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長い目でみると私たち人間は、約30万〜20万年前にホモサピエンスという種として誕生した後、地球資源の恩恵を受けつつ、その循環の中の一部として存在してきました。ところが18世紀産業革命が起き、その循環の流れに沿わない活動が始まりました。そして、その弊害に気づいたのは1960年代。約半世紀にわたる地球環境の問題へ挑む人間を見つめる中で、2020年台はその第2フェーズに入った様に思われます。

この新フェーズに新しい形のクリエイティブな活動が散見されます。画家、ミュージシャン、漫画家などあらゆるアーティストに留まらず、ビジネスにおいても求められる創造性や独創性のことをクリエイティビティと言いますが、本記事でご紹介するのは、資源循環とクリエイティビティを掛け合わせた3R(Reclaim・Remake・Reuse)をうたい、インテリア雑貨・家具・店舗什器の企画、製造、卸や店舗内・イベントブース装設計施工を行うLONLOです。長く独自の目線と手法で資源循環を見てきたLONLO代表の望月正孝さんにお話をお伺いしました。

※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。

クリエイションの祭典 NEW ENERGYで目にしたエシカルで循環型な会場作り

2023年2月25〜28日、クリエイションの祭典「NEW ENERGY(ニュー エナジー)」が新宿住友ビル三角広場にて開催されました。その一角に、東京都が進めるプロジェクト「TOKYOエシカル」のエリアがあり、国内外のサステナブル・エシカルな企業のブース出展やイベント登壇が行われていました。

主催するBlue Marble は、クリエイションという多様性に満ちた言語でつながるコミュニティを創造し、 社会・文化・ 芸術・育成の発展に寄与する活動を行う、クリエイションコミュニティです。会場内にも多くのクリエイターの作品が並び、まさに、アート×サステナビリティ・エシカル。これまで筆者が参加したサステナビリティやサーキュラーエコノミーをメインテーマとする展示会とはまた違った空気を感じました。

その会場作りにLONLOは参画し、トークセッションブースのデザイン・施工を行っています。什器全てがリユース品である為、新たな資材の投入がないゼロウェイストな会場作りとも言えます。

2023年2月25〜28日、クリエイションの祭典「NEW ENERGY(ニュー エナジー)」にて、「TOKYOエシカル」イベントブースの様子。

この様な短期的なイベント開催の場合、サーキュラーエコノミーの視点から見ると使い捨ての資材が多く、資源循環における課題が生じることがしばしばあります。サステナブル・エシカルなブランドの展示を行うために廃棄物が出てしまう事の矛盾に担当者も四苦八苦するはずです。ここからはこの課題解決の立役者であるLONLOのブース作りについて、その理念について、伺いました。以下、神奈川県海老名市にあるショールームで実施したインタビューです。

ヴィンテージに新しい価値を付けるサルベージ

LONLO代表 望月 正孝氏/大学卒業後自動車部品等の設計業務を行う。USAカタログ(ホールアースカタログの影響を受けた雑誌)に出会いセルフビルドで家を建てることに興味を持ち、ライフスタイルショップを起業。小売りやアメリカからの雑貨輸入卸を経てインドなどアジアでものづくりを行う。その後 オールドチークの家具に出会い今のスタイルのスタイルに行きつく。

―まずは事業内容を教えてください。

はい、LONLOの事業は2軸あり、①インテリア雑貨・家具・店舗什器の企画、製造、卸と、②店舗内・イベントブースの設計・施工を行っています。前項については特にインド製のヴィンテージ素材を活用したインテリア雑貨が人気で、某有名セレクトショップやライフスタイルブランドに卸しています。

具体的には、ファブリック(テーブルクロスやラグなどの布製のインテリア商品)やガーデニング雑貨、ヴィンテージ家具などを幅広く扱っています。

ヴィンテージボタンと麻袋のコースター。
同じくヴィンテージの缶を加工したガーデニング用品。いずれもインド国内にある工場で製造している。

これらは私がバイヤーとして市場に出回っているものを買い取り、そのまま、もしくは商品の特性を活かした企画と加工を行い販売しています。この流れをサルベージと呼んでいます。

―サルベージとはどんな意味でしょうか。

一般的には廃品の再利用を意味します。LONLOでは古い建物から解体して引き上げること、更には新しい価値を見出す過程までをサルベージとしてます。

例えばこのキャビネット。これは元々約50年前のインド国内にいた富裕層の住宅の窓枠です。ここで使用しているインド製のチーク材の窓枠はこのショールームに約1,000枚ほどあります。インドでは文化的に住宅の解体品や不要物が流通する市場がありますので、それが今ではリサイクルやリユースと呼ばれているのでしょうか。

長くこの仕事をしている中で特にインドにご縁があり、現地の資材や雑貨を扱う中で、私自身がインドの文化や工芸・アートの面白みに惹かれてしまい、私なりの表現としてこういった活動(廃窓枠からキャビネットを制作)をしています。生産を行う工場もインドにあります。

