飲食店のドリンクバーや、ホテルのビュッフェなどで当たり前のように提供されてきた「紙おしぼり」。セルフコーナーに置いてある紙おしぼりを、ついつい不必要な枚数取ってしまい、使わないままテーブルに残して帰った経験はありませんか?
小さなプラスチック包材に入った紙おしぼりは、一度でもお客様が手に取ったものは衛生面からたとえ未使用でも再利用はできません。スタッフさんがテーブルを片付けた際に、未使用のおしぼりを一つ一つ包材から出して分別する手間や、プラスチックの排出量をどれだけの人が意識しているでしょうか。
愛知県を拠点とする株式会社Field Allianceが開発・販売する非接触型自動おしぼり供給機「SAWANNA(サワンナ)」は、その課題に正面から向き合うプロダクトです。 2026年2月には環境省の「プラスマ・アワード2026」において「使う・減らす」部門の銀賞を受賞し、今まさに注目が高まっています。今回は、株式会社Field Alliance 業務部部長の祝篤史氏と、製品の製造を担う株式会社松尾製作所 取締役の森本幸司氏、さらにSAWANNAの飲食業界への普及を後押しした株式会社デニーズジャパンの中上冨之氏にお話を伺いました。

おむつ替えの「片手問題」が、すべての始まり
-まずSAWANNAの開発背景から教えてください。どのようなきっかけで生まれたのでしょうか。
祝氏:元々、私どもの母体は愛知県に拠点を置く自動車部品の製造メーカー・松尾製作所です。その技術開発部でいろんな新商品を開発していました。「非接触型自動おしぼり供給機」と言うと、コロナ禍をきっかけに開発されたのか? と思われますが、全くそうではありません。十数年前、弊社社長が娘さんのおむつを替える時に「片手で赤ちゃんの足を持ち上げながら、もう片方の手でウエットティッシュが上手く取れない」という体験をしたことがきっかけなんです。
当時、市販のウエットティッシュはボトル式が多く、1枚取り出すのに両手が必要でしたから、「片手でも取れる仕組みが作れないか」という思いつきがスタートでした。

-製品化までにかなり時間がかかったと伺いました。
祝氏・森本氏:はい、実に6年かかりました。赤ちゃんも大きくなって、おむつの年齢ではなくなりましたが(笑)。最初は市販の汗拭きシートを自動で取り出す方式を試みましたが、100回やって1回しか取れないという状態が続き、何度も諦めかけました。転機は「トイレットペーパーのようにロール状にする」という発想の転換です。そこから開発が一気に進み、ミシン目の強度調整やセンサーのチューニングなど細部を詰め、2019年12月に株式会社Field Allianceを設立、翌2020年夏に発売にこぎつけました。
-自動車部品メーカーの技術が製品に活きているのでしょうか。
森本氏:まさにそうですね。手をかざしたときにおしぼりを送り出し、適切な位置でピタリと止めるセンサーの仕組みは、自動車部品の開発で培った制御技術がベースになっています。「清潔」というキーワードは最初から設計仕様の中心にあり、おしぼりが出てくる位置も本体に触れない高さで止まるよう設計しています。


コロナ禍が生んだ思わぬ進化
-発売直後にコロナ禍が重なったのですね。
祝氏:はい、2020年の東京オリンピックに合わせて世界にPRしようと計画していたのですが、オリンピックは延期になり、提案先として想定していた飲食店さんも大打撃を受けました。ただ、そこで思わぬ需要が生まれました。病院や介護施設、保育所などでの使用です。
元々は、あらかじめ除菌液を浸透させたウエットシートを用意していたものの、病院なら高濃度アルコール、それも濃度が何%以上と決まっていたり、保育所なら次亜塩素酸水と、施設ごとに衛生基準があって既存のウエットシートでは対応しきれないと分かりました。
そこで「施設が用意した液体に乾いたロールをセットする」というドライロール方式を開発、2021年冬に発売しました。容器には液体を入れる量が分かるようにラインが入っていて、ここまで入れればOKというシンプルな設計です。除菌液の量が多すぎても少なすぎてもセンサーの稼働に影響しますので、適切な量が誰でも簡単に分かるようにしました。
さらに2024年夏には、除菌剤をあらかじめ含浸させて乾燥させた「除菌DRYロール」も登場しています。こちらは水道水に乾いたロールをセットするだけで除菌ウェットシートになるので、飲食店などで現場の手間を大幅に削減できます。

脱プラへの気づきと、おしぼり調査
続いて、SAWANNAをファミリーレストラン「デニーズ」の全国42店舗に導入された株式会社デニーズジャパン 環境カウンセラーの中上冨之氏を交え、実際に使用されている飲食店現場でのお話も伺いました。
-SAWANNAが「プラスチック削減」という観点で語られるようになったのはいつ頃からですか。
祝氏:実はつい最近のことで、2024年頃からです。開発当初は、まだ脱プラを意識していませんでした。スポーツイベント会場でお客様にSAWANNAを体験していただくなど、設置場所を広げる活動をしていたときに、たまたまご縁あってデニーズの担当者さんの目にとまり、関心を持っていただけました。
中上氏:飲食店の現場でもプラスチック削減施策を常に模索していました。そんな時、レストランのスタッフから「片付けの際に、おしぼりの包材がテーブルからひらひら飛んでいってしまうことが多く、特に開封した包材の小さな切れ端は拾うのが大変」という声があり、SAWANNAの提案が上がってきた時に、これは両方を解決できる! と思いました。
水道水を入れるだけで除菌ウエットシートになる「除菌DRYロール」も、現場のオペレーションがシンプルでスタッフの作業負担を軽減できる点が魅力です。
-「脱プラ」の意義に気づかれたのも、中上さんのお話がきっかけなのですね。
祝氏:そうなんです。中上さんに「SAWANNAを導入することで何トンのプラスチックが削減できた」と数値で示してもらったとき、正直なぜ計算できるのか最初は分かりませんでした。包材1袋のグラム数に配布枚数を掛け算するだけというシンプルな仕組みを聞いて、やっとその意味が腑に落ちました。それから本格的に「おしぼり調査」を始めました。

