記事を読む

フィンランドは世界で最も早い2016年にサーキュラーエコノミーのロードマップを策定し、国を挙げて循環型経済を推し進めています。実践には国民の理解が求められますが、それを支えるのがサーキュラーエコノミー教育です。幼稚園から大学生までのカリキュラムを独自開発し、すでに1万人以上が学んでいるというフィンランドのサーキュラーエコノミー教育について、来日したフィンランドのサーキュラーエコノミー推進団体Sitraのカリ・ヘラルヴィ氏に聞きました。

※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。

日本初サーキュラーエコノミーEXPOが開催

2023年3月15日(水)から17日(金)の3日間、東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催された「サーキュラー・エコノミー EXPO」。サーキュラーデザイン、サステナブルマテリアル、PaaS(製品のサービス化)支援、資源回収・リサイクル・再製品化技術などが展示され、循環型経済・サステナブル経営を実現したい企業の関係者などが来場しました。

賑わう会場。出展者数は同時開催の展示会も合わせて1200社にのぼった。(ライター撮影)

「サーキュラーエコノミー」をテーマにした展示会が日本で開催されるのは今回が初めて。「脱炭素経営EXPO」「スマートエネルギーWeek」など複数の展示会が同時開催されたこともあり、会場の東京ビッグサイトは連日多くの人が訪れました。主催者の発表によると来場者は3日間で6万5000人を超えたとのこと。「サーキュラーエコノミー」という言葉は一般的にはまだまだ認知が低いのが現状ですが、こういったイベントが開催されることで今後広がりを見せていくことが期待されます。ちなみに来年(2024)は2月28日(水)〜3月1日(金)で開催が決定しています。

会場内では展示のほかセミナーも多数開催。壇上では、初日の経済産業省資源循環経済課課長の田中将吾氏を皮切りに国内外の第一人者が登壇する基調講演が3日間行われました。最終日にはフィンランドのサーキュラーエコノミーを推進する未来基金「Sitra(シトラ)」のサステナビリティ・ソリューション・グローバル・コラボレーション統括 Kari Herlevi(カリ・ヘラルヴィ)氏が登壇しました。

「Sitraが見据える循環型経済社会の今後の展望」をテーマに講演を行うカリ・ヘラルヴィ氏(ライター撮影)

フィンランドが先駆者になり得た理由、3つの取り組み

そして大手企業はネットゼロへのより厳格な数値目標を求められていること、サーキュラーエコノミーにおける技術革新とデータの重要性、再生エネルギー問題、市場規模、サーキュラーエコノミービジネスの成功事例、そして各ビジネスモデルの課題点などが語られました。また循環経済ビジネスに求められる人材像など具体的なポイントも示されました。

同国がこのようにサーキュラーエコノミーの先駆者となり得たのには理由があります。それは、早い段階において、世界に先駆けた3つの取り組みを行っていたのです。

一つ目は、2016年、世界で初めてサーキュラーエコノミーのロードマップを発表したこと。ロードマップは、各国がそれぞれのゴールを実現するために、これからどのようにサーキュラーエコノミーに取り組むかを具体的な文書で示すものです。ヨーロッパにおけるサーキュラーエコノミーの成長戦略であるEU「グリーンディール政策」が発表されたのが2019年ですが、フィンランドはその3年前に指針を公表していたことになります。二つ目は、教育。Sitraでは、サーキュラーエコノミーの教育カリキュラムを独自に開発し、幼稚園から大学まで、すべての教育レベルにおいて実施しています。三つ目は、事業者や組織へのハンズオンサポート(専門家派遣)を実施したことです。

フィンランドのCE教育とは

中でも注目したいのは、二つ目の「教育」の部分。筆者は2月に現地を訪れ何人かの事業者にインタビューをしましたが、驚いたのがその環境意識の高さでした。サステナビリティやサーキュラーエコノミーについて、当然のように取り組んでおり、大きなカルチャーギャップを感じました。

