石炭の代わりに使用できて、しかも廃棄物から作られている。そんな燃料が存在することをご存知ですか?「RPF」と呼ばれるその燃料。それは、ごみとして出されたプラスチックや紙から生成されます。
一体どこでどのように作られているのか?その利点は?我々の生活にどう関わってくるものなのか?
一般の人々にはまだ認知度が低いこの「新しい燃料」を、1998年の創業以来取り扱っている企業が日本ウエスト株式会社。RPFの製造を中核に据えサーキュラーエコノミーの推進に力を注いできた同社で、サーキュラーエコノミー推進室の南部晃孝室長にインタビューを行いました。
※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。
産業廃棄物からつくる新燃料
―まずは貴社の事業内容について教えていただけますか?
日本ウエスト株式会社は、産業廃棄物の収集運搬・再生処理・燃料製造などを総合的に扱うことで、循環型社会の実現を目指している企業です。
その中でも、回収した産業廃棄物を原料としたバイオマスボイラー用固形燃料「RPF」の製造に力を注いでおります。
―RPFについてご説明いただけますか?
RPFは「Refuse Plastics・Paper Fuel」の略で、すなわち「プラスチック及び紙から得られる燃料」のことです。
原料となるプラスチック・ 紙は産業廃棄物を主体としており、石炭の代替燃料として製紙産業や鉄鋼産業を中心に、全国で使用されています。

―どうしてRPFに着目されたのですか?
カーボンニュートラル社会の実現が求められている中、日本でも再生可能なグリーンエネルギーの開発と普及は急務です。しかし地形的な問題もあり太陽光や風力には限界があります。
そこで、100%国産原料である産業廃棄物に端を発したRPFに注目しました。いわゆる「サーマルリサイクル」への取り組みですね。
3つのリサイクル
―「サーマルリサイクル」についてお伺いしたいです。
「サーマルリサイクル」とは何か、簡単に説明します。まず、前提としてリサイクルは主に3種類に分類されています。
ひとつめはマテリアルリサイクルです。文字通り、物(マテリアル)から物(マテリアル)へのリサイクルで、例えば、廃ペットボトルから再度ペットボトルをつくるような手法です。分別したプラスチックを粉砕・溶融・形成し、再度製品としてリサイクルするわけです。
そしてふたつめが、ケミカルリサイクルです。こちらは化学合成によって廃棄物を他の物質に変化させ、その物質を原料にして新たな製品を作るリサイクル方法です。廃プラスチックを溶かして水素などの合成ガスを生成する、また、二酸化炭素から炭酸ガスやドライアイスをつくる、といったことも可能です。
そして最後が、サーマルリサイクルです。上記の方法でリサイクルできなかった廃棄物は、焼却するしかありません。その焼却処理の際に発生する「排熱」を回収し、エネルギーとして再利用する方法です。一般的には、焼却場から出る排熱を隣接する施設に送り、そこで発電をしたり、温水プールを温めたりすることが多いです。
しかし当社では、少し切り口の異なるサーマルリサイクルの取り組みとして「RPF」を製造しております。
前述した通り、紙は紙、プラスチックはプラスチックと、シンプルなものはそれぞれ素材に戻り、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルにより循環されます。
しかし技術やデザインが多様化した現代においては、添加物の混じったプラスチックやラミネートされた紙など、さまざまな素材が混在している、いわゆる複合体がとても多く存在します。実は、そういったものはマテリアルリサイクルができません。ですのでそのままでは焼却に回されてしまうわけです。

サーマルリサイクルの世界を変えた「RPF」
―そこで生まれたのがRPFなのですね。
仰るとおりです。ただ焼却するのではなく、それを燃料化しよう。そのような考えで製造されたものが、固形燃料のRPFです。素性がわかる廃棄物をRPF化することで、石炭と同等のレベルまで燃焼カロリーを安定させることができます。また、輸送性や貯蔵性が向上し、燃料として使いやすくなるという大きなメリットが生まれます。
焼却場の近くでしか実現できなかったこれまでのサーマルリサイクルとは異なり、ポータブルになったことがRPF最大の利点であり特徴と言えるでしょう。