-具体的にどのような調査をされたのでしょうか。
祝氏:いろいろな飲食店やホテルの朝食会場に行って、使われているおしぼりをもらってきて帰社後に重さを測るんです。ホテルの高級なおしぼりは包材だけで1グラム以上あるものもあります。そのグラム数と1日の配布枚数が分かれば「御社では年間○○キロのプラスチックが削減できます」と提案できます。これでどんどん導入が広がっていきました。
そして、デニーズさんが農水省の補助金事業を活用してSAWANNAを本格導入してくださいました。5か月間で1.75トンのプラスチック包材削減につながり、現在はデニーズをはじめ様々なレストランチェーン、ホテル、空港など全国各地に広がっています。
-レストランでのお客様の反応はいかがですか?
中上氏:お客様にも自然に受け入れていただいています。最初の頃は、「おしぼりどこですか?」という声もありましたが、POP表示を工夫するなどして分かりやすく伝えています。レストランではテイクアウトもありますので個包装のおしぼりをゼロにはできませんが、プラ包材のおしぼりを製造されている業者様が、中身はそのままに従来より少ない量で済むプラ包材を開発、提案してくださるなど波及効果も生まれています。

素材まで踏み込む本気の循環型設計
-実は、おしぼりのシート素材自体にもプラスチックが含まれると伺いました。
祝氏:そうなんです。一般的な紙おしぼりはPET(ポリエステル)とレーヨンが50%ずつ混合されていることが多いのですが、「紙おしぼり」という言葉のイメージとは裏腹に、プラスチックが入っているんです。環境配慮材等の認証マークが付いていても、「ミックス」表記のものはプラスチックが含まれています。これに気づいてから、シート素材のプラスチックをゼロにしようと決めました。
-レーヨン100%への切り替えはスムーズにできたのでしょうか。
レーヨンは肌触りが非常に良い素材なのですが、伸びやすく、機械内のセンサー検知や搬送の精度が変わってしまうという課題がありました。丁寧にチューニングを重ね、約1年かけて切り替えを完了しました。植物由来のレーヨン100%になることで廃棄時の分別リサイクルへの悪影響もなくなり、堆肥化などのリサイクルルートにも乗せられるようになっています。
-本体の素材についてはどうでしょうか。
2025年の大阪・関西万博では再生プラスチック素材を使った本体を限定的に採用頂きました。。再生材独特の風合いという課題はありますが、要望があればいつでも製品化できる体制は整っています。また、SAWANNAを導入することでグリーンキー認証(環境配慮型の宿泊施設を示す国際的な環境認証)の取得要件を満たせることが分かり、外資系ホテルへの広がりにもつながっています。

「日本の清潔を世界へ」—災害対応から海外展開まで
-「おしぼり」という文化は日本独自のものですね。海外展開はどのようにお考えですか。
祝氏:おしぼりは日本ならではの、おもてなし文化のひとつです。海外から来たお客様がSAWANNAを見ると「魔法の機械」のように驚かれるんですよ。 「プラスチック資源循環促進法」により、アメニティなどで5品目以上の製品を脱プラスチック素材へ変更するホテルチェーンが増えており、SAWANNAはその基準を満たす製品として評価されています。まずは2028年までに全国各地での導入を増やしながら、その後は「日本の清潔を世界へ」というビジョンの実現に向けて海外展開を進めたいと考えています。
-災害時の活用という視点もあると伺いました。
停電が続く避難所では手洗いの水も確保が難しい状況になります。そこで乾電池式モデルの開発も進めており、地域のレストランやホテルと事前に協定を結んでおいて、災害時には避難所へ持ち込めるような仕組みも考えています。自治体は乾電池を備蓄していることが多いので、電源の心配がなくなるのは大きいです。日常の飲食店やホテルで「当たり前の存在」になることが、そのまま災害時の備えにもつながっていくと思っています。
-最後に、今後の展望をお聞かせください。
祝氏:ホテルの朝食会場やドリンクバーを持つ飲食店など、引き合いは増えているので、まずは国内での認知をしっかり広げていきたいです。本体のスイッチ部分に防水性能を持たせたり、おしぼりが出てくるスピードを改良するなど、中上さんのように現場からいただくアイデアも開発のヒントになっています。そして、おしぼりという日本ならではの文化を、清潔とおもてなしの象徴として世界へ発信できればと考えています。

-ありがとうございました。

子育ての場面から生まれた「片手で取れる」という純粋な発想が、コロナ禍でのしなやかな進化を経て、今や飲食業界・ホテル業界のプラスチック削減を牽引する存在へと成長しています。SAWANNAのこれからの展開が、日本の「清潔とおもてなし」文化を世界へと発信する架け橋になることでしょう。