もともと北欧は教育制度が充実していることで知られています。特にフィンランドは「民族的背景や年齢、貧富の差や 居住地関係なく、全ての 人が平等に質の高い教育や訓練を受けられること」を方針として、幼稚園から大学院の修士課程まで学費が無料です。そのため大学院まで進む人も多く、複数の修士を持っている人も珍しくありません(ヘラルヴィ氏も金融と政治学の修士)。「教育大国」とも言えるフィンランドでは、どんなサーキュラーエコノミー教育がなされているのでしょうか。

家庭学習やゲームで実践的な学びを

たとえば小学校 (7 歳から 12 歳) では、日常生活にCEを取り入れるためのさまざまな実用的な方法を教えています。家庭での宿題では、家にある様々なエネルギーについて、親も巻き込んで勉強できるように設計されています。学校内のカフェテリアでは、食品廃棄物を最小限に抑える方法を教えるなど実際の授業に加えてより実践的な学びの機会が提供されています。

また、「アドベンチャーゲームMy2050」という気候変動の影響を受ける未来について学ぶスマホゲームも開発されました。このゲームは 6 年生以上の子供向けで、プレイヤーは気候変動と戦うという想定で、自分たちの未来のための発明品を考案するなど、ヘルシンキ市や隣接のエスポー市など実際の都市環境で 1 時間プレイをします。

My 2050Facebookページより

国民に根付く「ものを大事にする文化」

講演を終えたヘラルヴィ氏にお話を伺いました。

サステナビリティ・ソリューション・グローバル・コラボレーション統括 Kari Herlevi(カリ・ヘラルヴィ)氏(ライター撮影)

―フィンランドのサーキュラー エコノミー教育について教えてください

私たちは循環型経済を進めるにあたり、その考え方ができるだけ多くのフィンランド人に届くように、すべての教育レベルの学習教材とコースを開発しました。まずは教育パートナーを探すところから始めました。幼稚園から高等学校、専門学校、大学と、違うレベルの教育機関に働きかけ、2018年から2019年にかけてトライアルを行い、すでに70,000 人以上の子供と若者が循環型経済について学びました。私の娘もその一人です。

Circular Clasroomの様子(Circular ClasroomFacebookページより)
Circular Clasroomの教材の一部(Circular ClasroomFacebookページより)

―学校のこれまでの学科にサーキュラーエコノミーが加わる形でしょうか。

サーキュラーエコノミーは人間の活動のすべての分野を網羅していることなので、それだけのコースというよりは、化学や数学などすでにある学科に統合されるべきものだと思っています。学生たちが循環経済のソリューションを職場や日常生活に適用できることを目指しています。講演でも紹介しましたが、「タイムマガジン」の取材記事でフィンランドのCE教育についいて詳しく触れていますので、ぜひ参考にしてください。(巻末参照)

―フィンランドでは物を大事にする文化が根付いていますね。現地では古着店の多さに驚きました。

フィンランドは古着を買うことは一般的で、古着屋がとても多いです。そして、まるで新品を扱っているように見える店もたくさんあります。サステナビリティが文化として根付いています。

ヘルシンキ市内の普通のブティックのようなセカンドハンドショップ
デパートと併設されたヘルシンキの「古着カフェ」。古着コーナーと同じフロアにカフェがある

―Sitraは毎年サーキュラーエコノミーの国際フォーラム「World Circular Economy Forum (WCEF)」を開催していますね。

はい、WCEFは2017年から行っています。2018年には、日本の環境省の協力で横浜で開催し、80カ国から参加、スピーカーも100人を超える規模で行うことができました。昨年はアフリカのルワンダ、そして今年はまたヘルシンキで開催されます。無料オンライン参加も出来ますので、是非皆さんに参加していただきたいと思っています。

WCEF2023は、2023年5月30日から6月2日までヘルシンキで開催される。

フィンランドのCE教育の詳細はこちらより

Sitra公式サイト
Inside Finland's Plan to End All Waste by 2050