チーク材はインドから東南アジアが原産の落葉高木で、世界三大銘木として知られています。古くから豪華客船や高級列車の内装や高級家具、床材として使われてきました。世界的に人気の木材ですが、現在では種の保全の為、多くの地域で天然林の伐採が禁止され、流通が激減。日本でも入手は容易ではありません。ですので、この様にヴィンテージで価値がある資材になります。

―もうひとつの軸、店舗内・イベントブース装設計施工についても伺えますか。

こちらの事業は先述のサルベージ事業を行っていく中でお声がありスタートしました。サルベージした資材を活用し、イベントでの会場作りや実店舗のデザイン・施工を行っています。先日のNEW ENERGYもお声がけ頂き、什器のリースという形で関わらせて頂きました。

今回制作したトークセッションブースでは柱には古材の木箱を、ライトにはサルベージした船舶用のラン プを活用しました。全ての資材はこれまで何度も使用してきたもので、全て回収が出来ますし廃棄物は発生しません。ゲスト用のリメーク素材のイスやソファーもお貸ししたものです。

これまでに実施したイベントブース装設計・施工の様子

ヒントは若き頃の憧れ ヒッピー文化

―LONLOの掲げている3Rは広く知られている Reduce・Reuse・Recycleとは違いますね。

はい。Reclaim・Remake・Reuseとしています。Reclaimは「再び役に立つようにさせる」という意味で、インドのヴィンテージ資材がどうやったら日本の生活に馴染み役立つのか考える点が非常にクリエイティブで、私のアーティストとしての考え方からきています。

Remake・Reuseの意味はみなさんのイメージ通りだと思います。私自身がアーティストとしてのアイデンティティを持ち合わせていることもあり、一般的な資源循環では生み出しきれない面白みを付加価値としてつけることを含んだ3Rです。

―なぜその様な考え方に至ったのでしょうか。

私個人の話になりますが、1960年代後半から70年代にかけて盛り上がったヒッピー文化・ムーブメントに影響を受けました。現在は主にファッションでその文化が残っていますが、元々は古い社会体制と価値観からの離脱を目ざす対抗文化であり、社会運動です。そしてイデオロギーに基づく社会変革よりも、個人の意識変革・行動変容を目指す文化運動です。

Apple創設者のスティーブ・ジョブズもヒッピー文化に影響を受けています。彼がスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチの名言「Stay hungry, stay foolish(ハングリーであれ。愚か者であれ)」は彼の言葉ではなく、1968年に創刊された「ホールアースカタログ」という本の最終号の背表紙に書かれていた言葉です。

この本はこのヒッピー文化におけるバイブルであり、都会の暮らしからドロップアウトした若者たちが、自然の中で生きていくための教科書でした。つまり、ライフスタイルにおける高いノウハウ本、ツール集であり商品カタログです。

「ホールアースカタログ」は、Understanding Whole Systems(全体システムの理解)、Shelter and Land Use(シェルターと土地の利用)、Industry and Craft(産業と民芸)、Communications(コミュニケーション)、Community(コミュニティ)、Nomadics(遊牧民族)、Learning(学習)のカテゴリーに分かれており、カテゴリー毎に地球上のあらゆる物が紹介されている。

そうやって生活を1から10まで全て自分の手で整える。その中に個人のこだわりがあり、共同体と繋がり、社会問題、特にここで話すべきは環境問題でしょうか。諸問題へ個人が確実にアクセスしている。この様な精神に憧れ、世界中のヴィンテージを見て回り今の事業と、アーティスト性を持った独自の3Rを見出したんだと思います。

面白いことに、そんな個人の意識改革を目指したヒッピー文化に影響された人々の中から、現在のこの環境問題の深刻さを受けて、大きなシステムチェンジを唱える人が出てくるようになりました。彼らはIT分野の新しいテクノロジーも受け入れますね。60〜70年代とは比較にならないほど環境問題が深刻化したからでしょうね。

―なるほど。個人単位でも社会や企業の大きな単位でもこの文化は現在に至るまで影響を与えているんですね。大量生産・大量消費・大量廃棄の悪循環にこの精神は一矢報いることができそうですね。

そうですね。家具やインテリアでもその様な悪循環の中で抜きん出ている企業があり、そういった意味では家具の価格減、短いスパンの使用期間、ファストファッションの様な現象が家具にも起きていることを問題には思っています。

ですがLONLOやそのお客様はまた違った価値観で家具を見ています。私たちの家具やインテリアへの関わり方が、その作り方や提供方法を通じて、ヒッピー文化から継承される資源循環が多くの人へこれからリバイブ(生き返る)していけば良いと思いますし、敢えて比較すべきではないと思い活動しています。

―それは素晴らしいですね。インタビューご協力ありがとうございました。

2023.3.15
取材協力:LONLO様
https://www.lonlo.jp/