼ばれる)などの油まで戻すというのが油化です。容器リサイクル法が施行された当初は10社以上あったと聞いていますが、今は1社もないです。ただ、技術の進歩もあって、近いうちにいろいろな大手さんがまた油化リサイクルを始めるという話がいろんなところでリリースされています。

事業のスキームについて

ー次に、順を追って事業の流れをお聞きします。まずは自治体から出た廃プラスチックを収集運搬するとのことですが、色々な自治体から受け入れているんですか?

阿部 はい。自治体ごとに大体何トン排出されるというのが各自治体から通知されますので、それを受けて毎年どこの自治体にどのくらいの値で請け負うのか入札し、他社と競って安い方が落札する仕組みです。

自治体から回収された容リプラのベール(塊)

全国どこの自治体でも入札自体は可能ですが、輸送費を踏まえた金額ですので必然的に近隣に集約されます。弊社の場合は、落札結果は基本的には関東一都六県内になりますね。

入札価格が高いと競り負けるし、あまり安くすると事業性に悪影響を及ぼしますので、なかなか難しいところです。

ー自治体によって廃プラの品質が違うので、人気のあるなしがありそうですね。

阿部 ありますね。質が良い廃棄物が出てくる自治体は人気があります。質の良し悪しというのは、禁忌品(リサイクルできない混入物)が混ざっているかどうかやプラの種類にも色々あるのでその構成比によります。

ただ、弊社では基本的にあらゆるプラスチックが化学処理によって分子レベルまで分解されますので、マテリアルリサイクルよりも個々の廃プラの質はそこまで影響しません。雑食といえますね。なので排出側からすると、中身についてあまりとやかく言わない便利な出口と言えるんじゃないでしょうか。

ただ、やっぱり我々は水素を得るために設備を動かしているので、簡単に言えば水素をより効率的に取り出せるプラスチックが我々の好物です。PP(ポリプロピレン)やPE(ポリエチレン)とか、そういう好みですね。なので「雑食ではあるけど好みはある」なんて言っています。

ーマテリアルリサイクル業者が受け入れられないものでも処理できる強みがあると。

伊東 はい。現に廃プラスチックを取り扱う中間処理業者さんから出た、処理できない質のプラを受け入れて産廃処理もしています。

例えば、マテリアルリサイクル業者さんの再資源化は、実は選別で数十パーセントはじかれているんです。それをどうしているかというと、昔は埋めたり燃やしたりしていました。

ですが、それも許されない時代になってきておりますので、その受け皿のルートの1つが我々のガス化設備です。マテリサできないプラを他のものと混ぜて我々が処理可能なスペックに納めてもらえれば、埋める・燃やすではない処理ができますので、Win-Winのお付き合いができているんです。

黄色が産廃中間処理業者から受け入れた処理量

プラ新法によって日本のプラスチックリサイクルはどうなる

ー2022年に施行されたプラ新法によって、容器包装プラではないたとえば風呂桶などの製品プラの回収が進むと思われますが、御社も影響がありますでしょうか。

阿部 廃プラのリサイクルという大きなくくりでは、プラ新法によって処理費用が上がるんじゃないかと言われていますね。

特にマテリアルリサイクル業者さんは原料である廃プラの品質による縛りが大きいし、選別しなきゃいけない種類が増えるわけで、プラ新法によって風向きが大きく変わるでしょうね。それに比べればですが、我々ケミカルリサイクルはさほど問題なく処理可能です。

なので対応面については我々はあまり心配していなくて、問題はコストです。廃棄物って色んなものが混ざってますから、リサイクルって基本的にかなりコストがかかります。その点容リ法(容器包装リサイクル法)というのは社会の仕組みとして上手く出来ています。

我々は費用を頂いて廃プラを処理していますが、容リ法によってそのコストは製品を作ってるメーカーが拠出しています。当然それは製品価格に転嫁されますので、基本的には受益者負担ですよね。皆さんが払ってる。極めて合理性の高いプロセスで成り立っています。

一方のプラ新法で対象となる製品プラは、メーカーは資金を拠出してませんから、じゃあコストをどこが受け持つのかが問題ですよね。

自治体の処理は基本的にその自治体に住まれてる皆様の税金で払われています。基本的には製品プラを使用している住民の方々が負担するので、容リプラと似たような形になります。問題は全員が納得したコスト感でしょうね。リサイクルは回り回って皆さんの生活に還元されるものなので、そういう認知が進めばいいなと思いますが、お金に余裕のある自治体も少なくどこも苦しんでおられますので。

また、プラ新法で対象とならないものの処理についても議論の余地があります。こちらは容リプラより量が多く、コスト負担の仕組み作りも含め、同時に模索しなければなりません。

ー例えば、御社の受け入れ元の1つである東京都港区は昔からプラスチックの一括回収をしていますね。プラ新法によってそういう自治体が増えるかどうかは、やはりコストがネックだと。

阿部 まだ始まったばかりなので、どううまく回していくかっていうのは色々な所が検討・実施されているかと思います。港区さんは先進的で、やっと世の中が追いついてきた感もありますね。

一括回収を始めたある自治体さんでは、容リプラと違って色んなものが入ってくるので処理効率がなかなか維持できないと聞いております。製品プラは容リプラに比べ硬かったり大きかったりしますし、よく分からずに電子タバコなんかの小型家電を出しちゃう住民もいらっしゃると思うので、設備に負担もかかりますしね。

禁忌品は設備を痛める恐れがあり、特にバッテリー内臓の小型家電は火災の原因になる

我々も少しびびってはいるんですが、港区さんとの経験がありますので前向きに挑戦しようと思っています。ここ2~3年が多分その挑戦の時期だと思います。

ー最後に、今一番課題だと思われている点は?

阿部 技術的な課題はいくつもあるんですが、それはどのメーカーも悩んでるところですので、わざわざ言うことではないでしょう。

それよりも弊社はプラスチックを日々大量に受け入れているので、その物量を回すための土地(置場)が問題でしょうね。工場の稼働を倍にしましょうとなったときに土地をどうするのかが一番乗り越えなければならない壁の一つです。

事業的には、リサイクルを回す仕組みはまだ過渡期といえます。また、私の個人的な意見としては廃プラを資源としてみんなが捉えた上で、最も効率的にリサイクルできるルートや仕組み、そしてそのリサイクルルートに乗せやすい素材を使っていく社会になるといいなと思います。

我々はリサイクル業者であると同時に素材メーカーでもありますから、素材がちゃんと循環する設計をすべきだと強く思います。例えばフロンガスも作られた当時は夢の素材として広まりましたけど、あまりに安定しすぎてオゾン層を壊して規制されましたから、作ったら後始末できないものは大敵です。

だから、循環性がしっかりと価値を持って選ばれる社会になってほしいというのが、事業に携わる人間として強く思っていることです。

ーありがとうございました。

2023.5.08
取材協力:レゾナック川崎様
https://www.resonac.com/jp