―どういった方がRPFを使うのですか?
当社の主な取引先は製紙産業ですが、その他にもセメント産業・鉄鋼産業などに携わっているクライアントが多いです。これらの産業の共通点は、熱エネルギーを利用する点です。
例えば、製紙産業では大量の紙を乾かすために熱を利用します。その際のエネルギー源としてRPFを利用するわけです。
これまではその熱を、石炭を燃やすことから得るケースが多かったのですが、石炭よりもコストがかからず経済的なこともあり、導入する企業はどんどん増えています。
―一般家庭でも使えるようになるのでしょうか?
残念ながら、現状ではそのような利用は想定しておりません。例えば、キャンプで使おう!バーベキューで使おう!と思っても、灰や匂いが出てしまうため現実的ではないのです。ガソリンや重油でバーベキューする方がいらっしゃらないのと同じように、あくまで産業向けの燃料ととお考えください。
とはいえ、一般の方々にまずはRPFの存在を認知していただくことはとても重要だと考えております。
なぜなら、それが産業面での活用を拡大していくことに繋がるためです。
しかし、「産業」廃棄物を原料とした「産業」向けの燃料なので、一般の方々への認知が進みにくいことは事実です。だから、今回のような機会にまずは知っていただく、それが環境への貢献の一歩めになると考えております。

最も貢献度の高いリサイクル
―燃やしてしまうことに対してネガティブな印象を持たれてしまうことはありませんか?
仰るとおりで、サーマルリサイクルにはどうしても焼却のイメージが伴います。それゆえに、優先順位も低く位置づけられがちと言えるかもしれません。しかし、実はマテリアルリサイクルやケミカルリサイクルよりも、現時点ではサーマルリサイクルの1つであるRPFのほうが、CO2排出量の削減実績があるのです。
プラスチック循環協会が示すデータによりますと、最も貢献度の高いリサイクルはRPFと言われています。前述の通り経済的にもメリットが大きく、環境性能も良い。RPFの需要は今後も確実に高まっていくと言えるでしょう。
―しかし、需要が高まってくると今度は原料が高騰するのでは?
プラ新法(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律)も施行され、今後、廃棄物由来の資源の需給バランスが崩れる可能性は高く、原料の高騰については懸念しております。まさに取り合いの世界が始まるかもしれません。
ですが、逆に言えば協同関係がうまく生成される可能性もあります。その中で、我々は我々の役割を全うしていき、サーキュラーエコノミーにどのように貢献していくかを考えなければなりませんね。

RPFのこれから
―今後の課題などはありますか?
安定したRPF製造のためには、原料となる産業廃棄物の選別ができるだけの知識と目利き力が必要です。
そういったスキルを持つ人材を社内で教育していかなければならず、その点は課題だと考えております。
効率的な回収スキームと人材育成のスキームが常に両立できるよう意識していくことが、安心してRPFを利用していただくために何より必要な点と言えるでしょう。
―最後に読者の方々に一言、メッセージをお願いします
ちょうどプラ新法も始まりますので、これをきっかけに「正しい」情報を知っていただきたいです。例えば昨今のニュースなどでは、まるでプラスチックが悪者のような風潮が流れていますが、プラスチックのほうが軽くて再利用しやすいなどの利点も多々あります。
正しい情報の一方で、偏った情報も溢れている現代社会では難しいことかもしれませんが、きちんと正しく知ることでエシカルに、倫理観を持ってリサイクルに挑んでいただきたいですね。消費者も、リサイクラーも、行政も、皆が力を合わせていくことができるのが、一番の理想ですので。
2022.03.22
取材協力:日本ウエスト株式会社
https://japanwaste.jp/jw/