前編では、私達が行政回収に出した古着が日本ファイバー株式会社のような回収業者によって、新たに価値を与えられるところまでを見てきました。続いての今回は、そんな回収業者の目から見た日本の古着事情を、日本ファイバー常務取締役 川野達朗氏にインタビューします。
※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。
日本の古着回収
―国内の古着回収は、どのように変化してきているのでしょうか。
年々(回収量が)増えてるような気がします。それは消費者のリサイクル意識の変化ではなく、新品の洋服の値段が下がったからだと思います。昔は皆さん百貨店でしか洋服を買わなかったのが、セレクトショップになって、その後ファストファッションがきて、どんどん単価が下がってボリュームが増えているのかなぁと思います。
―一口に服と言っても、季節によって違ったり女性もの男性ものと千差万別ですが、回収物の傾向のようなものはありますか?
まず季節ものに関しては、冬物は単価がつきにくいというのがあります。例えばコートなんかは1着1着が重く、かさが増えるので輸出に関してはあまり高く売れないですし、やはり人口が多いのは赤道近くなので、冬物はニーズがありません。
それと、基本的に国内で出る古着はレディースばかりなんです。レディースと子供服で、メンズはほとんど出ません。男性は服を捨てないですね(笑)女性の方がファッションの流行が早いというのがあるかもしれません。
メンズの中でもよく出るのはスーツで、カジュアルはあまり出ません。なので、弊社で西海岸(古着屋)の店舗を展開していくのにメンズが全く足りなくて、アメリカやヨーロッパから買い付けをするようになりました。コロナ禍の今は行けていませんが、それまでは年に10回くらい行っていましたね。
―国内で不要になった服を輸出して、海外でいらなくなった服を輸入しているということですね。
はい。なので、弊社ではもういらなくなった…と言うとあれですが、輸出できる服は輸出して、アメリカやヨーロッパから仕入れて日本で販売して、売れ残ったらそれを海外に輸出して…と、世界中の古着をぐるぐる回しているような感覚です。ですからサステナブルと言えばサステナブルなんですかね(笑)
世界と比較した、日本の回収事情
―欧米での古着の流通事情と、そこでの買い付けの流れはどうなっていますか?
基本的に日本と一緒ですが、欧米はキリスト教の流れで、「ドネーション」つまり寄付の考えが根付いているのが大きな違いです。いらなくなった服を教会に持っていく文化があって、そこから寄付を中心に運営している「スリフトショップ」といわれる所に卸されたり倉庫に来たりします。そういう専門業者や、弊社のような選別工場が世界中にあり、そこで直接買付けをしています。
向こうの大きいサイズの服はアフリカ等で人気がありますが、小さいサイズの方は売れ残る傾向があるので、日本で言うXLサイズまでなら弊社は買っています。
―世界から見て日本の古着リユース・リサイクル状況はどうでしょうか?
古着に関して、日本は先進国の中で一番遅れてるのというのは世界中見て思います。やっぱり欧米では「古着は寄付したりリサイクルできるもの」という認識を皆さん持っている。日本だけじゃないですかね、こんなに燃やしているのは。国内で不要になった服の8~9割が燃えるゴミになっているそうですから。
なぜ服を燃やしてしまうのか
―多くの服を燃やしてしまっているのは、日本に寄付の文化が根づいていないとか、消費者の意識の問題なんでしょうか。
日本には欧米における教会のような存在がないというのもありますし、例えばアメリカは超富裕層と、1日数ドルで生活している方とが国内にいるので、寄付したりボランティアという感覚、ドネーションというのが当たり前になっています。ですが、国内で古着のリユースといえば、ショップに売るとか「お金に変える」という意識の方が強い印象がありますよね。
それと、これは可能性の話なんですが、例えば横浜市は可燃ごみの焼却施設があまりないので、古布に限らず色々分別が進んでいるのに、お隣の川崎市だと全部可燃ごみになっちゃってる、みたいなことがあるんですね。古着はよく燃えるので、生ごみの水分で下がる炉の温度を安定させるのに便利という、焼却施設の都合によって、分別する・しないが変わったりします。だから住んでいる街によって認識が全然違います。
―住んでいる自治体の判断がそれぞれ違うので、行政回収が浸透しづらい面もあると。
そうです。あとは東京都内とかは回収自体を全然やっていません。八王子市とかで一部はやってるみたいですけど、23区は…練馬区と世田谷区とちょっと、ほんの一部でやってるくらいです。なので皆さんの意識が変わっていくといいんですが…
とはいえ回収側もまた、捨てられた分量全てを捌けるのかというと、私達もお客様あってのことですので、それも分かりません。古着業界が盛り上がってくれればいいなと思いますけど。
サプライサイドからの課題
―衣料品のメーカー側の意識についてはどうでしょうか。
やっぱり衣料品販売業界、全ての人が本気にならないと変わらないと思います。本当は製造側の方でも回収して、弊社に売ってもらえたりすると良いと思うんですが、物流が合わないとか、大量に集まると処理できないとか、自社製品しか集められないとか、本当に企業によって考え方が様々です。
新品屋さんは特に、本当に一部の一部しか(回収を)やっていない。新品の衣類業者さんが、売った責任で回収したりとか出来れば一番いいんでしょうが、本当に売りっぱなしになっていますから。なんというか、啓蒙活動はして欲しいと思いますね。
―逆に、古着の購買サイドの意識の変化については何か感じますか?
最近は若い客層が比較的多いですね。特に弊社の「古着屋 西海岸」厚木店ではYouTuberさんがアポなしで動画にしていたらしく、いま大人気ですごい事になっています。それに下北沢店に芸能人が出入りしているっていう噂もちょこちょこ聞いています。いまは古着ブームが来ているので、その影響もあって皆さん古着に対しての抵抗はなくなってきているのかなとは感じます。
―いまは古着ブームなんですか?
今はすごく売れています。ただし古着に関しては、トレンドの波が大体10年、15年スパンで来るので、ちょっと時間が経つとまた下がって来るとは思います。結局それはトレンドなので、仕方がない事なんですよね。
―何か今後の展望はありますか?
今のトレンドが去っても「古着を忘れないで欲しい」と思います。やっぱり、忘れられると次の時代に繋がっていかないんじゃないかなと。
なのでいま一部の店舗では、洋服に関してトータルでやっていけたら面白いのかなという事で、古着に限らず新品の商品も置くというのもやり始めています。
1日50トンの古着を扱い、なくならない在庫という強みを活かして、新品のトレンド商品を取り扱って、そのトレンドに合わせた古着も置いてある。そういう新しい形態のショップとか、古着のスタイルを見てもらいたいなと思います。
サーキュラーエコノミーの視点から
トレンドが去っても古着を忘れないで欲しい、次の時代に繋がって欲しいと語る川野氏。それを表すかのように「古着屋 西海岸」はいま毎月新店舗ができるほどの拡大を見せており、古着と新品の垣根を取り払う新しいスタイルに挑戦しています。
創業して以来およそ70年もの間、日本の服の再生を担ってきた日本ファイバー。
その目を通して感じたことは、真にエシカルな消費を心掛けるのであれば、環境や人権に配慮した新品の服を買うのでなく、まずは今ある服を大事に使うこと。そしてその後は行政回収をはじめ「燃やさない」捨て方をすることがまず第一だということです。
2021.10.18
取材協力:日本ファイバー株式会社
https://www.nippon-fi.co.jp/